決算日のあとに起きた出来事を「今期の数字に入れるべき?注記だけでいい?」と迷ったことはありませんか。その扱いを決めるのが後発事象の実務です。
この記事では、上場企業の経理として決算と会計システムに関わってきた私の目線で、修正後発事象と開示後発事象の判定から、会社法と金商法で締め日が違う点、注記の書き方、漏れなく情報を集める仕組みまでを整理します。2026年1月公表の新しい会計基準にも触れます。
後発事象は「情報を集められるか」で失敗しやすい分野です。社内から情報が上がる仕組みを作るのがコツですよ。
- 後発事象の定義と、修正後発事象・開示後発事象の違い
- 判定フローと、よくある事象の区分一覧
- 会社法と金商法で後発事象の対象期間が違う理由
- 新しい「後発事象に関する会計基準」で変わる点
- 注記の記載例と、情報収集の5ステップ
後発事象とは?修正後発事象と開示後発事象の違い


決算日のあとに起きた、財務諸表に影響する事象
後発事象とは、決算日後に発生した、会社の財政状態・経営成績・キャッシュ・フローの状況に影響を及ぼす事象のことです。3月決算なら、4月以降の倒産、災害、増資、合併などが対象です。
| 区分 | 中身 | 処理 |
|---|---|---|
| 修正後発事象 | 実質的な原因が決算日にすでに存在しており、決算日時点の見積りや判断の追加的な証拠になる事象 | 重要なものは財務諸表を修正する |
| 開示後発事象 | 決算日後に原因が生じ、当期の財務諸表には影響しないが、翌期以降に影響する事象 | 重要なものは注記する |
根拠になるルール
| ルール | 主な内容 |
|---|---|
| 企業会計原則注解(注1-3) | 貸借対照表と損益計算書を作成する日までに発生した重要な後発事象を注記する |
| 財務諸表等規則 第8条の4 | 貸借対照表日後に発生した重要な後発事象を注記する(連結は連結財務諸表規則 第14条の9) |
| 会社計算規則 第114条 | 個別注記表・連結注記表に重要な後発事象を注記する |
| 監基報560実務指針第1号 | 日本公認会計士協会の実務指針。修正・開示の考え方や例示を定めてきた(旧 監査・保証実務委員会報告第76号) |
| 企業会計基準第41号・適用指針第35号 | 2026年1月公表の新しい会計基準。2027年4月1日以後開始する事業年度から適用 |
「76号」はすでに廃止されている
実務で長く参照されてきた監査・保証実務委員会報告第76号は、2022年に監基報560実務指針第1号へ名前が変わり、2026年1月9日付けで廃止されました。ただし、2027年4月1日より前に開始する事業年度には従来どおり適用されます。
社内マニュアルに「76号に基づき」と書いている会社は、根拠の書き方を見直しておきましょう。
修正か開示か?判定フローと例示一覧


ポイントは「原因がいつ生じたか」
判定でいちばん大事なのは、事象が起きた日ではなく、実質的な原因が決算日にあったかどうかです。同じ倒産でも、決算日前から業績が悪化していたなら修正、決算日後の突発的な事故が原因なら開示です。
| 確認すること | Yesなら | Noなら |
|---|---|---|
| ① 決算日後から評価期間の末日までに発生したか | ②へ | 後発事象ではない |
| ② 実質的な原因が決算日にすでに存在していたか | 修正後発事象の候補(③へ) | 開示後発事象の候補(④へ) |
| ③ 決算日の見積りを変える証拠で、金額的に重要か | 財務諸表を修正する | 修正しない |
| ④ 翌期以降の財政状態などに重要な影響があるか | 注記する | 注記しない |
開示後発事象の「発生」の時点は、事象の性質で変わります。自己株式の取得や増資のように会社が決められるものは取締役会などの決議のとき、合併のように相手がいるものは合意の成立や公表のとき、災害のように会社の意思と関係ないものは発生したときや知ったときです。
よくある事象の区分一覧
| 事象 | 区分 | 処理のポイント |
|---|---|---|
| 決算日前から経営が悪化していた得意先が決算日後に倒産 | 修正 | 決算日の債権に損失があったとして貸倒引当金を追加 |
| 決算日後の突発的な事故で得意先が倒産 | 開示 | 原因が決算日後なので注記 |
| 係争中の訴訟が決算日後に判決や和解で確定 | 修正 | 引当金を計上または修正する |
| 決算日前から減損の兆候があった資産の価値が決算日後の情報で明確に | 修正(一般的) | 決算日時点の見積りを見直す |
| 決算日後の火災・地震・水害による損害 | 開示 | 被害の状況や損害額を注記 |
| 自己株式の取得、多額の借入、社債の発行 | 開示 | 決議や合意の内容を注記 |
| 合併・事業譲渡・子会社株式の取得 | 開示 | 相手先や時期、金額を注記 |
| 株式分割・株式併合 | 開示 | 1株当たり情報は期首に行ったと仮定して計算する |
損失が出る開示後発事象は修正にならないか確認
事業からの撤退、重要な資産の譲渡、主要な取引先の倒産、係争事件の解決などは、開示後発事象の例に挙がっていますが、損失が出るときは修正後発事象になることも多いとされています。決算日前に損失の原因があったかを確かめてから区分を決めましょう。
迷ったら「決算日の時点で、知っていれば見積りを変えたか」を考えます。答えがYesなら修正後発事象の可能性が高いです。
会社法と金商法で対象期間が違う|決算短信との関係


3月決算のスケジュールで見る対象期間
上場会社は会社法の計算書類と金商法の有価証券報告書を作ります。現行の実務では、後発事象の対象期間はそれぞれの監査報告書の日付までなので、同じ決算でも締め日が1か月以上ずれます。2027年3月期の例で並べると次のとおりです。
| 日付(例) | イベント | 後発事象との関係 |
|---|---|---|
| 2027年3月31日 | 決算日 | ここから後に起きた事象が後発事象 |
| 5月上旬 | 決算短信の発表 | 監査は終わっていない。発表後の事象も追い続ける |
| 5月中旬 | 経営者確認書の提出、会社法の会計監査報告 | 計算書類の対象期間の末日 |
| 5月下旬 | 監査役会の監査報告、取締役会の承認 | 会計監査報告後の重要な後発事象は監査役の監査報告に記載されることがある |
| 6月下旬 | 定時株主総会、有価証券報告書の提出 | 有報の財務諸表の対象期間の末日 |
会社法監査のあとに起きた事象の扱い
| 発生時期 | 修正後発事象 | 開示後発事象 |
|---|---|---|
| 決算日〜会社法の監査報告書日 | 計算書類も有報の財務諸表も修正する | 両方に注記する |
| 会社法の監査報告書日後〜有報の監査報告書日 | 計算書類は修正しない。有報では開示後発事象に準じて注記する | 有報の財務諸表にだけ注記する |
| 有報の監査報告書日後 | 原則として対象外 | 原則として対象外 |
有報だけ数字を直すことはしない
会社法の監査が終わったあとに修正後発事象が起きても、有報の財務諸表だけを修正すると、株主総会に出した計算書類と数字がずれてしまいます。そのため「開示後発事象に準じて注記する」特例的な扱いになっています。この特例は新しい会計基準でも基本的に引き継がれています。
決算短信を出したあとに修正後発事象が起きたら
決算短信は監査を受ける前に発表するため、発表後、会社法の監査報告書日までに修正後発事象が見つかることがあります。この場合は計算書類を修正し、短信の数字と変わるなら訂正の開示が必要になるのが一般的です。IR担当と監査人に早めに相談し、取引所のルールも確認しましょう。
短信の発表から会社法監査の終わりまでは、後発事象がいちばん怖い期間です。法務や営業の情報をこまめに確認しましょう。


新しい「後発事象に関する会計基準」で変わること


2026年1月9日、企業会計基準委員会(ASBJ)から企業会計基準第41号「後発事象に関する会計基準」と適用指針第35号が公表されました。考え方は基本的に変わりませんが、準備が必要な点があります。
| 項目 | 現行(監基報560実務指針第1号) | 新基準(第41号・適用指針第35号) |
|---|---|---|
| 評価期間の末日 | 監査報告書日 | 原則は財務諸表の公表の承認日。会計監査人設置会社の計算書類は「確認日」(通常は経営者確認書の日付) |
| 新しい注記 | なし | 財務諸表の公表の承認日と、承認した機関または個人の名称 |
| 開示後発事象の注記 | 内容と影響額など | 開示目的に照らして、内容と影響額など。見積れない場合はその旨と理由 |
| 個別財務諸表 | それぞれ記載 | 連結と同じ内容なら、その旨の記載で代えられる |
| 会社法監査後の修正後発事象 | 開示後発事象に準じて扱う | 基本的に踏襲。連結は連結計算書類の確認日を基準に整理 |
| 適用時期 | 2027年4月1日前に開始する年度 | 2027年4月1日以後開始する年度から。早期適用なし |
公表の承認日の注記は今から決めておく
新基準では、後発事象がなくても「財務諸表の公表の承認日」と「承認した機関または個人」を注記します。誰がいつ承認するのかは会社ごとに決める必要があるため、取締役会や経営者確認書との関係を整理し、決算スケジュールに組み込んでおきましょう。
「締め日をどこに置くか」と「承認日の注記」は社内の手続きに関わります。早めに監査人と相談しておきましょう。
重要な後発事象の注記の書き方と記載例


事象ごとに書く項目
開示後発事象の注記では、事象の概要、発生の原因や目的、今後のスケジュール、影響額を書くのが基本です。事象ごとの記載項目は補足文書の例示が参考になります。
| 事象 | 発生の時点 | 主な記載事項 |
|---|---|---|
| 重要な自己株式の取得 | 取締役会などの決議のとき | その旨と理由、取得の方法、株式の数、取得価額、取得の時期 |
| 多額な資金の借入 | 合意の成立や公表のとき | その旨と使途、借入先、金額と利率などの条件、実施時期と返済期限、担保や保証 |
| 火災・震災などによる重大な損害 | 損害の発生を知ったとき | その旨、被害の状況、損害額、復旧の見通し、営業活動への影響 |
注記の記載例
以下は一般的な文例です。会社名や金額は仮のものなので、実際の決議内容に合わせて書き換えてください。
自己株式の取得:当社は、2027年5月14日開催の取締役会において、会社法第459条第1項の規定による定款の定めに基づき、自己株式を取得することを決議しました。取得する株式の総数は100万株(上限)、取得価額の総額は10億円(上限)、取得期間は2027年5月15日から2027年12月31日まで、取得方法は東京証券取引所における市場買付けです。
多額の借入:当社は、2027年4月20日開催の取締役会において、設備投資資金に充てるため、次のとおり借入を行うことを決議し、同月28日に実行しました。借入先はA銀行、借入金額は50億円、利率は基準金利+0.5%、借入期間は5年、担保の提供はありません。
災害による損害:2027年4月10日、当社B工場で火災が発生し、建物と設備の一部が焼損しました。現在、被害状況を調査中であり、翌期の損益に与える影響額は現時点では合理的に見積ることができません。
最後の例のように、影響額を客観的に見積れないときは、無理に数字を出さず「見積ることができない旨と理由」を書きます。
税率の変更も、後発事象と関係が深い論点です。繰延税金資産は決算日までに成立した税法の税率で計算するため、決算日後に税率が変わったときは今期の数字は直さず、影響が大きければ注記で知らせるのが基本です。
注記は過去の有報や同業他社の文例を集めて、自社の事実に置き換えるのが早いです。数字は議事録や契約書と照合しましょう。


後発事象を漏れなく集める仕組みと確認手順


情報源ごとに確認すること
後発事象の失敗の多くは、判定の誤りではなく経理に情報が届かないことです。次の情報源から定期的に集めます。
| 情報源 | 見るポイント | 主な担当 |
|---|---|---|
| 取締役会・経営会議の議事録 | 自己株式の取得、借入、M&A、撤退などの決議 | 経理・総務 |
| 稟議・契約書の一覧 | 多額の契約、資産の売却、担保の提供 | 経理・法務 |
| 法務部門への確認書 | 訴訟の判決・和解、新しい係争 | 法務 |
| 営業・与信部門への確認書 | 主要な得意先の倒産や支払遅延 | 営業・審査 |
| 連結子会社の報告書 | 子会社で起きた上記の事象 | 子会社の経理 |
| 経営者確認書 | 後発事象をすべて伝えたことの確認 | 経営者・経理 |
連結子会社の後発事象も同じ締め日で集める
連結財務諸表では、子会社や持分法適用会社の後発事象も対象です。親会社の締め日に合わせて子会社から報告書を出してもらいます。決算日が違う子会社は、子会社の決算日後に起きた事象が対象になるので、対象期間を報告書に明記しておきましょう。
後発事象の確認手順5ステップ
決算日、短信の発表日、会社法監査の報告書日、有報の提出日を並べ、後発事象を確認する日を決めます。
法務・営業・子会社などに、確認する事象の一覧と対象期間を書いた報告書を配ります。「該当なし」でも回答をもらいます。
決算日後の議事録や稟議を経理が自分で読み、報告の漏れがないか確かめます。
判定フローで区分し、修正後発事象なら仕訳を、開示後発事象なら注記案を作り、監査人と協議します。
会社法の監査報告書日の直前と有報の監査報告書日の直前に、もう一度報告を取り直します。
後発事象の確認チェックリスト
- 対象期間(決算日〜各締め日)を報告書に書いている
- 法務・営業・子会社から「該当なし」も含めて回答がある
- 決算日後の議事録と稟議を経理が読んでいる
- 区分の判断理由と監査人との協議内容を記録している
- 締め日の直前にもう一度報告を取り直している
決算日後の大きな入出金や引当金の動きも、異常値チェックの対象に入れておくと気づきやすくなります。


まとめ
- 後発事象は決算日後に起きた、財務諸表に影響する事象。修正後発事象と開示後発事象がある
- 区分は「実質的な原因が決算日にあったか」で判断する
- 会社法と金商法で対象期間が違い、会社法監査後の修正後発事象は有報で開示後発事象に準じて扱う
- 新しい会計基準は2027年4月1日以後開始する年度から適用され、公表の承認日の注記が加わる
- 情報収集は議事録・確認書・子会社報告・経営者確認書を組み合わせ、締め日ごとに取り直す
まずは今期の決算スケジュールに、後発事象の確認日と報告書の回収日を書き込んでみてください。
後発事象は毎年起きるものではないからこそ、仕組みで拾うことが大切です。今期の決算から試してみてくださいね。








