研究開発費の税額控除(研究開発税制)は、うまく使えば法人税を大きく減らせる制度です。一方で「会計の研究開発費をそのまま使っていいの?」「控除率の計算が複雑で不安」という声もよく聞きます。
この記事では、研究開発費の会計処理と研究開発税制の計算を整理します。理論は最小限にして、集計表・差異調整表・申告書の作り方など実務の流れを中心に解説します。
研究開発税制は「試験研究費をいかに正しく集計するか」で9割決まります。集計の仕組みから一緒に見ていきましょう。
- 研究開発費の会計処理(発生時費用・ソフトウェアとの関係・注記)
- 税務の試験研究費の範囲と、会計の研究開発費とのズレ
- 2026年度の一般型・中小企業技術基盤強化税制の控除率と上限
- 仮の数値による税額控除の計算例
- 集計・差異調整表・別表・税効果まで実務の流れとチェックリスト
研究開発費の税額控除とは?会計と税務の全体像


研究開発費の税額控除とは、試験研究費の一定割合を法人税額から直接差し引ける租税特別措置法の制度で、一般に研究開発税制と呼ばれます。損金算入とは別に、税額そのものが減るのが特徴です。
実務では、次の3つを区別して考えると混乱しません。
| 区分 | ルール | 経理の作業 |
|---|---|---|
| 会計の研究開発費 | 研究開発費等に係る会計基準 | 発生時に費用処理し、総額を注記 |
| 税務の試験研究費 | 租税特別措置法42条の4など | 会計の金額から範囲外を除き、対象外の費用を調整 |
| 税額控除額 | 研究開発税制(一般型・中小企業者向け・オープンイノベーション型) | 控除率と上限を計算し、別表で申告 |
会計の研究開発費と税務の試験研究費は「似ているけれど別物」です。ここを最初に押さえるのが大切です。
研究開発費の会計処理|発生時費用処理とソフトウェアの区分


研究・開発の定義と発生時費用処理
研究開発費等に係る会計基準(企業会計審議会)では、研究を「新しい知識の発見を目的とした計画的な調査及び探究」、開発を「研究の成果その他の知識を具体化すること」と定義しています。研究開発費はすべて発生時に費用処理し、資産計上はできません。
費用は一般管理費か当期製造費用として処理し、両方に含まれる研究開発費の総額を注記します。特定の研究開発目的にしか使えない機械装置も、取得時の研究開発費になります(注解1)。
仕訳例(研究専用の測定装置を購入)
(借)研究開発費 2,500,000 /(貸)未払金 2,500,000
ソフトウェア制作費との関係
| 制作目的 | 会計処理 |
|---|---|
| 研究開発目的 | 研究開発費として費用処理 |
| 市場販売目的 | 最初に製品化された製品マスターの完成までは研究開発費、完成後の改良・強化は資産計上(著しい改良は研究開発費) |
| 自社利用 | 将来の収益獲得または費用削減が確実なら資産計上 |
IFRSでは、IAS第38号により研究段階は費用、開発段階は技術的実現可能性などの要件を満たせば資産計上が求められます。日本基準との大きな違いなので、連結パッケージの組替えで注意しましょう。
システムでは「研究開発費フラグ」を持たせる
勘定科目を分けるだけでなく、製造費用側の研究開発費も注記で拾えるよう、部門やプロジェクトに研究開発の区分を持たせておくと決算が楽になります。
注記の総額は、税務の集計のスタート地点にもなります。製造原価に入った分の拾い漏れには気をつけたいですね。
税務の試験研究費の範囲|会計の研究開発費と一致しない点


税務の試験研究費は、製品の製造や技術の改良・考案・発明に係る試験研究のための原材料費・人件費・経費などで、損金の額に算入されるものです(国税庁タックスアンサーNo.5442)。会計の研究開発費とは次の点がずれます。
| 項目 | 会計の研究開発費 | 税務の試験研究費 |
|---|---|---|
| 試験研究用の機械 | 取得時に全額費用 | 税務上は資産計上し、損金算入される償却費が対象 |
| 人件費 | 研究部門の人件費を集計 | 専門的知識をもって専ら従事する者に限る |
| 売上原価に含まれる分 | 研究開発費に含めることがある | 原価の額は除く |
| 補助金など | 費用は総額で計上 | 費用に充てるため受け取った額を控除 |
| 国外の事業所で行う研究 | 研究開発費に含む | 国外事業所等の費用は除く |
損金算入の面では、会計で費用処理した研究開発費は原則としてそのまま損金になります。ただし、試験研究用の機械のように税務上は資産となるものは、償却限度額を超える部分が加算調整になります。
品質管理やクレーム対応は対象外
製造現場の品質管理やクレーム処理のための活動は、会計の研究開発にも含まれないと解されています。税務の試験研究にも当たらない可能性が高いので、プロジェクトの登録段階で除外しておきましょう。
特に人件費の「専ら従事」は、税務調査でも確認されやすいポイントです。兼務者の扱いは社内ルールで決めておきましょう。
研究開発税制の3つの類型と2026年度の控除率


研究開発税制には、主に次の3つの類型があります。一般型と中小企業技術基盤強化税制はどちらか一方の選択です。
| 類型 | 控除率 | 控除上限(原則) |
|---|---|---|
| 一般型(一般試験研究費) | 増減試験研究費割合に応じて変動(上限14%) | 調整前法人税額の25% |
| 中小企業技術基盤強化税制 | 12%(上乗せ時は最大17%) | 調整前法人税額の25% |
| オープンイノベーション型(特別試験研究費) | 大学等との共同研究30%、ベンチャー等25%、その他20% | 調整前法人税額の10% |
一般型の控除率(2026年4月1日〜2027年3月31日開始事業年度)
一般型の控除率は、増減試験研究費割合(当期の試験研究費と過去3年平均の比較試験研究費との増減率)で決まります。
| 増減試験研究費割合 | 税額控除割合 |
|---|---|
| 12%超 | 11.5%+(増減割合−12%)×0.375 |
| 0%以上12%以下 | 11.5%−(12%−増減割合)×0.25 |
| 0%未満 | 8.5%−減少割合×8.5/30(下限0%) |
| 設立事業年度・比較試験研究費が0 | 8.5% |
試験研究費割合(試験研究費÷平均売上金額)が10%を超えると控除率が割り増されます。控除上限も、増減割合が4%超なら最大5%加算、マイナス4%を下回ると最大5%減算されます。
中小企業技術基盤強化税制の控除率と上限
資本金1億円以下などの中小企業者は、控除率12%・上限は法人税額の25%が基本です。増減割合が12%を超えると控除率が上がり、上限も10%上乗せされます。控除しきれない額は3年間繰り越せます(翌期以降に試験研究費が比較試験研究費を超える場合に限る)。
令和8年度税制改正のポイント
- 国外の委託研究は、試験研究費の50%のみが対象(2026年4月〜2027年3月開始年度は70%、翌年度は60%。治験は全額)
- AI・量子・バイオなどの重点分野を対象に、40%(共同研究等は50%)控除の新しい類型が創設
- 2027年4月1日以後開始年度から、一般型の控除率カーブと上限の変動措置を見直し
控除率は毎年の試験研究費の増減で変わります。前年と同じ率だと思い込まず、毎期計算し直すのが鉄則です。
なお大企業は、前期より所得が増えた年度に賃上げや国内設備投資の要件を満たさないと、一般型を使えない不適用措置があります(No.5449)。


研究開発税制の計算例|中小企業と一般型


中小企業技術基盤強化税制の計算例
2026年4月1日開始事業年度の中小企業者で、次の仮の数値とします。
| 項目 | ケースA | ケースB |
|---|---|---|
| 試験研究費 | 30,000,000円 | 30,000,000円 |
| 増減試験研究費割合(比較試験研究費28,000,000円) | 7.14% | 7.14% |
| 税額控除限度額(×12%) | 3,600,000円 | 3,600,000円 |
| 調整前法人税額 | 10,000,000円 | 20,000,000円 |
| 控除上限(×25%) | 2,500,000円 | 5,000,000円 |
| 税額控除額 | 2,500,000円 | 3,600,000円 |
ケースAは上限に引っかかり、控除しきれない1,100,000円は繰越税額控除の対象です。平均売上金額は600,000,000円で、試験研究費割合は5%のため割増はありません。
一般型の計算例
大企業で、試験研究費540,000,000円、比較試験研究費500,000,000円、調整前法人税額200,000,000円とします(試験研究費割合は6%)。
- 増減試験研究費割合:40,000,000÷500,000,000=8%
- 控除率:11.5%−(12%−8%)×0.25=10.5% → 控除限度額56,700,000円
- 控除上限:25%+(8%−4%)×0.625=27.5% → 55,000,000円
- 税額控除額:55,000,000円(一般型は繰越不可)
上限に当たるかどうかで結果が大きく変わります。予算の段階で概算を出し、経営層に伝えておくと喜ばれますよ。
研究開発税制の実務|集計・差異調整・申告・税効果


研究開発税制に使う試験研究費の集計方法
集計の基本はプロジェクトコードと工数管理です。研究テーマごとにコードを振り、経費精算・発注・工数入力のすべてでコードを必須にします。
- 人件費:工数で按分(年収6,000,000円・研究工数70%なら4,200,000円)。税務は専ら従事する者に限る点に注意
- 原材料費:研究用の出庫を製造用と別の払出区分で管理
- 経費・外注費:契約書で研究目的と委託先の所在地(国内か国外か)を確認
- 減価償却費:試験研究用資産を固定資産台帳でフラグ管理
会計と税務の差異調整表
決算では、会計の研究開発費から税務の試験研究費への調整表を作ります(仮の数値)。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 会計の研究開発費(注記額) | 32,000,000円 |
| 試験研究用機械の取得額(税務は資産計上) | −2,500,000円 |
| 同機械の税務上の償却費 | +500,000円 |
| 専ら従事しない者の人件費 | −1,200,000円 |
| 補助金(費用に充てる額) | −1,000,000円 |
| 試作品の売上原価算入分 | −500,000円 |
| 税務の試験研究費 | 27,300,000円 |
国外委託費がある場合は、試験研究費とは別に控除対象額を計算します。委託費1,000,000円なら、2026年4月〜2027年3月開始年度は700,000円が対象です。
研究開発税制の適用までの流れ
研究テーマごとにコードを設定し、対象外の活動(品質管理など)を除外します。
工数入力の締めを月次化し、人件費・材料費・経費をコード別に集計します。
会計の研究開発費から税務の試験研究費へ調整し、注記額と一致するか確認します。
比較試験研究費・平均売上金額を3年分そろえ、控除率と上限を計算します。
明細書を確定申告書に添付し、工数表や契約書を保存します。
申告書の別表と書類保存
| 別表 | 内容 |
|---|---|
| 別表六(九) | 一般試験研究費の額に係る法人税額の特別控除 |
| 別表六(十) | 中小企業者等の試験研究費の額に係る法人税額の特別控除 |
| 別表六(十一) | 比較試験研究費の額及び平均売上金額の計算 |
| 別表六(十二) | 特別試験研究費の額に係る法人税額の特別控除 |
番号は令和8年4月1日以後終了事業年度分の様式です。適用には明細書の添付が必要で、適用額明細書の提出も忘れないようにしましょう。
税効果とグループ通算の留意点
税額控除は一時差異ではなく、当期の法人税等を直接減らす項目です。税率差異の注記で「試験研究費の税額控除」として説明が必要になることが多いので、控除額を税金計算シートに分けて持っておきましょう。


グループ通算制度では、研究開発税制は通算グループ全体で控除限度額と上限を計算し、各社に配分します(付表で計算)。子会社のデータ提出期限を早めに決めておくのが実務のコツです。


研究開発税制のよくあるミス・チェックリスト
- 兼務者の人件費を工数按分だけで全額含めていないか
- 売上原価に振り替えた試作品費を除いているか
- 補助金や受託研究の収入を控除しているか
- 比較試験研究費・平均売上金額の3年分を同じ基準で集計しているか
- 国外委託費の控除対象割合(70%など)を反映したか
- 上限超過分の繰越(中小企業者)を翌期に引き継いだか
税務調査では根拠資料が問われる
工数表や研究計画書がないと、人件費の対象性を説明できません。月次で承認済みの工数表を残し、研究テーマと費用のつながりを示せるようにしておきましょう。
研究開発税制は専門家と早めに相談
類型の選択や不適用措置の判定は、年度ごとに結論が変わります。決算の数か月前に税理士と論点を共有しておくと安心です。
差異調整表と工数表は、翌期の比較試験研究費の計算にも使います。毎年同じ形式で残すのがおすすめです。
まとめ
- 研究開発費は会計では発生時に費用処理し、総額を注記する
- 税務の試験研究費は会計の研究開発費と範囲が異なるため、差異調整表で橋渡しする
- 一般型は増減試験研究費割合で控除率が変動し、中小企業者は12%・上限25%が基本
- 2026年度は国外委託費の70%ルールなど令和8年度改正の影響を確認する
- プロジェクトコードと工数管理、別表と根拠資料の保存が実務のカギ
まずは自社の研究開発費の注記額と、昨年の申告書の試験研究費を並べて、差異の内訳を説明できるか確認してみてください。
研究開発税制は、経理が仕組みを作れば毎年確実に効果が出る制度です。一つずつ整えていきましょう。







