【簿記1級受験者必見】売価還元法とは?原価率の計算と売価還元低価法の期末商品評価

売価還元法は、簿記1級では原価率の分母に何を入れるかで点差がつく論点です。値上・値下とその取消が並ぶと、どれを足してどれを引くのか迷いやすくなります。実務では、スーパーや百貨店などの小売業で今も使われている評価方法です。

この記事では、上場企業で経理と会計システムを担当している私の目線で、1本の数値例で原価法と低価法の原価率、期末商品の評価、棚卸減耗損と商品評価損まで通して計算します。後半では、実務の運用と税務上の扱いも整理します。内容は2026年10月時点の会計基準と法令にもとづいています。

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売価還元法は「売価で数えた在庫を、原価率で原価に戻す」方法です。この一文を覚えておくと、式の意味がすっと入ってきますよ。

この記事でわかること
  • 売価還元法のしくみと、値入・値上・値下などの用語
  • 売価還元原価法と売価還元低価法の原価率の計算式
  • 期末商品の評価と、棚卸減耗損・商品評価損の求め方
  • 仕訳と損益計算書の表示、簿記1級で間違えやすい点
  • 部門別の原価率管理、POS・在庫システムとの連携、税務上の扱い
目次

売価還元法とは?

値札の付いた果物が並ぶスーパーの売り場

売価還元法の定義

売価還元法は、値入率などが似た商品のグループごとに、期末の売価合計額に原価率を掛けて期末棚卸資産の価額を求める方法です(企業会計基準第9号「棚卸資産の評価に関する会計基準」第6-2項(4))。同項では、取扱品種がきわめて多い小売業などで使われる方法と説明されています。

商品が数万点ある店舗で、1品ずつ原価を記録して先入先出法や平均原価法を使うのは現実的ではありません。売価なら値札やPOSのデータで把握できるため、売価で数えてから原価に戻すという発想です。

押さえておきたい用語

用語意味原価率への影響
原始値入額仕入原価に最初に上乗せした利益分(仕入原価+原始値入額=当初の売価)分母に加える
値上額・値上取消額当初の売価からの値上げと、その取消し値上は加算、取消は減算
値下額・値下取消額当初の売価からの値下げと、その取消し原価法は値下を減算・取消を加算、低価法は両方とも除外
期末帳簿棚卸高(売価)売価の合計から当期の売上高を引いた残りこれに原価率を掛ける

売上値引や仕入値引とは別物なので注意しましょう。値上・値下は店頭の売価を変える行為で、取引先との値引とは区別します。

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「取消」は、元の操作を打ち消すだけです。値上取消は値上を減らし、値下取消は値下を減らします。符号をひっくり返すと覚えると迷いません。

売価還元法の原価率の計算(原価法と低価法の違い)

電卓で数字を計算する手元

2つの原価率の式

第9号では、2つの原価率を連続意見書第四に定める式として示しています。

  • 売価還元平均原価法(原価法)の原価率=(期首繰越商品原価+当期受入原価総額)÷(期首繰越商品小売価額+当期受入原価総額+原始値入額+値上額−値上取消額−値下額+値下取消額)(第54項)
  • 売価還元低価法の原価率=(期首繰越商品原価+当期受入原価総額)÷(期首繰越商品小売価額+当期受入原価総額+原始値入額+値上額−値上取消額)(第13項)

分子は同じで、違いは分母だけです。低価法は、分母から値下額と値下取消額を除きます。分母が大きくなるので原価率は低くなり、期末商品の評価額も小さくなります。

数値例の前提

項目原価売価
期首商品144,000200,000
当期仕入(原始値入額432,000)1,080,0001,512,000
値上額/値上取消額-120,000/32,000
値下額/値下取消額-130,000/30,000
当期売上高-1,480,000
期末実地棚卸高-210,000

原価率を計算する

項目原価法の分母低価法の分母
期首売価+仕入売価1,712,0001,712,000
純値上額(120,000−32,000)+88,000+88,000
純値下額(130,000−30,000)−100,000除外
分母の合計1,700,0001,800,000
原価率(1,224,000÷分母)0.720.68

分子は期首原価144,000円+仕入原価1,080,000円=1,224,000円です。原価法の原価率は72%、低価法の原価率は68%になります。本例は割り切れる数字にしていますが、割り切れないときは問題文の端数指示に従います。

売価還元法の原価率には「平均原価法」の考え方が入っています。期首と当期仕入をまとめて1つの原価率にするため、期首と当期で値入率が違っても平均された率になります。

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低価法の原価率は、値下げがなかったとした場合の売価をもとにした率です。分母が大きいぶん原価率が低くなり、原価法との差が商品評価損として表に出てきます。

期末商品の評価:棚卸減耗損と商品評価損

倉庫で在庫を確認する担当者

期末帳簿棚卸高を求める

期末帳簿棚卸高の売価は、原価法の分母(売価の合計)1,700,000円から売上高1,480,000円を引いた220,000円です。低価法の分母は使いません。値下げした売価で売られた結果が売上高なので、値下を反映した売価合計と比べる必要があるからです。

評価額・減耗損・評価損の計算

項目計算式金額
期末帳簿棚卸高(原価)220,000×0.72158,400
棚卸減耗損(220,000−210,000)×0.727,200
商品評価損210,000×(0.72−0.68)8,400
貸借対照表価額210,000×0.68142,800

棚卸減耗損は、帳簿と実地の売価の差10,000円に原価法の原価率を掛けます。商品評価損は、実地棚卸高の売価に2つの原価率の差を掛けます。158,400円−7,200円−8,400円=142,800円となり、貸借対照表価額と一致すれば検算完了です。

ボックス図で整理するコツ

縦軸に原価率(0.72と0.68)、横軸に売価(実地210,000と帳簿220,000)をとった図を描くと、内側の長方形が貸借対照表価額、右側の細い帯が棚卸減耗損、上側の帯が商品評価損になります。

原価法だけを採用している場合

売価還元原価法のみなら、貸借対照表価額は210,000円×0.72=151,200円です。ただし第13項本文により、期末の正味売却価額が帳簿価額を下回るときは、正味売却価額まで切り下げる必要があります。低価法の原価率を使う方法は、値下額などが売価合計額に適切に反映されている場合に限り、収益性の低下による簿価切下げを反映したものとみなせる扱いです(同項ただし書き)。

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試験では「原価法の原価率で減耗損、原価率の差で評価損」の順に解く問題が多いです。ただ、問題文に指示があればそちらが優先なので、必ず読み飛ばさないでくださいね。

売価還元法の仕訳と損益計算書の表示

在庫管理表と電卓・ペン

決算整理仕訳

三分法で記帳し、売上原価を仕入勘定で計算する場合の仕訳です。まず期首と期末の商品を振り替えます。

借方金額貸方金額
仕入144,000繰越商品144,000
繰越商品158,400仕入158,400

次に、棚卸減耗損と商品評価損を計上します。

借方金額貸方金額
棚卸減耗損7,200繰越商品15,600
商品評価損8,400

棚卸減耗損に原価性があり、どちらも売上原価に含める指示があれば、仕入勘定に振り替えます。

借方金額貸方金額
仕入15,600棚卸減耗損7,200
商品評価損8,400
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仕訳の貸方はどちらも繰越商品です。商品評価損の勘定科目名は問題によって違うことがあるので、指定の科目に合わせましょう。

損益計算書の表示

区分項目金額
売上高1,480,000
売上原価期首商品棚卸高144,000
当期商品仕入高1,080,000
期末商品棚卸高158,400
棚卸減耗損7,200
商品評価損8,400
売上原価合計1,081,200
売上総利益398,800

収益性の低下による簿価切下額は売上原価とします(第9号第17項)。臨時の事象に起因し、かつ多額なら特別損失です。また、簿価切下額は注記か、売上原価等の内訳項目として独立掲記して示します(同第18項)。棚卸減耗損は、原価性があれば売上原価の内訳または販売費、原価性がなければ営業外費用か特別損失に表示します。

商品評価損を営業外費用にしない

正味売却価額が大きく下がったという理由だけで、簿価切下額を営業外費用や特別損失にすることはできません(第9号第64項)。特別損失になるのは、重要な事業部門の廃止や災害など臨時の事象で、かつ多額な場合だけです。

簿記1級の出題パターンと間違えやすい点

ノートに書き込みながら勉強する女性

試験で解く5つの手順

STEP
資料を原価と売価に分ける

期首・仕入の原価と売価、原始値入額、値上・値下とその取消、売上高、実地棚卸高を表に書き出します。

STEP
2つの分母を計算する

低価法の分母を先に出し、純値下額を引いて原価法の分母を出すと計算が1回で済みます。

STEP
原価率を端数指示どおりに出す

割り切れない場合は、問題文の指示(小数第何位で四捨五入か、切り捨てか)を確認します。

STEP
期末帳簿売価から評価額を計算する

原価法の分母−売上高で期末帳簿売価を出し、減耗損と評価損をボックス図で求めます。

STEP
貸借対照表価額で検算する

期末帳簿原価−減耗損−評価損=実地売価×低価法原価率になるか確かめます。

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手順2で「低価法の分母を先に出す」のは私のおすすめです。純値下額を引くだけで原価法の分母になるので、足し算の回数が減ります。

よく出る3つのパターン

  • 原価率と期末商品の評価額だけを問う個別問題
  • 決算整理後残高試算表や損益計算書の売上原価の区分を作らせる総合問題
  • 部門ごとに原価率が違い、部門別に計算して合計する問題

よくあるミス

  • 値下取消額を値下額と同じく分母から引いてしまう(本例では原価率が0.7463になり大きくずれる)
  • 低価法の分母から値上取消額まで除いてしまう(0.6681となり、貸借対照表価額は140,301円になる)
  • 期末帳簿売価を、低価法の分母から売上高を引いて計算してしまう
  • 仕入値引・仕入戻しを分子の仕入原価から引き忘れる
  • 原価率の端数を指示より粗く丸める(帳簿売価220,000円なら0.746と0.7463で66円ずれる)

問題によっては、減耗損を低価法の原価率で計算し、評価損を帳簿売価に原価率の差を掛けて計算する指示もあります。本例なら減耗損6,800円、評価損8,800円です。内訳は変わりますが、合計の15,600円は同じなので、迷ったら合計で検算しましょう。

ほかの簿記1級の論点も、数値例で解説しています。

実務のポイント:部門管理・システム連携・税務

タブレットで在庫データを確認する店員

小売業での採用と第9号の位置づけ

小売業の有価証券報告書では、重要な会計方針に「売価還元法による原価法(貸借対照表価額は収益性の低下に基づく簿価切下げの方法により算定)」と書かれている例をよく見かけます。評価方法は、事業の種類や棚卸資産の種類などの区分ごとに選び、継続して適用します(第6-3項)。

部門別の原価率グループと値下データの管理

原価率は、値入率などが似たグループごとに出します。食品と衣料のように値入率が大きく違う商品をまとめると、平均の原価率がゆがみます。そして実務でいちばん大事なのが、値下・値下取消のデータを漏れなく記録することです。

システム連携で確認すること

  • 売価変更(値上・値下・取消)を本部の商品マスタとPOSの両方に、変更日と部門コード付きで記録しているか
  • 見切り・タイムセールなど店頭での値下が、POSの売上データから値下額として集計されているか
  • 部門の組替えや新設のときに、原価率グループの対応表を更新しているか
  • 実地棚卸の売価データ(ハンディ端末など)と帳簿売価を部門別に突き合わせているか

部門別の原価率を前期と比べて急に動いた部門があれば、値下の計上漏れやマスタの登録ミスを疑います。月次の異常値チェックの方法は、こちらで詳しく紹介しています。

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私の経験では、原価率の異常はほとんどが値下の登録漏れか、部門コードの付け間違いです。システムの数字をうのみにせず、店舗の実態と照らし合わせるのが大切ですよ。

税務上の扱い(法人税法)

法人税法でも、売価還元法は選べる評価方法の1つです(法人税法施行令第28条第1項第1号ヘ)。ただし原価の率は「(期首の取得価額+当期の取得価額)÷(期末の通常の販売価額の総額+当期の販売対価の総額)」で計算し、会計上の式とは形が違います。

項目法人税法上の取扱い
評価方法の選定事業の種類ごと、商品などの区分ごとに選定(施行令第29条第1項)
届出設立事業年度などの確定申告書の提出期限までに届け出る(同条第2項)
届出がない場合最終仕入原価法による原価法(施行令第31条)
変更新たな方法を採用する事業年度開始の日の前日までに承認申請(施行令第30条)
区分の特例種類が著しく異なるものを除き、通常の差益率がおおむね同じものを1区分にできる(法基通5-2-5)

会計上の商品評価損がそのまま損金になるとは限りません。税務で低価法を選んでいない場合などは申告調整が必要になり、税効果会計の対象にもなります。

実務で役立つひと工夫

決算の原価率計算表は、部門別に「期首・仕入・値上・値下・売上・実地」を同じ列順で並べ、分母と原価率を数式で出しています。前期の表を流用でき、計算ミスと引継ぎの手間が減りました。

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税務の原価率は会計と形が違うので、会計と税務で評価額に差が出る場合は、顧問税理士と申告調整の要否を確認しておくと安心です。

まとめ

  • 売価還元法は、値入率が似たグループごとに、期末の売価合計額に原価率を掛けて期末商品を評価する方法
  • 原価法の原価率は分母に純値上と純値下を反映し、低価法の原価率は値下額と値下取消額を分母から除く
  • 期末帳簿売価は原価法の分母から売上高を引いて求め、減耗損は原価法の原価率、評価損は原価率の差で計算する
  • 商品評価損は原則として売上原価に含め、注記か独立掲記で示す
  • 実務では値下データの記録、部門別の原価率管理、税務上の届出と申告調整まで押さえる

売価還元法は、分母の内訳表とボックス図を書ければ、試験でも実務でも迷いません。今回の数値例を白紙に書き写して、原価率0.72と0.68、貸借対照表価額142,800円になるか試してみてください。

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