株式報酬引当金とは?株式給付引当金の仕訳と税金計算・税額控除の実務

株式報酬引当金は、株式給付信託などで役員や従業員に自社株式を交付する制度を導入した会社で登場する負債です。「何円計上するの?」「税務では損金になるの?」と悩む経理担当者も多いはずです。

この記事では、株式給付引当金・役員株式給付引当金の会計処理と税金計算を整理します。理論は最小限にして、仕訳・申告調整・税効果・税額控除への影響など実務の流れを中心に解説します。

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株式報酬はRS・ストック・オプション・信託型と種類が多く、どれが「引当金」なのかを最初に整理するのが近道です。

この記事でわかること
  • 株式報酬制度の種類ごとの会計処理と、引当金を使う制度の見分け方
  • 株式給付引当金の計上額・取崩し・信託の総額法
  • ポイント付与から株式給付までの仕訳(仮の数値)
  • 申告調整・損金算入の判定・税効果会計の考え方
  • 賃上げ促進税制など税額控除への影響と決算実務のチェックリスト
目次

株式報酬引当金とは?株式報酬制度の種類と会計処理の全体像

株式報酬をイメージした株の文字と電卓

株式報酬引当金とは、将来、役員や従業員に自社株式を交付する義務に備えて計上する引当金の総称です。会計基準上の決まった科目名はなく、実務では「株式給付引当金」「役員株式給付引当金」「株式報酬引当金」などの名称が使われます。

ただし、株式報酬のすべてが引当金になるわけではありません。制度ごとの会計処理は次のとおりです。

制度主な根拠費用の相手勘定引当金か
株式給付信託(従業員向け J-ESOP型など)実務対応報告第30号株式給付引当金(負債)引当金
株式給付信託(役員向け BBT型など)第30号を参考に処理役員株式給付引当金(負債)引当金
事前交付型RS(無償交付)実務対応報告第41号資本金・資本準備金またはその他資本剰余金引当金ではない
事前交付型RS(現物出資構成)会計基準の定めなし前払費用を計上し対象勤務期間で費用化する例が多い引当金ではない
事後交付型RS・PSU(無償交付)実務対応報告第41号株式引受権(純資産)引当金ではない
ストック・オプション企業会計基準第8号新株予約権(純資産)引当金ではない

つまり、引当金を使うのは主に信託を通じて株式を給付する制度です。実務対応報告第30号は従業員向けの取引を対象としていますが、役員向けの取引についても「内容に応じて参考にすることが考えられる」とされており(第26項)、役員株式給付引当金として同様に処理するのが一般的です。

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同じ「株式報酬」でも、RSやストック・オプションは純資産側で処理します。科目を間違えると開示まで崩れるので要注意です。

株式給付引当金の会計処理|ポイント付与から株式給付まで

会計の文字と紙幣のイメージ

ポイント付与時に費用と引当金を計上する

実務対応報告第30号第12項では、従業員に割り当てたポイントに応じた株式数×信託が自社株式を取得したときの株価を基礎に、費用とこれに対応する引当金を計上するとしています。ポイントは株式給付規程に基づき、勤務期間や業績に応じて毎期付与されるため、結果として各期の勤務に応じた費用が計上されます。

論点第30号の取扱い
計上額付与ポイントに応じた株式数×信託の株式取得時の株価
複数回の取得平均法または先入先出法で算定
株式給付時交付株式数×取得時の株価で引当金を取り崩す
その後の株価変動反映しない(評価替えをしない)
信託に残る株式信託の帳簿価額(付随費用を除く)で自己株式として計上

信託は総額法で取り込み、残存株式は自己株式

信託の財産は、期末に総額法で会社の個別財務諸表に取り込みます(第10項)。信託がまだ交付していない自社株式は、純資産の部の自己株式として表示します(第14項)。配当金と信託の諸費用の純額は、プラスなら負債、マイナスなら資産に計上します。

信託口の株式は、会社が直接持つ自己株式と帳簿価額を通算しません(第8項(4)・第14項(3))。

株価が上がっても引当金は増えない

引当金は信託の取得単価で固定され、給付時の株価で洗い替えはしません。税務の損金算入額とは一致しない場合があるため、税金計算は別に管理します。

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「期末の株価で評価替えしなくていいの?」は監査でもよく聞かれます。第30号の結論の背景で検討済みの論点なので、根拠を示せるようにしておきましょう。

株式給付引当金の仕訳|数値例で流れを確認

電卓で株式給付引当金を計算する経理担当者

次の仮の数値で、信託の設定から株式給付までの仕訳を確認します(1ポイント=1株)。

項目内容
信託の株式取得50,000株×2,000円=100,000,000円
1年目の従業員ポイント6,000ポイント
1年目の役員ポイント4,000ポイント(固定2,500・業績連動1,500)
2年目の給付退任役員1,500株(固定分)・退職従業員1,000株
給付時の株価2,600円(会計処理には影響しない)

信託設定とポイント付与の仕訳

信託設定(総額法で取り込んだ後)
(借)自己株式 100,000,000 /(貸)現金預金 100,000,000

1年目末:ポイント付与
(借)株式給付引当金繰入額 12,000,000 /(貸)株式給付引当金 12,000,000
(借)役員株式給付引当金繰入額 8,000,000 /(貸)役員株式給付引当金 8,000,000

株式給付時の仕訳

2年目:退任役員・退職従業員への株式給付
(借)役員株式給付引当金 3,000,000 /(貸)自己株式 3,000,000
(借)株式給付引当金 2,000,000 /(貸)自己株式 2,000,000

給付時の株価が2,600円でも、取崩額は取得単価2,000円ベースです。2年目末の信託残存株式は47,500株・95,000,000円となり、引当金残高は従業員分10,000,000円、役員分5,000,000円です。

追加取得があるときの平均単価

取得株数単価金額
当初取得50,000株2,000円100,000,000円
追加取得10,000株2,600円26,000,000円
合計(平均法)60,000株2,100円126,000,000円

平均法を採用している場合、以後の2,000ポイントの付与は2,000×2,100円=4,200,000円で計上します。

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単価の管理を誤ると、引当金と自己株式の残高がずれます。台帳で株数と単価をセットで持ちましょう。

株式報酬引当金の税金計算|申告調整と税効果

紙幣と電卓で税金を計算するイメージ

引当金繰入額は損金不算入で加算・留保

法人税で損金算入が認められる引当金は貸倒引当金など一部に限られるため、株式給付引当金の繰入額は損金不算入です。別表四で加算(留保)し、株式が交付されて課税関係が確定した年度に減算(留保)するのが基本の流れです。

株式給付時に損金算入できるかの判定

対象者・交付時期個人側の所得会社側の損金算入
従業員・在職中給与所得給与として交付時に損金算入が基本
従業員・退職時退職所得退職給与として交付時に損金算入が基本
役員・退任時(固定ポイント)退職所得業績連動でない退職給与は法人税法34条1項の対象外(不相当に高額な部分は不算入)
役員・業績連動ポイント給与所得・退職所得34条1項3号の業績連動給与の要件を満たす場合のみ損金算入

業績連動給与として損金算入するには、報酬委員会等の適正な手続、有価証券報告書での開示、交付期限、損金経理などの要件があります。国税庁タックスアンサーNo.5211では、損金経理には引当金に繰り入れた金額を取り崩す方法も含むとされています。

RSは法人税法54条により給与等課税額が生ずることが確定した日(通常は譲渡制限の解除日)、ストック・オプションは54条の2により給与等課税事由が生じた日に損金算入の判定をします。税制適格ストック・オプションのように個人に課税が生じないものは損金不算入です。

申告調整と税効果の数値例

先ほどの数値例で、実効税率30%、業績連動ポイントは損金算入要件を満たさず、それ以外は取崩額と同額が損金になる前提とします(仮の数値)。

年度申告調整税効果
1年目引当金繰入20,000,000円を加算(留保)一時差異17,000,000円×30%=繰延税金資産5,100,000円
1年目うち業績連動分3,000,000円永久差異のため税効果なし(税額影響900,000円)
2年目給付分5,000,000円を減算(留保)繰延税金資産1,500,000円を取り崩し、残高3,600,000円

1年目の税効果の仕訳
(借)繰延税金資産 5,100,000 /(貸)法人税等調整額 5,100,000

業績連動分は、給付時に留保の減算と同額を役員給与の損金不算入として加算(社外流出)するため、課税所得は減りません。繰延税金資産は回収可能性の判断も必要です。

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一時差異か永久差異かは、対象者と制度設計で決まります。台帳の区分をそのまま税効果の計算に使えるようにしておきましょう。

株式交付時の源泉徴収を忘れない

株式の交付でも、給与所得なら賞与、退職時なら退職所得として源泉徴収が必要です。現金の支払がないため、信託が株式の一部を換金して納税資金に充てる設計もあります。誰が源泉徴収義務者になるかは信託契約で確認しておきましょう。

株式報酬と税額控除|賃上げ促進税制への影響

給与支給明細書と電卓のイメージ

迷いやすいのが税額控除への影響です。賃上げ促進税制(租税特別措置法42条の12の5)の雇用者給与等支給額は、損金の額に算入される国内雇用者に対する給与等(所得税法28条1項の給与等)の支給額と定められています。

項目条文から読み取れる扱い
役員への株式給付国内雇用者から役員は除かれるため対象外
従業員への退職時の給付退職所得は給与所得の給与等ではないため含まれないと考えられる
従業員への在職中の給付損金算入された年度の給与等として含まれる可能性がある
引当金繰入額損金不算入のため繰入年度の支給額には含まれない

つまり、株式報酬の損金算入のタイミングが、雇用者給与等支給額の集計年度にも影響するということです。在職中に交付する制度では、交付が多い年度に支給額が一時的に増え、翌年度の比較対象にもなります。

なお全企業向けの制度は令和8年3月31日以前開始事業年度までで、以後は中小企業者等向けと特定法人(中堅企業)向けが中心です。

株式報酬を雇用者給与等支給額に含めるかは、国税庁の公表資料で明確な記載を確認できていません。上の表は条文からの整理のため、申告前に顧問税理士に確認してください。

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税額控除は損金算入額がベースなので、引当金の繰入額ではなく、申告調整後の金額で集計するのがポイントです。

株式給付引当金の決算実務|管理台帳・開示・チェックリスト

パソコンでポイント管理台帳を確認する社員

ポイント管理台帳と信託銀行の報告書の照合

実務の要はポイント管理台帳です。対象者ごとに付与・累計・給付済・失効のポイントを持ち、人事部のデータと毎期照合します。信託銀行から届く信託財産状況報告書の保有株数・帳簿価額・配当金とも一致を確認しましょう。

  • 付与ポイントは株式給付規程の算定式(役位・評価など)で再計算する
  • 役員分は固定ポイントと業績連動ポイントを分けて管理する
  • 退職者・退任者の給付株数と源泉徴収額を人事・給与と共有する
  • 信託の取得単価(平均法・先入先出法)を台帳に記録する

決算での株式給付引当金の計上と税金計算の流れ

STEP
ポイント付与データを確定する

人事部から期中の付与・失効・給付のデータを受け取り、台帳を更新します。

STEP
信託の報告書と照合する

信託口の保有株数・帳簿価額・配当金を報告書と突き合わせ、自己株式の残高を確認します。

STEP
引当金を計算して仕訳を切る

付与ポイント×取得単価で繰入額を、給付株数×取得単価で取崩額を計算し、計上します。

STEP
申告調整と損金算入を判定する

繰入額を加算し、給付分は対象者・所得区分ごとに損金算入の可否を判定して減算します。

STEP
税効果と税額控除を反映する

一時差異と永久差異を分けて税効果を計算し、賃上げ促進税制の集計への影響も確認します。

開示と監査対応

第30号では、次の事項の注記が求められます(第16項〜第18項)。

注記内容
取引の概要信託の仕組み・対象者・給付の条件
信託に残存する自社の株式自己株式として表示している旨・帳簿価額・株式数
1株当たり情報控除する自己株式に含めている旨と期末・期中平均の株式数
株主資本等変動計算書信託が保有する株式数・信託口への配当金額

監査では、規程・信託契約・台帳・報告書の一致と、損金算入判定の根拠を説明できるようにしておきましょう。

株式給付引当金のよくあるミス・チェックリスト

  • 期末の株価で引当金を評価替えしていないか
  • 信託口の株式を自己株式から漏らしていないか
  • 要件を満たさない業績連動ポイントを損金扱いにしていないか
  • 繰入額の加算と給付時の減算が台帳と一致しているか
  • 引当金繰入額を賃上げ促進税制の給与等に含めていないか
  • 注記の株式数と信託の報告書が一致しているか

制度変更時は会計と税務を同時に見直す

株式給付規程の改定でポイントの算定に業績指標を加えると、役員分は業績連動給与の要件判定が必要になります。規程改定の段階から経理と税理士が関与しましょう。

会計システムでは補助科目で区分する

従業員分・役員分、固定・業績連動の区分を補助科目やセグメントで持たせておくと、申告調整と税効果の集計がそのまま作れて決算が楽になります。

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台帳・報告書・仕訳・別表の4つがつながっていれば、監査も税務調査も怖くありません。まずは台帳の項目から見直してみてください。

まとめ

  • 引当金を使うのは主に株式給付信託で、RS・ストック・オプションは純資産側で処理する
  • 株式給付引当金は付与ポイント×信託の取得単価で計上し、給付時に同額を取り崩す
  • 繰入額は損金不算入で加算し、給付時に所得区分と役員給与の要件で損金算入を判定する
  • 役員の業績連動分で要件を満たさない部分は永久差異となり、税効果は認識しない
  • 賃上げ促進税制への影響は損金算入額ベースで整理し、顧問税理士に確認する

まずは自社の株式給付規程と信託契約を手元に置き、ポイント管理台帳と引当金残高が一致しているかを確認してみてください。

ティー

株式報酬は会計・税務・人事がまたがる論点です。経理が全体像を押さえて、関係部署をつなぐ役割を担いましょう。

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