「利息法の償却表が作れない」「買入償還の帳簿価額はどう出す?」。社債は簿記1級で出題され、計算の順序を間違えると答えが大きくずれる論点です。
今回は、発行者側の社債の会計処理を数値例で解説します。償却原価法(利息法・定額法)と買入償還を中心に、2級との違いや実務もまとめました。
社債は「発行→利払い→決算で償却→償還」の流れをつかめば、同じ型で解けます。
- 社債の発行条件と平価・割引・打歩発行
- 発行時の仕訳と社債発行費の処理
- 償却原価法(利息法・定額法)の償却表と未払利息
- 満期償還・買入償還・抽選償還の仕訳
- 簿記2級との違いと1級の解き方のコツ
- 社債管理台帳・開示などの実務とチェックリスト
社債とは?発行条件と会計処理の流れ


社債とは、会社が投資家から資金を借りるために発行する債券で、借入金と同じ金融負債です。
| 発行条件 | 意味 |
|---|---|
| 額面金額(社債金額) | 償還期限に返済する金額 |
| 発行価額 | 払い込まれる金額。@95円など額面100円あたりで示す |
| クーポン(利率) | 額面に対する約定利率 |
| 償還期限 | 額面金額を返済する日 |
| 実効利子率 | 将来の支払額の現在価値を発行価額に一致させる利率 |
発行価額と額面金額の関係により、発行形態は3つに分かれます。
- 平価発行:額面金額 = 発行価額。償却原価法は不要
- 割引発行:額面金額 > 発行価額。帳簿価額は毎期増える
- 打歩発行:額面金額 < 発行価額。帳簿価額は毎期減る
発行から償還までの会計処理は、次の5ステップで進みます。
払込金額で社債を計上し、社債発行費の処理を決めます。
利払日にクーポンを社債利息として支払います。
償却原価法で帳簿価額を額面に近づけ、必要なら未払利息を計上します。
満期前に買い入れたら、帳簿価額と支払額の差額を社債償還損益とします。
額面と一致した帳簿価額で返済します。
割引発行の差額は「金利の後払い」です。帳簿価額を額面まで少しずつ増やすのが償却原価法です。
社債の発行時の仕訳と社債発行費


社債は発行価額で計上します。額面1,000,000円を954,203円で発行した場合の仕訳です(数値は仮)。
(借)当座預金 954,203/(貸)社債 954,203
金融商品会計基準第26項により、社債金額と異なる価額で発行した社債は償却原価を貸借対照表価額とします。差額は別科目にせず、社債の帳簿価額そのものを動かします。
発行に直接かかった費用は社債発行費です。実務対応報告第19号では次のように扱います。
| 項目 | 社債発行費の取扱い |
|---|---|
| 原則 | 支出時に費用(営業外費用)として処理 |
| 容認 | 繰延資産に計上できる |
| 繰延資産の償却 | 社債の償還までの期間にわたり利息法。継続適用を条件に定額法も可 |
| 主な内容 | 広告費、証券会社等の取扱手数料、目論見書の印刷費、登録免許税など |
社債発行差金は使わない
以前は額面と発行価額の差額を「社債発行差金」として繰延資産にしていましたが、現在は社債の帳簿価額に含めるため計上できません。社債発行費の償却期間は、株式交付費(3年以内)と違い償還までの期間です。
新株予約権付社債の区分法・一括法や、新株予約権の会計処理は次の記事で解説しています。
社債発行費を費用にするか繰延資産にするかは、試験では問題文の指示に従えばOKです。


社債の償却原価法|利息法と定額法を数値例で解説


償却原価法の期間配分は利息法が原則で、継続適用を条件に定額法も認められています(金融商品会計に関する実務指針第126項)。
例1(利息法):X1年4月1日に額面1,000,000円、クーポン年2%(毎年3月31日払い)、償還期限5年の社債を954,203円で発行。実効利子率は年3%、決算日は3月31日です。
| 年度 | 期首帳簿価額 | 社債利息(×3%) | クーポン | 償却額 | 期末帳簿価額 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1年目 | 954,203 | 28,626 | 20,000 | 8,626 | 962,829 |
| 2年目 | 962,829 | 28,885 | 20,000 | 8,885 | 971,714 |
| 3年目 | 971,714 | 29,151 | 20,000 | 9,151 | 980,865 |
| 4年目 | 980,865 | 29,426 | 20,000 | 9,426 | 990,291 |
| 5年目 | 990,291 | 29,709 | 20,000 | 9,709 | 1,000,000 |
償却額は「社債利息-クーポン」です。1年目の利払日(=決算日)の仕訳は(借)社債利息 28,626/(貸)当座預金 20,000・社債 8,626となります。償却額の合計45,797円が、額面と発行価額の差額と一致します。
例2(定額法・期中発行):X1年7月1日に額面2,000,000円を@97円(1,940,000円)で発行。償還期限5年、クーポン年1.5%(6月末・12月末払い)、社債発行費24,000円は繰延資産に計上し定額法で償却。決算日は3月31日です。
| 日付 | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|
| X1年7月1日(発行) | 当座預金 1,940,000/社債発行費 24,000 | 社債 1,940,000/当座預金 24,000 |
| X1年12月31日(利払い) | 社債利息 15,000 | 当座預金 15,000 |
| X2年3月31日(未払利息) | 社債利息 7,500 | 未払社債利息 7,500 |
| X2年3月31日(償却) | 社債利息 9,000 | 社債 9,000 |
| X2年3月31日(発行費) | 社債発行費償却 3,600 | 社債発行費 3,600 |
| X2年4月1日(再振替) | 未払社債利息 7,500 | 社債利息 7,500 |
償却額は差額60,000円×9/60か月=9,000円、発行費は24,000円×9/60=3,600円、未払利息は1〜3月の3か月分です。期末の帳簿価額は1,949,000円です。
2026年10月の金融商品会計基準の改正との関係
ASBJは2026年10月、予想信用損失モデルの導入に伴い金融商品会計基準と実務指針を改正しました。従来の償却原価法は「金利差額調整法」と整理されましたが、金銭債務の会計処理は変わらず、社債は引き続き利息法(原則)・定額法(容認)です。適用は2030年4月1日以後開始する年度からで、日商簿記は早期適用を出題対象にしていません。
割引計算で利息を配分する考え方は、資産除去債務の利息費用と共通です。


利息法は「期首帳簿価額×実効利子率」が出発点です。クーポンと混同しないよう列を分けて書きましょう。
社債の償還|満期償還・買入償還・抽選償還の仕訳


満期償還では、最終年度の償却で帳簿価額が額面金額と一致しているため、例1なら5年目末に(借)社債 1,000,000/(貸)当座預金 1,000,000とするだけで、償還損益は出ません。
買入償還は、満期前に自社の社債を買い入れて消滅させる方法で、帳簿価額と支払額の差額が社債償還損益になります。
例3(買入償還):例1の社債のうち額面400,000円(40%)を、3年目のX3年9月30日に@98円(裸相場)で買入償還し、経過利息6か月分とあわせて当座預金で支払いました。
| 計算の順序 | 金額 | 仕訳 |
|---|---|---|
| ①期首帳簿価額の40% | 971,714×40%=388,686 | (仕訳なし) |
| ②期首から買入日までの償却額 | 9,151×40%×6/12=1,830 | 社債利息 1,830/社債 1,830 |
| ③買入日の帳簿価額 | 388,686+1,830=390,516 | (仕訳なし) |
| ④支払額(裸相場) | 400,000×@98/100=392,000 | 社債 390,516・社債償還損 1,484/当座預金 392,000 |
| ⑤経過利息(4月〜9月) | 400,000×2%×6/12=4,000 | 社債利息 4,000/当座預金 4,000 |
支払額が帳簿価額より多いため、差額1,484円は社債償還損です。残る60%は期末に9,151円×60%=5,491円を償却します。
抽選償還(分割償還)は、毎期一定額を抽選で償還する方法です。定額法では、各期の社債の未償還残高(社債資金の利用割合)に応じて差額を配分します。
| 例4(定額法) | 1年目 | 2年目 | 3年目 |
|---|---|---|---|
| 期中の未償還額面 | 3,000,000 | 2,000,000 | 1,000,000 |
| 利用割合 | 3 | 2 | 1 |
| 差額60,000円の配分(償却額) | 30,000 | 20,000 | 10,000 |
| 年度末の抽選償還 | 1,000,000 | 1,000,000 | 1,000,000 |
| 償還後の帳簿価額 | 1,970,000 | 990,000 | 0 |
例4は額面3,000,000円を2,940,000円で発行し、毎年度末に1,000,000円ずつ償還するケースです。償還損益は出ません。
買入償還は「償却してから比べる」
期首から買入日までの償却を先に行い、買入日の帳簿価額と支払額を比べます。経過利息は社債利息で処理し、償還損益に含めません。利付相場なら支払額から経過利息を除いて計算します。
買入償還は「いつの帳簿価額か」と「何%分か」を最初にメモすると迷いません。
簿記1級の社債の解き方|2級との違いとよくあるミス


簿記2級と簿記1級の社債の違い
日商簿記の出題区分表(2027年4月1日施行)では、発行者側の社債(新株予約権付社債を含む)は1級の範囲に置かれています。2級で学ぶ償却原価法は、投資側の満期保有目的債券の定額法です。
| 論点 | 簿記2級 | 簿記1級 |
|---|---|---|
| 発行者側の社債(発行・利払・償還) | 範囲外 | 範囲内 |
| 償却原価法 | 満期保有目的債券の定額法(投資側) | 利息法・定額法(社債・債券とも) |
| 償還 | なし | 満期・買入・分割・繰上償還、コール・オプション付き、借換 |
| 社債発行費(繰延資産) | なし | 繰延資産の償却として範囲内 |
| 新株予約権付社債 | なし | 範囲内(区分法・一括法) |
解き方のコツとよくあるミス
まず時系列の図(発行日・利払日・決算日・償還日)を書き、月数を数えてから計算しましょう。
| よくあるミス | 対策 |
|---|---|
| 実効利子率ではなくクーポン利率で社債利息を計算 | 償却表に「社債利息」と「クーポン」の列を分ける |
| 利息法の端数処理を指示と違う方法で行う | 問題文の指示に従い、最終年度は額面に合わせて調整 |
| 期中発行の月割を年度単位で計算 | 定額法は発行月から償還月までの総月数で割る |
| 決算日の未払利息を計上し忘れる | 最後の利払日から決算日までの月数を確認 |
| 買入償還で期首帳簿価額のまま損益を計算 | 償却→帳簿価額→損益の順で計算 |
試験で時間を短縮するコツ
- 利息法は年度ごとに「期首帳簿価額→利息→償却→期末帳簿価額」を1行で書く
- 一部償還は、全体の数値を求めてから割合を掛ける
- 定額法の抽選償還は、未償還額面の合計を分母にして配分する
- P/Lの社債利息にはクーポン・未払利息・償却額をすべて含める
利息法を使うリース会計もあわせて確認しておきましょう。


2級の満期保有目的債券を「負債側でやる」と考えると入りやすいです。
社債の実務|管理台帳・未払利息・開示のポイント


実務では銘柄ごとの社債管理台帳を作り、償却原価・利払い・開示の数値をここから出します。会社法の社債原簿とは別に持ちます。
| 社債管理台帳の項目 | 内容・使い道 |
|---|---|
| 銘柄・回号・発行日 | 有価証券報告書の社債明細表の記載単位 |
| 額面総額・発行価額・利率 | 償却原価と利息の計算の基礎 |
| 利払日・償還期限・償還方法 | 利払いスケジュールと流動・固定の区分 |
| 実効利子率・償却方法 | 利息法か定額法か(継続適用) |
| 社債発行費の処理 | 費用処理か繰延資産か、未償却残高 |
| 期末帳簿価額・未払利息 | 試算表・明細表との照合 |
| 財務代理人・格付・財務制限条項 | 支払手続と条項の遵守状況の確認 |
償却原価の計算表は、Excelの償却表を銘柄ごとに作り、月次で按分する会社が多いです。銘柄が多い会社は、金融商品や借入金の管理システムで償却スケジュールと仕訳データを作成し、会計システムに連携します。表の期末残高と総勘定元帳の社債残高を毎月照合することが大切です。
各社債の金額が1億円以上の公募社債では、社債管理者を置かずに財務代理人に元利金の支払事務を委託することが多くあります(会社法第702条ただし書)。利払日前に財務代理人へ資金を送金し、支払完了の報告と仕訳を照合します。月次決算では、最後の利払日からの経過分を未払利息として計上します。
表示と開示では、償還期限が決算日の翌日から1年以内になった社債を固定負債から流動負債へ振り替え、1年内償還予定の社債として表示します。有価証券報告書では、社債明細表(連結附属明細表)や金融商品に関する注記の返済予定額にも同じ数値を使います。
- 財務制限条項(コベナンツ。純資産維持・利益維持など)に抵触しそうなら、早めに財務部門と共有
- 格付の変更は資金調達コストに影響するため、IRや財務部門と情報をそろえる
- 利払いの資金不足を防ぐため、利払日を資金繰り表に登録
社債の月次・決算チェックリスト
- 社債管理台帳の期末帳簿価額と総勘定元帳の社債残高が一致しているか
- 償却方法(利息法・定額法)を前期から継続しているか
- 最後の利払日から決算日までの未払利息を計上したか
- 1年内償還予定の社債を流動負債に振り替えたか
- 社債発行費の未償却残高と償却額が台帳と一致しているか
- 買入償還があれば、償還日までの償却と経過利息を処理したか
- 社債明細表と注記の返済予定額が台帳と一致しているか
実務でよくあるミスは、決算の償却漏れ、1年内償還分の振替漏れ、明細表と貸借対照表の金額の不一致の3つです。
私は決算ごとに「台帳=元帳=明細表」の3点照合をしています。型にすると漏れがなくなります。
まとめ
- 社債は払込金額で計上し、額面との差額は償却原価法で毎期の社債利息に配分する
- 償却原価法は利息法が原則、継続適用を条件に定額法も認められる
- 社債発行費は原則費用、繰延資産なら償還までの期間で利息法(定額法も可)により償却
- 買入償還は、買入日までの償却→帳簿価額→償還損益の順で計算し、経過利息は社債利息
- 実務では社債管理台帳を軸に、未払利息・流動負債への振替・明細表を照合する
まずは例1の償却表を自分で作り、例3まで解けるか確かめてみてください。
社債は型を覚えれば得点源になり、実務の台帳管理にもそのまま使えます。







