四半期決算のたびに「賞与引当金はいくら積めばいいのか」「支給額とずれた差額はどう処理するのか」と迷うことはありませんか。賞与引当金は金額が大きく、監査でも必ず見られる科目です。
この記事では、上場企業の経理として会計システムにも関わってきた私の目線で、賞与引当金の計算方法と四半期ごとの仕訳を、1つの数値例で通して解説します。あわせて、税務と税効果の扱い、ほかの引当金との違い、人事部門とのデータのやり取りまで整理します。
賞与引当金は「まだ払っていないけど、当期の働きに対応する賞与」を負債にするものです。支給対象期間さえ押さえれば、計算はシンプルですよ。
- 引当金の4要件と賞与引当金・未払賞与の違い
- 支給対象期間を使った計算方法と社会保険料の見積り
- 6月末〜3月末の四半期ごとの仕訳と差額の処理
- 損金不算入と税効果、未払賞与が損金になる要件
- 他の引当金との比較と、監査を意識した実務のコツ
賞与引当金とは?引当金の4要件と未払賞与との違い


引当金の4要件(企業会計原則注解18)
引当金は、企業会計原則注解18で定められています。次の4つの要件をすべて満たすとき、当期の負担に属する金額を費用に計上し、引当金として貸借対照表に載せます。
- 将来の特定の費用または損失であること
- その発生が当期以前の事象に起因していること
- 発生の可能性が高いこと
- その金額を合理的に見積ることができること
賞与引当金に当てはめると、「将来の賞与の支払い」が、「当期の従業員の勤務」に起因し、就業規則などで支給が予定されていて、過去の実績から金額を見積れる、ということです。注解18でも、賞与引当金は引当金の例として挙げられています。賞与引当金は、将来の支払義務を表す負債性引当金に分類されます。
未払賞与・未払金との違い
決算書を作る時点で支給額が決まっているかどうかで、使う科目が変わります。日本公認会計士協会のリサーチ・センター審理情報No.15では、次のように整理されています。
| 決算書作成時の状況 | 計上する科目 | 例 |
|---|---|---|
| 支給額が確定し、支給対象期間に対応して算定 | 未払費用(未払賞与) | 支給月数や支給総額が決まった定期賞与 |
| 支給額が確定し、支給対象期間以外の基準で算定 | 未払金 | 成功報酬的な賞与 |
| 支給額が確定していない | 賞与引当金 | 支給見込額のうち当期に帰属する額 |
ここでいう「確定」には、支給率や支給月数、支給総額が決まっている場合も含まれます。
会社負担の社会保険料も見積って計上する
賞与を支給すると、会社負担の健康保険料・厚生年金保険料なども発生します。対応する会社負担分も法定福利費として見積り、未払費用などで計上するのが一般的です。
決算書を作る時点で金額が決まっていれば未払費用、決まっていなければ賞与引当金です。科目は「確定しているかどうか」で選びましょう。
賞与引当金の計算方法|支給対象期間と社会保険料の見積り


基本の計算式
賞与引当金は、支給見込額 ×(支給対象期間のうち当期に属する月数 ÷ 支給対象期間の月数)で計算します。ポイントは、支給月ではなく、支給対象期間(査定期間)で按分することです。
支給対象期間を確認する
ここでは、3月決算で次の就業規則がある会社を例にします。支給対象期間は会社ごとに違うので、必ず就業規則や賃金規程で確認してください。
| 賞与 | 支給対象期間 | 支給月 | 6月末 | 9月末 | 12月末 | 3月末 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 夏季賞与 | 10月〜3月 | 6月 | 支給済 | - | 3/6 | 6/6 |
| 冬季賞与 | 4月〜9月 | 12月 | 3/6 | 6/6 | 支給済 | - |
夏季賞与は10月〜3月の勤務に対する賞与なので、3月末には支給見込額の全額を引き当てます。冬季賞与は、6月末で3か月分、9月末で6か月分を積みます。
数値例で計算する
金額は説明用の仮の数値です。会社負担の社会保険料は、仮の料率15%で概算します。
| 時点 | 対象 | 支給見込額 | 引当月数 | 引当残高 | 社会保険料(15%) |
|---|---|---|---|---|---|
| 前期3月末 | 夏季 | 60,000,000 | 6/6 | 60,000,000 | 9,000,000 |
| 6月末 | 冬季 | 54,000,000 | 3/6 | 27,000,000 | 4,050,000 |
| 9月末 | 冬季 | 55,200,000 | 6/6 | 55,200,000 | 8,280,000 |
| 12月末 | 次の夏季 | 62,400,000 | 3/6 | 31,200,000 | 4,680,000 |
| 3月末 | 次の夏季 | 62,400,000 | 6/6 | 62,400,000 | 9,360,000 |
支給見込額は、前回の支給実績に昇給率や業績の見込みを反映させるのが基本です。根拠もあわせて人事部門からもらいましょう。
四半期ごとの賞与引当金の仕訳|計上・支給・差額処理


6月の夏季賞与の支給(引当不足)
前期末に60,000,000円を引き当てていた夏季賞与が、6月に61,200,000円で支給されたとします。源泉所得税や本人負担の社会保険料は13,464,000円とします。引当金を取り崩し、足りない1,200,000円は当期の賞与で処理します。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 賞与引当金 | 60,000,000 | 預り金 | 13,464,000 |
| 賞与 | 1,200,000 | 普通預金 | 47,736,000 |
会社負担の社会保険料は、見積った9,000,000円を取り崩し、確定額9,180,000円との差額180,000円を法定福利費に計上します。
6月末・9月末の計上(冬季賞与)
6月末(第1四半期末)には、冬季賞与の3か月分を計上します。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 賞与引当金繰入額 | 27,000,000 | 賞与引当金 | 27,000,000 |
| 法定福利費 | 4,050,000 | 未払費用 | 4,050,000 |
9月末(第2四半期末)は、見込額を55,200,000円に見直したので、残高との差額28,200,000円を追加で繰り入れ、社会保険料も差額4,230,000円を追加します。
12月の冬季賞与の支給(引当過大)と12月末・3月末
冬季賞与が54,600,000円で支給され、600,000円が引当過大になった例です。預り金は12,012,000円とします。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 賞与引当金 | 55,200,000 | 預り金 | 12,012,000 |
| 普通預金 | 42,588,000 | ||
| 賞与(または賞与引当金戻入額) | 600,000 |
差額は、見積りの誤りではなく状況の変化によるものなら、会計上の見積りの変更として当期の損益で処理します(企業会計基準第24号)。特別利益ではなく、賞与と同じ区分で調整するのが基本です。12月末は次の夏季賞与の3か月分31,200,000円、3月末は残り31,200,000円を繰り入れ、残高を62,400,000円にします。
洗替法と差額補充法の考え方
| 方法 | 四半期末の処理 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 洗替法 | 前四半期末の残高を全額戻し入れ、改めて全額を計上 | 見積りを毎回つくり直す会社。前回との比較は別途必要 |
| 差額補充法 | 必要額と残高の差額だけを繰り入れ(または戻し入れ) | 月次で積み上げる会社。繰入額の推移が見やすい |
どちらでも期末の残高は同じです。月割りで積み、四半期末にだけ見込額を見直すなど、運用は会社の方針として決めて毎期同じ方法で処理します。
差額が毎回大きいなら見積り方法を見直す
支給後の差額が毎回大きいなら、見積り方法そのものを見直すサインです。監査では前回の見積りの当たり具合も確認されます。
引当不足も過大も、それ自体は珍しくありません。大事なのは差額の理由を説明できることです。
賞与引当金の税務と税効果|損金不算入と未払賞与の要件


賞与引当金は損金不算入
賞与引当金は、平成10年度の税制改正で法人税法上の制度が廃止され、現在は繰入額が損金になりません。期末に計上した賞与引当金と対応する社会保険料は申告書の別表四で加算し、翌期に支給したときに減算します。
会計と税務で費用になる時期がずれるだけなので、将来減算一時差異として税効果会計の対象になります。数値例の3月末で、仮の法定実効税率30.62%を使うと次のとおりです。
| 項目 | 期首(前期末) | 当期末 |
|---|---|---|
| 賞与引当金 | 60,000,000 | 62,400,000 |
| 社会保険料の見積り | 9,000,000 | 9,360,000 |
| 一時差異の合計 | 69,000,000 | 71,760,000 |
| 繰延税金資産(30.62%) | 21,127,800 | 21,972,912 |
繰延税金資産が845,112円増えるので、借方に繰延税金資産、貸方に法人税等調整額845,112円を計上します(回収可能性の判断が前提です)。


未払賞与が損金になる場合(法人税法施行令72条の3)
使用人賞与は原則として支払った期の損金ですが、次のどちらかにあたれば、未払いでも損金にできます。
- 労働協約や就業規則で定めた支給予定日が到来し、支給額を通知し、損金経理している賞与
- 支給額を各人別に、同時期に支給するすべての使用人に通知し、期末日の翌日から1か月以内に支払い、損金経理している賞与(決算賞与など)
「引当金」の科目では要件を満たしにくい
金額が決まらず賞与引当金で計上したものは損金不算入です。一部の人にだけ通知した、支払いが翌月を過ぎた、という場合も要件を満たさないので、通知の記録と支払日を残しましょう。
決算賞与を損金にしたいなら、期末までの通知と翌月中の支払いがセットです。人事部門とスケジュールを早めに決めておきましょう。
他の引当金との違い|退職給付・貸倒・役員賞与などの比較


ほかの引当金も「4要件」と「税務の扱い」で整理できます。多くの引当金は税務上損金にならないため、税効果の対象になります。
| 引当金 | 要件・計上のポイント | 主な計上科目 | 税務の扱い(一般論) |
|---|---|---|---|
| 賞与引当金 | 支給額未確定の使用人賞与のうち当期帰属分 | 賞与引当金繰入額 | 損金不算入 |
| 退職給付引当金 | 退職給付債務から年金資産を控除 | 退職給付費用 | 損金不算入(掛金拠出や支給時に損金) |
| 貸倒引当金 | 債権の区分ごとに貸倒見積高を計上 | 貸倒引当金繰入額 | 中小法人・銀行等に限り繰入限度額まで損金 |
| 役員賞与引当金 | 当期の職務に対する役員賞与の見込額(企業会計基準第4号) | 役員賞与引当金繰入額 | 原則損金不算入(事前確定届出給与等を除く) |
| 製品保証引当金 | 過去の実績から無償修理などの費用を見積り | 製品保証引当金繰入額 | 損金不算入 |
| 修繕引当金 | 当期の使用に起因する将来の修繕費 | 修繕引当金繰入額 | 損金不算入 |
| 有給休暇引当金 | 日本基準では一般に計上しない。IFRSでは未消化の累積有給を負債計上 | - | - |
役員賞与は、企業会計基準第4号で発生した期の費用とされ、期末後の株主総会で決議する場合は、当期の職務に対する見込額を役員賞与引当金に計上します。使用人賞与と混ぜずに、科目を分けて管理しましょう。
有給休暇は、日本基準に引当を求める会計基準がなく、計上しないのが一般的です。IFRSのグループに報告する子会社は、負債計上が必要になることがあります。


退職給付引当金は計算が専門的ですが、「将来払う人件費のうち当期分を負債にする」という発想は賞与引当金と同じです。並べて覚えると理解が早いですよ。
賞与引当金の実務|データ取得・差額分析・監査対応


人事・給与部門からもらうデータ
見積りの精度は、人事・給与部門からもらうデータで決まります。依頼する項目と締め日を毎期そろえておくと、四半期末に慌てません。
人事部門に依頼する項目
- 対象人数と、部門別(販管費・製造原価)の支給見込額
- 支給月数・業績係数などの算定の前提
- 期中の入退社・休職者の扱い
- 前回支給の実績額と会社負担の社会保険料の実績
業績連動賞与の見積り
業績で支給月数が変わる会社は、期末時点の業績見込みから支給月数を見積ります。予算ではなく、最新の業績予想と整合しているかを確認しましょう。
月次按分と会計システムでの自動仕訳
月次決算では、支給見込額を対象月数で割って毎月計上すると、四半期末の差額が小さくなります。数値例の冬季賞与なら、54,000,000円÷6か月で月9,000,000円です。会計システムに繰入の定型仕訳と部門別の配賦率を登録し、給与システムの支給仕訳は賞与引当金の取崩しで連携するよう設定しておきましょう。
支給時の預り金が次の納付額と一致しているかも確認しましょう。


四半期末の確認手順
就業規則と前回の支給実績から、夏季・冬季それぞれの対象期間と支給月を確認します。
人事部門から、部門別の支給見込額と算定の前提を受け取ります。
対象月数で按分し、会社負担の社会保険料も同じ基礎で見積ります。
前四半期末の残高との差額を繰り入れ、部門別の科目に配賦します。
支給後に引当額との差額を出し、理由を記録して次の見積りに反映します。
監査で見られるポイントと決算チェックリスト
監査では、見込額の根拠資料、前回の見積りと実績の差、確定済みなのに引当金のままになっていないか、がよく確認されます。
賞与引当金の決算チェックリスト
- 支給対象期間と引当月数が就業規則と一致している
- 支給額が確定したものを未払費用に振り替えている
- 会社負担の社会保険料を見積って計上している
- 前回支給との差額の理由を説明できる
- 別表四の加算・減算と税効果の金額が一致している
賞与引当金は「数字の根拠」と「前回の当たり具合」をセットで残しておくと、監査対応がとても楽になります。
まとめ
- 賞与引当金は、注解18の4要件を満たす負債性引当金。支給額が確定していれば未払費用や未払金で計上する
- 計算は支給見込額を支給対象期間の月数で按分し、会社負担の社会保険料も見積る
- 四半期末ごとに見込額を見直し、支給時の差額は当期の損益で処理する
- 賞与引当金は損金不算入なので税効果の対象。未払賞与は施行令72条の3の要件で判断する
- 人事部門とのデータのやり取りと差額分析を仕組みにすると、監査対応が楽になる
まずは就業規則で支給対象期間を確認し、次の四半期末の引当月数を表にしてみてください。計上の漏れはかなり防げます。
賞与引当金を説明できると、ほかの引当金の理解も一気に進みます。次の締めから試してみてください。






