簿記1級の税効果会計は、2級で覚えた「繰延税金資産/法人税等調整額」の仕訳だけでは太刀打ちできません。その他有価証券の評価差額、圧縮積立金、連結の未実現利益と、場面ごとに相手勘定や税率が変わるからです。
この記事では、上場企業で経理をしている私の目線で、差異の発生と解消を1本のタイムラインで追い、3つの場面を1つの表で比較します。内容は2026年10月時点の会計基準と出題区分表にもとづいています。
税効果は「いくらの差が、いつ解消して、どの税率で、どの科目に入るか」の4つを決めれば解けますよ。
- 税効果会計の目的と、一時差異・永久差異の見分け方
- どちらの差異か・どの科目に入るか・どの税率かの判定フロー
- 2年分のタイムラインで追う個別の税効果と圧縮積立金の仕訳
- その他有価証券・連結の税効果と、回収可能性・表示のルール
税効果会計とは?会計と税務のズレを調整するしくみ


税引前当期純利益と法人税等を対応させる
会計上の利益と税務上の所得は、引当金や減価償却の扱いが違うためズレます。法人税等は課税所得から計算されるので、税引前当期純利益と対応しません。
そこで、ズレのうち将来解消するものに法定実効税率を掛け、法人税等調整額で税金費用を期間配分します。下の表は、後で使う数値例(税率30%)の1年目です。
| 項目 | 税効果なし | 税効果あり |
|---|---|---|
| 税引前当期純利益 | 2,000,000 | 2,000,000 |
| 法人税、住民税及び事業税 | 795,000 | 795,000 |
| 法人税等調整額 | - | △180,000 |
| 当期純利益 | 1,205,000 | 1,385,000 |
| 税負担率 | 39.75% | 30.75% |
税効果を適用すると負担率は30%に近づきます。残る0.75%は、次に説明する永久差異(交際費50,000円×30%)の影響です。
一時差異と永久差異の違い
| 区分 | 内容 | 例 | 税効果 |
|---|---|---|---|
| 一時差異 | 将来いつか解消する差 | 引当金の損金不算入額、減価償却超過額、その他有価証券の評価差額 | 対象 |
| 永久差異 | 将来も解消しない差 | 交際費の損金不算入額、受取配当金の益金不算入額、寄附金の損金不算入額 | 対象外 |
永久差異は将来の税金を増やしも減らしもしないので、繰延税金資産・負債は計上しません。
簿記1級での出題範囲
2026年度試験に適用される2022年度版の出題区分表では、税効果会計は※印付きの項目です。2級は引当金・減価償却・その他有価証券に限られ、回収可能性の検討は除外されていますが、1級ではその制限がなく、連結会計上の税効果会計も範囲に入ります。


判定フロー:どちらの差異か・どの科目に入るか・どの税率か


将来減算一時差異と将来加算一時差異
| 区分 | 意味 | 主な例 | 計上する科目 |
|---|---|---|---|
| 将来減算一時差異 | 解消時に課税所得を減らす(税金の前払い) | 貸倒引当金・賞与引当金の繰入超過額、減価償却超過額、評価差損 | 繰延税金資産 |
| 将来加算一時差異 | 解消時に課税所得を増やす(税金の後払い) | その他有価証券の評価差益、圧縮積立金、子会社資産の評価増 | 繰延税金負債 |
迷ったら「会計の資産が税務より小さい(負債が大きい)なら将来減算」と考えます。会計上だけ先に費用にした分は、将来、税務上の損金になるからです。
資産負債法と税率の決め方
税効果会計は資産負債法を採用しています。期末の一時差異に、解消する年度に適用される税率を掛けて繰延税金資産・負債を計算し、期首との差額を法人税等調整額にします。税率が改正されたら既存の残高も新税率で計算し直します。
実務の法定実効税率は法人税・住民税・事業税から計算しますが、試験では問題文の税率(30%など)をそのまま使います。
3つの判定フロー
- 差異の種類:会計の簿価が税務より小さい→将来減算(繰延税金資産)、大きい→将来加算(繰延税金負債)
- 相手勘定:損益で生じた差→法人税等調整額、純資産直入の評価差額→その他有価証券評価差額金、子会社の時価評価→評価差額
- 税率:個別はその会社の税率、未実現利益は売却元、債権債務の貸倒引当金は債権者側
相手勘定を先に決めると、「法人税等調整額を使ってはいけない場面」を間違えなくなります。
個別の税効果を2年分のタイムラインで追う


数値例の前提
税率は30%です。X1年度の税引前当期純利益は2,000,000円、X2年度は2,500,000円で、両年度とも交際費の損金不算入額が50,000円あります。
まずは2級の範囲と同じ引当金と減価償却から。ここで型を作れば、1級の論点も同じ表に乗ります。
差異の発生と解消のタイムライン
| 項目 | X1発生 | X1期末 | X2解消 | X2発生 | X2期末 |
|---|---|---|---|---|---|
| 貸倒引当金の繰入超過額 | 100,000 | 100,000 | △100,000 | 120,000 | 120,000 |
| 賞与引当金(全額損金不算入) | 300,000 | 300,000 | △300,000 | 350,000 | 350,000 |
| 減価償却超過額(累計) | 200,000 | 200,000 | - | 200,000 | 400,000 |
| 一時差異の合計 | 600,000 | 600,000 | △400,000 | 670,000 | 870,000 |
| 繰延税金資産(×30%) | - | 180,000 | - | - | 261,000 |
引当金は翌年度に解消して新たに発生し、減価償却超過額は積み上がります。期末残高×税率が繰延税金資産、その増減が法人税等調整額です。
各年度の仕訳と損益計算書
| 年度 | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|
| X1 | 繰延税金資産 180,000 | 法人税等調整額 180,000 |
| X2 | 繰延税金資産 81,000 | 法人税等調整額 81,000 |
X2の81,000円は261,000円-180,000円です。発生670,000円と解消400,000円の差270,000円に30%を掛けても同じ額になります。
| 年度 | 課税所得 | 法人税等 | 法人税等調整額 | 税金費用合計 | 当期純利益 |
|---|---|---|---|---|---|
| X1 | 2,650,000 | 795,000 | △180,000 | 615,000 | 1,385,000 |
| X2 | 2,820,000 | 846,000 | △81,000 | 765,000 | 1,735,000 |
税金費用合計は、どちらの年度も税引前当期純利益×30%に永久差異分15,000円を足した額と一致します。これが検算になります。
圧縮積立金(積立金方式)の税効果
国庫補助金1,000,000円を受け取り、X1年度期首に機械3,000,000円(耐用年数5年、定額法、残存価額ゼロ)を取得しました。積立金方式では会計上の取得原価は減らさず、税務上だけ圧縮するため、将来加算一時差異が生じます。
| 時点 | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|
| X1積立 | 法人税等調整額 300,000 | 繰延税金負債 300,000 |
| X1積立 | 繰越利益剰余金 700,000 | 圧縮積立金 700,000 |
| 毎期取崩 | 繰延税金負債 60,000 | 法人税等調整額 60,000 |
| 毎期取崩 | 圧縮積立金 140,000 | 繰越利益剰余金 140,000 |
圧縮積立金は税効果を引いた額(1,000,000円×70%)を積み立て、減価償却に合わせて5分の1ずつ取り崩します。X1期末は繰延税金負債240,000円、圧縮積立金560,000円、X2期末は180,000円と420,000円です。
タイムラインのコツ
差異の項目を縦に、年度を横に並べ、「発生」「解消」「期末残高」の列を作ります。期末残高の合計に税率を掛け、前期末との差を法人税等調整額にすれば、項目が増えても計算の流れは同じです。
直接減額方式の圧縮記帳なら、会計と税務の簿価が一致するので税効果は生じません。方式の指示を必ず確認しましょう。
その他有価証券と連結の税効果を3場面で比較


その他有価証券の評価差額(全部純資産直入法)
取得原価1,000,000円のその他有価証券が、X1期末に1,200,000円、X2期末に900,000円になったとします。評価差額は損益を通らないので、税効果も純資産で調整します。
| 時点 | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|
| X1期末 | その他有価証券 200,000 | 繰延税金負債 60,000/その他有価証券評価差額金 140,000 |
| X2期首 | 前期末の逆仕訳(洗替) | - |
| X2期末 | 繰延税金資産 30,000/その他有価証券評価差額金 70,000 | その他有価証券 100,000 |
法人税等調整額は使いません。評価差額金は税効果を差し引いた純額(70%)で計上し、期首には必ず洗い替えます。
連結の税効果(未実現利益・評価差額・貸倒引当金)
親会社Pの税率は30%、子会社Sの税率は40%、非支配株主の持分は20%とします。
| 論点 | 連結修正仕訳(税効果部分) | 税率 |
|---|---|---|
| ダウンストリームの未実現利益100,000 | 繰延税金資産 30,000/法人税等調整額 30,000 | 売却元P(30%) |
| アップストリームの未実現利益50,000 | 繰延税金資産 20,000/法人税等調整額 20,000(非支配株主への配分は税効果後の純額で非支配株主持分 6,000/非支配株主に帰属する当期純利益 6,000) | 売却元S(40%) |
| Sの土地の評価増300,000 | 土地 300,000/繰延税金負債 120,000・評価差額 180,000 | 子会社S(40%) |
| P→S債権200,000の貸倒引当金2%を消去 | 法人税等調整額 1,200/繰延税金負債 1,200 | 債権者側P |
未実現利益は、売却元が売却年度に税金を払っているため、その税金を繰延税金資産として計上します。アップストリームでは、税効果後の30,000円の20%を非支配株主に負担させます。
税率と科目の取り違えに注意
未実現利益は購入側の税率ではなく売却元の税率を使います。上の例で40%を使うと40,000円になり誤りです。子会社の評価差額の税効果は資本連結の中で処理するので、法人税等調整額ではなく評価差額から差し引きます。
3場面の比較表
| 場面 | 差異の場所 | 相手勘定 | 税率 |
|---|---|---|---|
| 個別(引当金・減価償却) | 損益 | 法人税等調整額 | 自社 |
| その他有価証券 | 純資産直入 | その他有価証券評価差額金 | 自社 |
| 連結(未実現利益) | 連結修正 | 法人税等調整額 | 売却元 |
| 連結(子会社の評価差額) | 資本連結 | 評価差額 | 子会社 |
連結の税効果は「誰が税金を払ったか」を考えると、売却元の税率を使う理由に納得できます。


繰延税金資産の回収可能性と表示のルール


回収可能性は企業の分類1〜5で判断する
繰延税金資産は将来の税金を減らせる場合にだけ資産になります。企業会計基準適用指針第26号は、過去と当期の課税所得の状況などで企業を5つに分類しています。
| 分類 | 主な要件 | 計上できる範囲 |
|---|---|---|
| 分類1 | 過去3年と当期に一時差異を十分上回る課税所得 | 原則として全額 |
| 分類2 | 課税所得が一時差異を下回るが安定的に生じている | スケジューリング可能な分 |
| 分類3 | 課税所得が大きく増減している | おおむね5年以内の見積りでスケジューリングした分 |
| 分類4 | 重要な税務上の欠損金が生じている等 | 翌期の課税所得で回収できる分 |
| 分類5 | 過去3年と当期にすべて重要な欠損金、翌期も見込まれる | 原則としてゼロ |
簿記1級では、分類を自分で判定させるより回収可能性の有無を問題文で指示されるのが一般的です。指示された部分は繰延税金資産に含めません。
回収可能性がない一時差異も、課税所得の計算からは消えません。税金費用だけが増える点を確認しましょう。
表示は投資その他の資産と固定負債
企業会計基準第28号により、繰延税金資産は投資その他の資産、繰延税金負債は固定負債に表示します。同じ納税主体の資産と負債は相殺し、連結の親会社と子会社のように納税主体が異なるものは相殺しません。
| 表示項目 | 区分 | 相殺 |
|---|---|---|
| 繰延税金資産 | 投資その他の資産 | 同一納税主体なら負債と相殺 |
| 繰延税金負債 | 固定負債 | 異なる納税主体とは相殺しない |
| 法人税等調整額 | 損益計算書(法人税等の次) | - |


タイムラインで解く手順・よくあるミス・実務の税効果


試験で解く5つの手順
交際費や受取配当金の益金不算入は永久差異として除き、税効果の対象から外します。
会計の簿価が税務より小さいか大きいかで判定し、繰延税金資産か負債かを決めます。
項目ごとに期末残高を出し、問題文の税率を掛けます。
損益なら法人税等調整額、純資産直入なら評価差額金、資本連結なら評価差額です。
回収できない分を除き、同一納税主体の資産と負債を相殺して表示します。
よくあるミス
よくあるミス
- 法人税等調整額の符号を逆にする(繰延税金資産が増えたら税金費用はマイナス)
- 改正後の税率が示されているのに旧税率で計算する
- その他有価証券の評価差額に法人税等調整額を使う、評価差額金を税効果前の総額で計上する
- 未実現利益の税効果に購入側の税率を使う
- 交際費などの永久差異にも繰延税金資産を計上してしまう
符号は「繰延税金資産が増えた年は税金費用が減る」と1行メモしてから仕訳を書くと防げます。
実務の税効果:検証表とスケジューリング
実務では、一時差異の明細を前期末と比べる検証表を作り、法人税等調整額が期末残高の増減と一致するかを確かめます。さらに税金費用合計を税引前当期純利益×法定実効税率と比べ、差を永久差異などで説明できるかを見ます。
決算での税効果の手順
①申告書の別表から一時差異の明細を更新、②解消時期をスケジューリングして回収可能性を判断、③税率を掛けて残高を計算、④法人税等調整額と評価差額金に振り分けて仕訳、⑤税率差異の分析で負担率の差を説明、の順です。
監査では税率差異の分析をよく聞かれます。試験の検算と同じ発想なので、1級の学習がそのまま役立ちますよ。
まとめ
- 税効果会計は、将来解消する一時差異に税率を掛けて税引前当期純利益と税金費用を対応させる
- 将来減算一時差異は繰延税金資産、将来加算一時差異は繰延税金負債、永久差異は対象外
- 相手勘定は法人税等調整額・その他有価証券評価差額金・評価差額の3つを場面で使い分ける
- 未実現利益は売却元、債権債務の貸倒引当金は債権者側の税率を使う
- 繰延税金資産は投資その他の資産、繰延税金負債は固定負債に表示し、同一納税主体なら相殺する
税効果会計は、差異を1本のタイムラインに並べれば、個別でも連結でも同じ手順で解けます。数値例を白紙に書き写して、残高と調整額が合うか試してみてください。






