「決算で在庫の評価損を計上するように言われたが、正味売却価額をどう見積もればいいかわからない」「会計で評価損を計上したら、税務では否認されると聞いた」。棚卸資産の評価減は、毎期の決算で経理担当者が悩みやすいテーマです。
この記事では、棚卸資産の評価減(収益性の低下による簿価切下げ)を実務向けに解説します。理論は最小限にして、計算・仕訳・税務調整・社内ルールの作り方を中心にまとめました。
評価減は「いくら下げるか」の根拠づくりが一番大変です。計算の型と社内ルールを先に決めておくと、毎期の決算がぐっと楽になります。
- 棚卸資産の評価減の基本(正味売却価額・再調達原価・滞留品の処理)
- 評価損の表示区分と棚卸減耗損との違い
- 数値例で見る評価損の計算と仕訳、洗替え法と切放し法の違い
- 法人税での評価損の扱いと申告調整・税効果
- 滞留在庫の抽出、社内基準、決算での手順とチェックリスト
棚卸資産の評価減とは?収益性の低下による簿価切下げの基本


企業会計基準第9号「棚卸資産の評価に関する会計基準」では、通常の販売目的で保有する棚卸資産は取得原価で評価し、期末の正味売却価額が取得原価を下回る場合は正味売却価額まで切り下げるとされています(第7項)。差額は当期の費用です。これが一般に「棚卸資産の評価減」「評価損」と呼ばれる処理です。
売れる見込みの金額が原価を下回るなら、その損失を当期で認識する考え方です。
| 用語 | 意味 | 実務での使いどころ |
|---|---|---|
| 正味売却価額 | 売価-見積追加製造原価-見積販売直接経費 | 原則の比較対象 |
| 再調達原価 | 購買市場の時価+購入付随費用(最終仕入原価を含む) | 原材料などで継続適用を条件に容認 |
| 処分見込価額 | 廃棄・処分時に見込まれる価額(ゼロや備忘価額を含む) | 営業循環過程から外れた滞留品 |
| 規則的な切下げ | 一定の回転期間を超えたら帳簿価額を規則的に下げる | 滞留品の価額の見積りが難しい場合 |
売価に市場価格がない場合は、期末前後の販売実績や契約で決まった売価など合理的に算定された価額を使います(第8項)。また、判断と切下げは原則として個別品目ごとに行い、複数品目をまとめる方が適切な場合は継続適用を条件に認められます(第12項)。
前期に切り下げた金額は、当期に戻し入れる洗替え法と、戻し入れない切放し法のどちらかを棚卸資産の種類ごとに選び、継続して適用します(第14項)。
売価還元法でも評価減は必要
売価還元法を採用していても、期末の正味売却価額が帳簿価額より下がっていれば切り下げます。値下額などが売価に適切に反映されている場合は、値下額・値下取消額を除いた原価率(売価還元低価法の原価率)で計算した金額を、簿価切下げ後の価額とみなせます(第13項)。
最初は「品目ごとに比べる」「正味売却価額は経費を引いた後の金額」の2点を押さえれば十分です。


評価損の表示区分と棚卸減耗損との違い


収益性の低下による簿価切下額(洗替え法なら戻入額と相殺した後の額)は、次のように表示します(第17項)。
- 原則:売上原価
- 製造に関連して不可避的に発生する場合:製造原価
- 臨時の事象(重要な事業部門の廃止、災害損失の発生など)に起因し、かつ多額:特別損失
特別損失に計上した場合は、洗替え法を採用していても戻入れをしてはいけません。また、簿価切下額は注記するか、売上原価等の内訳項目として独立掲記します(重要性が乏しい場合を除く、第18項)。
よく混同されるのが棚卸減耗損です。違いを整理しておきましょう。
| 比較項目 | 棚卸減耗損 | 評価損(収益性の低下) |
|---|---|---|
| 何が減るか | 数量(帳簿数量>実地数量) | 価値(正味売却価額<帳簿価額) |
| 主な原因 | 紛失・盗難・破損・記帳漏れ | 市場価格の下落・陳腐化・滞留 |
| 計算 | (帳簿数量-実地数量)×原価 | (帳簿単価-正味売却価額)×実地数量 |
| わかる手段 | 実地棚卸 | 売価・販売実績の調査、滞留分析 |
両方ある場合は、先に棚卸減耗損を計算し、残った実地数量に対して評価損を計算するのが基本です。順番を逆にすると、なくなった在庫まで評価してしまいます。
棚卸差異の原因調査と評価減の判定は、担当部署が違うことが多いです。決算スケジュール上、どちらを先に確定させるか決めておきましょう。
棚卸資産の評価減の計算と仕訳|数値例で確認


商品4品目の期末評価で計算します(数値はすべて仮の数値)。品目Dは1年以上出荷がない滞留品で、処分見込価額で評価します。
| 品目 | 数量 | 帳簿単価 | 正味売却価額 | 評価損 | 期末簿価 |
|---|---|---|---|---|---|
| A | 1,000個 | 800円 | 950円(売価1,000-経費50) | 0円 | 800,000円 |
| B | 500個 | 1,200円 | 1,000円(売価1,100-経費100) | 100,000円 | 500,000円 |
| C | 300個 | 2,000円 | 1,350円(売価1,500-経費150) | 195,000円 | 405,000円 |
| D(滞留) | 200個 | 500円 | 50円(処分見込価額) | 90,000円 | 10,000円 |
| 合計 | - | - | - | 385,000円 | 1,715,000円 |
帳簿価額の合計2,100,000円に対して、評価損は385,000円、期末の貸借対照表価額は1,715,000円です。品目Aは正味売却価額が原価を上回るので切り下げません。品目ごとに比べることで、Aの含み益とBの損失を相殺しないようにします。
期末の仕訳と翌期の処理
| タイミング | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|
| 当期末(評価損の計上) | 売上原価(商品評価損)385,000 | 商品 385,000 |
| 翌期首(洗替え法の戻入れ) | 商品 385,000 | 売上原価(商品評価損戻入)385,000 |
評価損は売上原価の内訳として計上するため、科目名は「商品評価損」を使い、損益計算書で売上原価に含めるのが一般的です。切放し法なら翌期首の戻入れ仕訳は不要です。
翌期末に品目Cが300個残っており、正味売却価額が1,600円に回復した場合で比べてみます。
| 比較項目 | 洗替え法 | 切放し法 |
|---|---|---|
| 前期の切下額 | 期首に戻し入れる | 戻し入れない |
| 翌期末の比較対象 | 取得原価2,000円 | 切下げ後の簿価1,350円 |
| 翌期末の評価損 | (2,000-1,600)×300=120,000円 | 1,600円>1,350円のため0円 |
| 翌期の損益への影響 | 戻入195,000-評価損120,000=75,000円の利益 | 0円 |
| 翌期末の簿価 | 480,000円 | 405,000円 |
洗替え法は売価が回復すると利益が出る
洗替え法は毎期、取得原価と比べ直すため、売価の回復が損益に表れます。切放し法は簿価が下がったまま固定されるので、事務はシンプルです。
在庫システムで単価を直接書き換えるなら切放し法、会計側で評価損だけを別管理するなら洗替え法が運用しやすい傾向があります。


法人税での棚卸資産の評価損|損金算入の要件と申告調整


法人税では、資産の評価換えによる評価損は原則として損金不算入です(法人税法33条1項)。会計で評価損を計上しても、税務上そのまま損金になるとは限りません。
| ケース | 損金算入 | 根拠 |
|---|---|---|
| 低価法を選定している | 期末時価(正味売却価額)との差額まで損金 | 法人税法施行令28条、法人税基本通達5-2-11 |
| 原価法で、物損等の事実がある | 損金経理を条件に時価との差額まで損金 | 法人税法33条2項、施行令68条1項1号 |
| 原価法で、単なる時価の下落 | 損金不算入(申告調整で加算) | 法人税基本通達9-1-6 |
物損等の事実は、災害による著しい損傷、著しい陳腐化、これらに準ずる特別の事実です(施行令68条1項1号)。陳腐化の例は、売れ残った季節商品が今後通常の価額で販売できないことが明らかな場合や、型式・性能などが著しく異なる新製品の発売で通常の方法で販売できなくなった場合です(基本通達9-1-4)。準ずる事実には、破損・型崩れ・たなざらし・品質変化などで通常の方法で販売できなくなったことが含まれます(基本通達9-1-5)。
物価変動や過剰生産だけでは損金にならない
時価が単に物価変動、過剰生産、建値の変更などで下がっただけでは、評価損を計上できる事実に当たりません(基本通達9-1-6)。原価法の会社では、会計上の評価損の多くが申告調整の対象になります。
低価法は、評価方法の届出(設立時など)や変更承認申請で選定します。変更承認申請は、新しい方法を採用する事業年度開始の日の前日までに提出が必要です(施行令30条2項)。届出をしていない場合の法定評価方法は、最終仕入原価法による原価法です(施行令31条1項)。
申告調整と税効果の数値例
先ほどの評価損385,000円を、原価法の会社で税務調整します(実効税率30%、繰延税金資産の回収可能性ありと仮定)。
| 項目 | 全額が単なる時価下落 | 品目Dが破損で販売不可の場合 |
|---|---|---|
| 別表四の加算(留保) | 385,000円 | 295,000円 |
| 将来減算一時差異 | 385,000円 | 295,000円 |
| 繰延税金資産 | 115,500円 | 88,500円 |
税効果の仕訳は「(借)繰延税金資産 115,500/(貸)法人税等調整額 115,500」です。洗替え法なら翌期に前期の加算額を減算し、当期分をあらためて加算します。切放し法なら、その商品を販売・廃棄した期に減算します。たとえば品目Cを翌期に販売すれば、195,000円を減算し、繰延税金資産58,500円を取り崩します。
損金算入を狙うなら、破損や陳腐化の事実を写真・販売実績・廃棄見積りなどで残しておくことが大切です。税務調査で一番聞かれるところです。


評価減の実務|滞留在庫の抽出・社内基準・システム運用


滞留在庫リストで対象を抽出する
まず在庫システムから、品目別に最終入庫日・最終出庫日・期末数量・帳簿単価・直近の販売単価・回転期間を出力します。回転期間は「期末在庫÷月平均出庫数量」で計算し、長い順に並べると滞留品が一目でわかります。
正味売却価額の根拠は、次の順で用意すると説明しやすくなります。
- 期末前後の販売実績(値引き後の実売価格)
- 取引先との契約価格や見積書
- 値下げ・セール予定の売価、販売手数料や運賃の見積り
- 廃棄業者・買取業者の処分見積り(滞留品)
滞留月数に応じた社内基準を作る
滞留品は個別に売価を見積もるのが難しいため、基準第9項の規則的に帳簿価額を切り下げる方法を社内ルールにする会社が多くあります。例を示します。
| 最終出庫からの経過 | 切下げ率の例 | 運用のポイント |
|---|---|---|
| 6か月未満 | 0% | 通常の正味売却価額で判定 |
| 6か月以上12か月未満 | 25% | 販売計画を営業部門に確認 |
| 12か月以上24か月未満 | 50% | 値下げ・処分の方針を決める |
| 24か月以上 | 100%(備忘価額) | 廃棄・売却を検討 |
たとえば簿価400,000円の品目Eが15か月滞留していれば、200,000円を切り下げます。率は過去の処分実績と比べて妥当か、毎年見直すことが大切です。
在庫システムと会計システムの連携
評価損は、在庫システムで単価を書き換える方法と、会計システムで仕訳だけを計上する方法があります。品目別の評価損明細は在庫側で持ち、会計には合計額を1本の仕訳で連携し、明細と残高を毎期照合する形が管理しやすいです。
社内基準の切下げ率は、期末になる前に監査法人とすり合わせておくと、決算での手戻りを防げます。
実務でよくあるミス
- 棚卸減耗を反映する前の帳簿数量で評価損を計算してしまう
- 品目をまとめて比較し、含み益で評価損を相殺してしまう
- 正味売却価額から販売直接経費を引き忘れる
- 洗替え法なのに翌期首の戻入れ仕訳を忘れ、評価損を二重に計上する
- 会計の評価損をそのまま損金にして、申告調整が漏れる
決算での棚卸資産評価減の手順とチェックリスト


年度決算では、次の5つの手順で進めます。四半期決算でも同じ流れで、簡便的に前期末の切下げ率を使う場合はその旨を記録しておきます。
実地数量を確定し、棚卸減耗損を先に計上します。評価の基礎となる数量をそろえます。
在庫システムから最終出庫日・回転期間などを出力し、評価対象の候補を抽出します。
販売実績・契約価格・処分見積りをもとに、品目ごとに正味売却価額を算定します。
品目別に帳簿価額と比べ、評価損を計上します。洗替え法なら期首の戻入れも確認します。
損金算入できる事実の有無を判定し、申告調整と税効果を計算します。注記や表示区分も確認します。
監査対応では、評価損明細・滞留在庫リスト・売価の根拠資料・社内基準・前期との増減分析をセットで用意します。大きく増減した品目は理由を添えておくと、質問が減ります。
棚卸資産の評価減チェックリスト
- 棚卸減耗を反映した実地数量で評価しているか
- 正味売却価額から見積販売直接経費を控除しているか
- 原則として品目ごとに比較しているか
- 滞留品の切下げ率は社内基準どおりか、基準を毎年見直しているか
- 洗替え法・切放し法を継続適用しているか
- 表示区分(売上原価・製造原価・特別損失)は適切か
- 税務上の損金算入可否を判定し、申告調整と税効果を反映したか
評価減は、在庫部門・営業部門・経理の共同作業です。経理が根拠資料のフォーマットを用意しておくと、毎期の作業がスムーズに回ります。
まとめ
- 棚卸資産の評価減は、期末の正味売却価額が取得原価を下回るときに簿価を切り下げる処理
- 正味売却価額は売価から見積追加製造原価と見積販売直接経費を引いて計算し、原則として品目ごとに比べる
- 簿価切下額は原則として売上原価、臨時かつ多額なら特別損失。棚卸減耗損を先に計算する
- 法人税では低価法を選定していなければ原則損金不算入で、加算・留保と税効果を忘れずに
- 滞留在庫リストと社内基準を整備し、根拠資料をそろえて毎期同じ手順で運用する
まずは自社の在庫データで滞留在庫リストを作り、社内基準の切下げ率が実態に合っているか確認してみてください。
ルールと根拠資料がそろえば、評価減は「毎期の悩み」から「決まった作業」に変わります。








