「年末調整の計算は終わったけれど、還付金の仕訳や1月の納付はどうする?」「法定調書と給与支払報告書の期限はいつ?」。年末調整は申告書を回収して終わりではなく、経理側の後工程が残ります。
上場企業の経理で会計システムにも関わる私の目線で、年末調整の過不足精算から納付・法定調書の提出までを実務向けに解説します。仕訳・納付期限・預り金の残高照合を中心に、令和8年分(2027年1月の手続き)の期限と変更点も整理しました。
年末調整は「12月の給与で精算して、1月に納付と提出をして、預り金の残高を確認する」までがワンセットです。
- 年末調整後の経理処理の5ステップ
- 年税額の計算の流れと源泉徴収簿の見方(数値例つき)
- 過不足精算(還付・徴収)のルールと還付しきれない場合の対応
- 還付・徴収・納付の仕訳と預り金の残高照合
- 2027年1月の納付期限と法定調書・給与支払報告書の提出期限
年末調整後の経理処理の流れ|5つのステップ


年末調整の申告書を回収し、控除額を確認したあとの流れは次の5ステップです。
年税額と毎月の源泉徴収税額の合計を比べ、過納額は還付、不足額は徴収します。通常は12月の給与か賞与で行います。
還付・徴収を給与仕訳に反映し、預り金(源泉所得税)の残高を確定させます。
所得税徴収高計算書(納付書)に年末調整による超過税額・不足税額を書き、翌年1月に納付します。
源泉徴収票を本人に交付し、法定調書合計表を税務署へ、給与支払報告書を市区町村へ提出します。
納付後に預り金がゼロになるか、給与システムと会計の金額が一致するかを確認します。
| 作業 | 主な担当 | 使うもの |
|---|---|---|
| 年税額の計算・過不足精算 | 給与担当 | 給与システム・源泉徴収簿 |
| 仕訳・残高照合 | 経理担当 | 給与仕訳データ・試算表 |
| 納付 | 経理担当 | 所得税徴収高計算書・e-Tax |
| 法定調書・給与支払報告書 | 給与担当(経理が金額を確認) | e-Tax・eLTAX |
申告書の配付・回収や書類のチェックなど、準備段階の流れは次の記事で解説しています。


給与と経理で担当が分かれる会社ほど、STEP3以降の「誰が金額を確認するか」を決めておくのが大切です。
年末調整の年税額の計算の流れと源泉徴収簿


年末調整では、1年間の給与の総額から年調年税額を計算し、毎月徴収した税額の合計と比べます。国税庁「令和8年分 年末調整のしかた」の手順を整理すると次のとおりです。
| 手順 | 計算の内容 |
|---|---|
| 1 給与と徴収税額の集計 | 1月〜12月の給与・賞与の総額と源泉徴収税額の合計を集計 |
| 2 給与所得控除後の金額 | 令和8年分の「給与所得控除後の給与等の金額の表」に当てはめる(660万円以上は算式) |
| 3 所得控除の合計 | 社会保険料・生命保険料・配偶者・扶養・基礎控除などを合計 |
| 4 課税給与所得金額 | 2-3で計算し、1,000円未満を切捨て |
| 5 算出所得税額 | 「算出所得税額の速算表」で計算し、住宅ローン控除があれば差し引く |
| 6 年調年税額 | 年調所得税額×102.1%(復興特別所得税を含む)。100円未満を切捨て |
給与総額が660万円以上850万円未満なら、給与所得控除後の金額は「給与等の金額×90%-1,100,000円」です。仮の数値で2人分を計算し、源泉徴収簿の形にまとめました。
| 源泉徴収簿の項目 | Aさん(還付) | Bさん(不足) |
|---|---|---|
| 給与・賞与の総額 | 7,200,000円 | 6,800,000円 |
| 給与所得控除後の金額 | 5,380,000円 | 5,020,000円 |
| 所得控除の合計 | 2,160,000円 | 1,660,000円 |
| (うち基礎控除) | 670,000円 | 670,000円 |
| 課税給与所得金額 | 3,220,000円 | 3,360,000円 |
| 算出所得税額 | 224,500円 | 244,500円 |
| 年調年税額(102.1%) | 229,200円 | 249,600円 |
| 源泉徴収税額の合計 | 268,400円 | 231,000円 |
| 差引超過額または不足額 | 超過額 39,200円 | 不足額 18,600円 |
Aさんの所得控除は社会保険料1,050,000円、生命保険料40,000円、地震保険料20,000円、配偶者控除380,000円、基礎控除670,000円です。Bさんは年の途中で子が就職して扶養から外れたため、社会保険料990,000円と基礎控除だけになり、不足額が出ました。
令和8年分は基礎控除と給与所得控除が変わっている
令和8年度税制改正により、基礎控除は合計所得金額489万円以下で104万円、489万円超655万円以下で67万円、655万円超2,350万円以下で62万円になりました。給与所得控除の最低保障額も65万円から74万円に引き上げられています。原則として令和8年12月1日施行・令和8年分から適用のため、12月の年末調整から反映されます。必ず令和8年分の表を使い、給与システムの更新を確認してください。
控除の種類ごとの改正内容は、次の記事でまとめています。


毎月の源泉徴収は改正前の控除額で計算されているので、令和8年分は還付が多めに出ると見込んで資金繰りも確認しておくと安心です。
年末調整の過不足精算|還付と徴収のルール


年調年税額より徴収税額の合計が多ければ過納額(超過額)を還付し、少なければ不足額を徴収します。精算方法には、12月の給与の税額計算を省略する方法と、通常どおり計算したうえで精算する方法があります。
| 項目 | 還付(過納額) | 徴収(不足額) |
|---|---|---|
| 精算のタイミング | 年末調整をした月の給与・賞与 | 年末調整をした月の給与・賞与 |
| 原資・徴収元 | その月に納付する源泉徴収税額から差し引く | その月の給与から差し引く |
| 精算しきれないとき | 翌月以降に納付する源泉徴収税額から順次還付 | その後に支払う給与から順次徴収 |
| 特例 | 税務署から還付(還付請求書を提出) | 徴収繰延べ(翌年1月と2月) |
| 納付書の記入欄 | 年末調整による超過税額 | 年末調整による不足税額 |
還付の原資は、会社がその月に納付する源泉徴収税額(全員分)です。会社が立て替えて還付し、その分を納付額から差し引くイメージです。
還付しきれない場合・不足額が大きい場合
納付する源泉徴収税額に比べて過納額が多額で、還付することとなった日の翌月から2か月を経過しても還付しきれないと見込まれる場合は、「源泉所得税及び復興特別所得税の年末調整過納額還付請求書 兼 残存過納額明細書」に源泉徴収簿の写しと委任状を添付して、所轄税務署に提出します。
反対に、不足額を差し引くと手取りが1月から前月までの平均月額の70%未満になる人は、「年末調整による不足額徴収繰延承認申請書」を提出して承認を受ければ、翌年1月と2月に繰り延べて徴収できます。
中途入社が多い、住宅ローン控除の初年度の人が多いなど、還付が大きくなりそうな年は12月の納付額を先に試算しておきましょう。
年末調整の仕訳|還付・徴収・翌年1月の納付


年末調整の還付・徴収は、預り金(源泉所得税)の増減として処理します。費用科目は使いません。Aさん・Bさんの精算部分だけを取り出すと次のとおりです。
| タイミング | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|
| 12月給与:Aさんへの還付 | 預り金(源泉所得税) 39,200 | 普通預金 39,200 |
| 12月給与:Bさんからの徴収 | 給料手当 18,600 | 預り金(源泉所得税) 18,600 |
| 翌年1月:会社全体の納付 | 預り金(源泉所得税) 985,000 | 普通預金 985,000 |
実際は給与仕訳の中で処理され、還付額は手取りに上乗せ、不足額は手取りから差し引かれて支給されます。会社全体の12月支給分は、所得税徴収高計算書で次のように集計します(仮の数値)。
| 所得税徴収高計算書の項目 | 金額 |
|---|---|
| 12月支給分の給与・賞与の税額 | 1,250,000円 |
| 年末調整による不足税額 | 45,000円 |
| 年末調整による超過税額 | 310,000円 |
| 本税(納付額) | 985,000円 |
本税は「税額+不足税額-超過税額」です。12月末の預り金(源泉所得税)の残高も同じ985,000円になっていれば、精算は正しく帳簿に反映されています。
還付額が納付額を超えると預り金が借方残になる
超過税額がその月の税額を上回ると、納付額は0円になり、預り金は借方残高になります。国税庁の記載例では、過納額172,174円に対して12月の税額が134,282円のため、差額37,892円を翌年1月に繰り越して精算しています。決算期をまたぐ場合は、立替金などの資産科目への振替えも検討してください。
預り金の基本的な仕訳と、残高が合わないときの原因は次の記事で詳しく解説しています。


私は年末調整の月だけ、預り金の補助元帳に「通常分」と「年調精算分」を分けて摘要を入れています。翌月の照合がぐっと楽になります。
源泉所得税の納付と法定調書・給与支払報告書の提出期限


令和8年分の年末調整にかかる主な期限は次のとおりです。法定調書と給与支払報告書の期限は、1月31日が日曜日のため2027年2月1日(月)です。
| 手続き | 提出・納付先 | 期限(2027年) |
|---|---|---|
| 12月支給分の源泉所得税の納付(原則) | 税務署(金融機関・e-Tax) | 1月12日(火)※1月10日が日曜、11日が成人の日 |
| 7月〜12月支給分の納付(納期の特例) | 税務署(金融機関・e-Tax) | 1月20日(水) |
| 源泉徴収票の交付 | 従業員 | 2月1日(月) |
| 法定調書合計表・支払調書 | 税務署 | 2月1日(月) |
| 給与支払報告書 | 1月1日現在の住所地の市区町村 | 2月1日(月) |
| 再年末調整 | 社内(給与計算) | 1月末日まで |
納期の特例は、給与の支給人員が常時10人未満の源泉徴収義務者が承認を受けて使える制度で、7月から12月までの分は翌年1月20日が納付期限です。年末調整で精算した額は、精算した月分の所得税徴収高計算書に記入し、納付税額が0円になっても計算書は提出します。
令和8年分から大きく変わるのが、源泉徴収票のみなし提出の特例です。2027年1月1日以後は、給与支払報告書を市区町村に提出すれば、税務署へ給与所得の源泉徴収票を提出したものとみなされます。
2027年1月からの変更点
- 税務署提出用の源泉徴収票は原則不要。ただし従業員への交付は引き続き必要
- 前々年に提出すべき法定調書が30枚以上なら、e-Tax等による提出が必要(100枚以上から引下げ)
- 前々年の源泉徴収票が30枚以上なら、給与支払報告書もeLTAX等で提出
- 令和9年分以後の源泉徴収では防衛特別所得税(1%)が加わり、復興特別所得税は1.1%に(合計2.1%は変わらない)
みなし提出の特例で作業は減りますが、給与支払報告書の提出漏れがそのまま税務署への提出漏れになります。eLTAXの送信結果は必ず保存しましょう。
預り金の残高照合・システム連携と再年末調整


納付と提出が終わったら、最後に給与システム・会計・納付の金額が一致しているかを確認します。
| 照合する項目 | 一致すべき金額 |
|---|---|
| 預り金(源泉所得税)の12月末残高 | 所得税徴収高計算書の本税 |
| 翌年1月の納付後の残高 | 0円(1月支給分の新たな預り分を除く) |
| 給与システムの年調超過額・不足額 | 計算書の超過税額・不足税額 |
| 源泉徴収簿の支払金額・源泉徴収税額 | 法定調書合計表・給与支払報告書の総括表 |
| 会計の給料手当・賞与の年間合計 | 給与システムの支給総額(未払給与の扱いに注意) |
給与システムから会計システムへ仕訳を連携している場合は、年調精算分が別の仕訳行で連携されるかを事前に確認します。精算額が給与仕訳の手取りに埋もれると、預り金の差額の原因を追えなくなります。
年末調整のあとに扶養親族の異動や保険料の追加申告があった場合は、源泉徴収票を交付する翌年1月末日まで年末調整をやり直せます。1月に精算した額は1月分の計算書に記入するため、納期の特例を受けている会社では1月〜6月分(7月10日納付)に入ります。
| よくあるミス | 防ぎ方 |
|---|---|
| 令和7年分の表のまま計算した | システムの税制改正対応の適用日を確認する |
| 超過税額を差し引かずに全額納付した | 計算書の本税と預り金残高を突き合わせる |
| 還付額を費用科目で処理した | 精算は預り金で処理するルールを決める |
| 中途入社の前職分を入れ忘れた | 前職の源泉徴収票の回収状況を一覧で管理する |
| 再年末調整の精算を1月の計算書に書き忘れた | 再調整した人と金額を一覧に残す |
年末調整の経理チェックリスト
- 令和8年分の基礎控除・給与所得控除がシステムに反映されているか
- 過納額・不足額の合計が給与システムと計算書で一致しているか
- 12月末の預り金残高が1月の納付額と一致しているか
- 還付しきれない額や徴収繰延べの対象者を把握しているか
- 納付期限(原則1月12日、納期の特例1月20日)を予定に入れたか
- 源泉徴収票の交付と法定調書・給与支払報告書の提出を2月1日までに終えたか
- e-Tax・eLTAXの提出義務(30枚基準)を確認したか
私は1月の月次決算で「預り金ゼロ確認」をチェック項目にしています。ここで差額が出なければ、年末調整の経理処理はほぼ問題ありません。
まとめ
- 年末調整後は、過不足精算・仕訳・納付・法定調書・残高照合の5ステップで進める
- 年調年税額は、給与所得控除後の金額から所得控除を引き、速算表と102.1%で計算する
- 還付・徴収は預り金(源泉所得税)で処理し、本税=税額+不足税額-超過税額で納付する
- 2027年は納付が原則1月12日・納期の特例1月20日、法定調書と給与支払報告書は2月1日が期限
- 源泉徴収票のみなし提出の特例とe-Tax等の30枚基準を確認し、預り金の残高ゼロを確かめる
まずは12月の給与で発生する超過税額・不足税額の合計を試算し、1月の納付額と預り金の残高を表にまとめてみてください。
年末調整は毎年の改正に目が向きがちですが、経理の後工程を型にしておくと、毎年同じ手順で安心して締められます。
