月次決算で試算表を作ったあと、「この数字で本当に合っているのか」と不安になったことはありませんか。上司や税理士から「この科目、先月より増えているけど何?」と聞かれて、すぐに答えられないこともあると思います。
この記事では、経理とITの両方に関わってきた私の目線で、BS(貸借対照表)とPL(損益計算書)の異常値チェックのやり方を整理します。特徴は、売上と売掛金のように一緒に動くはずの科目を並べた「ペア科目チェック表」と、金額と率を組み合わせたしきい値の決め方、Excelで作る増減分析シートの列設計と数式です。差異が出たときの調べ方と、コメントの書き方のテンプレートも紹介します。
異常値チェックは、全部の仕訳を見直す作業ではありません。「おかしな数字だけを素早く見つける仕組み」を作ることがポイントですよ。
- BS・PLの異常値チェックが必要な理由
- 前月比・構成比・回転期間などの基本手法
- ペア科目で見る相関チェック表と科目別の着眼点
- しきい値の決め方とExcel増減分析シートの作り方
- 差異の調べ方の手順とコメントのテンプレート
BS・PLの異常値チェックとは?必要な理由


異常値チェックで見つけたいもの
異常値チェックとは、試算表の数字を過去の実績や予算、関連する科目と比べて、説明のつかない動きがないかを確かめる作業です。目的は、次のようなミスや問題を早い段階で見つけることです。
- 誤謬:金額の入力ミスや科目の誤り
- 計上漏れ:毎月あるはずの費用や売上が入っていない
- 二重計上:同じ請求書を2回入力している
- 不正:説明のつかない支出や残高の動き
監査・税務調査への備えにもなる
会計監査では、監査人が分析的手続という手法を使います。日本公認会計士協会の監査基準報告書520では、財務データどうし、または財務データと非財務データの間にあると推定される関係を分析して、財務情報を評価することと定義されています。経理が月次で同じ視点のチェックをしておけば、監査人や税務調査で質問されたときに、すでに説明が用意できている状態になります。
年次決算でまとめて調べると、半年前の取引の理由を思い出せないことがよくあります。月次でつぶしておくのが一番の近道です。
月次決算のどこで行うか
異常値チェックは、仕訳の入力と決算整理が終わり、試算表を報告する前に行います。入力が終わった直後にチェックし、直してから報告する流れにしておくと、報告後に数字が変わる手戻りを防げます。チェックする人は、できれば仕訳を入力した人とは別の人にすると、思い込みによる見落としが減ります。
異常値チェックの基本手法|比較・構成比・回転期間・符号


比べる相手は3つ
| 手法 | 比べる相手 | 見つけやすいもの |
|---|---|---|
| 前月比 | 前月の金額 | 計上漏れ、二重計上、月ズレ |
| 前年同月比 | 前年の同じ月 | 季節変動を除いた本当の増減 |
| 予算比 | その月の予算 | 計画とのズレ、見積もりの甘さ |
前月比だけだと、毎年12月に賞与が出るといった季節の動きまで「異常」に見えてしまいます。前年同月比と組み合わせると、季節の影響を除いて判断できます。
構成比・回転期間・符号も見る
金額の比較に加えて、構成比(売上高に対する売上原価や人件費の割合)、回転期間(売掛金や在庫が何か月分たまっているか)、残高の符号も確認します。たとえば売掛金の回転期間は、売掛金残高を月平均の売上高で割って求めます。
マイナス残高は最優先で確認
資産科目が貸方残(マイナス)、負債科目が借方残になっている場合は、ほぼ確実に何かの誤りです。現金や売掛金のマイナス、預り金のマイナスは、入金や納付の仕訳の科目誤り、二重計上などで起こります。金額が小さくても必ず原因を確認しましょう。
毎月ほぼ同じ金額の科目は「ゼロ」と「倍」を見る
地代家賃、リース料、役員報酬、減価償却費のように毎月ほぼ同じ金額になる科目は、比較がいちばん簡単です。当月がゼロなら計上漏れ、ほぼ2倍なら二重計上か前月分のまとめ計上を疑います。
固定的な費用は、推移表を横に眺めるだけで異常に気づけます。まずはここから始めると効果を実感しやすいですよ。
相関で見る:ペア科目チェック表


一緒に動くはずの科目を並べる
科目を1つずつ見るより効果的なのが、一緒に動くはずの2つの科目をペアで見る方法です。片方だけが動いていたら、計上漏れや科目誤りのサインです。
| ペア科目 | 本来の関係 | 異常のサイン |
|---|---|---|
| 売上高 と 売掛金 | 売上が増えれば売掛金も増える | 売上は横ばいなのに売掛金だけ増える(回収遅れ・入金の未消込) |
| 売上原価 と 棚卸資産 | 原価率がほぼ一定で推移する | 原価率の急変、在庫だけが増え続ける |
| 給料手当 と 法定福利費 | 給与の一定割合で動く | 給与が増えたのに法定福利費が変わらない |
| 借入金 と 支払利息 | 残高に利率を掛けた程度になる | 返済が進んだのに利息が減らない |
| 固定資産 と 減価償却費 | 取得すれば償却費が増える | 取得したのに償却費が毎月同額のまま |
ペアのどちらかに増減があったら、もう片方も同じ方向に動いているかを確認します。理由が説明できれば問題はありません。
財務データだけでなく、従業員数や販売数量、店舗数などの非財務データと比べるのも有効です。人数が変わらないのに給料手当が大きく増えた、出荷数量は減ったのに売上だけ増えた、といった動きは確認が必要です。
ペア科目チェックのコツ
ペアで見るときのポイント
- 率(原価率・法定福利費率など)で見ると変化に気づきやすい
- 利息は返済予定表の利率を掛けた概算と比べる
- 売掛金が増えたら、得意先別の残高まで確認する
私は推移表の横に「法定福利費÷給料手当」のような比率の行を足しています。比率が急に変わった月だけ見ればいいので、チェックの時間がかなり短くなりました。


BS・PLの科目別着眼点|チェック表


BS科目の着眼点
BSは「残高が正しいか」、PLは「その月の金額として妥当か」を見るのが基本です。BSの残高は通帳や返済予定表などの外部の資料と照合できるものが多いので、照合できる科目から先に固めると、PLの確認もスムーズになります。
| 科目 | 着眼点 |
|---|---|
| 現金預金 | 通帳や残高証明書と一致しているか、マイナスになっていないか |
| 売掛金 | 滞留している得意先がないか、回転期間が延びていないか、貸方残がないか |
| 棚卸資産 | 回転期間が延びていないか、評価損の検討が必要な在庫がないか |
| 仮払金・仮受金・立替金 | 精算されずに残高が残っていないか |
| 未払金・未払費用 | 毎月計上すべきものが漏れていないか |
| 前払費用 | 期間に応じて毎月費用へ振り替えているか |
| 固定資産 | 取得・除却と減価償却費の動きが合っているか |
| 借入金 | 返済予定表の残高と一致しているか |
| 預り金 | 源泉所得税や社会保険料の納付で毎月消えているか |
| 未払法人税等・未払消費税 | 納付額と残高の動きが合っているか |
PL科目の着眼点
| 科目 | 着眼点 |
|---|---|
| 売上高 | 月をまたぐ取引の計上月がずれていないか |
| 売上原価 | 原価率が急に変わっていないか |
| 販売費及び一般管理費 | 科目誤りがないか、一時的な大口の支出がないか |
| 雑収入・雑損失 | 金額が大きいものに説明がつくか |
| 支払利息 | 借入残高と見合っているか |
| 減価償却費 | 毎月ほぼ一定額になっているか |
| 賞与引当金繰入額 | 毎月計上しているか |
PLの科目で迷ったら「来月も同じくらいの金額になるか」を考えてみてください。ならない理由が説明できない金額は、一度元帳を開いてみる価値があります。


しきい値の決め方とExcelで作る増減分析シート


金額基準と率基準を組み合わせる
すべての増減を調べていたら時間が足りません。そこで「この差以上なら調べる」というしきい値を決めます。ポイントは、金額基準と率基準を組み合わせることです。
| 基準 | メリット | 弱点 |
|---|---|---|
| 金額基準だけ | 影響の大きい差を拾える | 小さい科目の異常(倍増など)を見逃す |
| 率基準だけ | 小さい科目の変化に気づける | 少額の科目で調査対象が多くなりすぎる |
| 金額×率の併用 | 重要な差に絞り込める | 会社の規模に合わせた調整が必要 |
たとえば「前月比±20%以上、かつ差額±50万円以上」のように決めます。これはあくまで一例で、売上規模や科目の性質に合わせて調整してください。マイナス残高や仮勘定の残高は、しきい値に関係なく確認するのがおすすめです。
増減分析シートの列設計
| 列 | 内容 | 数式の例(2行目) |
|---|---|---|
| A | 勘定科目 | (科目名) |
| B | 前月 | =SUMIFS(推移!$E:$E,推移!$A:$A,$A2,推移!$B:$B,B$1) |
| C | 当月 | =SUMIFS(推移!$E:$E,推移!$A:$A,$A2,推移!$B:$B,C$1) |
| D | 前年同月 | =XLOOKUP($A2,前年!$A:$A,前年!$G:$G,0) |
| E | 前月差額 | =C2-B2 |
| F | 前月比率 | =IFERROR(C2/B2-1,"") |
| G | 要確認 | =AND(ABS(E2)>=500000,ABS(F2)>=0.2) |
| H | コメント | (差異の理由を記入) |
前年同月比も同じ考え方で、=C2-D2と=IFERROR(C2/D2-1,"")の列を足します。売掛金の回転期間(月)は、=売掛金残高/(直近12か月の売上合計/12)のように計算し、推移を見ます。
会計ソフトから出力した推移表のCSVを「推移」シートに貼り付ければ、毎月同じシートを使い回せます。G列がTRUEの行に色をつけるには、条件付き書式で=$G2=TRUEという数式を設定します。
シートを長く使うコツ
- 推移表のCSVは列の並びを毎月同じにして出力する
- しきい値は別のセルに置き、数式から参照すると変更しやすい
- 前月のコメント列を残しておくと、翌月の説明が楽になる
Excelは「貼る・見る・書く」だけで終わる形にしておくと、担当者が変わっても続けられます。
差異が出たときの調べ方とコメントの書き方


差異を調べる4つの手順
差異が出た科目の総勘定元帳を開き、どの仕訳が増減の原因かを特定します。
請求書や契約書と突き合わせて、金額・日付・科目・消費税区分が正しいかを確認します。
証憑だけで理由が分からなければ、営業や購買などの担当部署に取引の背景を聞きます。
原因と対応を増減分析シートのコメント欄に残し、修正が必要なら仕訳を直します。
修正が必要な場合は、元の仕訳を消すのではなく、修正仕訳を入れて履歴を残すのが基本です。誰がいつ何を直したかが分かるので、後で監査人や税理士に説明するときに困りません。原因が分からないまま差額を雑損失などで処理するのは避けましょう。
よくある異常値の原因
| 原因 | よくある例 |
|---|---|
| 計上月のズレ | 請求書の到着が遅れ、翌月にまとめて計上した |
| 科目の誤り | 消耗品費と修繕費、支払手数料と雑費を取り違えた |
| 二重計上 | 請求書と口座振替の両方で費用を計上した |
| 消費税区分の誤り | 課税仕入を対象外で入力した |
| 按分の漏れ | 年払いの保険料を前払費用にせず全額を費用にした |
差異コメントのテンプレート
コメントは、「何が・なぜ・いくら・一時的か継続か」の4点を入れると、読んだ人が追加で質問しなくて済みます。
コメントの書き方の例
修繕費+80万円:本社空調の修理(9月に一括発生、一時的)。見積書・請求書は確認済み。
売掛金+300万円:A社の大口売上を9月末に計上。入金予定は11月末で、滞留ではない。
「先月より増加」だけのコメントは、理由が書かれていないのでレビューで差し戻されがちです。原因と今後の見通しまで書きましょう。
月次レビューのチェックリスト
試算表を報告する前のチェックリスト
- 預金残高が通帳・残高証明書と一致している
- マイナス残高の科目がない
- 仮払金・仮受金・立替金の残高に説明がつく
- 毎月一定の費用(家賃・リース料・減価償却費など)が計上されている
- ペア科目(売上と売掛金、給料と法定福利費など)の動きが合っている
- しきい値を超えた差異すべてにコメントがある
- 預り金と未払金が、納付・支払の予定と一致している


まとめ
- 異常値チェックは、誤謬・計上漏れ・二重計上・不正を早く見つけ、監査や税務調査の質問にも備える作業
- 前月比・前年同月比・予算比に、構成比・回転期間・マイナス残高のチェックを組み合わせる
- 売上と売掛金、借入金と支払利息などのペア科目で見ると、計上漏れや科目誤りに気づきやすい
- しきい値は金額と率を組み合わせ、自社の規模に合わせて調整する
- 差異は元帳→証憑→ヒアリング→コメント記録の順で調べ、理由を残す
まずは試算表の推移表をExcelに貼り付け、前月差額と前月比率の列を足すところから始めてみてください。毎月続けるうちに、自社の数字の「普通の動き」が分かるようになります。
異常値チェックに慣れると、数字の動きからお金の流れが見えるようになります。経理の仕事がもっと面白くなりますよ。







