製造業における原価計算の手法として、標準原価計算は長年にわたり利用されてきました。標準原価計算では、製造現場の材料の使用量や作業時間の差異を分析することで、生産性を管理する方法が用いられています。
一方で、工場の自動化が加速し、産業用ロボットの導入が進んだことで、直接作業に携わる従業員は減り、原価に占める製造間接費の割合が大きくなってきました。作業時間を基準に間接費を配賦する従来の方法では、製品ごとの原価が実態とずれやすくなっているのです。
このような変化の中で、新たな原価計算と原価管理の手法として注目されているのが、「ABC(活動基準原価計算)」と「ABM(活動基準原価管理)」です。
本記事では、ABCとABMの仕組みや標準原価計算との違いに加えて、数値例での計算方法、実務で導入するときのポイントやよくあるミスまで詳しく解説します。
ABCは「間接費を正しく配る技術」、ABMは「その情報で業務を良くする管理」です。セットで覚えると理解しやすくなりますよ。
- ABC(活動基準原価計算)の仕組みとメリット
- 従来の配賦とABCの違いが数値例でわかる
- ABM(活動基準原価管理)の進め方
- 標準原価計算との違いと実務導入のポイント
ABC(活動基準原価計算)とは


間接費を「活動」単位で割り当てる手法
ABC(Activity-Based Costing)は、活動基準原価計算と呼ばれる手法で、間接費を「活動(Activity)」という単位で集計し、その活動を基準にして製品の原価を算定する方法です。
従来の原価計算のように部門ごとに集計した間接費を作業時間などで一律に配賦するのではなく、段取り・品質検査・材料の運搬といった活動に焦点を当てることで、より実態に近い原価配分を実現します。
「どの製品が手間をかけさせているか」を数字で見える化するのがABCの狙いです。間接費の割合が高い工場ほど効果を実感しやすくなります。
ABCの仕組み
間接費を集計するための活動単位(コスト・プール)を設定します。
活動に消費される資源(人・設備・スペースなど)を特定し、資源を活動に割り当てる基準(資源作用因)を決めます。
活動が製品にどれだけ使われたかを測る基準(活動作用因=コスト・ドライバー)を決めます。段取回数や検査回数などです。
活動ごとに集計された間接費を、活動作用因に応じて製品ごとに割り当て、製品原価を算出します。
ABCのメリット
- 原価の精度向上:間接費の配賦基準を活動ごとに細かく設定できるため、製品ごとの原価を正確に把握できる
- コスト削減の可能性:活動ごとにコストを分析することで、無駄なコストを見つけやすくなる
- 戦略的な意思決定:どの製品・顧客が本当に利益を生んでいるかが明確になり、価格設定や品種の見直しに活かせる
ABCのデメリットも押さえておく
活動ごとのデータ収集や配賦計算には手間とコストがかかります。活動の設定が実態とずれていると、かえって判断を誤らせることもあるため、導入前に効果と負担のバランスを見極めることが大切です。
ABCの具体例
品質検査の原価を配賦する場合、品質検査の回数を基準にすると、原価と回数の間に比例関係が生まれます。これにより、間接費の配賦の精度が向上し、正確なコスト管理が可能になります。
活動作用因は「その費用が増える原因になっている回数や時間」を選ぶのがコツです。現場の感覚と合っているかも確認しましょう。
数値例で比較!従来の配賦とABCの違い


前提条件
製品A(大量生産品)を1,000個、製品B(少量の特注品)を100個生産している工場で、製造間接費が1,000,000円発生したとします。
| 活動 | 間接費 | 活動作用因 | 製品A | 製品B |
|---|---|---|---|---|
| 段取り | 400,000円 | 段取回数 | 5回 | 15回 |
| 品質検査 | 360,000円 | 検査回数 | 10回 | 20回 |
| 機械運転 | 240,000円 | 機械時間 | 600時間 | 200時間 |
| 合計 | 1,000,000円 | - | - | - |
なお、直接作業時間は製品Aが800時間、製品Bが200時間でした。
従来の方法(直接作業時間で配賦)
間接費1,000,000円を直接作業時間の合計1,000時間で割ると、配賦率は1時間あたり1,000円です。製品Aには800,000円、製品Bには200,000円が配賦され、1個あたりでは製品Aが800円、製品Bが2,000円になります。
作業時間だけで配ると、段取りや検査の手間が多い製品ほど原価が軽く見えてしまいます。ここが従来の方法の弱点です。
ABCで配賦した場合
活動ごとの配賦率は、段取りが400,000円÷20回=1回20,000円、品質検査が360,000円÷30回=1回12,000円、機械運転が240,000円÷800時間=1時間300円です。
| 活動 | 製品A | 製品B |
|---|---|---|
| 段取り | 100,000円 | 300,000円 |
| 品質検査 | 120,000円 | 240,000円 |
| 機械運転 | 180,000円 | 60,000円 |
| 配賦額合計 | 400,000円 | 600,000円 |
| 1個あたり(ABC) | 400円 | 6,000円 |
| 1個あたり(従来) | 800円 | 2,000円 |
数値例からわかること
従来の方法では、手間のかかる少量品Bの間接費が大量品Aに押し付けられ、Bの原価が実態より低く見えていました。
ABCで見ると、Bの1個あたり間接費は2,000円ではなく6,000円です。Bの販売価格がこの原価を下回っていれば、売るほど赤字という可能性もあります。
ABM(活動基準原価管理)とは


ABCの情報を業務改善に活かす手法
ABM(Activity-Based Management)は、活動基準原価管理のことで、ABCで得た活動ごとのコスト情報を活用し、業務プロセスの効率化やコスト削減を目指す管理手法です。
ABMの仕組み
- 活動分析:業務プロセスに関わる従業員・時間・コストを分析し、価値を生み出す活動(付加価値活動)と無駄な活動(非付加価値活動)を特定する
- 原因作用因分析:間接費が発生する根本原因を明確にし、コスト削減の対策を講じる
- 業績測定:活動ごとに成果を測定し、改善すべき点を特定する
ABMのメリット
- 無駄なコストの削減:価値を生み出さない活動を減らし、効率的な運営を実現
- 業務改善の促進:業務プロセスを可視化し、改善点を明確にする
- 利益率の向上:高付加価値の活動にリソースを集中し、収益性を向上させる
ABMで改善効果が出やすい業務
- 段取り替えや検品など、回数の多い作業
- 部門をまたいで重複している確認作業
- 顧客ごとの個別対応が多い業務
ABMの具体例
製造業で検品作業に多くのコストがかかっている場合、検品プロセスを見直し、自動化を導入することでコスト削減が可能になります。
先ほどの数値例でいえば、段取り1回あたりのコストは20,000円です。製品Bの段取回数を15回から10回に減らせれば、5回×20,000円=100,000円分の活動コストを削減できる計算になります。このように、ABMは業務の最適化を目指す管理手法です。
ABMでは「この活動は顧客にとって価値があるか」を問い直すのが出発点です。コスト削減ありきで進めると現場の協力を得にくいので注意しましょう。
ABCとABMの違い・標準原価計算との違い


ABCとABMの違い
| 項目 | ABC(活動基準原価計算) | ABM(活動基準原価管理) |
|---|---|---|
| 目的 | 製品ごとの正確な原価算出 | 業務プロセスの効率化とコスト削減 |
| 手法 | 活動単位で原価を配賦 | 活動ごとの業務改善を行う |
| 対象 | 製造原価の計算 | 業務プロセス全般 |
| 期待効果 | 製品別の正確な原価計算 | 業務効率向上とコスト削減 |
標準原価計算との違い
| 視点 | 標準原価計算(従来型) | ABC/ABM |
|---|---|---|
| 間接費の配賦 | 部門別に集計し、直接作業時間などの操業度で配賦 | 活動別に集計し、段取回数などの活動作用因で配賦 |
| 管理の焦点 | 数量差異や時間差異の分析 | 活動そのものの効率性の向上 |
| 向いている場面 | 大量生産・品種が少ない工場 | 多品種少量生産・間接費の比率が高い工場 |
標準原価計算とABCは対立するものではありません。実務では、標準原価計算で原価差異を管理しつつ、間接費の配賦部分にABCの考え方を取り入れるといった併用も考えられます。
試験勉強では別々に覚えがちですが、標準原価計算とABCは併用できると理解しておくと、実務でも応用が利きます。


実務で導入するときのポイントとよくあるミス


データの集め方はExcelからのスモールスタートで
ABCでいちばん手間がかかるのは、活動作用因のデータ集めです。段取回数や検査回数は生産管理システム、作業時間は勤怠・工数管理システム、費用は会計システムと、データの置き場所がバラバラなことがほとんどです。
最初から全社に導入するのではなく、間接費の大きい工程や、採算が怪しいと感じる製品に絞ってExcelで試算してみるのがおすすめです。活動は5〜10個程度に絞ると、現場の負担も抑えられます。
スモールスタートの進め方
- 間接費の大きい工程や製品を1つ選ぶ
- 活動と活動作用因を現場と一緒に決める
- Excelで従来の方法とABCの原価を並べて比べる
よくあるミス
- 活動を細かく分けすぎて、データ収集の手間が効果を上回ってしまう
- 現場へのヒアリングをせず、経理だけで活動作用因を決めてしまう
- 一度作った配賦率を更新せず、実態とずれたまま使い続ける
- 原価が変わった理由を営業や製造部門に説明せず、数字だけが独り歩きしてしまう
簿記試験での位置づけ
ABCは日商簿記2級の範囲ではなく、1級の原価計算や公認会計士試験の管理会計で学ぶ論点です。2級では製造間接費の予定配賦や部門別計算をしっかり押さえておけば、ABCの考え方もスムーズに理解できます。


まとめ
本記事では、ABC(活動基準原価計算)とABM(活動基準原価管理)について解説しました。
- ABCは、間接費を活動ごとに集計し、活動作用因で製品に配賦する原価計算の手法
- 多品種少量の製品ほど、従来の配賦では原価が低く見えやすい
- ABMは、ABCの情報を使って非付加価値活動を減らし、業務を改善する管理手法
- 標準原価計算とは対立せず、併用することもできる
- 導入は対象を絞ったExcelでの試算から始めるのが現実的
標準原価計算と比較すると、ABCは間接費の配賦精度を向上させ、ABMは業務の無駄を削減することで、より効率的なコスト管理を可能にします。原価計算についてさらに学びたい方や、実務で活用したい方は、ぜひ他の記事もチェックしてみてください。
「この製品、本当に儲かっているのかな?」と感じたときこそ、ABCの出番です。まずは1つの製品から試算してみてくださいね。







