簿記2級に合格して1級の工業簿記・原価計算に進むと、テキストの厚さに驚く人が多いはずです。総合原価計算ひとつ取っても、仕損・減損の非度外視法や工程別・組別の応用など、2級にはなかった論点がいくつも加わります。
この記事では、上場企業で経理をしている私の目線で、2級から1級で増える論点を差分マップで整理し、つまずきやすい仕損・減損は発生点と進捗度で負担先を決める1枚の判定表にまとめます。内容は2026年10月時点の日本商工会議所の公表資料にもとづいています。
1級の工原は、2級の知識に「何が足されたか」を押さえると一気に見通しがよくなりますよ。
- 簿記1級の工業簿記・原価計算の試験構成と合格基準
- 2級から増える主な論点を一覧にした差分マップ
- 仕損・減損の負担先を決める判定表と、度外視法・非度外視法の数値例
- ボックス図で解く手順、よくあるミス、勉強法と時間配分
簿記1級の原価計算とは?試験構成と出題範囲


工業簿記・原価計算は各25点・90分
簿記1級は、前半の商業簿記・会計学と、休憩後の工業簿記・原価計算の2部構成です。日本商工会議所の案内では試験時間はそれぞれ90分、合格基準は70%以上で、1科目ごとの得点が40%以上必要とされています。
| 科目 | 配点 | 試験時間 | 足切りの目安 |
|---|---|---|---|
| 商業簿記 | 25点 | 90分(会計学と合わせて) | 10点(40%) |
| 会計学 | 25点 | 同上 | 10点(40%) |
| 工業簿記 | 25点 | 90分(原価計算と合わせて) | 10点(40%) |
| 原価計算 | 25点 | 同上 | 10点(40%) |
| 合計 | 100点 | 180分 | 70点以上で合格 |
配点は2026年6月の第173回の問題用紙でも、工業簿記・原価計算が各25点です。
足切りに注意
4科目のうち1科目でも10点を下回ると、合計が70点を超えても不合格です。工業簿記と原価計算のどちらかを捨てる作戦はとれません。
工業簿記と原価計算の役割の違い
工業簿記は勘定記入や製品原価の計算など、帳簿と結びついた計算が中心です。原価計算はCVP分析や意思決定会計など、経営管理のための計算や理論も扱います。
| 比較 | 工業簿記 | 原価計算 |
|---|---|---|
| 中心となる論点 | 個別・総合・標準・直接原価計算と勘定記入 | CVP分析、業績測定、意思決定会計、戦略的原価計算 |
| 2級との関係 | 2級の延長で、条件が複雑になる | 2級にない論点が多い |
| 出題のされ方 | 勘定や原価計算表の穴埋め | 計算+理論の語句・文章 |
1級では工原だけで50点分あります。2級で学んだ個別原価計算と総合原価計算の違いを確認しておくと、1級の応用論点にスムーズに入れます。


合格すると税理士試験の受験資格も得られます。工原は計算パターンが決まっているので、得点源にしやすい科目ですよ。
1級で増える論点のマップ


出題区分表でみる1級の追加論点
日本商工会議所の出題区分表(2022年度版)は、2級の範囲に1級で加わる項目を並べて示しています。主な追加論点を差分マップにまとめました。
| 分野 | 2級の範囲 | 1級で加わる主な論点 |
|---|---|---|
| 総合原価計算 | 単純・等級別・組別、累加法の工程別、仕損・減損の度外視法 | 非累加法、加工費工程別、非度外視法、異常仕損、副産物、連産品 |
| 個別原価計算 | 補修指図書を発行する仕損 | 代品の指図書、指図書を発行しない仕損、仕損費を間接費とする方法 |
| 部門別計算 | 直接配賦法・相互配賦法 | 純粋の相互配賦法、階梯式配賦法、複数基準配賦法 |
| 標準原価計算 | パーシャル・プラン、シングル・プラン、差異分析 | 修正パーシャル・プラン、標準の改訂、減損と仕損、配合差異と歩留差異 |
| 直接原価計算・CVP | 損益分岐分析、固定費調整 | CVPの感度分析、多品種のCVP分析、直接標準原価計算、事業部の業績測定 |
| 原価予測 | 費目別精査法、高低点法 | スキャッター・チャート法、回帰分析法 |
| 意思決定会計 | - | 業務的意思決定、設備投資の意思決定(キャッシュ・フロー予測、資本コスト) |
| 戦略的原価計算 | - | ライフサイクル・コスティング、品質原価計算、原価企画、活動基準原価計算 |
表のとおり、工業簿記側は2級の論点が深くなり、原価計算側はまったく新しい論点が中心です。予算実績差異分析は区分表に独立した項目はありませんが、業績測定の一部として問われることがあります。
配合差異・歩留差異と設備投資の意思決定
標準原価計算では、複数の原料を混ぜる工程で、消費量差異を配合差異と歩留差異に分けます。設備投資の意思決定では、将来のキャッシュ・フローを資本コストで割り引く正味現在価値法などで投資案を比べます。どちらも2級にはない考え方です。
原価計算側の論点は2級でほとんど触れていないので、1級の学習時間の多くをここに充てるつもりで計画しましょう。


仕損・減損の判定表:発生点×進捗度×度外視・非度外視


度外視法と非度外視法の違い
仕損は加工に失敗した不良品、減損は蒸発や粉散などで原料が減ることです。原価計算基準二七は、総合原価計算の仕損の費用は原則として仕損費の費目を設けずに完成品と期末仕掛品に負担させ、減損もこれに準じると定めています。
| 方法 | 考え方 | 範囲 |
|---|---|---|
| 度外視法 | 仕損の数量を計算から外し、良品の原価に自動的に含める | 2級・1級 |
| 非度外視法 | 正常仕損費をいったん計算し、負担先に改めて配分する | 1級 |
非度外視法は手間がかかる分、正常仕損費の金額がわかるので、原価管理に役立つ情報になります。
1枚の判定表で負担先を決める
負担先は、仕損の発生点と月末仕掛品の進捗度の比較で決まります。月末仕掛品がまだ発生点に届いていなければ、その仕損は完成品だけのために生じたと考えます。
| 発生点と進捗度 | 負担先 | 度外視法の処理 | 非度外視法の処理 |
|---|---|---|---|
| 終点で発生、または発生点>月末の進捗度 | 完成品のみ | 仕損の数量を分母に含め、月末仕掛品原価を先に計算 | 正常仕損費を全額完成品に加算 |
| 発生点≦月末の進捗度 | 完成品と月末仕掛品 | 仕損の数量を分母から除いて按分 | 正常仕損費を完成品と月末仕掛品に按分 |
| 工程を通じて平均的に発生 | 完成品と月末仕掛品(指示に従う) | 仕損の数量を除いて按分 | 問題の指示に従って按分 |
| 異常仕損 | 負担させない | 非原価項目として別に処理 | 非原価項目として別に処理 |
判定表の使い方
問題文から「発生点」「月末仕掛品の進捗度」「度外視法か非度外視法か」「仕損品の評価額」の4つを先に書き出します。この4つが決まれば、上の表の1行が選ばれ、計算の形が決まります。
減損は形が残らないので評価額はありませんが、負担先の決め方は仕損と同じです。
数値例:終点発生と途中点発生を平均法で比較


数値例の前提
材料は工程の始点で投入し、平均法で計算します。月初仕掛品200個(進捗度50%)と当月投入1,000個から、完成品900個、正常仕損100個、月末仕掛品200個(進捗度50%)ができました。仕損品の評価額はゼロです。
| 項目 | 月初仕掛品 | 当月製造費用 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 直接材料費 | 50,000 | 280,000 | 330,000 |
| 加工費 | 26,000 | 260,000 | 286,000 |
| 合計 | 76,000 | 540,000 | 616,000 |
ケースA:終点で発生(完成品のみ負担)
月末仕掛品の進捗度50%は終点に届いていないので、完成品のみ負担です。非度外視法では、材料費は330,000÷1,200個=275円、加工費は286,000÷1,100個(900+100+200×50%)=260円です。
正常仕損費は100個×275円+100個×260円=53,500円で、全額完成品に加えます。完成品は900個×535円+53,500円=535,000円、月末仕掛品は200個×275円+100個×260円=81,000円です。度外視法で解いても同じ535,000円になります。
ケースB:40%地点で発生(両者負担)
月末仕掛品は50%まで進んで40%地点を通過しているので、両者負担です。非度外視法の加工費は286,000÷1,040個(900+100×40%+200×50%)=275円です。
正常仕損費は100個×275円+40個×275円=38,500円です。これを完成品900個と月末仕掛品200個の数量比で按分すると、完成品に31,500円、月末仕掛品に7,000円となります。
度外視法では仕損100個を無視し、材料費は330,000÷1,100個=300円、加工費は286,000÷1,000個=286円です。月末仕掛品は200個×300円+100個×286円=88,600円、完成品は616,000円-88,600円=527,400円です。
2ケースの比較表
| ケース | 方法 | 正常仕損費 | 完成品原価 | 月末仕掛品原価 |
|---|---|---|---|---|
| A 終点発生 | 度外視法 | - | 535,000 | 81,000 |
| A 終点発生 | 非度外視法 | 53,500 | 535,000 | 81,000 |
| B 40%地点発生 | 度外視法 | - | 527,400 | 88,600 |
| B 40%地点発生 | 非度外視法 | 38,500 | 526,500 | 89,500 |
ケースBで900円の差が出るのは、度外視法では仕損費の加工費部分が完成品換算量の比で、非度外視法では数量比で配分されるためです。按分の基準は問題文の指示に従います。
ケースAのように終点発生なら、どちらの方法でも結果は同じです。差が出るのは両者負担のときだと覚えておきましょう。
合計の検算を忘れずに
完成品原価と月末仕掛品原価の合計は、どの方法でも616,000円になります。合わなければ、仕損の数量を分母に入れるかどうかの判定を見直しましょう。


ボックス図で解く手順とよくあるミス


仕損・減損を解く5つの手順
左に月初仕掛品と当月投入、右に完成品・仕損・月末仕掛品を書き、加工費側は換算量で書きます。
判定表で、完成品のみ負担か両者負担かを決めます。
度外視法の両者負担なら仕損を分母から除き、それ以外は含めます。
平均法なら合計÷換算量、先入先出法なら当月投入分だけで単価を出します。
総額から月末仕掛品原価を引き、正常仕損費を加えた結果と合うか確かめます。
よくあるミス
よくあるミス
- 加工費のボックスで、仕損の換算量を発生点ではなく100%で数えてしまう
- 終点発生なのに、両者負担として月末仕掛品にも仕損費を配分する
- 仕損品に評価額があるのに、正常仕損費から差し引き忘れる
- 先入先出法で、月初仕掛品が発生点を通過済みかどうかを確認しない
- 異常仕損費を良品の原価に含めてしまう
ボックス図の仕損欄に「40%」のように発生点を書き込むクセをつけると、換算量のミスがかなり減ります。
勉強法・時間配分のコツと実務とのつながり


2級の知識を土台にする勉強の順番
工業簿記側の総合原価計算・標準原価計算は2級の延長なので、ボックス図や差異分析の図を2級の形のまま広げていくと覚えやすくなります。原価計算側のCVP分析や意思決定会計は、新しい論点として一つずつ基本パターンを固めましょう。
勉強の進め方
- 論点ごとに例題を白紙で解き直し、ボックス図や表の形を手で覚える
- 理論は原価計算基準の用語とセットで押さえる
- 過去問は日本商工会議所が公開している1級の問題で形式に慣れる
90分の時間配分は「見切り」が大事
工業簿記と原価計算は合わせて90分です。最初に両方の問題をざっと見て、解きやすい問から手をつけ、時間のかかる問は後回しにします。足切りを避けるため、片方に時間を使い切らないよう、途中で見直しの時刻を決めておくと安心です。
最後まで解けない問があっても、前半の問を確実に取れば足切りは避けやすくなります。
実務とのつながり
実務の製造業では、歩留まりや不良率の管理が原価に直結します。正常な不良をどこまで製品原価に含めるか、異常な不良をどう分けるかは、決算の原価計算でも工場の改善活動でも議論になるテーマです。
差額原価や機会原価の考え方は、外注か内製かといった判断で使います。当ブログの「埋没原価と機会原価」や「活動基準原価計算(ABC)」の記事もあわせて読むと、意思決定会計や戦略的原価計算のイメージがつかみやすくなります。
まとめ
- 簿記1級の工業簿記・原価計算は各25点・合わせて90分で、合計70%以上かつ各科目40%以上が合格基準
- 工業簿記は2級の論点が深くなり、原価計算は意思決定会計や戦略的原価計算など新しい論点が中心
- 2027年度の出題区分表でも工業簿記・原価計算の範囲は変わらない
- 仕損・減損の負担先は、発生点と月末仕掛品の進捗度の比較で決める
- 終点発生なら度外視法と非度外視法の結果は一致し、途中点発生の両者負担では按分基準の違いで差が出ることがある
1級の工原は、手を動かした分だけ確実に点が伸びる科目です。一緒にがんばりましょう!
仕損・減損は、判定表で負担先を決めてからボックス図に数字を入れれば、どのパターンも同じ手順で解けます。この記事の数値例を白紙で解き直して、616,000円の検算が合うか試してみてください。





