パソコンや複合機、社用車などを買ったとき、「これは一括で経費にできるのか、それとも減価償却なのか」と迷った経験はないでしょうか。減価償却は毎年少しずつ費用にしていく仕組みですが、金額の区分や付随費用の扱いを知っておくと、購入した年に費用にできる範囲が広がります。
特に中小企業向けの「少額減価償却資産の特例」は、令和8年度税制改正で対象となる取得価額が引き上げられました。古い情報のまま「30万円未満」で判断していると、使えるはずの特例を見落としてしまうかもしれません。
この記事では、中小企業の実務担当者向けに、減価償却の基本から金額別の3つの処理、取得価額に含めなくてよい費用、実務で起きやすいミスまでを2026年9月時点の制度にもとづいて解説します。
減価償却の「節税」は、税金そのものを消すというより、費用にするタイミングを早める考え方です。ここを押さえておくと判断がぶれませんよ。
- 減価償却の基本と、定額法・定率法の違い
- 10万円・20万円・40万円で変わる3つの処理と令和8年度改正
- 取得価額に含めなくてよい付随費用
- 固定資産の管理でよくあるミスと会計システムでの対策
減価償却の基本と「節税」の考え方


減価償却とは
減価償却とは、建物や機械、パソコンなど長く使う資産の購入費用を、使える期間(耐用年数)にわたって少しずつ費用にしていく会計処理です。購入した年に全額を費用にすると、その年だけ利益が極端に小さくなり、実態とずれてしまうためです。
パソコンのように何年も使い続けるものは、使う期間に分けて費用にしたほうが実態に合います。これが減価償却の基本の発想です。
定額法と定率法の違い
償却方法には主に定額法と定率法があります。
| 償却方法 | 計算のしかた | 特徴 |
|---|---|---|
| 定額法 | 取得価額×定額法の償却率 | 毎年ほぼ同じ金額を費用にする |
| 定率法 | 期首の帳簿価額(未償却残高)×定率法の償却率 | 最初の年ほど費用が大きく、年々小さくなる |
法人の場合、機械装置や器具備品などは届出をしなければ定率法が適用されます。一方で、建物や、平成28年4月1日以後に取得した建物附属設備・構築物は定額法しか選べません。どの資産でも定率法を選べるわけではない点に注意しましょう。
償却方法を選ぶ・変えるときの手続き
法人が定額法を選びたいときは、資産を取得した事業年度の確定申告期限までに「減価償却資産の償却方法の届出書」を提出します。一度選んだ方法を変える場合は、変更したい事業年度の開始の日の前日までに承認申請が必要です。
節税というより「費用化のタイミング」
定率法や後で紹介する特例を使っても、耐用年数全体で費用にできる総額は変わりません。変わるのは費用にする時期です。利益が大きく出た年に費用を前倒しできれば、その年の税負担を抑えられ、手元資金に余裕が生まれます。
金額で変わる3つの処理(10万円・20万円・40万円)


減価償却資産は、取得価額によって処理の選択肢が変わります。まずは全体像を表で確認しておきましょう。
| 取得価額 | 主な処理 | ポイント |
|---|---|---|
| 10万円未満 | 全額をその期の費用(損金)にできる | 事業に使い始めた期に損金経理が必要 |
| 20万円未満 | 一括償却資産として3年で均等に費用化 | 耐用年数に関係なく3分の1ずつ |
| 40万円未満(中小企業者等) | 少額減価償却資産の特例で全額を費用にできる | 年間合計300万円が上限。令和8年4月1日以後の取得分から |
10万円未満の資産は全額を費用にできる
取得価額が10万円未満のもの、または使用可能期間が1年未満のものは、事業に使い始めた期に全額を費用にできます。判定は「通常1単位として取引される単位」で行うため、応接セットならテーブルと椅子の1組で判断します。
20万円未満は一括償却資産も選べる
取得価額が20万円未満の資産は、耐用年数にかかわらず3年間で3分の1ずつ費用にする「一括償却資産」の処理を選べます。後で紹介する特例の年300万円の枠を温存したいときに使い分けることもあります。
一括償却資産は償却資産税の申告対象にならないため、あえてこちらを選ぶ会社もあります。
少額減価償却資産の特例は40万円未満に拡大
青色申告をしている中小企業者等は、取得価額が一定額未満の資産を全額その期の費用にできる特例があります。令和8年度税制改正により、令和8年4月1日以後に取得等をした資産から、対象が30万円未満から40万円未満に引き上げられ、適用期限も3年延長されました(令和11年3月31日まで)。
令和8年度改正のポイント
対象となる取得価額:30万円未満 → 40万円未満(令和8年4月1日以後の取得等から)
対象法人:常時使用する従業員数が400人を超える法人は対象外(改正前は500人超が対象外)
年間の上限:取得価額の合計300万円まで(変更なし)
判定は取得等をした日で行うため、令和8年3月31日以前に取得した資産は従来どおり30万円未満が基準です。出典:国税庁「令和8年度法人税関係法令の改正の概要」、国税庁 No.5408
取得価額に含めなくてよい付随費用を押さえる


資産の取得価額は、本体の購入代価だけではありません。事業に使うために直接かかった費用も含めるのが原則ですが、一部の費用は取得価額に含めず、その期の費用にできます。
取得価額に含める費用
- 資産本体の購入代価
- 引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税など購入のためにかかった費用
- 機械の据付費など、事業に使うために直接かかった費用
本体価格だけを見て「10万円未満だから費用」と判断すると、運賃や据付費を足したら超えていた、ということも起こります。
取得価額に含めなくてよい費用
国税庁のタックスアンサーでは、次のような費用は取得価額に含めないことができるとされています。
- 不動産取得税、自動車取得税、新増設に係る事業所税
- 登録免許税その他登記・登録のための費用
- 建設計画の変更により不要になった調査・測量・設計・基礎工事などの費用
- 契約を解除して別の資産を取得した場合の違約金
- 資産を取得するための借入金の利子(使用開始までの期間の分)
- 割賦購入で購入代価と区分されている利息など
出典:国税庁 No.5400 減価償却資産の取得価額に含めないことができる付随費用
よくある誤解に注意
設計費や測量費はいつでも費用にできるわけではない
建物の調査・測量・設計の費用は、建設計画を変更して不要になったものに限って取得価額から外せます。予定どおり建てた建物の設計費は取得価額に含めるのが原則です。
なお、自動車取得税は令和元年9月30日で廃止されており、現在の自動車の購入では環境性能割などが対象になります。
実務でよくあるミスと会計システムでの管理


減価償却の処理そのものより、判定や記録の段階でのミスが実務では目立ちます。ここでは経理担当者がつまずきやすいポイントをまとめます。
「購入日」ではなく「事業に使い始めた日」で考える
償却の開始は、購入した日ではなく事業の用に供した日です。期末に購入して倉庫に置いたままの資産は、その期には償却できません。10万円未満の資産の全額費用化や少額減価償却資産の特例も、事業に使い始めた期に損金経理することが前提です。
期末の駆け込み購入では、納品や設置が翌期にずれ込んで、その期に費用にできないケースもあります。納品日と使用開始日は必ず確認しましょう。
税込・税抜の判定は経理方式にあわせる
10万円・20万円・40万円の判定は、会社が採用している消費税の経理方式にあわせます。税抜経理なら税抜金額、税込経理なら税込金額で判定します(国税庁 No.5403)。
税込経理の会社は判定ラインに注意
税込経理を採用している会社では、本体価格が40万円未満でも、消費税を含めると40万円以上になって特例の対象外になることがあります。見積りの段階で税込金額でも確認しておきましょう。
固定資産台帳は会計システムと連携させる
Excelで固定資産台帳を管理していると、特例を使った資産の集計や年300万円の上限管理が手作業になりがちです。固定資産管理機能つきの会計システムであれば、取得時に処理区分を選ぶだけで償却費の仕訳や申告書の別表向けの集計まで自動化できます。
- 取得日・事業供用日・取得価額・処理区分を台帳に必ず入力する
- 少額減価償却資産の特例の適用額を期中から累計で確認する
- 償却資産税(固定資産税)の申告対象かどうかも台帳で区別する


節税目的の設備投資で気をつけたいこと


支出が減るわけではない
費用を前倒ししても、資産を買うためのお金は出ていきます。税金を減らすために不要なものを買うと、手元資金はかえって減ってしまいます。本当に必要な投資を、有利なタイミングで行うという順番で考えるのが基本です。
決算直前ではなく計画的に
特例の上限や事業供用日の要件を考えると、決算月に駆け込みで購入するより、期中から利益の見込みを確認して計画的に投資するほうが確実です。
個別のケースで有利・不利は変わります。大きな設備投資を考えているときは、事前に顧問の税理士さんに相談しておくと安心です。


まとめ
- 減価償却の節税効果は「費用化のタイミングを早めること」
- 10万円未満は全額費用、20万円未満は3年均等償却も選べる
- 中小企業者等の少額減価償却資産の特例は、令和8年4月1日以後の取得分から40万円未満に拡大(年300万円まで)
- 不動産取得税や登記費用などは取得価額に含めず費用にできる
- 事業供用日・経理方式・固定資産台帳の管理がミス防止のカギ
減価償却は仕組みさえ理解すれば、決算対策としてとても使いやすい制度です。ただし、改正で金額や要件が変わることもあるので、最新の情報を確認しながら判断していきましょう。
固定資産台帳をきちんと整えておくと、決算も償却資産税の申告もぐっと楽になります。ぜひ一度見直してみてください。







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