「企業型DCを導入するが、経理は何をすればいい?」「iDeCoの給与天引きはどの科目?」。確定拠出年金は人事・給与・経理にまたがり、担当があいまいになりがちな制度です。
今回は、確定拠出年金(企業型DC・iDeCo)の経理処理を実務向けに解説します。仕訳・給与計算・税務・毎月の手順を中心に、2026年12月施行予定の限度額引上げも整理しました。
仕訳自体はシンプルです。つまずくのは「誰の掛金か」「いつ、どの口座から納付するか」の整理です。
- 企業型DC・マッチング拠出・選択制DC・iDeCo・iDeCo+の違い
- 拠出限度額と2026年の制度改正(12月施行予定の引上げを含む)
- 確定拠出制度の会計処理(要拠出額の費用処理・未払金・注記)
- 事業主掛金・マッチング拠出・選択制DC・iDeCoの仕訳例
- 税務・社会保険・年末調整と毎月の実務フロー
確定拠出年金とは?企業型DC・iDeCo・iDeCo+の違い


確定拠出年金(DC)は、拠出した掛金とその運用益の合計で将来の給付額が決まる年金制度です。会社が掛金を出す企業型DCと、本人が出すiDeCo(個人型)があり、経理は「誰が負担し、誰が納付するか」を押さえます。
| 制度 | 掛金の負担者 | 税務 | 経理処理 |
|---|---|---|---|
| 企業型DC(事業主掛金) | 会社 | 損金算入・従業員は非課税 | 退職給付費用(または福利厚生費) |
| マッチング拠出 | 従業員(会社掛金に上乗せ) | 小規模企業共済等掛金控除 | 給与天引き→預り金→会社が納付 |
| 選択制DC | 会社(給与の一部を掛金に振替え) | 損金算入・給与課税なし | 退職給付費用。給与は減額後で計上 |
| iDeCo(事業主払込) | 従業員 | 小規模企業共済等掛金控除 | 給与天引き→預り金→会社口座から納付 |
| iDeCo(個人払込) | 従業員 | 小規模企業共済等掛金控除 | 会社の仕訳なし(年末調整のみ) |
| iDeCo+ | 会社と従業員 | 会社掛金は損金算入 | 会社掛金は費用、従業員分は預り金 |
iDeCo+(中小事業主掛金納付制度)は、企業年金を実施していない従業員300人以下の中小企業が、iDeCoに加入している従業員の掛金に上乗せして拠出する制度です。加入者掛金と事業主掛金は、事業主がとりまとめて納付します。
まず自社に「どの制度が何人分」あるかを一覧にしましょう。DC加入者とiDeCo事業主払込の人の混在はよくあります。
確定拠出年金の拠出限度額と2026年の制度改正


2026年11月分までの拠出限度額(月額)は次のとおりです(厚生労働省「確定拠出年金制度の概要」)。
| 区分 | 拠出限度額(月額) |
|---|---|
| 企業型DC(DB等の他制度なし) | 55,000円 |
| 企業型DC(DB等の他制度あり) | 55,000円-他制度掛金相当額 |
| iDeCo:第1号被保険者(自営業者等) | 68,000円(国民年金基金等と合算) |
| iDeCo:会社員で企業年金なし | 23,000円 |
| iDeCo:会社員で企業年金あり | 20,000円(事業主掛金・他制度掛金相当額との合計55,000円以内) |
| iDeCo:第3号被保険者 | 23,000円 |
2024年12月1日施行の見直しで、DB等の他制度掛金相当額が限度額の計算に反映され、DB加入者のiDeCo上限は12,000円から20,000円に引き上げられました。同時に、会社員がiDeCoに加入するときの事業主証明書は廃止されています(事業主払込を選ぶ場合は引き続き事業主の証明が必要)。
令和7年の年金制度改正法(2025年6月成立)により、次の改正が順次施行されています。
| 項目 | 内容 | 施行日 |
|---|---|---|
| マッチング拠出の制限撤廃 | 加入者掛金が事業主掛金を超えられない制限を撤廃 | 2026年4月1日 |
| 自動移換の説明時期 | 資格喪失が見込まれるときに事業主が説明 | 2026年4月1日 |
| 企業型DCの限度額 | 55,000円→62,000円(他制度ありは62,000円-他制度掛金相当額) | 2026年12月1日(予定) |
| 会社員のiDeCo | 企業年金の有無で分けず、62,000円から事業主掛金・他制度掛金相当額を控除 | 2026年12月1日(予定) |
| 第1号被保険者のiDeCo | 68,000円→75,000円(国民年金基金等と合算) | 2026年12月1日(予定) |
| iDeCoの加入可能年齢 | 一定の要件で60歳以上70歳未満まで加入可能に | 2026年12月1日(予定) |
たとえばDBの他制度掛金相当額が25,000円なら、企業型DCの限度額は30,000円から37,000円に、事業主掛金15,000円の人のiDeCo上限は20,000円から47,000円になります(仮の数値)。
規約の書き方で自動的に上がるかが変わる
厚生労働省の事務連絡(令和8年7月13日)によると、規約で限度額を政令から引用していれば規約変更なしで62,000円に上がり、「5.5万円」と金額で書いていれば規約変更が必要です。2024年12月改正の経過措置(27,500円)を適用中の他制度加入者は27,500円のままです。上限マスタの更新前に規約を確認してください。
12月施行は年末調整と重なります。上限マスタの更新日を年間スケジュールに入れておくと安心です。
確定拠出年金の会計処理|要拠出額の費用処理と注記


企業会計基準第26号「退職給付に関する会計基準」では、確定拠出制度は当該制度に基づく要拠出額をもって費用処理し、未拠出の額は未払金として計上するとされています(第31項)。費用は退職給付費用に含めて計上します(第32項)。
| 項目 | 確定給付制度(DB等) | 確定拠出制度(DC) |
|---|---|---|
| 費用 | 勤務費用・利息費用・数理差異の償却など | その期の要拠出額 |
| 負債 | 退職給付引当金(退職給付に係る負債) | 未拠出分のみ未払金 |
| 数理計算 | 必要 | 不要 |
| 注記 | 退職給付債務の期首・期末調整表など | 制度の概要・確定拠出制度に係る退職給付費用の額 |
注記は、企業の採用する確定拠出制度の概要と確定拠出制度に係る退職給付費用の額などです(第32-2項)。制度別に集計できるよう補助科目を分けておくと決算が楽です。
DBや退職一時金からDCへ移行するとき
企業会計基準適用指針第1号「退職給付制度間の移行等に関する会計処理」では、DBの全部または一部をDCに移換すると「退職給付制度の終了」に該当し、終了部分の退職給付債務と移換額の差額を損益として認識し、原則として特別損益に純額で表示します(第10項・第11項・第22項)。退職一時金からの分割移換も、移換額の確定時に終了の処理をし、未移換額は未払金等で計上します(第23項)。
移行の処理は金額が大きく、監査法人との事前協議が必須です。退職給付会計の基本は次の記事も参考にしてください。


確定拠出年金の仕訳例|事業主掛金・マッチング拠出・選択制DC・iDeCo


仮の数値で確認します。企業型DCの加入者40人、事業主掛金は1人12,500円で月500,000円、マッチング拠出16人の加入者掛金が月120,000円です。
事業主掛金とマッチング拠出の仕訳
掛金は月単位で発生し、拠出期間の翌月末日までに規約で定める日に納付します。当月分を未払金で計上し、翌月の納付で消し込みます。
| タイミング | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|
| 10月の給与支給(加入者掛金を天引き) | 給料手当 120,000 | 預り金(DC加入者掛金) 120,000 |
| 10月末(事業主掛金の計上) | 退職給付費用 500,000 | 未払金 500,000 |
| 11月の納付日 | 未払金 500,000/預り金 120,000 | 普通預金 620,000 |
| 手数料の引落し | 支払手数料 33,000 | 普通預金 33,000 |
1行目は給与仕訳のうち加入者掛金の部分です。運営管理機関などの手数料(月33,000円と仮定)は、会社負担なら支払手数料などで処理します。
選択制DCの仕訳
月給300,000円のうち20,000円を掛金に振り替える場合、「(借)給料手当 280,000/(貸)普通預金など 280,000」と「(借)退職給付費用 20,000/(貸)未払金 20,000」です。給与を300,000円のまま計上しないよう注意します。
iDeCo(事業主払込)の仕訳
iDeCoの「事業主払込」では、会社は預かって納付するだけです。6人分、月60,000円の例です。
| タイミング | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|
| 10月の給与支給 | 給料手当 60,000 | 預り金(iDeCo) 60,000 |
| 11月26日(口座振替) | 預り金(iDeCo) 60,000 | 普通預金 60,000 |
iDeCoの掛金は翌月26日(休業日は翌営業日)に口座振替されます。3月決算なら、3月末には事業主掛金の未払金500,000円と、DC加入者掛金とiDeCoの預り金180,000円が残ります。
預り金はDC加入者掛金とiDeCoで補助科目を分けるのがおすすめです。「残高=当月天引き額」を見れば納付漏れに気づけます。


確定拠出年金の税務と給与計算|損金算入・掛金控除・社会保険


税務の取扱いは制度ごとに整理できます。企業型DCの事業主掛金は全額損金算入(法人税法施行令135条)で、従業員の給与所得の収入金額にも含まれません(所得税法施行令64条)。
一方、マッチング拠出の加入者掛金とiDeCoの掛金は、小規模企業共済等掛金控除の対象です(所得税法75条)。給与から天引きする場合は、その月の源泉徴収税額を計算するときに社会保険料と同じように差し引きます(所得税法188条)。
たとえば月給300,000円、社会保険料43,500円、加入者掛金5,000円なら、源泉徴収税額表に当てはめる金額は251,500円です(仮の数値)。
| 掛金の種類 | 源泉徴収 | 年末調整 | 確認書類 |
|---|---|---|---|
| DC加入者掛金(給与天引き) | 控除後の金額で計算 | 給与システムの年間合計で控除 | 不要 |
| iDeCo(事業主払込) | 控除後の金額で計算 | 給与システムの年間合計で控除 | 不要(払込証明書は発行されない) |
| iDeCo(個人払込) | 影響なし | 申告書の金額で控除 | 小規模企業共済等掛金払込証明書 |
事業主払込の人は払込証明書が届きません。天引き分は集計済みなので、申告書に二重に書かないよう案内しましょう。
選択制DCの社会保険への影響
選択制DCで掛金に回した部分は給与ではないため、社会保険料の対象外です。月給300,000円のうち20,000円を掛金にすると、標準報酬月額は300,000円から280,000円に下がります。
| 項目(年間・仮の数値) | 金額 |
|---|---|
| 掛金に振り替えた給与 | 240,000円 |
| 社会保険料(本人負担、料率14.5%と仮定)の減少 | 34,800円 |
| 所得税・住民税(合計20%と仮定)の減少 | 41,040円 |
| 手取りの減少 | 164,160円(その分240,000円がDC資産に) |
選択制DCは従業員への説明が義務
厚生労働省の法令解釈通知では、社会保険・雇用保険等の給付額への影響も含めて、事業主が従業員に正確に説明する必要があるとされています。将来の厚生年金や傷病手当金などが減る場合があるため、説明資料と同意の記録を残しましょう。


確定拠出年金の実務|毎月の流れ・入退社・年末調整のチェック


企業型DCの毎月の流れは次の5ステップです。
人事から加入者一覧と掛金額を受け取り、限度額以内かを確認します。
加入者掛金とiDeCo(事業主払込)を天引きし、源泉徴収に反映します。
記録関連運営管理機関へ加入者ごとの掛金額を通知します。
事業主掛金を未払金で計上し、預り金を天引き額と照合します。
納付日の残高を確保し、引落し後に消し込みます。
私はSTEP4の照合を月次決算のチェック項目にしています。差額の原因は、ほぼ入退社か掛金変更の連絡漏れです。
入退社時の対応は次のとおりです。
| 場面 | 経理・給与の対応 |
|---|---|
| 入社 | 資格取得日と初回掛金の月を確認。前職のDC資産の移換を案内 |
| 退職 | 最終月の掛金と天引きを確認。iDeCo事業主払込なら引落停止依頼書(K-012)を提出 |
| 休職 | iDeCo事業主払込で天引きできない場合は、個人払込へ変更 |
| 勤続3年未満の退職 | 規約に定めがあれば、事業主掛金相当の返還資産額を会社に返還 |
退職者の自動移換に注意
資格喪失から6か月以内に移換などの手続きをしないと、資産は国民年金基金連合会へ自動移換され、運用されないまま管理手数料がかかります。2026年4月から事業主は資格喪失が見込まれる時点での説明が必要なので、退職案内に移換方法を入れましょう。
また、事業主報告書を毎事業年度終了後3か月以内に記録関連運営管理機関経由で提出します(確定拠出年金法施行規則27条)。掛金の状況は経理の集計値と突き合わせます。
確定拠出年金の経理チェックリスト
- 事業主掛金の未払金と翌月の納付額が一致しているか
- 預り金(DC加入者掛金・iDeCo)の残高が当月天引き額と一致しているか
- 加入者掛金を小規模企業共済等掛金として源泉徴収計算に反映しているか
- 選択制DCの給与を減額後の金額で計上し、社会保険の算定に反映しているか
- 拠出限度額のマスタが規約と改正内容に合っているか
- 退職者の掛金停止と移換の案内をしたか
- 決算で確定拠出制度に係る退職給付費用を集計し、注記に反映したか
よくあるミスは、退職者の掛金の止め忘れ、iDeCo事業主払込分の年末調整での二重控除、選択制DCの減額前給与での社会保険届出です。
まとめ
- 確定拠出年金は、掛金の負担者と納付者で経理処理が決まる
- 要拠出額を退職給付費用で処理し、未拠出分は未払金。引当金は不要
- 加入者掛金とiDeCo事業主払込は預り金で管理し、掛金控除を源泉徴収と年末調整に反映する
- 選択制DCは給与を減額後で計上し、社会保険への影響を従業員に説明する
- 2026年12月1日施行予定の拠出限度額引上げに合わせて、規約と給与システムの上限を確認する
まずは自社の制度一覧と、毎月の掛金・預り金・未払金の動きを一枚の表にまとめてみてください。
確定拠出年金は、一度整理すれば毎月同じ作業の繰り返しです。改正の多い年こそ、マスタと規約の確認を習慣にしましょう。








