「その他有価証券の評価差額はどこに計上する?」「減損したら翌期首に戻すの?」。有価証券は保有目的で評価方法が4通りに分かれ、簿記1級では税効果や減損と組み合わせて出題されます。
今回は、有価証券の4分類ごとの期末評価と仕訳、減損・保有目的の変更・外貨建有価証券を数値例つきで解説します。簿記2級と1級の違いや、台帳管理・減損判定・監査対応などの実務もまとめました。
有価証券は「保有目的→評価額→評価差額の行き先」の3点を押さえれば、どの問題も同じ型で解けます。
- 有価証券の4分類と期末評価・表示区分
- 売買目的有価証券の評価替えと切放法・洗替法
- その他有価証券の全部・部分純資産直入法と税効果
- 減損(強制評価減・実価法)と保有目的区分の変更
- 外貨建有価証券の換算と簿記2級・1級の違い
- 有価証券の実務とチェックリスト
有価証券の評価とは?4つの保有目的区分と期末評価の全体像


企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」では、有価証券を保有目的で4つに分け、区分ごとに期末の評価額と評価差額の処理を決めています。
| 区分 | 期末評価 | 評価差額の処理 | BS表示区分 |
|---|---|---|---|
| 売買目的有価証券 | 時価 | 当期の損益(有価証券評価損益) | 流動資産(有価証券) |
| 満期保有目的の債券 | 償却原価 | 評価差額なし(償却額は有価証券利息) | 投資その他の資産(1年内満期は流動資産) |
| 子会社株式・関連会社株式 | 取得原価 | 評価差額なし | 投資その他の資産(関係会社株式) |
| その他有価証券 | 時価 | 純資産の部(その他有価証券評価差額金)、洗替方式 | 投資その他の資産(投資有価証券) |
表示区分は金融商品会計基準第23項によります。子会社株式・関連会社株式は「関係会社株式」として表示するのが一般的です。
迷ったら「すぐ売るか・持ち続けるか」
短期売買なら売買目的、満期まで持つ債券なら満期保有目的、支配・影響力のための株式なら子会社・関連会社株式です。どれにも当てはまらない持合株式などは、その他有価証券に入ります。
その他有価証券は「残りすべて」の受け皿です。先に他の3区分を判定すると迷いません。
売買目的・満期保有目的・子会社株式の評価と仕訳


売買目的有価証券:時価評価と切放法・洗替法
売買目的有価証券は時価で評価し、評価差額は当期の損益です(金融商品会計基準第15項)。数値はすべて仮の数値です。
| 銘柄 | 帳簿価額 | 期末時価 | 評価差額 |
|---|---|---|---|
| A社株式 | 600,000 | 680,000 | +80,000 |
| B社株式 | 400,000 | 350,000 | △50,000 |
| 合計 | 1,000,000 | 1,030,000 | +30,000 |
期末の仕訳は「売買目的有価証券 30,000/有価証券評価益 30,000」です。翌期首の処理は2通りあり、切放法は時価1,030,000円を新しい帳簿価額として何もしません。洗替法は翌期首に「有価証券評価益 30,000/売買目的有価証券 30,000」と振り戻し、帳簿価額を1,000,000円に戻します。
どちらの方法かで売却損益が変わる
翌期にA社株式を700,000円で売却すると、切放法では売却益は700,000-680,000=20,000円、洗替法では700,000-600,000=100,000円です。問題文の指示を必ず確認しましょう。
満期保有目的の債券:償却原価法
額面と異なる金額で取得した満期保有目的の債券は、差額が金利の調整と認められるとき償却原価法で評価し、償却額は有価証券利息に加減します。原則は利息法、継続適用を条件に定額法も認められています。
利息法の償却表は、社債の記事で解説しています。


子会社株式・関連会社株式:取得原価
子会社株式・関連会社株式は、個別財務諸表では取得原価のままです(同第17項)。連結財務諸表では、子会社は連結、関連会社は持分法で投資の額を修正します。


子会社株式は個別では「何もしない」が正解です。時価が書いてあっても引っかけです。
その他有価証券の評価替えと税効果|全部・部分純資産直入法


その他有価証券は時価で評価し、評価差額は洗替方式で処理します(同第18項)。処理方法は2つあります。
- 全部純資産直入法(原則):評価差益も評価差損も、合計額を純資産の部に計上
- 部分純資産直入法:評価差益は純資産の部、評価差損は当期の損失(投資有価証券評価損)
純資産の部に計上する評価差額には税効果会計を適用しなければなりません。例:C社株式(取得2,000,000円→時価2,500,000円)とD社株式(取得1,200,000円→時価1,000,000円)、法定実効税率30%とします。
| 銘柄 | 全部純資産直入法 | 部分純資産直入法 |
|---|---|---|
| C社(差益500,000) | その他有価証券 500,000/繰延税金負債 150,000・その他有価証券評価差額金 350,000 | 同左 |
| D社(差損200,000) | 繰延税金資産 60,000・その他有価証券評価差額金 140,000/その他有価証券 200,000 | 投資有価証券評価損 200,000/その他有価証券 200,000、繰延税金資産 60,000/法人税等調整額 60,000 |
| 評価差額金の残高 | 350,000-140,000=210,000 | 350,000 |
部分純資産直入法の評価損は損益計算書に計上するので、税効果の相手勘定は法人税等調整額になります(繰延税金資産の回収可能性があることが前提)。
評価差額金は「税効果を引いた純額」
C社とD社の差額300,000円をそのまま評価差額金にするのは誤りです。全部純資産直入法なら、税効果30%を差し引いた210,000円が正解です。
税効果を2期分のタイムラインで追った例は、税効果会計の記事にまとめています。


その他有価証券は「評価差額×30%が繰延税金、残り70%が評価差額金」と覚えると速く解けます。
有価証券の減損(強制評価減・実価法)と保有目的区分の変更


時価のある有価証券の減損
売買目的以外の有価証券(子会社株式・関連会社株式を含む)は、時価が著しく下落し、回復する見込みがあると認められない場合、時価まで評価を下げて当期の損失にします(金融商品会計基準第20項)。判定の目安は移管指針第9号「金融商品会計に関する実務指針」第91項です。
| 取得原価からの下落率 | 判定 | 処理 |
|---|---|---|
| 50%程度以上 | 著しい下落に該当 | 合理的な反証がない限り減損 |
| おおむね30%以上50%未満 | 社内の合理的な基準で判断 | 回復可能性を検討し、見込みがなければ減損 |
| おおむね30%未満 | 一般に著しい下落に該当しない | 通常の期末評価のみ |
株式の「回復する見込み」は、期末日後おおむね1年以内に取得原価近くまで回復すると合理的に予測できる場合です。
例:その他有価証券のE社株式(取得1,000,000円)の期末時価が400,000円(下落率60%)なら、「投資有価証券評価損 600,000/その他有価証券 600,000」です。減損は切放しで振り戻さず、400,000円が新しい取得原価です。翌期末の時価が450,000円なら、差額50,000円を評価差額(税効果15,000円)とします。
市場価格のない株式等の実価法
非上場株式などは、発行会社の財政状態が悪化し実質価額が取得原価の50%程度以上低下したときは、相当の減額をします(同第21項、実務指針第92項)。これを実価法と呼びます。
例:F社株式10,000株(取得原価5,000,000円、発行済株式100,000株)で、F社の純資産が20,000,000円なら、実質価額は200円×10,000株=2,000,000円(低下率60%)です。「投資有価証券評価損 3,000,000/その他有価証券 3,000,000」と処理します。
保有目的区分の変更
保有目的区分は正当な理由がなければ変更できません。振替価額は実務指針第82項〜第89項で決まっています。
| 変更の内容 | 振替価額 | 振替時の評価差額 |
|---|---|---|
| 売買目的→その他(トレーディングをやめる) | 振替時の時価 | 振替時の損益 |
| 満期保有→売買目的・その他 | 変更時の償却原価 | - |
| 売買目的→子会社・関連会社株式 | 振替時の時価 | 振替時の損益 |
| その他→子会社・関連会社株式 | 帳簿価額(部分純資産直入法で評価差損がある場合は時価) | - |
| 子会社・関連会社株式→売買目的・その他 | 帳簿価額 | - |
売買目的やその他有価証券から満期保有目的の債券への振替は認められません。満期保有目的の債券を一部でも売却すると、残りもすべて振り替える必要があります。
減損は「切放し」、その他有価証券の評価替えは「洗替え」。この2つを混同しないことが、1級の得点を左右します。
外貨建有価証券の換算と簿記1級の解き方|2級との違い


外貨建有価証券の換算
外貨建取引等会計処理基準では、保有目的ごとに換算レートが決まっています。減損する場合は、外貨の時価・実質価額をCRで換算します。
| 区分 | 換算額 | 換算差額の処理 |
|---|---|---|
| 売買目的有価証券 | 外貨の時価×決算時レート(CR) | 評価損益に含める |
| 満期保有目的の債券 | 外貨の償却原価×CR | 為替差損益 |
| 子会社株式・関連会社株式 | 外貨の取得原価×取得時レート(HR) | 換算差額は生じない |
| その他有価証券 | 外貨の時価×CR | 評価差額に含める(債券は為替部分を為替差損益にできる) |
例:その他有価証券のG社株式10,000ドル(HR140円)が、期末に時価11,000ドル、CR150円です。1,650,000円-1,400,000円=評価差額250,000円(時価変動150,000円+為替変動100,000円)で、「その他有価証券 250,000/繰延税金負債 75,000・その他有価証券評価差額金 175,000」です。子会社株式なら1,400,000円のままです。
簿記2級と1級の違い|有価証券で増える論点
日商簿記の出題区分表(2027年4月1日施行の確定版)では、売買目的有価証券の時価法、満期保有目的債券の償却原価法(定額法)、子会社株式・関連会社株式、その他有価証券の全部純資産直入法が2級の範囲です。
| 論点 | 簿記2級 | 簿記1級 |
|---|---|---|
| 売買目的有価証券(時価法) | 範囲内 | 範囲内(約定日基準・修正受渡基準、総記法も) |
| 満期保有目的の債券 | 償却原価法(定額法) | 利息法も範囲内 |
| 子会社株式・関連会社株式 | 範囲内(簡易な内容) | 範囲内 |
| その他有価証券の評価替え | 全部純資産直入法 | 部分純資産直入法も範囲内 |
| その他有価証券の税効果 | 範囲内(回収可能性の検討は除外) | 範囲内 |
| 時価が著しく下落した有価証券の処理 | 範囲外 | 範囲内 |
| 保有目的の変更 | 範囲外 | 範囲内 |
| 外貨建有価証券の換算 | 範囲外 | 範囲内 |
| 有価証券の貸付・借入・差入・預り | 範囲外 | 範囲内 |
1級で増えるのは、評価差損をPLに計上する部分純資産直入法、減損、保有目的の変更、外貨建有価証券の換算、利息法です。2級の「時価で評価して差額を純資産へ」という型に例外処理が重なるイメージです。
市場価格のない株式の実価法は区分表に個別の記載はありませんが、減損とあわせて1級で学ぶのが一般的です。2027年度版の区分表でも、有価証券に関する記載は2022年度版から変わっていません。
解き方のコツとよくあるミス
試験では銘柄ごとに「区分・取得原価・時価・差額の行き先」を表に書き出してから仕訳を切りましょう。
有価証券のよくあるミス
- その他有価証券の翌期首の振戻し(洗替)を忘れる
- 部分純資産直入法の評価差損を評価差額金に入れてしまう
- 評価差額金を税効果控除前の金額で計上する
- 減損した銘柄を翌期首に振り戻してしまう
- 売却時の単価を移動平均法・総平均法の指示どおりに計算しない
売却原価は移動平均法などで計算します。例:100株@1,000円と100株@1,200円を取得すると平均単価は1,100円で、150株を@1,300円で売却すれば売却益は30,000円です。
1級の有価証券は、1銘柄ずつ処理を決める作業です。表に書き出すだけでミスが減りますよ。
有価証券の実務|台帳管理・時価入手・減損判定・システム化


実務では、期末の有価証券の評価を次の5ステップで進めます。
台帳で保有目的区分を確認し、追加取得・売却で区分が変わる銘柄を洗い出します。
上場株式は取引所の終値、債券などは証券会社の残高証明書、非上場株式は発行会社の決算書を集めます。
区分ごとに評価替えし、下落率と社内基準で減損の要否を判定します。
評価差額と減損額の一時差異を集計し、回収可能性も確認します。
洗替の振戻しを入れ、減損した銘柄は取得原価を更新します。
| 台帳の項目 | 使い道 |
|---|---|
| 銘柄・証券コード・保有目的区分 | 評価方法と表示区分の判定 |
| 株数・取得日・取得原価(単価の計算方法) | 売却原価と減損判定の基礎 |
| 期末時価・入手元 | 評価替えと監査の証跡 |
| 下落率・判定結果・判断理由 | 減損の根拠 |
減損判定は、50%・30%の基準や回復可能性の判断方法を社内規程として文書化し、毎期同じルールで判定します。30〜50%の銘柄は、株価の推移や業績の判断メモを残すと監査で説明しやすくなります。
上場会社は、有価証券報告書の「株式の保有状況」で政策保有株式の保有方針や銘柄別の情報などを開示します。2025年の開示府令の改正で、純投資目的に変更した株式の開示も加わりました。台帳に保有目的の変更履歴を残しておきましょう。
会計システムでは、証券会社のデータや時価をCSVで取り込み、評価替えと翌期首の振戻し仕訳を自動で作る設定にすると、手入力のミスを防げます。私の経験では、新規取得や区分変更の銘柄でマスタ設定が漏れやすいので、台帳とシステムの残高照合は欠かせません。
有価証券の決算チェックリスト
- 台帳とシステム・残高証明書の株数と残高が一致しているか
- 時価の入手元と基準日を証跡として保存したか
- 下落率30%以上の銘柄を減損判定し、理由を記録したか
- 評価差額の税効果と繰延税金資産の回収可能性を確認したか
- 翌期首の振戻し仕訳を入れ、減損銘柄の取得原価を更新したか
有価証券の決算は、台帳が正しければ8割終わります。取得・売却のたびに台帳を更新しましょう。
まとめ
- 有価証券は4つの保有目的区分で期末評価が決まる
- 売買目的は時価でPL、翌期首は切放法か洗替法
- その他有価証券は税効果を引いた純額で純資産に計上し洗替
- 部分純資産直入法の評価差損と減損はPL、減損は切放し
- 1級では減損・区分変更・外貨換算などが加わる
- 実務は台帳管理と減損判定ルールの文書化が中心
有価証券は税効果や連結にもつながる論点です。区分ごとの型を固めて、1級の得点源にしてください。
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