「監査法人からの依頼資料が多すぎて、どこから手をつければよいかわからない」「回答が遅れて、往査の最終日に指摘が集中した」。期末の監査対応は、決算作業と同時に進むため、段取りしだいで負担が大きく変わります。
今回は、決算の監査対応で経理が準備する資料と、監査スケジュール・質問対応の進め方を実務向けに解説します。監査は「資料を早く・正しく・根拠つきで出す」ことが基本です。PBCリスト(依頼資料一覧)の作り方から監査調整・経営者確認書まで、順番に整理しました。
実務では、期末監査の出来は往査の前にほぼ決まります。依頼資料の範囲と期限を早めにすり合わせておくことが大切です。
- 会社法監査と金商法監査の違い
- 3月決算の期末監査のスケジュール例と5ステップ
- 監査で提出する資料一覧(PBCリスト)と作成のポイント
- 残高確認・実査・棚卸立会・証憑突合への対応
- 依頼管理表の作り方と、会計上の見積りの説明資料
- 監査調整・経営者確認書・電子データの情報管理
決算の監査対応とは?会社法監査と金商法監査の違い


決算の監査対応とは、会計監査人(公認会計士・監査法人)が決算書を監査するときに、経理が資料の提出や質問への回答を行うことです。監査人は、会社が作った決算書が適正かどうかについて意見を述べます。経理の役割は、判断の材料となる監査証拠を期限内にそろえることです。
期末の監査には、根拠となる法律によって主に2つの種類があります。
| 区分 | 会社法監査 | 金商法監査 |
|---|---|---|
| 根拠 | 会社法436条2項など | 金融商品取引法193条の2 |
| 主な対象 | 会計監査人設置会社(大会社など) | 有価証券報告書の提出会社(上場会社など) |
| 監査の対象 | 計算書類・附属明細書、連結計算書類 | 有価証券報告書の財務諸表 |
| 報告書 | 会計監査報告 | 監査報告書(監査証明) |
| 時期の目安(3月決算) | 5月中旬ごろ | 6月下旬(有報提出前) |
会社法では、資本金5億円以上または負債の合計額200億円以上の大会社は、会計監査人を置く必要があります(会社法2条6号・328条)。両方の監査を受ける会社では、同じ監査法人が一体で進めるのが一般的です。
また、監査は期末だけではありません。期中には内部統制の評価や中間期のレビューなどが行われ、期末監査では期末の残高と決算整理、注記の内容が重点的に確認されます。
有価証券報告書の構成や作成スケジュールは、次の記事で解説しています。


会社法と金商法で報告書の日付が違うため、「どの報告書に向けた依頼か」を確認しながら資料を出すと混乱しません。
期末監査のスケジュール例と監査対応の5ステップ


3月決算会社を例に、年間の監査の流れと経理の対応をまとめました。実際の時期は会社の規模や監査法人との合意で変わるため、あくまで目安です。
| 時期(例) | 監査の主な手続 | 経理の対応 |
|---|---|---|
| 前年7〜9月 | 監査計画の説明・重要な論点の協議 | 前期の指摘事項と当期の論点を共有 |
| 10〜12月 | 期中監査(内部統制の評価、中間期のレビュー) | 業務フロー・承認記録の提出 |
| 3月末 | 実地棚卸の立会、現金などの実査 | 棚卸計画の共有、立会の日程調整 |
| 3月末〜4月上旬 | 残高確認状の発送 | 確認先リストの作成、宛先の確認 |
| 4月中旬〜5月上旬 | 期末監査(往査) | PBC資料の提出、質問への回答 |
| 5月上旬〜中旬 | 監査調整の協議、会計監査報告 | 修正事項の反映、経営者確認書の準備 |
| 6月 | 金商法の監査、監査報告書 | 有報の数値・注記の最終確認 |
この流れに沿って、経理の監査対応は次の5つのステップで進めると整理しやすくなります。
監査計画の説明を受け、PBCリストの範囲・様式・提出期限を監査人とすり合わせます。
試算表と数字が合っているか、前期と比べて説明できるかを確認してから提出します。
窓口を一本化し、依頼管理表で期限と担当を管理しながら根拠つきで回答します。
指摘を受けたら影響額と修正の要否を確認し、決算書と開示資料に反映します。
遅れた資料や指摘の原因を記録し、翌期のPBCリストと決算手順に反映します。
キックオフで決めておきたいこと
- 往査の期間と、監査人の常駐場所・オンラインの区分
- PBCリストの提出期限と、期限の段階分け(先に出す資料・後で出す資料)
- 当期の重要な論点(新しい会計基準、大きな取引など)
- 質問の窓口と、資料の受け渡し方法
実務では、キックオフの議事メモを監査人と共有しておくと、あとで「言った・言わない」になりません。
監査で提出する資料一覧|PBCリストの作り方


PBCリストとは、会社が作成して監査人に提出する資料(Prepared by Client)の一覧です。資料名・提出期限・担当者を1行ずつ管理します。代表的な資料を、決算・残高系と見積り・開示系に分けて整理しました。
決算・残高系の資料
| 資料 | 内容 | 作成のポイント |
|---|---|---|
| 試算表・精算表 | 期末の残高と決算整理の一覧 | 最終版の日付を書き、版を管理する |
| 勘定明細(科目内訳書) | 科目ごとの相手先別の内訳 | 合計が試算表と一致しているか確認 |
| 残高照合表 | 帳簿と外部資料の照合結果 | 差異の理由と処理を書いておく |
| 銀行残高証明書 | 期末日の預金・借入金の残高 | 全口座分を早めに取り寄せる |
| 売掛金・買掛金の年齢表 | 発生月別の残高 | 滞留先の回収状況をメモする |
| 棚卸資産明細 | 品目別の数量・単価・評価減 | 評価減の基準と計算根拠を添える |
| 固定資産台帳 | 取得・除却・減価償却の明細 | 増減明細と試算表を一致させる |
見積り・税金・開示系の資料
| 資料 | 内容 | 作成のポイント |
|---|---|---|
| 減損の兆候判定資料 | 資産グループ別の損益・時価 | 判定に使った数字の出所を示す |
| 引当金の計算根拠 | 賞与・貸倒・退職給付など | 前期の見積りと実績の差も示す |
| 税金計算資料 | 法人税等・税効果の計算 | 申告書と税効果の数字をつなぐ |
| 契約書・議事録 | 重要な契約、取締役会の議事録 | 決算に影響する決議に印を付ける |
| 重要な取引の証憑 | 大口の売上・購入・資産の取得 | 請求書・検収書などをセットで用意 |
| 後発事象の確認資料 | 期末日後の重要な出来事 | 監査報告書日まで更新する |
| 注記の基礎資料・連結精算表 | 注記の数字、連結の修正 | 本表と注記の数字の一致を確認 |
PBC資料は、提出前に試算表との一致、前期との比較、根拠資料の添付の3点をセルフチェックすると、差し戻しが大きく減ります。
期限直前の「後出し」は避ける
期末間際の大口取引や契約の変更、訴訟などを往査の終盤に伝えると、追加の手続が必要になり全体が遅れます。判明した時点で共有しましょう。
実務では、前期のPBC資料をフォルダごと複製し、数字だけ差し替える形にしておくと準備がぐっと楽になります。
残高確認・実査・棚卸立会と証憑突合への対応


期末残高を確かめる手続では、経理は準備と事後の調整を担当します。
残高確認
残高確認は、監査人が取引先や銀行に確認状を送り、回答を監査人が直接受け取る手続です。経理は、確認先の候補となる取引先の一覧(相手先・住所・担当部署・期末残高)を作り、宛先が正しいか確認します。差異が出たら、締め日のずれや未着の入金などの原因を調べ、差異の調整表を作ります。
送付先から外したい取引先がある場合は、理由を添えて早めに相談しましょう。会社が送付に同意しない場合、監査人は理由を質問し、代わりの手続を検討します(監査基準報告書505)。
実査・棚卸立会
実査は、現金や有価証券、手形などの現物を監査人が確認する手続です。棚卸立会では、監査人が実地棚卸に立ち会い、手順の観察やテストカウントを行います。経理は、棚卸の計画書(日時・場所・手順)を事前に共有し、帳簿との差異の処理を記録します。
証憑突合
証憑突合は、帳簿に記録された取引を、請求書・納品書・契約書などの証憑と照らし合わせる手続です。抽出されたサンプルの証憑をそろえて提出します。電子帳簿の取引は、システムからの出力と証憑のファイルをひも付けて渡すと確認が早く進みます。
残高照合表の作り方は、次の記事で詳しく解説しています。


確認状の差異は、多くがタイミングのずれです。原因ごとに金額を分けた調整表を作っておくと、監査人への説明が一度で済みます。
質問対応と会計上の見積りの説明資料


往査中は依頼や質問が毎日届きます。監査対応の質とスピードを保つルールは次のとおりです。
- 窓口を一本化し、質問を受けたら担当者に割り振る
- 回答は根拠資料をつけて文書で出す
- 口頭で答えた内容は、日付と回答者をメモに残す
- 期限に間に合わない場合は、理由と見込み日を先に伝える
依頼管理表の項目
| 項目 | 記入例 | ポイント |
|---|---|---|
| 番号・依頼日 | No.45/4月18日 | 監査人の番号と合わせる |
| 依頼内容 | 賞与引当金の計算根拠 | 依頼文をそのまま写す |
| 担当・期限 | 人事担当/4月22日 | 担当は1名に決める |
| 状況 | 未着手・作成中・提出済・追加依頼 | 毎日更新して監査人と共有 |
数値例|依頼資料120件の進捗と工数
依頼資料が120件ある場合の進捗と、テンプレート化の効果を試算します。数値はすべて仮の数値です。
| 区分 | 前提 | 結果 |
|---|---|---|
| 提出状況 | 提出済90件/作成中20件/未着手10件 | 提出率75.0% |
| 残りの資料 | 30件を5営業日で提出 | 1日あたり6件 |
| 作成工数(現状) | 120件×1件1.5時間 | 180時間 |
| 作成工数(改善後) | 70件をテンプレート化し1件0.5時間に | 110時間(38.9%削減) |
前期と様式が同じ資料をテンプレート化するだけで、作成工数を約4割減らせる計算です。
回答は「結論→根拠→資料」の順で書く
質問への回答は、最初に結論を書き、次に根拠、最後に添付資料の名前を示すと、監査人が読み返さずに済みます。回答文は依頼管理表に残し、翌期に活用しましょう。
分析的手続と会計上の見積り
監査人は前期比などの増減を分析し、大きな変動の理由を質問します(分析的手続)。回答は「何が・いくら・なぜ」動いたかを数字で示すのが基本です。
引当金・減損・繰延税金資産などの会計上の見積りでは、計算結果だけでなく、使った仮定やデータの根拠が確認されます。
| 見積り | 主な根拠資料 | よく聞かれること |
|---|---|---|
| 引当金 | 計算表、過去の実績率 | 前期の見積りと実績の差 |
| 減損 | 兆候の判定表、将来計画 | 将来計画と取締役会資料の整合 |
| 繰延税金資産 | スケジューリング表、課税所得の見込み | 将来の課税所得の根拠 |
見積りは、仮定を変えると金額がどれだけ動くか(感応度)も示せると、説明の説得力が増します。
増減の理由の調べ方は、次の記事が参考になります。


実務では、見積りの前提が事業計画と一致しているかが特に見られます。
監査調整・経営者確認書と電子データの情報管理


監査調整(修正事項)の扱い
監査の過程で見つかった誤りを虚偽表示といいます。監査人は、明らかに僅少なものを除いて虚偽表示を集計し、経営者に修正を求めます(監査基準報告書450)。経理は影響額と修正の要否を確認し、修正する場合は決算書・注記・開示資料に漏れなく反映します。
修正しないものは「未修正の虚偽表示」として一覧にし、理由を記録します。原因も分けて記録し、翌期の再発防止につなげましょう。
経営者確認書
経営者確認書は、経営者が監査人に対して、財務諸表の作成責任や、必要な情報をすべて提供したことなどを文書で確認するものです(監査基準報告書580)。未修正の虚偽表示の影響に重要性がないという経営者の判断も記載されます。
経営者確認書の日付は、監査報告書日より後であってはならないとされています。経理は、記載内容の案を確認し、代表者などの署名の段取りを早めに組んでおきます。
電子データでの提出と情報管理
最近は、ファイル共有の仕組みで資料を受け渡すのが一般的です。電子データで提出する場合の特徴は次のとおりです。
| メリット |
|---|
| 郵送や紙のコピーが不要で、提出が早い |
| 提出日時と版の履歴が残る |
| 往査をオンラインで進めやすい |
| デメリット |
|---|
| アクセス権の設定を誤ると情報が漏れる |
| ファイルが増え、最新版がわかりにくくなる |
| 個人情報を含む資料の扱いに注意が必要 |
共有フォルダは監査法人ごと・年度ごとに分け、閲覧できる人を限定します。給与など個人情報を含む資料は、氏名などをマスキングするか必要な範囲だけを抽出します。パスワードは資料とは別の経路で伝えます。
よくある失敗と対策
- 資料の数字が試算表と合わない → 提出前に試算表との一致を確認する
- 古い版を提出する → ファイル名に版数と日付を入れる
- 回答が遅れる → 依頼管理表で期限を毎日確認する
- 見積りに根拠がない → 仮定とデータの出所を必ず添える
- 重要な取引を後出しする → 判明した時点で監査人に共有する
実務チェックリスト
- PBCリストの範囲と期限を監査人と合意したか
- 確認先リストの宛先と残高を確認したか
- 見積りの仮定と根拠資料をそろえたか
- 修正事項を決算書・注記・開示資料に反映したか
- 共有フォルダのアクセス権を確認したか
振り返りは往査の直後に
監査報告書を受け取ったら、遅れた資料や指摘事項の原因を一覧にします。記憶が新しいうちにまとめると、翌期の改善点がはっきりします。
今期の依頼管理表をそのまま翌期の計画表に使えば、準備の負担は年々軽くなります。
まとめ
- 決算の監査対応は、会計監査人の監査に必要な資料の提出と質問への回答を行うこと
- 会社法監査は計算書類、金商法監査は有価証券報告書の財務諸表が対象
- PBCリストの範囲と期限をキックオフで合意し、提出前に試算表との一致を確認する
- 残高確認・実査・棚卸立会では、確認先リストや棚卸計画、差異の調整表を準備する
- 会計上の見積りは、仮定・データ・感応度をセットで説明する
- 虚偽表示は影響額と修正の要否を確認し、経営者確認書の段取りも早めに組む
内容は2026年10月時点のe-Gov法令検索(会社法・金融商品取引法・会社計算規則)と、日本公認会計士協会の監査基準報告書450・505・501・580をもとにしています。
まずは前期のPBCリストを見直し、遅れた資料に印を付けるところから始めてみましょう。それだけで今期の段取りが見えてきます。





