決算短信の担当になったとき、「どこまでが東証のルールなのか」がわからず手が止まったことはありませんか。決算短信は期末から1か月半ほどで数字を固めて出す書類なので、スケジュールと記入ルールを知らないと毎回あわてることになります。
この記事では、上場企業の経理として会計システムにも関わってきた私の目線で、決算短信の位置づけ・構成・開示時期と、サマリー情報の書き方と作成スケジュールの逆算を整理します。ルールは東証の「決算短信・四半期決算短信作成要領等(2026年7月版)」にもとづいています。
決算短信は「速さ」と「正しさ」の両方が求められる書類です。最初にルールの全体像をつかんでおくと、毎期の作業がぐっと楽になりますよ。
- 決算短信の位置づけと有価証券報告書との違い
- サマリー情報と添付資料の構成
- 45日・30日ルールと四半期決算短信の開示時期
- サマリー情報の記入の注意点と業績予想の修正基準
- 逆算スケジュール・TDnet・XBRLと数値チェックのコツ
決算短信とは?東証ルールで出す「監査不要の速報」


決算短信は取引所の規則にもとづく適時開示
決算短信は、上場会社が決算の内容を投資家にいち早く知らせるための書類です。金融商品取引法や会社法で作成が決められた書類ではなく、東京証券取引所の有価証券上場規程にもとづく適時開示として出します。決算の内容が定まったら「直ちに」開示する義務があります。
実務では、取締役会で決算を承認したタイミングで、適時開示システム(TDnet)に登録して公表する会社が多いです。
監査は不要だが「後から法定開示で確かめられる」
通期と中間期の決算短信は、監査やレビューが終わっていなくても開示できます。東証は決算短信を法定開示に先立つ速報と位置づけ、数字の正しさは後の法定開示で担保される、という考え方です。サマリー情報にも「監査の対象外です」と書く欄があります。
| 項目 | 決算短信 | 有価証券報告書 | 計算書類(会社法) |
|---|---|---|---|
| 根拠 | 東証の上場規程 | 金融商品取引法 | 会社法 |
| 役割 | 決算の速報 | 詳しい法定開示 | 株主への報告 |
| 監査 | 不要(監査の対象外) | 監査が必要 | 会計監査人の監査が必要 |
| 時期の目安 | 期末後45日以内が適当 | 期末後3か月以内 | 定時株主総会の前 |
開示書類の全体像は、次の記事で整理しています。


監査が不要でも、後で数字を直すと「決算発表資料の訂正」の開示が必要です。監査法人とすり合わせてから出すのが基本ですね。
決算短信の構成|サマリー情報と添付資料


決算短信は、サマリー情報と添付資料の2つで構成されます。サマリー情報はいわゆる「1枚目」で、主要な数字の一覧です。添付資料は、その数字を理解してもらうための説明と財務諸表です。
| 区分 | 主な中身 |
|---|---|
| サマリー情報 | 経営成績・財政状態・キャッシュ・フロー、配当、業績予想など、注記事項 |
| 経営成績等の概況 | 当期の経営成績・財政状態の概況、今後の見通し |
| 会計基準の選択に関する基本的な考え方 | 日本基準を続けるか、IFRSの適用を検討しているか |
| 連結財務諸表及び主な注記 | 連結財務諸表(BS・PL・包括利益・株主資本等変動・CF)、継続企業の前提、セグメント情報、1株当たり情報、重要な後発事象など |
サマリー情報の参考様式は、日本基準の連結・非連結、IFRS、米国基準の4種類です。様式は「参考」の位置づけですが、多くの会社が参考様式どおりに作っているので、まずは様式どおりが無難です。
添付資料はサマリーより後でも出せる
投資判断を誤らせるおそれがない場合は、サマリー情報と経営成績等の概況を先に開示し、連結財務諸表と主な注記を準備でき次第すぐに開示する方法も認められています。
添付資料の「経営成績等の概況」は、IRが文章、経理が数字を担当する会社も多いです。数字の出どころを一本化しておくと食い違いを防げます。
開示時期のルール|45日・30日と四半期決算短信


通期は「45日以内が適当、30日以内がより望ましい」
東証は、通期の決算短信について決算期末後45日以内の開示が適当で、30日以内(期末が月末なら翌月内)の開示がより望ましいとしています。45日目が休日なら翌営業日までです。また、開示が期末後50日を超えた場合は、その理由と翌期以降の開示時期の見込みを開示する必要があります。
| 区分 | 東証のルール | 2027年3月期の例 |
|---|---|---|
| より望ましい時期 | 期末後30日以内(月末決算は翌月内) | 4月30日(金)まで |
| 適当とされる時期 | 期末後45日以内(休日なら翌営業日) | 5月15日が土曜のため5月17日(月)まで |
| 理由の開示が必要 | 期末後50日を超えた場合 | 5月20日(木)を超えた場合 |
また東証は、発表が集中する月末・週末・期末後45日目をできるだけ避けるよう求めています。開示日は期初のうちに押さえておきましょう。
2024年4月から第1・第3四半期は決算短信に一本化
2024年4月1日施行の改正金融商品取引法で、第1・第3四半期報告書が廃止され、四半期の開示は東証の四半期決算短信に一本化されました。第2四半期は、四半期報告書に代わって半期報告書(中間期末後45日以内に提出)を出します。
| 区分 | 開示する書類 | 時期 | 監査法人の関与 |
|---|---|---|---|
| 第1・第3四半期 | 四半期決算短信 | 四半期末後45日以内が原則 | 期中レビューは原則任意(一定の要件で義務) |
| 第2四半期(中間期) | 中間決算短信+半期報告書 | 半期報告書は中間期末後45日以内 | 半期報告書は期中レビューが必要 |
| 通期 | 決算短信+有価証券報告書 | 有報は期末後3か月以内 | 有報は監査が必要 |
レビューが義務になるのは、直近の有価証券報告書などに無限定適正意見以外の意見が付いた場合や、内部統制に開示すべき重要な不備がある場合などです。サマリー情報には、レビューの有無を有(義務)・有(任意)・無のどれかで書きます。
任意レビューを受けるときの開示タイミング
任意でレビューを受ける会社は、完了前に開示するか完了後に開示するかを自社で決めます。完了前に開示した場合は、完了後にレビュー報告書を添付した四半期決算短信をあらためて開示します。
四半期の開示は制度改正で大きく変わりました。前任者の資料が2024年3月以前のままになっていないか、必ず確認してくださいね。
サマリー情報の書き方と記入の注意点


主な項目と注意点
サマリー情報は欄ごとに細かい決まりがあります。間違えやすい項目をまとめました。
| 項目 | 記入の注意 |
|---|---|
| 金額 | 百万円未満は切捨て(四捨五入も可) |
| %(増減率) | 対前期増減率を、小数第1位未満を原則として四捨五入 |
| 1株当たり指標 | 銭未満は原則四捨五入。潜在株式調整後の数値も会計基準どおりに計算 |
| 自己資本比率 | 自己資本=純資産合計-株式引受権-新株予約権-非支配株主持分 |
| 配当の状況 | 基準日で区分。配当しない基準日は、四半期配当の定款規定があれば「0.00」、なければ「-」 |
| 前期の数値 | 遡及修正などを反映させた数値 |
指標の計算例
指標は東証が計算式を決めています。説明用の仮の数値(百万円)で計算すると次のとおりです。
| 指標 | 計算式 | 計算例 |
|---|---|---|
| 自己資本比率 | 自己資本÷総資産×100 | (25,000-120-1,880)÷50,000=46.0% |
| 自己資本当期純利益率 | 親会社株主に帰属する当期純利益÷期首・期末の自己資本の平均×100 | 2,300÷((21,000+23,000)÷2)=10.5% |
| 配当性向(連結) | 1株当たり配当金÷1株当たり当期純利益×100 | 50円÷115.00円=43.5% |
業績予想と修正開示の基準
サマリー情報には、多くの会社が次期の業績予想を載せます。現在の様式は「投資者が通期業績を見通す際に有用と思われる情報」という欄で、レンジでの記載や、予想を出さない理由を書く方法もあります。
公表した予想値と新しく算出した予想値や決算の数字に差が出た場合は、売上高は10%以上、各利益は30%以上の増減があれば「業績予想の修正」を直ちに開示する必要があります。たとえば営業利益の予想2,000百万円が1,350百万円になると、比率0.675で開示が必要です。売上高の予想30,000百万円が27,500百万円なら、比率は約0.917で基準に当たりません。
予想を出していなくても開示が必要になる
業績予想を公表していない会社でも、社内で予想に相当する数字を持ち、それが前期の実績と基準以上に違う場合は開示が必要です。
配当予想を変えたときも、配当予想の修正として開示が必要です。業績予想とセットで、決算発表のたびに確認しましょう。
作成スケジュールとTDnet・XBRLの実務


期末日から逆算するスケジュール表
決算短信は、開示日から逆算して作業の締切を決めるのがコツです。2027年3月期で、期末日をD+0、開示予定日をD+42(5月12日(水))とした例です。ゴールデンウィークで実働日が減る点に注意してください。
| 時期 | 主な作業 | 関係者 |
|---|---|---|
| D+0〜D+10 | 単体決算の締め、子会社の報告パッケージの回収 | 経理・子会社 |
| D+10〜D+20 | 連結精算表の作成、相殺消去、連結財務諸表の作成 | 経理(連結担当) |
| D+20〜D+28 | サマリー情報・添付資料の作成、監査法人への数値の提出 | 経理・監査法人 |
| D+28〜D+35 | 社内レビュー、IR・法務の確認、XBRLの作成 | 経理・IR・法務 |
| D+35〜D+41 | 最終の数値確定、取締役会資料の準備、TDnetへの登録準備 | 経理・総務 |
| D+42 | 取締役会で承認、TDnetで開示、ウェブサイトに掲載 | 経理・IR |
作成から開示までの5ステップ
単体・連結決算を締め、連結精算表から財務諸表を作ります。
数字を転記し、増減率や1株当たり指標を計算します。
増減の理由をセグメント別に説明します。
監査法人・IR・法務の確認後、取締役会で承認します。
PDFとXBRLを登録し、開示時刻を指定して公表します。
TDnetに登録する5つのファイル
決算短信は、PDFに加えて、数字にタグを付けてシステムが読み取れるようにしたXBRLでも登録します。
- サマリー情報のXBRLファイル
- サマリー情報のPDFファイル
- 財務諸表及び一部の注記事項のXBRLファイル
- 添付資料のHTMLファイル
- 添付資料のPDFファイル(または全文PDFファイル)
サマリー情報のXBRLはTDnetの数値データ作成画面でも作れ、その場合はPDFも自動で作られます。PDFとXBRLの内容に食い違いがないことが求められるので、PDFを直したらXBRLも必ず直してください。
スケジュール表は、子会社や監査法人にも期初に共有しておくのがおすすめです。締切が前倒しになるだけで、後工程の余裕が大きく変わりますよ。
連結決算の相殺消去の考え方は、次の記事で詳しく解説しています。


数値整合チェックとよくあるミス


有価証券報告書・計算書類と数字をそろえる
決算短信の数字は、あとで出す有価証券報告書や会社法の計算書類と一致している必要があります。特に1株当たり情報、発行済株式数、配当金総額、セグメント情報は、有報と計算書類の両方に出てくるので要注意です。
よくあるミスと防ぎ方
増減率は、円単位から計算するか、百万円単位の表示額から計算するかで結果が変わることがあります。たとえば営業利益が前期980,900,000円から当期1,078,000,000円になった場合、円単位では9.9%、百万円単位(980→1,078)では10.0%です。
| ミス | 起きやすい場面 | 防ぎ方 |
|---|---|---|
| 前期数値の誤り | 前期の短信をコピーして使った | 前期の有報の確定値と照合する。遡及修正があれば反映する |
| %計算のずれ | 計算元の単位が担当者ごとに違う | 円単位から計算するなど社内ルールを決め、毎期同じ方法にする |
| 端数処理の不一致 | 切捨てと四捨五入が混在 | 表紙の表記(切捨て・四捨五入)と全ページの処理をそろえる |
| 単位の取り違え | 千円単位の資料をそのまま転記 | 資料ごとに単位を確認し、合計の検算を入れる |
| 配当の区分 | 効力発生日で区分してしまう | 基準日で区分して書く |
前期が損失の場合など増減率に意味がないときは「-」とする会社が一般的です。表示ルールは社内マニュアルに残しておきましょう。
監査法人・IR・法務とのやり取り
監査法人にはドラフトの段階で数字と注記を見てもらい、重要な論点を開示前に解消します。IRには決算説明資料との一致を、法務・総務とは取締役会・配当決議・株主総会の日程を確認します。決算の数字はインサイダー取引規制の重要事実になりうるので、開示前の情報管理も徹底しましょう。
会計システム・連結システムからのデータ連携
データ連携のコツ
- 勘定科目と短信の表示科目の対応表をマスタで管理する
- 数字は円単位で持ち、表示するときだけ百万円に丸める
- 前期の数値は前期確定時に保存したデータから取り込む
- 手入力をなくし、連結システムの出力と差分チェックする
開示前の最終チェックリスト
- BS・PL・CFの合計と、サマリー情報の数字が一致している
- 前期の数値が前期の有報の確定値(遡及修正後)と一致している
- 増減率・1株当たり指標の端数処理が社内ルールどおり
- 業績予想・配当予想の修正開示が必要ないか確認した
- PDFとXBRLの内容が一致している
短信のチェックは、BS・PLの増減分析と同じ目線で見ると異常に早く気づけます。


まとめ
- 決算短信は東証の上場規程にもとづく適時開示で、監査不要の速報
- 構成はサマリー情報と添付資料の2つ
- 通期は期末後45日以内が適当、30日以内がより望ましい。50日を超えたら理由を開示
- 2024年4月から第1・第3四半期は四半期決算短信に一本化され、期中レビューは原則任意
- 業績予想は売上高10%・利益30%以上の差で修正開示が必要
まずは次の決算に向けて、期末日から開示日までの逆算スケジュール表を作ってみてください。
ルールと手順を一度整理すれば、決算短信の作業は毎期安定します。ぜひ次の決算から試してみてください。






