キャッシュ・フロー計算書は、簿記1級では間接法の調整項目の符号や、連結特有の表示区分で失点しやすい論点です。実務でも、連結決算の最後に数字が合わず苦労しがちな書類です。
この記事では、上場企業で経理と会計システムを担当している私が、1本の数値例を使って間接法と直接法の営業キャッシュ・フローを作り、両者が一致することを確かめます。内容は2026年10月時点の基準にもとづいています。
キャッシュ・フロー計算書は「利益をお金の動きに直す表」です。直し方のルールを覚えれば、計算は機械的ですよ。
- キャッシュ・フロー計算書の3区分と資金の範囲
- 直接法と間接法の違い、調整項目の符号
- 利息・配当金の表示区分の2つの方法
- 連結キャッシュ・フロー計算書の原則法・簡便法と特有の表示
- 数値例で作る間接法・直接法と、解き方の手順
- 連結決算でのデータ収集と内部取引の消去
キャッシュ・フロー計算書とは?3つの区分と資金の範囲


3つの区分
キャッシュ・フロー計算書は、一会計期間の資金の増減を3つの区分に分けて表示する書類です。区分は、取引がどの活動と強く関係するかで判断します(移管指針第6号第6項)。
| 区分 | 表す内容 | 主な項目 |
|---|---|---|
| 営業活動 | 本業で稼いだ資金 | 営業収入、仕入・人件費の支出、法人税等の支払額 |
| 投資活動 | 投資と回収 | 固定資産の取得・売却、貸付けと回収、有価証券の売買 |
| 財務活動 | 資金の調達と返済 | 借入れと返済、社債・株式の発行、自己株式の取得、配当金の支払 |
資金の範囲は「現金及び現金同等物」
対象となる資金は現金及び現金同等物です。現金には手許現金と、普通預金・当座預金などの要求払預金が含まれます。現金同等物は、容易に換金でき、価値の変動リスクが小さい短期投資で、取得日から満期日までが3か月以内の定期預金などが例として挙げられています(同第2項)。
預入期間6か月の定期預金は資金に含まれません。株式も価値変動のリスクが大きいため、現金同等物に当たりません。
貸借対照表の現金預金とキャッシュ・フロー計算書の期末残高は、一致しないことがあります。まず定期預金の期間を確認しましょう。
損益計算書と貸借対照表の基本的な読み方は、こちらの記事で整理しています。


営業キャッシュ・フローの直接法と間接法の違い


直接法と間接法の比較
営業キャッシュ・フローの表示方法には直接法と間接法があり、どちらかを選んで毎期継続して使います。どちらで作っても営業キャッシュ・フローの合計額は一致します(同第12項)。
| 比較項目 | 直接法 | 間接法 |
|---|---|---|
| 作り方 | 営業収入や仕入支出など、取引ごとの収支を総額で示す | 税引前当期純利益に調整項目を加減して求める |
| スタート | 営業収入 | 税引前当期純利益(連結では税金等調整前当期純利益) |
| 実務 | 採用は少ない | 多くの企業が採用 |
間接法の調整項目と符号
間接法では、お金が動いていない損益と、投資・財務の区分で扱う取引の損益を取り除きます。
- 減価償却費・のれん償却額:お金が出ていない費用なのでプラス
- 引当金の増加額:支出のない費用なのでプラス(減少はマイナス)
- 受取利息・受取配当金はマイナス、支払利息はプラスにして利益から外し、小計の下で実際の受払額を示す
- 有形固定資産売却益はマイナス、売却損はプラス(売却収入は投資活動で示す)
- 売上債権・棚卸資産の増加はマイナス、減少はプラス
- 仕入債務の増加はプラス、減少はマイナス
符号の覚え方
資産が増えたらマイナス、負債が増えたらプラスです。売掛金が増えたのは、売上を計上したのにまだお金が入っていないからです。買掛金が増えたのは、仕入れたのにまだ支払っていないからです。
調整項目は「利益とお金のズレの原因」です。ズレが生まれる理由を説明できれば、符号は暗記しなくても決まります。
小計の上と下
小計より上は、おおむね営業損益の対象となった取引の収支です。小計より下には、利息・配当金の受払額、損害賠償金の支払など投資・財務以外の取引、法人税等の支払額が入ります(同第12項)。
小計の下は「実際に払った額」
小計の下には、損益計算書の金額ではなく、未収・未払を調整した実際の受払額を書きます。法人税等も未払法人税等の動きから支払額を出します。
利息・配当金の表示区分は2つの方法から選ぶ
利息と配当金は、次の2つの方法のどちらかを選び、毎期継続して適用します(同第11項)。
| 項目 | 方法1(営業活動に含める) | 方法2(投資・財務に分ける) |
|---|---|---|
| 受取利息・受取配当金 | 営業活動(小計の下) | 投資活動 |
| 支払利息 | 営業活動(小計の下) | 財務活動 |
| 支払配当金 | 財務活動 | 財務活動 |
どちらの方法でも、支払配当金は財務活動です。また、利息の受取額と支払額は相殺せず、総額で表示します。
数値例で作る営業キャッシュ・フロー(間接法と直接法)


数値例の前提(単位:千円)
当社の当期の損益計算書は次のとおりです。利息・配当金は方法1(営業活動に含める)で表示します。
- 売上高10,000、売上原価6,000
- 販売費及び一般管理費2,000(その他の営業費1,594、減価償却費400、貸倒引当金繰入額6)
- 受取利息配当金60、支払利息80、有形固定資産売却益50
- 税引前当期純利益2,030、法人税等610、当期純利益1,420
期中に、取得原価600・減価償却累計額200の備品を450で売却し、備品1,000を取得しました。借入れは800、返済は500、配当金の支払は400です。
| 勘定科目 | 期首 | 期末 | 増減 | CF上の扱い |
|---|---|---|---|---|
| 現金預金(うち6か月定期500) | 2,000 | 3,061 | +1,061 | 資金は1,500→2,561 |
| 売掛金 | 1,200 | 1,500 | +300 | 営業:マイナス |
| 貸倒引当金 | 24 | 30 | +6 | 営業:プラス |
| 商品 | 800 | 700 | △100 | 営業:プラス |
| 未収利息 | 10 | 15 | +5 | 受取額の計算 |
| 買掛金 | 900 | 1,050 | +150 | 営業:プラス |
| 未払利息 | 20 | 30 | +10 | 支払額の計算 |
| 未払法人税等 | 300 | 280 | △20 | 支払額の計算 |
| 借入金 | 2,000 | 2,300 | +300 | 財務:借入800・返済500 |
間接法で営業キャッシュ・フローを作る
| 項目 | 金額 | 計算の根拠 |
|---|---|---|
| 税引前当期純利益 | 2,030 | 損益計算書 |
| 減価償却費 | 400 | 非資金費用 |
| 貸倒引当金の増加額 | 6 | 30−24 |
| 受取利息及び受取配当金 | △60 | 小計の下へ振り替え |
| 支払利息 | 80 | 小計の下へ振り替え |
| 有形固定資産売却益 | △50 | 売却収入は投資活動 |
| 売上債権の増加額 | △300 | 資産の増加 |
| 棚卸資産の減少額 | 100 | 資産の減少 |
| 仕入債務の増加額 | 150 | 負債の増加 |
| 小計 | 2,356 | |
| 利息及び配当金の受取額 | 55 | 60−未収の増加5 |
| 利息の支払額 | △70 | 80−未払の増加10 |
| 法人税等の支払額 | △630 | 300+610−280 |
| 営業活動によるキャッシュ・フロー | 1,711 |
法人税等の支払額は、未払法人税等のボックスで求めます。期首残高300に当期の計上額610を足し、期末残高280を引いた630が支払額です。
直接法で作って一致を確かめる
| 項目 | 金額 | 計算の根拠 |
|---|---|---|
| 営業収入 | 9,700 | 売上高10,000−売掛金の増加300 |
| 商品の仕入れによる支出 | △5,750 | 仕入高5,900−買掛金の増加150 |
| その他の営業支出 | △1,594 | 現金で支払った営業費 |
| 小計 | 2,356 | 間接法と一致 |
| 小計より下 | △645 | 55−70−630 |
| 営業活動によるキャッシュ・フロー | 1,711 | 間接法と一致 |
仕入高は、売上原価6,000+期末商品700−期首商品800=5,900です。小計が2,356で間接法と一致すれば、調整項目の符号はすべて合っています。
投資活動は取得△1,000と売却450で△550、財務活動は借入れ800、返済△500、配当金△400で△100です。合計1,061は資金の増加額(1,500→2,561)と一致します。
方法2にすると区分の金額だけが変わる
方法2で表示すると、営業1,726、投資△495、財務△170です。受取額55が投資へ、支払額70が財務へ移るだけで、合計1,061は変わりません。
法人税等調整額は税引前当期純利益より下の項目なので、間接法の調整には出てきません。税効果会計はこちらで確認できます。


簿記1級で問われる連結キャッシュ・フロー計算書


原則法と簡便法
原則法は、各社の個別キャッシュ・フロー計算書を合算し、連結会社間のキャッシュ・フローを相殺消去する方法です。簡便法は、連結損益計算書と連結貸借対照表の増減から直接作る方法です(移管指針第6号第47項)。
簡便法では内部取引がすでに消去されていますが、原則法では連結会社間の売上代金や配当金の受払を自分で消去します。
連結特有の表示区分
| 取引 | 表示区分 | ポイント |
|---|---|---|
| 非支配株主への配当金の支払 | 財務活動 | 親会社株主への配当と分けて独立掲記 |
| 子会社株式の取得(新たに連結) | 投資活動 | 支払額から子会社の現金を引いた純額 |
| 子会社株式の売却(連結から除外) | 投資活動 | 受取額から子会社の現金を引いた純額 |
| 支配が続く中での追加取得・一部売却 | 財務活動 | 非支配株主との取引として扱う |
| 持分法適用会社からの受取配当金 | 方法1なら営業、方法2なら投資 | 利息・配当金の選択に従う |
たとえば子会社株式を3,000で取得して新たに連結し、子会社が現金800を持っていたら、投資活動に△2,200を記載します(同第46項)。その後、支配が続いたまま500を追加取得したら、財務活動に△500を記載します(同第9-2項)。
追加取得は「グループ内で、持分を非支配株主から親会社へ付け替える取引」と考えると、財務活動になる理由が腹落ちします。
在外子会社と「現金及び現金同等物に係る換算差額」
在外子会社のキャッシュ・フローは原則として期中平均相場、期首残高は前期末の相場、期末残高は当期末の相場で換算します。生じた差額は3区分に入れず「現金及び現金同等物に係る換算差額」とします(同第17項)。
期首の現金100ドル(相場140円)、期中の増加20ドル(平均相場145円)、期末相場150円なら、期首14,000千円、増加2,900千円、期末18,000千円です。差額の1,100千円が換算差額で、期首残高の相場変動分1,000千円と期中増加分の相場差100千円からなります。
簿記1級の解き方の手順とよくあるミス


試験で解く5つの手順
期首と期末の残高を並べ、科目ごとの増減と使う区分をメモします。
売却資産の簿価と取得額、借入額と返済額を求めます。
非資金損益、利息・配当金、売却損益、営業資産・負債の増減を加減して小計を出します。
未収・未払の増減で利息・配当金の受払額を、未払法人税等のボックスで法人税等の支払額を求めます。
3区分の合計(連結では換算差額も含める)が、資金の期首・期末残高の差と一致するか確かめます。
増減表は最初の5分で作るのがコツです。ここを飛ばすと、後で同じ科目を何度も見に戻ることになります。
固定資産の売却はボックス図で整理する
取得原価と減価償却累計額を別々のボックスで整理すると、売却の情報が抜けません。数値例を仕訳の形で表すと次のとおりです。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 減価償却累計額 | 200 | 備品 | 600 |
| 現金(投資:売却収入) | 450 | 固定資産売却益(営業:△50) | 50 |
| 備品 | 1,000 | 現金(投資:取得支出) | 1,000 |
備品は5,000−600+1,000=5,400、減価償却累計額は1,800−200+400=2,000で、期末の貸借対照表と一致します。
よくあるミス
- 売上債権・棚卸資産の増加をプラスにしてしまう(資産の増加はマイナス)
- 受取利息・支払利息を小計の上で振り替えたのに、小計の下に受払額を書き忘れる
- 小計の下に損益計算書の利息・法人税等の金額をそのまま書く
- 固定資産売却益をマイナスし忘れ、売却収入と二重に計上する
- 支配が続く子会社株式の追加取得を投資活動に書く
間接法の小計まで作ったら、時間があれば直接法の営業収入だけでも検算すると安心です。
実務のポイント:連結キャッシュ・フロー計算書のデータ収集


子会社から集める情報
実務では、子会社ごとにキャッシュ・フロー精算表(CF精算表)を提出してもらい、親会社で合算する原則法の流れが一般的です。私の会社では、連結パッケージに次の情報を入れています。
| 収集する情報 | 使い道 |
|---|---|
| 貸借対照表の科目別の期首・期末残高 | 増減の分析と精算表の作成 |
| 固定資産の取得・売却の明細 | 投資活動の総額表示と売却損益の確認 |
| グループ会社との取引・債権債務の残高 | 内部取引の消去 |
| 在外子会社の換算相場と外貨建ての現金残高 | 換算差額の計算 |
内部取引の消去
親会社が子会社に商品を売って代金を回収したら、親会社の営業収入と子会社の仕入支出を相殺します。子会社からの配当金も消去します。
現金の未達があれば、調整してから消去します(移管指針第6号第19項)。相殺消去のルールは、こちらで解説しています。


決算前に確認すること
- 資金の範囲(定期預金の期間)が前期と同じ定義になっているか
- 内部取引の消去額が、損益・債権債務の消去と整合しているか
- 連結範囲の変動を伴う取得・売却と、支配継続中の取引を区分しているか
- 3区分と換算差額の合計が、連結貸借対照表の資金の増減と一致しているか
CF精算表の様式を毎期そろえると、子会社からの質問が減り、親会社のチェックも楽になります。
まとめ
- 資金の範囲は現金及び現金同等物で、3か月以内の定期預金などを含む
- 営業キャッシュ・フローは直接法でも間接法でも合計が一致し、小計の下は実際の受払額を書く
- 間接法の符号は「資産が増えたらマイナス、負債が増えたらプラス」
- 利息・配当金は2つの方法から選び、支払配当金はどちらでも財務活動
- 連結では、連結範囲の変動を伴う子会社株式の取得・売却は投資活動、支配継続中の追加取得・一部売却は財務活動
- 実務では子会社のCF精算表で情報を集め、内部取引を消去する
キャッシュ・フロー計算書は、増減表を先に作れば迷わず解けます。今回の数値例で、間接法と直接法の小計がどちらも2,356になるか試してみてください。








