「損益分岐点の公式は覚えたのに、1級の問題になると手が止まる」「多品種や固変分解が出ると、どこから計算すればいいかわからない」。1級の工業簿記・原価計算でよく聞く悩みです。
この記事では、CVP分析(損益分岐点分析)を簿記1級の論点と実務の両面から解説します。公式の意味を理解し、数値例で手を動かすことを重視しました。
CVP分析は、試験だけでなく予算や事業計画でも毎年使う考え方です。公式の丸暗記ではなく「なぜそうなるか」を押さえましょう。
- CVP分析の意味と前提条件
- 損益分岐点・安全余裕率・経営レバレッジ係数の公式と数値例
- 簿記2級との出題範囲の違い
- 簿記1級の論点(最小二乗法・多品種・税引後利益・感度分析)
- 解き方の手順と、予算・月次管理での実務の使い方
CVP分析とは?原価・営業量・利益の関係と前提


CVP分析とは、原価(Cost)・営業量(Volume)・利益(Profit)の関係を分析する手法です。損益分岐点分析とも呼ばれ、「いくら売れば赤字にならないか」「目標利益にはどれだけの売上が必要か」を計算します。
ポイントは、原価を変動費(営業量に比例して増える原価)と固定費(営業量に関係なく一定の原価)に分けることです。売上高から変動費を引いた貢献利益で固定費を回収し、残りが営業利益になると考えます。
CVP分析は、次のような前提を置いて計算します。
- 原価を変動費と固定費に分解できる(固変分解)
- 販売単価・単位当たり変動費・固定費は、一定の範囲内で変わらない
- 生産量と販売量が等しい(在庫の増減を考えない)
- 単一製品、または複数製品でもセールス・ミックスが一定
前提が崩れると、公式の答えも現実とずれます。実務で使うときほど、この前提を意識しておきましょう。
損益分岐点の公式|貢献利益・安全余裕率・経営レバレッジを数値例で計算


まず、基本の公式を整理します。
| 指標 | 公式 |
|---|---|
| 貢献利益 | 売上高-変動費 |
| 貢献利益率 | 貢献利益÷売上高 |
| 損益分岐点売上高 | 固定費÷貢献利益率 |
| 損益分岐点販売量 | 固定費÷単位当たり貢献利益 |
| 目標利益達成売上高 | (固定費+目標営業利益)÷貢献利益率 |
| 安全余裕率 | (売上高-損益分岐点売上高)÷売上高 |
| 損益分岐点比率 | 損益分岐点売上高÷売上高(安全余裕率と足して100%) |
| 経営レバレッジ係数 | 貢献利益÷営業利益 |
数値例で計算してみる
販売単価1,000円、単位当たり変動費600円、固定費2,000,000円、販売量8,000個の製品で計算します(数値はすべて仮の数値です)。
| 項目 | 計算 | 結果 |
|---|---|---|
| 売上高・変動費 | 1,000円×8,000個、600円×8,000個 | 8,000,000円・4,800,000円 |
| 貢献利益・営業利益 | 8,000,000-4,800,000、3,200,000-2,000,000 | 3,200,000円・1,200,000円 |
| 貢献利益率 | 400円÷1,000円 | 40% |
| 損益分岐点 | 2,000,000÷40%、2,000,000÷400円 | 5,000,000円・5,000個 |
| 目標営業利益1,600,000円 | (2,000,000+1,600,000)÷40% | 9,000,000円 |
| 安全余裕率・損益分岐点比率 | (8,000,000-5,000,000)÷8,000,000 | 37.5%・62.5% |
| 経営レバレッジ係数 | 3,200,000÷1,200,000 | 約2.67 |
経営レバレッジ係数が約2.67なら、売上高が10%増えると営業利益は約26.7%増えるという意味です(1,200,000円→1,520,000円)。
安全余裕率と損益分岐点比率はセットで覚える
安全余裕率は「売上がどれだけ減っても赤字にならないか」、損益分岐点比率は「今の売上のうち何%で固定費を回収できるか」を表します。2つを足すと必ず100%になるので、検算にも使えます。
経営レバレッジ係数が大きいほど、売上の増減で利益が大きく振れます。固定費の多い会社ほど高くなる点も覚えておきましょう。
簿記1級と簿記2級のCVP分析の違い|出題区分表で確認


日本商工会議所の出題区分表(工業簿記・原価計算)では、CVP分析と関連する論点が2級と1級に分かれています。2026年10月時点で、2027年度試験も工業簿記・原価計算の区分表は2022年度版から変更なしと公表されています。
| 論点 | 簿記2級 | 簿記1級 |
|---|---|---|
| 損益分岐図表・損益分岐分析の計算 | 出題範囲 | より複雑な条件で出題 |
| CVPの感度分析 | - | 出題範囲 |
| 多品種製品のCVP分析 | - | 出題範囲 |
| 全部原価計算の損益分岐分析 | - | 出題範囲 |
| 原価予測(費目別精査法・高低点法) | 出題範囲 | 出題範囲 |
| 原価予測(スキャッター・チャート法・回帰分析法) | - | 出題範囲 |
| 直接原価計算(意義・記帳・固定費調整) | 出題範囲 | 出題範囲 |
| 直接標準原価計算・価格決定・事業部の業績測定など | - | 出題範囲 |
| 差額原価収益分析(業務的意思決定) | - | 出題範囲 |
区分表には「級の上昇に応じて程度も高くなる」という注記があります。つまり、2級は単一製品の基本計算、1級は条件を変えた応用と意思決定とのつながりが中心です。高低点法は2級の範囲に入っている一方、最小二乗法(回帰分析法)は1級の範囲です。
なお、税引後の目標利益や経営レバレッジ係数は区分表に個別の項目名がなく、損益分岐分析の応用として問題文の指示に従って解きます。
2級で解けた問題も、1級では「条件が1つ増える」と考えると整理しやすくなります。土台は同じ公式です。


簿記1級のCVP分析の論点|固変分解・多品種・税引後利益・感度分析


固変分解:高低点法と最小二乗法
機械稼働時間と製造間接費の6か月分のデータから、変動費率と固定費を求めます(仮の数値)。
| 月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 機械稼働時間 | 100時間 | 120時間 | 140時間 | 160時間 | 180時間 | 200時間 |
| 製造間接費 | 670,000円 | 750,000円 | 800,000円 | 850,000円 | 850,000円 | 880,000円 |
高低点法では、営業量が最大の月と最小の月を使います。変動費率は(880,000-670,000)÷(200-100)=2,100円、固定費は880,000-2,100×200=460,000円です。
最小二乗法では、Σy=na+bΣx、Σxy=aΣx+bΣx²の2式を解きます。データから、Σx=900、Σy=4,800,000、Σx²=142,000、Σxy=734,000,000です。解くと変動費率2,000円、固定費500,000円となり、高低点法と結果が変わります。
高低点法は「原価」ではなく「営業量」の最大・最小で選ぶ
原価の金額が最大・最小の月を選ぶのはよくあるミスです。また、異常値(正常操業圏外のデータ)が示されている場合は除いてから計算します。
多品種・税引後目標利益・感度分析
製品A(単価1,000円・変動費600円)と製品B(単価2,000円・変動費1,500円)を数量比3:1で販売し、固定費が3,400,000円のケースです。
| 方法 | 計算 | 損益分岐点 |
|---|---|---|
| セット販売(A3個+B1個) | 1セットの貢献利益1,700円、3,400,000÷1,700 | 2,000セット(A6,000個・B2,000個) |
| 加重平均貢献利益率 | 売上高比3:2で、40%×0.6+25%×0.4=34% | 3,400,000÷34%=10,000,000円 |
税引後の目標利益が出たら、先に税引前に割り戻します。基本例で税引後利益1,050,000円、税率30%(仮)なら、1,050,000÷(1-0.3)=1,500,000円です。必要売上高は(2,000,000+1,500,000)÷40%=8,750,000円になります。
感度分析は、条件が1つ変わったときに損益分岐点と利益がどう動くかを見ます。基本例(販売量8,000個)で比べました。
| 条件の変化 | 損益分岐点販売量 | 営業利益 |
|---|---|---|
| 変化なし | 5,000個 | 1,200,000円 |
| 販売単価10%下落(900円) | 6,667個 | 400,000円 |
| 単位当たり変動費5%上昇(630円) | 5,406個 | 960,000円 |
| 固定費10%増加(2,200,000円) | 5,500個 | 1,000,000円 |
| 販売量10%増加(8,800個) | 5,000個 | 1,520,000円 |
販売単価の下落は貢献利益を直接減らすため、影響が最も大きくなります。損益分岐点販売量は端数を切り上げています。
感度分析は表にまとめると、1級の記述問題や実務の説明資料にもそのまま使えます。
CVP分析の解き方のコツとよくあるミス


CVP分析の問題は、次の手順で解くと迷いにくくなります。
製造原価だけでなく、販売費・一般管理費も変動費と固定費に分けます。高低点法などの指示があれば従います。
販売単価・単位当たり変動費・貢献利益・貢献利益率を表にまとめます。
損益分岐点や目標利益達成売上高を計算します。多品種はセットか加重平均で考えます。
価格・変動費・固定費・税率などの変更を1つずつ反映し、感度分析をします。
求めた売上高で損益計算書を作り、営業利益が0や目標利益になるか確かめます。
よくあるミスと対策をまとめました。
| よくあるミス | 対策 |
|---|---|
| 固定費と変動費を逆に分類する | 営業量が増えたら増える原価かを1つずつ確認する |
| セールス・ミックスの数量比と売上高比を混同する | 問題文が「数量」か「売上高」かに線を引く |
| 税引後利益をそのまま公式に入れる | (1-税率)で割って税引前に戻す |
| 販売量の端数を四捨五入する | 損益分岐点販売量は原則として切り上げる(指示があれば従う) |
| 営業外損益を入れ忘れる | 経常利益ベースの指示なら支払利息なども固定費に加える |
たとえば数量比3:1を売上高比と取り違えると、加重平均貢献利益率が36.25%となり、損益分岐点売上高は約9,379,310円とずれてしまいます。
最後は損益計算書で検算する
「売上高-変動費-固定費=営業利益」の形に戻せば、計算ミスにすぐ気づけます。
1級の本試験では、問題文の条件の読み落としが一番の失点原因です。数字より先に「前提」を読みましょう。


実務でのCVP分析の使い方|予算・貢献利益管理・月次モニタリング


実務では、CVP分析は予算編成や事業計画で「何をどれだけ売れば目標利益に届くか」を説明する道具です。価格改定や人員計画が利益に与える影響を、損益分岐点の変化で説明します。
製品別・部門別の貢献利益管理
共通固定費を配賦した損益だけでは製品の採算が見えにくいため、貢献利益と個別固定費を分けた管理表を作ります(単位:千円、仮の数値)。
| 製品 | 売上高 | 変動費 | 貢献利益 | 個別固定費 | 製品貢献利益 |
|---|---|---|---|---|---|
| X | 50,000 | 30,000 | 20,000 | 8,000 | 12,000 |
| Y | 30,000 | 21,000 | 9,000 | 6,000 | 3,000 |
| Z | 20,000 | 16,000 | 4,000 | 5,000 | -1,000 |
| 合計 | 100,000 | 67,000 | 33,000 | 19,000 | 14,000 |
共通固定費が10,000千円なら営業利益は4,000千円です。製品Zは製品貢献利益がマイナスですが、貢献利益は4,000千円のプラスです。撤退の判断は、個別固定費のうち撤退で本当になくなる金額を確認してからにしましょう。
固変分解は勘定科目単位で決める
| 勘定科目の例 | 区分の例 | 設計のポイント |
|---|---|---|
| 材料費・外注加工費 | 変動費 | 生産量との連動を確認する |
| 荷造運賃・販売手数料 | 変動費 | 売上高や出荷数と連動させる |
| 水道光熱費・消耗品費 | 準変動費 | 基本料金部分を固定費として扱うか決める |
| 給料手当・賞与 | 固定費 | 残業代や派遣料は補助科目で分けると変動費として扱いやすい |
| 減価償却費・地代家賃・保険料 | 固定費 | 年額を月割りして毎月計上する |
会計システムでは、勘定科目マスタや補助科目に「固定・変動」の区分を持たせると、月次の試算表からそのまま貢献利益を集計できます。準変動費は、科目ごとに固定費と変動費の割合を決めて年1回見直すのが現実的です。
Excel・BIでの感度分析シートと月次モニタリング
- 入力欄:販売単価・販売量・単位当たり変動費・固定費・税率
- 計算欄:貢献利益率・損益分岐点売上高・安全余裕率・経営レバレッジ係数
- シナリオ欄:単価・数量・変動費・固定費を±5%、±10%で変えた結果
- 実績欄:会計システムから月次の実績を取り込み、計画と比較
月次では、損益分岐点比率と安全余裕率の推移をグラフにします。損益分岐点比率が上がっていれば、固定費の増加か貢献利益率の低下が起きているサインです。
実務でよくある失敗
- 賞与や固定資産税を発生月に計上し、月次の損益分岐点が大きくぶれる
- 在庫が増えた月に、全部原価計算の利益と直接原価計算の利益の差を説明できない
- 共通固定費の配賦後の赤字だけで、製品の撤退を判断してしまう
- 固変分解を何年も見直さず、実態と合わない計画を作ってしまう
実務のCVP分析チェックリスト
- 勘定科目ごとに固定・変動の区分を決めているか
- 準変動費の分け方を年1回見直しているか
- 年額の固定費を月割りで計上しているか
- 製品別・部門別に貢献利益を集計しているか
- 感度分析シートで価格・原価の変化を試算しているか
- 損益分岐点比率と安全余裕率を毎月確認しているか
固変分解を会計システムの科目設計に組み込むと、毎月の分析が手作業なしで回るようになります。


まとめ
- CVP分析は、原価・営業量・利益の関係を分析し、貢献利益で固定費を回収する考え方
- 損益分岐点売上高は固定費÷貢献利益率、安全余裕率と損益分岐点比率の合計は100%
- 簿記2級は損益分岐分析の基本と高低点法、1級は感度分析・多品種・回帰分析法などが範囲
- 税引後利益は税引前に割り戻し、セールス・ミックスは数量比か売上高比かを確認する
- 実務では、勘定科目単位の固変分解と月次の損益分岐点比率のモニタリングが役立つ
まずは基本例の数値で、損益分岐点から感度分析までを自分の手で計算してみてください。
公式の意味がわかれば、試験の応用問題も実務の予算説明も同じ考え方で対応できます。






