「今期は利益が出そうなので、決算前に何か節税できないか」。期末が近づくと、経営者からこう相談される経理担当者は多いのではないでしょうか。
今回は、期末の約3か月前から経理ができる決算前の節税対策を解説します。お金が出ていかない節税と、お金が出ていく節税に分けて、損金にするための要件、否認されやすい例、スケジュールと進め方まで、仮の数値を使って整理しました。
決算前の節税は「期末に何を買うか」より「何を計上し忘れていないか」から考えると、失敗が少なくなります。
- 決算前の節税対策の考え方と、着地見込みの出し方
- お金が出ていかない節税(評価損・貸倒損失・除却・未払計上など)の要件
- 決算賞与を損金にする3つの要件
- 少額減価償却資産の特例・経営セーフティ共済の注意点
- 数値例で見る税金の減少額と資金の流出、スケジュールと5ステップ
決算前の節税対策とは?着地見込みから始める基本


決算前の節税対策とは、期末までに、税法のルールの範囲で今期の損金を正しく計上し、課税所得を適正にする取り組みです。税金を逃れることではなく、本来今期の費用になるものを漏れなく計上することが中心になります。
| 区分 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| 節税 | 税法が認める方法で税負担を抑える | 要件を満たした決算賞与、特例の利用 |
| 租税回避 | 法律の想定しない形を使って税負担を減らす | 実態のない取引で損金を作る |
| 脱税 | 所得を隠したり偽ったりして税金を逃れる | 売上の除外、架空の経費 |
出発点は着地見込み(期末の利益予測)です。期末の3か月前に、月次決算の実績に残りの月の見込みを足して、見込みの税引前利益と課税所得を出します。この数字がないと、どこまで対策が必要かを判断できません。
節税は2つに分けて考える
| 分類 | 主な対策 | 資金への影響 |
|---|---|---|
| お金が出ていかない節税 | 不良在庫の評価損・廃棄損、貸倒損失、固定資産の除却、未払費用の計上、決算賞与の未払計上 | その時点では出ていかない(決算賞与は翌期に支払う) |
| お金が出ていく節税 | 少額減価償却資産の購入、修繕の前倒し、経営セーフティ共済、設備投資の税制 | 支出した分だけ手元資金が減る |
税金で減る額は、支出額より必ず小さい
100万円を使っても、減る税金は実効税率分(数十万円)だけです。必要のない支出は、税金を払うよりも手元資金を減らします。お金が出ていく対策は、資金繰りとセットで考えましょう。
着地見込みの精度は月次決算の精度で決まります。毎月の締めで在庫や未払計上を確定させておくと、期末の見込みがぶれにくくなります。
子会社の経理をしていたころ、期末3か月前に着地見込みを出す習慣をつけてから、期末の「何か買えないか」という相談がほぼなくなりました。
お金が出ていかない節税|損金の計上漏れを防ぐ処理


まず取り組みたいのが、資金が出ていかない節税です。実態として今期に発生している損失や費用を、要件にそって計上します。
| 対策 | 損金にするポイント | 根拠 |
|---|---|---|
| 不良在庫の評価損・廃棄損 | 廃棄した事実(廃棄証明・写真)を残す。評価損は損傷・陳腐化など一定の事実が必要 | 法人税法33条など |
| 貸倒損失 | 法的な切捨て、回収不能が明らか、取引停止後1年以上など、通達の要件を満たす | 法基通9-6-1〜9-6-3 |
| 固定資産の除却・有姿除却 | 使用を廃止し、今後使う可能性がないことを稟議などで示す | 法基通7-7-2 |
| 未払費用・未払金 | 期末までに債務が成立し、給付の原因となる事実が発生し、金額を合理的に算定できる | 法基通2-2-12 |
| 短期前払費用 | 支払日から1年以内に受ける役務の前払いを、継続して支払時の損金にする | 法基通2-2-14 |
| 消耗品 | 毎期おおむね一定数量を取得し経常的に消費するものは、継続して取得時の損金にできる | 法基通2-2-15 |
不良在庫の評価損・廃棄損
滞留在庫は、売れる見込みがないなら期末までに廃棄し、廃棄の記録を残します。評価損は会計の評価減と税務の要件が異なるため、計算方法や申告調整は次の記事で詳しく解説しています。


貸倒損失
回収不能な売掛金でも、要件を満たさないと損金になりません。たとえば売掛債権は、取引を停止してから1年以上経過した場合に、備忘価額(1円など)を残して貸倒れとして損金経理できます。担保物がある場合は対象外です。全額が回収できないことが明らかな場合も、担保物があれば処分した後でなければ損金経理できません。
固定資産の除却・有姿除却
使っていない機械やソフトウエアが固定資産台帳に残っていないか確認します。使用を廃止し、今後通常の方法で使う可能性がないと認められる資産は、物理的に廃棄していなくても、帳簿価額から処分見込価額を差し引いた金額を除却損にできます(有姿除却)。
未払費用・短期前払費用・消耗品
期末日までに役務の提供を受けた外注費や水道光熱費、月末締めの経費精算などは、請求書が翌月に届いても未払計上します。短期前払費用は、一定の契約に基づく継続的な役務の提供・支払日から1年以内・毎期継続して適用が条件です。期末に1回だけ前払いして費用にするのは、継続性がないとして否認されやすくなります。
子会社の経理時代、期末に慌てて備品を買うより、固定資産台帳と未払計上の漏れを探すほうが、ずっと効きました。
決算賞与を損金にする3つの要件と未払計上の注意点


従業員への決算賞与は、期末までに支払っていなくても、一定の要件を満たせば今期の損金にできます(法人税法施行令72条の3)。
| 要件 | 実務での対応 |
|---|---|
| ①支給額を各人別に、同時期に支給するすべての使用人に通知 | 期末日までに通知書を配布し、受領の記録を残す |
| ②期末日の翌日から1か月以内に、通知したすべての使用人に支払う | 支給日を期末の翌月中に設定する |
| ③通知した事業年度に損金経理する | 期末に「未払賞与」として計上する |
「支給日に在職する人だけ」は通知に当たらない
支給日に在職している使用人だけに支給するルールにしていると、その通知は要件の「通知」に該当しないとされています。期末後に退職した人にも、通知した金額を支払う前提で準備しましょう。
また、役員への決算賞与は使用人と取扱いが異なり、原則として損金になりません。
賞与引当金と未払賞与の違いや、税務上の扱いは次の記事で解説しています。


決算賞与には社会保険料の会社負担もかかります。支給総額だけでなく、資金の準備ができるかを確認してから決めましょう。
決算賞与は、通知書の日付・対象者の一覧・受領の記録の3点を必ず残すようにしています。税務調査で最初に見られるところです。
お金が出ていく節税|少額減価償却資産・経営セーフティ共済


お金が出ていく対策は、「どうせ必要な支出を前倒しする」場合に効果があります。主な制度は次のとおりです。
| 対策 | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 少額減価償却資産の特例 | 青色申告の中小企業者等は取得価額40万円未満の資産を全額損金にできる(年300万円まで) | 期末までに事業の用に供すること |
| 修繕・備品購入の前倒し | 必要な修繕や消耗品の購入を今期に行う | 資本的支出に当たる修繕は資産計上 |
| 経営セーフティ共済 | 掛金を損金にできる(月5,000円〜20万円、総額800万円まで) | 解約すると解約手当金が益金になる |
| 設備投資の税制 | 中小企業経営強化税制、賃上げ促進税制など | 要件・期限の改正が多い |
少額減価償却資産の特例(令和8年度改正)
令和8年度税制改正で、令和8年4月1日以後に取得などをした資産から、対象が30万円未満から40万円未満に引き上げられました。適用期限は令和11年3月31日までで、合計300万円の上限は変わりません。常時使用する従業員の数の基準は400人以下(改正前は500人以下)に見直されています。
ポイントは、期末までに購入するだけでなく、事業の用に供していることです。期末日に届いて箱のまま置いてあるパソコンは、今期の損金になりません。金額別の処理は次の記事で解説しています。


経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)
取引先の倒産に備える公的な共済で、掛金月額は5,000円〜20万円、掛金の総額800万円まで積み立てられ、法人は掛金を損金にできます。前納の期間が1年以内の掛金は、支払った事業年度の損金にできます。損金にするには、「特定の基金に対する負担金等の損金算入に関する明細書」と適用額明細書を申告書に添付します。
解約と再加入のルールに注意
令和6年10月1日以降に解約して再加入した場合、解約の日から2年を経過する日までに支払う掛金は損金になりません。
また、掛金を損金にしていた場合、解約手当金は受け取った期の益金になります。掛金の納付が12か月未満で解約すると掛け捨てになり、自己都合の解約では40か月以上で掛金の全額が戻ります。
中小企業経営強化税制や賃上げ促進税制も選択肢ですが、要件・税額控除率・適用期限が改正で変わりやすいため、必ず最新の国税庁・中小企業庁の資料で確認しましょう。
セーフティ共済は「節税」よりも「積立」と考えています。解約した年に益金が出るので、退職金の支給など費用が大きい年に合わせると説明しやすいです。
決算前の節税対策の数値例|税金の減少額と資金の流出を比べる


見込み課税所得が1,200万円の中小法人で、決算前に対策を行った例です(仮の数値。実効税率は仮に約34%としています)。
| 対策 | 所得の減少額 | 税金の減少額 | 今期の支出 |
|---|---|---|---|
| 不良在庫の廃棄損 | 80万円 | 27.2万円 | なし |
| 未払費用の計上漏れ | 30万円 | 10.2万円 | なし |
| 固定資産の除却損 | 20万円 | 6.8万円 | なし |
| 決算賞与(未払計上) | 150万円 | 51.0万円 | 150万円(翌月支給) |
| 経営セーフティ共済 | 120万円 | 40.8万円 | 120万円 |
| 合計 | 400万円 | 136万円 | 270万円 |
所得は1,200万円から800万円になり、法人税等は約408万円から約272万円へ、約136万円減ります。ただし内訳を見ると、意味合いが大きく違います。
| 区分 | 所得の減少額 | 税金の減少額 | 手元資金への影響 |
|---|---|---|---|
| お金が出ていかない対策 | 130万円 | 44.2万円 | 44.2万円の増加 |
| お金が出ていく対策 | 270万円 | 91.8万円 | 178.2万円の減少 |
お金が出ていかない3つの対策だけで、税金が約44万円減り、資金は1円も出ていきません。一方、決算賞与と共済は、税金が約92万円減る代わりに270万円が出ていきます。決算賞与は人材への投資、共済は積立として意味があるかで判断すべきで、「税金が減るから」だけで決めるものではありません。
経営者には、この2つ目の表を見せて説明すると納得してもらいやすいです。「税金が減る額」と「出ていくお金」を必ず並べましょう。
決算前の節税スケジュールと進め方5ステップ


決算前の対策は、期末の3か月前から逆算して進めます。経理のやることを時期別にまとめました。
| 時期 | 経理のやること |
|---|---|
| 期末3か月前 | 着地見込みを出し、見込み課税所得と納税額を経営者に報告する |
| 期末2か月前 | 滞留在庫・不良債権・遊休資産・未払計上の候補を洗い出し、各部門に確認する |
| 期末1か月前 | 決算賞与や共済などの方針を決め、稟議・通知書・規程をそろえる |
| 期末日 | 決算賞与の通知完了、廃棄・除却の実施、資産の事業供用を確認する |
| 決算後〜申告 | 未払計上と賞与の支払い、別表の明細書の添付、申告前の最終確認 |
月次の実績に残りの月の見込みを足し、見込みの課税所得と納税額を出します。
在庫・売掛金・固定資産台帳・未払費用を確認し、要件を満たすものを一覧にします。
税金の減少額と支出額を並べ、資金繰り表で納税資金と運転資金が足りるかを確認します。
廃棄証明、除却の稟議、賞与の通知書、共済の契約書類などを期末までに準備します。
期末の仕訳を入れ、損金経理や明細書の添付が漏れていないかを申告前に確認します。
否認されやすい決算前の対策
- 期末の駆け込み仕入れ(売れ残りは在庫になり、費用にならない)
- 根拠のない未払計上(債務が確定していない費用の見積り)
- 期中の役員報酬の増額(定期同額給与に当たらない増額分は損金にならない)
- 決算賞与の通知や支払いの要件不備(全員への通知漏れ、1か月を超える支給)
- 継続性のない前払費用(期末だけの1年分の前払い)
決算前の節税対策チェックリスト
- 期末3か月前に着地見込みと納税額の見込みを出したか
- 滞留在庫と廃棄の記録を確認したか
- 回収不能な売掛金を貸倒れの要件と照らし合わせたか
- 固定資産台帳に使っていない資産が残っていないか
- 期末までに発生した費用の未払計上が漏れていないか
- 決算賞与の通知・支払日・損金経理の段取りを決めたか
- 購入した少額資産を期末までに使い始めたか
- 支出を伴う対策の資金繰りを確認したか
期末日の前日に「通知書をまだ配っていない」と気づくのが一番怖いです。スケジュール表に担当者と期日を入れておきましょう。
まとめ
- 決算前の節税対策は、期末3か月前の着地見込みから始める
- まずはお金が出ていかない対策(評価損・貸倒損失・除却・未払計上)で損金の計上漏れを防ぐ
- 決算賞与は、各人別・全員への通知、翌日から1か月以内の支払い、損金経理の3要件をそろえる
- 少額減価償却資産の特例は令和8年4月1日以後の取得から40万円未満に拡大、期末までの事業供用が必要
- お金が出ていく対策は、税金の減少額と支出額を並べて資金繰りで判断する
内容は2026年10月時点の国税庁タックスアンサー・法人税基本通達、中小企業基盤整備機構の資料をもとにしています。個別の判断は顧問税理士にご相談ください。
節税は期末の一発勝負ではありません。毎月の締めで在庫や未払計上を確認しておくことが、いちばんの決算前対策になります。







