簿記1級の連結会計は、2級で覚えた資本連結と成果連結に、税効果や持分の変動が重なって一気に難しくなる論点です。本試験では「どの税率を使うか」「非支配株主に配分したか」で点を落としがちです。
この記事では、上場企業で経理と連結システムを担当している私の目線で、連結会計の税効果を1つの数値例で整理し、タイムテーブルを使った解き方とミスを防ぐ手順をまとめます。内容は2026年10月時点の会計基準にもとづいています。
連結の税効果は「誰の利益が、どの会社の税金で、誰の持分に効くか」の3点セットで考えると、仕訳がすっきり決まりますよ。
- 簿記2級の連結会計との違いと、1級で増える論点の一覧
- 評価差額・未実現利益・貸倒引当金に係る税効果のルールと税率の決め方
- 1つの数値例でつなげた連結修正仕訳とタイムテーブル
- 連結の問題を解く5ステップとミスを防ぐチェックリスト
- 連結パッケージや内部取引の照合など実務のポイント
簿記1級の連結会計とは?2級から増える論点を整理


2級は「基本の型」、1級は「型の応用」
簿記2級の連結会計は、資本連結、のれんの償却、非支配株主持分、内部取引と債権債務の相殺、未実現利益の消去が中心です。1級では、持分が途中で変わるケースや税効果、在外子会社などが加わります。
| 論点 | 簿記2級 | 簿記1級で追加・発展 |
|---|---|---|
| 資本連結 | 支配獲得時・その後の投資と資本の相殺、のれん償却、非支配株主持分 | 子会社の資産・負債の時価評価(全面時価評価法)、段階取得 |
| 持分の変動 | 原則なし | 追加取得・一部売却(支配継続中の差額は資本剰余金)、売却による支配喪失 |
| 成果連結 | 取引高・債権債務の相殺、未実現利益(棚卸資産・土地、アップ・ダウン) | 減価償却資産の未実現利益、各論点の税効果 |
| 関連会社など | なし | 持分法 |
| 税効果 | 個別財務諸表の基本的な論点 | 連結会計上の税効果会計 |
| その他 | 連結精算表・連結財務諸表の作成 | 在外子会社の換算(為替換算調整勘定)、包括利益、連結キャッシュ・フロー計算書 |
なかでも総合問題で毎回のように絡むのが連結会計上の税効果会計です。評価差額、未実現利益、貸倒引当金の調整にそれぞれ税効果がつき、子会社の利益に関わるものは非支配株主持分にも配分します。
2級の知識で解ける部分も多いので、1級で増えた論点を「2級の仕訳+税効果+持分の変動」と分解して覚えるのがおすすめです。
持分の変動は「支配が続くかどうか」で分ける
支配が続いたまま株式を追加取得したり一部売却したりした場合、持分の変動による差額は損益ではなく資本剰余金で処理します(企業会計基準第22号第28項・第29項)。売却で子会社でも関連会社でもなくなった場合は、残った投資を個別貸借対照表上の帳簿価額で評価します。
連結の範囲や基本の流れが不安な方は、先に2級の復習をしておくと1級の論点がぐっと入りやすくなります。


連結会計の税効果会計:3つのパターンと税率の決め方


連結財務諸表固有の一時差異とは
連結修正で資産や負債の金額を変えると、税務上の金額とのずれが生じます。これが連結財務諸表固有の一時差異で、1級でよく出るのは次の3パターンです。
| パターン | 繰延税金資産・負債 | 使う税率 | 非支配株主への配分 |
|---|---|---|---|
| 評価差額(資産の評価増) | 繰延税金負債 | 時価評価した子会社の税率 | 評価差額は資本なので、投資と資本の相殺で配分される |
| 未実現利益の消去 | 繰延税金資産 | 売却元の会社の税率 | アップストリームなら税効果控除後の金額で配分 |
| 貸倒引当金の減額修正 | 繰延税金負債 | 債権者側の会社の税率 | 債権者が子会社なら税効果控除後の金額で配分 |
評価差額は「税効果控除後」で資本に計上
子会社の資産を時価評価して評価増が生じた場合は、繰延税金負債を計上します(企業会計基準適用指針第28号第18項)。このとき税効果は法人税等調整額を使わず、評価差額から直接控除します(移管指針第4号第11項)。評価差額は税効果控除後の金額で子会社の資本に含め、投資と資本の相殺の対象になります。
未実現利益は「売却元」の税率
未実現利益の消去に係る税効果は、売却元の会社が売却年度に納付した税金の額を繰延税金資産に計上し、利益の実現に応じて取り崩します(同第34項)。資産負債法の例外として繰延法が採られているため、買手側の税率ではなく売手側の税率を使います。税率が変わっても修正しません(同第56項)。
貸倒引当金は「債権者側」の税率
債権と債務を相殺して貸倒引当金を減らすと、連結上は費用が減るため将来加算一時差異が生じます。この場合は債権者側の会社の税率で繰延税金負債を計上します(同第32項・第33項)。
試験では「親会社30%、子会社25%」のように税率を分けて出し、どちらを使うかを試す問題もあります。表の「使う税率」の列は丸ごと覚えてしまいましょう。


数値例で確認:評価差額・未実現利益・貸倒引当金の税効果仕訳


数値例の前提
- P社はX1年3月31日にS社株式の80%を700,000円で取得し、支配を獲得した
- 支配獲得日のS社の資本は、資本金500,000円・利益剰余金200,000円
- S社の土地(簿価300,000円)の時価は400,000円
- 法定実効税率はP社30%、S社25%。のれんは10年で定額償却
- X1年度のS社の当期純利益は120,000円(配当なし)
支配獲得日:評価差額と投資・資本の相殺
評価差額は100,000円で、S社の税率25%で繰延税金負債25,000円を計上し、評価差額は75,000円になります。S社の資本は合計775,000円で、P社持分620,000円との差額80,000円がのれん、20%の155,000円が非支配株主持分です。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 土地 | 100,000 | 繰延税金負債 | 25,000 |
| 評価差額 | 75,000 | ||
| 資本金 | 500,000 | S社株式 | 700,000 |
| 利益剰余金 | 200,000 | 非支配株主持分 | 155,000 |
| 評価差額 | 75,000 | ||
| のれん | 80,000 |
X1年度:のれん償却と当期純利益の按分
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| のれん償却 | 8,000 | のれん | 8,000 |
| 非支配株主に帰属する当期純利益 | 24,000 | 非支配株主持分 | 24,000 |
アップストリーム:S社からP社への販売
P社の期末商品に、S社が付けた未実現利益40,000円が含まれています。売却元はS社なので税率は25%で、繰延税金資産は10,000円です。非支配株主には税効果控除後の30,000円×20%=6,000円を配分します。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 売上原価 | 40,000 | 商品 | 40,000 |
| 繰延税金資産 | 10,000 | 法人税等調整額 | 10,000 |
| 非支配株主持分 | 6,000 | 非支配株主に帰属する当期純利益 | 6,000 |
ダウンストリームと貸倒引当金の修正
S社の期末商品には、P社が付けた未実現利益20,000円が含まれています。売却元はP社なので税率は30%で、非支配株主への配分はありません。また、P社のS社向け売掛金200,000円に計上した2%の貸倒引当金4,000円を減額し、債権者P社の税率30%で繰延税金負債1,200円を計上します。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 売上原価 | 20,000 | 商品 | 20,000 |
| 繰延税金資産 | 6,000 | 法人税等調整額 | 6,000 |
| 貸倒引当金 | 4,000 | 貸倒引当金繰入 | 4,000 |
| 法人税等調整額 | 1,200 | 繰延税金負債 | 1,200 |
債権債務の相殺の仕訳は、相殺消去の記事で詳しく解説しています。


本試験では、アップとダウンが同じ問題に並んで出ることがよくあります。「売ったのは誰か」に下線を引いてから仕訳を書くと迷いません。
検算のコツ
親会社株主に帰属する当期純利益への影響は、S社利益の取込み96,000円−のれん償却8,000円−アップ24,000円(30,000円×80%)−ダウン14,000円+貸倒引当金2,800円=52,800円です。税引後×持分比率で検算すると、按分もれに気づけます。
問題を解くコツ:タイムテーブルと開始仕訳の書き方


タイムテーブルで資本の推移をまとめる
仕訳の前に、タイムテーブルで子会社の資本の推移を整理します。数値例では次のとおりです。
| 項目 | X1年3月31日 | X1年度の増減 | X2年3月31日 |
|---|---|---|---|
| 資本金 | 500,000 | - | 500,000 |
| 利益剰余金 | 200,000 | +120,000 | 320,000 |
| 評価差額(税効果控除後) | 75,000 | - | 75,000 |
| 資本合計 | 775,000 | +120,000 | 895,000 |
| 非支配株主持分(20%) | 155,000 | +24,000 | 179,000 |
| のれん | 80,000 | -8,000 | 72,000 |
期末の非支配株主持分は、タイムテーブルの179,000円からアップストリームの6,000円を引いた173,000円です。(資本合計895,000円−税引後の未実現利益30,000円)×20%でも同じ金額になり、検算に使えます。
ボックス図は「持分の変動」があるときに使う
追加取得や一部売却がある問題では、持分比率ごとのボックス図を書き、持分と対価の差額(資本剰余金)を分けて計算します。
開始仕訳から当期仕訳の順に書く
翌年度の連結では、前年度までの連結修正を開始仕訳でまとめて再現してから、当期の仕訳を書きます。損益項目は「利益剰余金(期首)」に置き換えます。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 資本金 | 500,000 | S社株式 | 700,000 |
| 利益剰余金(期首) | 232,000 | 非支配株主持分 | 179,000 |
| 評価差額 | 75,000 | ||
| のれん | 72,000 |
利益剰余金(期首)232,000円は、200,000円にのれん償却8,000円と非支配株主への配分24,000円を足した金額です。期首の未実現利益も、税効果と配分を含めて開始仕訳で引き継ぎます。
開始仕訳の利益剰余金は、タイムテーブルから逆算できます。仕訳を積み上げるより速いですよ。
税効果の連動チェック
- 評価差額を出したら、すぐ繰延税金負債と評価差額(税効果控除後)に分ける
- 未実現利益を消したら、売却元の税率で繰延税金資産を書く
- 貸倒引当金を減らしたら、債権者側の税率で繰延税金負債を書く
- 子会社の利益に関わる修正は、税効果控除後の金額で非支配株主に配分する
ミスをしない方法:解く手順の5ステップとチェックリスト


連結の問題を解く5ステップ
親会社・子会社ごとの税率、持分比率、のれんの償却年数を問題用紙の余白にまとめます。
支配獲得日から当期末までの資本と評価差額を並べ、非支配株主持分とのれんを計算します。
前期末までの資本連結と未実現利益を、利益剰余金(期首)でまとめて書きます。
のれん償却、利益の按分、配当、内部取引、未実現利益、貸倒引当金の順に、税効果と非支配株主への配分をセットで書きます。
非支配株主持分を資本×持分比率で、親会社株主に帰属する当期純利益を税引後×持分比率で確認します。
ステップ1を省くと、途中で税率を取り違えます。30秒で終わるので必ずやりましょう。
よくあるミス
失点しやすいポイント
- 未実現利益の税効果を買手側の税率で計算する(数値例なら12,000円になり2,000円ずれる)
- アップストリームで税効果控除前の金額を按分する(6,000円のはずが8,000円になる)
- 評価差額の税効果を法人税等調整額で処理してしまう
- 開始仕訳で期首の未実現利益と税効果を引き継ぎ忘れる
- 支配が続く追加取得・一部売却の差額を損益にしてしまう
見直し用チェックリスト
答案を出す前に確認すること
- 繰延税金資産・負債の税率は、売却元・債権者側・評価した会社で選んだか
- 子会社の利益に関わる修正は、すべて非支配株主に配分したか
- 非支配株主持分の期末残高は、タイムテーブルと一致しているか
- 連結貸借対照表の評価差額が残っていないか(相殺消去済みか)
時間配分にも注意
すべての仕訳を書くと時間が足りません。タイムテーブルで金額を直接出し、仕訳は迷う論点だけにしぼりましょう。
実務での連結決算:連結パッケージとシステムのポイント


連結パッケージで情報を集める
実務では、子会社から「連結パッケージ」と呼ばれる決算報告の様式で、財務諸表や内部取引、税率などを集めます。試験の問題文にある前提は、実務ではこのパッケージで集める情報です。
| 連結パッケージの項目 | 連結での使い道 |
|---|---|
| 内部取引・債権債務の明細 | 取引高と債権債務の相殺、照合 |
| 内部取引の在庫・固定資産の明細 | 未実現利益の計算 |
| 法定実効税率・一時差異 | 連結上の税効果の計算 |
| 貸倒引当金の内訳 | 相殺に伴う貸倒引当金の修正 |
内部取引の照合が一番の山場
親会社の売掛金と子会社の買掛金は、よく一致しません。差異の原因を締め日のずれ・未達・誤計上に分けて早めにつぶすのが、決算を早く終わらせるコツです。私の会社では、締め前に会社別の残高を送り合っています。
連結システムでの自動化
連結システムを使うと、開始仕訳や非支配株主への配分、税効果の計算を自動化できます。ただし、税率や持分比率のマスタ更新を忘れると、そのまま誤りになります。システムの数字をタイムテーブルの考え方で検算できる力は実務でも役立ちます。
簿記1級で身につけた「税率と持分をセットで確認する習慣」は、連結システムの設定チェックでそのまま使えます。
まとめ
- 簿記1級の連結会計は、2級の型に時価評価・持分の変動・税効果・持分法・在外子会社などが加わる
- 評価差額の税効果は評価差額から直接控除し、税効果控除後の金額で資本に含める
- 未実現利益の税効果は売却元の税率、貸倒引当金は債権者側の税率で計算する
- アップストリームでは、税効果控除後の金額を非支配株主に配分する
- タイムテーブル→開始仕訳→当期仕訳→検算の順に解くとミスが減る
まずは今回の数値例を白紙に書き写し、非支配株主持分が173,000円、親会社株主への影響が52,800円になるか試してみてください。税率と持分をセットで確認する習慣がつけば、連結で大きく崩れなくなります。








