「見本品として配った商品は、売上原価のままでいいの?」。商品や製品を販売以外の目的で使ったときは、売上原価から抜き出して正しい科目に振り替える処理が必要です。
今回は他勘定振替高の意味・仕訳・損益計算書と製造原価報告書での表示を実務向けに解説します。仕訳例・表示の数値例・税務と消費税・システムでの月次管理まで、仮の数値を使って整理しました。
他勘定振替高は「売上原価に入っているけれど、実は販売していない分」を抜き出す調整項目です。
- 他勘定振替高の意味と主な振替先の科目
- 見本品・販促・備品・贈答・従業員支給・災害の仕訳例
- 損益計算書の売上原価の区分での表示と数値例
- 製造原価報告書での他勘定振替高と固定資産・研究開発費への振替
- 税務・消費税の注意点と会計システムでの月次チェック
他勘定振替高とは?売上原価から控除する理由と主な振替先


他勘定振替高とは、商品や製品が販売以外の目的で払い出され、売上原価以外の勘定に振り替えた金額のことです。三分法では「期首棚卸高+当期仕入高-期末棚卸高」で売上原価を計算するため、見本品や社内使用の分も、何もしなければ売上原価に含まれてしまいます。
そこで、販売以外で払い出した分を売上原価から控除し、本来の科目(広告宣伝費や工具器具備品など)に付け替えます。この控除額が他勘定振替高です。
| 払出しの目的 | 主な振替先の科目 | 損益計算書などの区分 |
|---|---|---|
| 見本品・サンプルとして配布 | 見本品費・広告宣伝費 | 販売費及び一般管理費 |
| キャンペーンの景品・展示用 | 広告宣伝費・販売促進費 | 販売費及び一般管理費 |
| 社内の備品・設備として使用 | 工具器具備品・機械装置・建設仮勘定 | 貸借対照表(固定資産) |
| 得意先への贈答 | 交際費 | 販売費及び一般管理費 |
| 従業員への支給 | 福利厚生費 | 販売費及び一般管理費 |
| 試作・研究目的で使用 | 研究開発費 | 一般管理費または当期製造費用 |
| 火災・水害などで滅失 | 災害損失 | 特別損失 |
財務諸表等規則第76条は、商品や製品に販売、生産又は仕入以外の理由による増減高がある場合、その内容を示す科目で別に掲記するよう定めています。財務諸表等規則ガイドライン76では、合併、営業譲渡、災害、贈与、自家消費等による増減高が例に挙がっています。
他勘定振替高は「売上原価からのマイナス」
他勘定振替高は、売上原価の計算過程で差し引く控除項目です。振替先に同額が計上されるため当期純利益は変わらず、変わるのは売上総利益と販管費・特別損失などの区分です。
棚卸資産の評価損を売上原価に含めるか別に表示するかは、次の記事で解説しています。


見本品を大量に配った月だけ粗利率が下がる、というのは振替漏れのよくあるサインです。
他勘定振替高の仕訳例|見本品・販促・備品・贈答・災害


三分法を前提に、仮の数値で6つのケースの仕訳を示します。金額はすべて払い出した商品の原価(帳簿価額)です。貸方は仕入を直接減らさず、他勘定振替高という売上原価の控除科目を使う方法にしています。
| ケース | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|
| 見本品として配布 | 見本品費 80,000 | 他勘定振替高 80,000 |
| 店頭キャンペーンの景品に使用 | 広告宣伝費 120,000 | 他勘定振替高 120,000 |
| 社内で備品として使用 | 工具器具備品 300,000 | 他勘定振替高 300,000 |
| 得意先への贈答 | 交際費 60,000 | 他勘定振替高 60,000 |
| 従業員への支給 | 福利厚生費 40,000 | 他勘定振替高 40,000 |
| 倉庫の浸水で滅失 | 災害損失 250,000 | 他勘定振替高 250,000 |
6件の合計850,000円が損益計算書の他勘定振替高です。貸方の処理には次の3方式があります。
| 方式 | 貸方の科目 | 特徴 |
|---|---|---|
| 他勘定振替高を使う | 他勘定振替高 | 仕入の総額が残り、損益計算書の表示にそのまま使える |
| 仕入を直接減らす | 仕入 | 仕訳は簡単だが、決算で振替額を集計し直す必要がある |
| 継続記録法(売上原価対立法) | 商品 | 在庫を払出しの都度減らす。振替額は出庫データから集計 |
仕入を直接減らすと仕入の残高が請求額と一致しなくなるため、他勘定振替高の科目を使う方法がおすすめです。
振り替える金額は「売価」ではなく「原価」
自社の商品を配ったときに、販売価格で広告宣伝費や交際費を計上してしまうミスがあります。会計上は在庫から払い出した原価で振り替えるのが基本です。売価との差額を計上すると、利益が架空に膨らみます。税務上、時価で考える場面があるかは別途確認してください。
贈答と従業員への支給は、交際費か福利厚生費かの判定がポイントです。


私は振替先の科目を「出庫目的コード」と1対1でひもづけています。目的が正しく入れば、科目で迷いません。
損益計算書での他勘定振替高の表示と数値例


財務諸表等規則第75条では、売上原価は期首棚卸高、当期商品仕入高(または当期製品製造原価)、期末棚卸高の区分で掲記します。他勘定振替高は第76条により別の科目として、期末棚卸高の前に控除する形で示すのが一般的です。前の章の6件の仕訳を反映した数値例は次のとおりです。
| 損益計算書の項目 | 金額(円) |
|---|---|
| 売上高 | 13,000,000 |
| 期首商品棚卸高 | 1,200,000 |
| 当期商品仕入高 | 9,800,000 |
| 合計 | 11,000,000 |
| 他勘定振替高 | 850,000 |
| 期末商品棚卸高 | 1,500,000 |
| 売上原価 | 8,650,000 |
| 売上総利益 | 4,350,000 |
売上原価は「1,200,000+9,800,000-850,000-1,500,000=8,650,000円」です。振替を忘れると売上原価は9,500,000円となり、850,000円過大になります。
有価証券報告書の個別損益計算書では、他勘定振替高に「※」を付けて、内訳を脚注で示す会社が多く見られます。数値例の場合の書き方は次のとおりです。
| 他勘定振替高の内訳(脚注の例) | 金額(円) |
|---|---|
| 販売費及び一般管理費(見本品費・広告宣伝費・交際費・福利厚生費) | 300,000 |
| 工具器具備品 | 300,000 |
| 特別損失(災害損失) | 250,000 |
| 合計 | 850,000 |
内訳は振替先の区分ごとに集計しておく
月次で振替先の区分ごとに集計しておけば、決算で慌てずに済みます。なお、連結財務諸表を作成し、セグメント情報を注記している会社は、財務諸表等規則第75条第2項ただし書により個別の製造原価明細書の添付を省略できます。
簿記検定でも主に1級の財務諸表作成問題で出ることがあります。「仕入の総額から控除する」形は実務と同じです。
製造原価報告書での他勘定振替高|自社製品の固定資産化と試作品


製造原価報告書(製造原価明細書)の他勘定振替高は、製造途中の原価を製品以外に使った分を当期製品製造原価から除く項目です。財務諸表等規則ガイドライン75-2は、当期総製造費用を材料費・労務費・経費などに区分し、期首仕掛品を加えて期末仕掛品を控除する形式を示しています。
| 製造原価報告書の項目 | 金額(円) |
|---|---|
| 材料費 | 4,000,000 |
| 労務費 | 2,500,000 |
| 経費 | 1,500,000 |
| 当期総製造費用 | 8,000,000 |
| 期首仕掛品棚卸高 | 600,000 |
| 合計 | 8,600,000 |
| 期末仕掛品棚卸高 | 700,000 |
| 他勘定振替高 | 400,000 |
| 当期製品製造原価 | 7,500,000 |
他勘定振替高400,000円は、自社工場で製作中の検査装置250,000円と試作品150,000円です。
- (借) 建設仮勘定 250,000 / (貸) 他勘定振替高 250,000
- (借) 研究開発費 150,000 / (貸) 他勘定振替高 150,000
当期製品製造原価は「8,600,000-700,000-400,000=7,500,000円」です。さらに完成した製品から見本品100,000円を払い出した場合、損益計算書では期首製品棚卸高900,000円+7,500,000円-製品の他勘定振替高100,000円-期末製品棚卸高1,000,000円で、売上原価は7,300,000円になります。
自社製品を固定資産として使う場合、取得価額は製造に要した原材料費・労務費・経費に、事業の用に供するために直接要した費用を加えた額です(法人税法施行令第54条第1項第2号)。完成までは建設仮勘定に集め、完成時に機械装置などへ振り替えます。
製品原価と売上原価の計算は、次の記事で解説しています。


製造原価報告書の他勘定振替高と、損益計算書の他勘定振替高は別物です。仕掛品段階か製品段階かで、どちらに載せるかが決まります。
他勘定振替高の税務と消費税の注意点


他勘定振替高は表示上の科目ですが、振替先の科目によって税務の扱いが変わります。
| 振替先 | 法人税の主な論点 | 消費税の扱い |
|---|---|---|
| 見本品費・広告宣伝費 | 広告宣伝目的なら原則損金 | 無償配布は不課税(仕入時の課税仕入れはそのまま) |
| 交際費 | 交際費等として損金算入に限度あり | 得意先への無償贈答は不課税 |
| 福利厚生費 | 全員一律かなどで給与課税の有無を確認 | 従業員への無償支給は不課税 |
| 役員への贈与 | 役員給与(経済的利益)の論点 | みなし譲渡として課税 |
| 工具器具備品・機械装置 | 事業の用に供した日から減価償却 | 振替時の課税仕入れなし |
| 災害損失 | 損金算入。保険金の受取りに注意 | 滅失は不課税 |
交際費等は租税特別措置法第61条の4で損金算入が制限され、資本金1億円以下の法人(大法人の100%子会社などを除く)は年800万円の定額控除限度額を選べます。カレンダーや手帳などを贈与するために通常要する費用は、交際費等から除かれます(同法施行令第37条の5第2項)。
消費税では、法人の無償の贈与や自家消費は原則として課税対象外です。ただし、法人が自社製品などを役員に贈与した場合はみなし譲渡として課税されます(国税庁タックスアンサーNo.6105)。棚卸資産の贈与では、課税仕入れの金額以上、かつ通常の販売価額のおおむね50%以上の金額を対価として申告すれば認められます(消費税法基本通達10-1-18)。仕入30,000円・販売価額50,000円の商品なら、30,000円以上で申告する形です。
振替仕訳に課税仕入れの区分を付けない
商品は仕入時にすでに課税仕入れとして処理されています。振替仕訳の借方(広告宣伝費など)に課税仕入れの税区分を付けると、仕入税額控除が二重になります。他勘定振替高の振替仕訳は「対象外(不課税)」で登録し、役員への贈与だけを別に管理してください。
固定資産に振り替えた備品は、事業の用に供した日から減価償却を始めます。
消費税の二重控除は税務調査でも指摘されやすいポイントです。
会計システムでの他勘定振替高の管理|月次処理とチェックリスト


他勘定振替高を正しく計上するには、在庫管理システムの出庫区分と会計科目をつなぐ設計が欠かせません。月次の流れは次の5ステップです。
出庫伝票で目的・数量・使用部署を記録し、在庫システムで販売出庫と分けて「振替出庫」として登録します。
出庫目的コードから振替先の科目を決めます。贈答か福利厚生か、固定資産か消耗品かなど、迷うものは経理が確認します。
振替出庫データを原価で集計し、振替先の科目と他勘定振替高で仕訳を計上します。税区分は対象外にします。
在庫システムの振替出庫の合計と、会計の他勘定振替高の残高が一致するかを確認します。
販管費・固定資産・特別損失など、振替先の区分ごとに累計額をまとめ、決算の脚注に備えます。
| 在庫システムの出庫区分 | 会計の科目 | 補助科目の例 |
|---|---|---|
| 販売出庫 | 売上原価(三分法なら仕訳なし) | - |
| 振替出庫(見本品) | 見本品費/他勘定振替高 | 販管費振替 |
| 振替出庫(社内使用) | 工具器具備品・消耗品費/他勘定振替高 | 固定資産振替・販管費振替 |
| 振替出庫(試作) | 研究開発費/他勘定振替高 | 研究開発振替 |
| 廃棄・滅失 | 災害損失・棚卸資産廃棄損/他勘定振替高 | 特損振替 |
他勘定振替高に補助科目を振替先の区分ごとに設定しておくと、残高試算表からそのまま脚注の内訳が作れます。なお、実地棚卸の棚卸差異(減耗)は原因不明の差額で、目的が分かっている振替出庫とは別に管理します。
| よくあるミス | 防ぎ方 |
|---|---|
| 振替漏れで売上原価が過大 | 振替出庫の一覧と他勘定振替高を毎月照合する |
| 在庫システムと手入力の二重計上 | 連携仕訳と手入力の仕訳を摘要で区別する |
| 売価で振り替えた | 振替単価は在庫の評価単価(原価)を使う |
| 振替仕訳に課税仕入れの税区分 | 科目マスタで税区分の初期値を対象外にする |
| 棚卸減耗と振替出庫の混同 | 出庫目的の記録がないものは減耗として扱う |
他勘定振替高の月次チェックリスト
- 振替出庫の申請・伝票がすべて在庫システムに登録されているか
- 振替単価が原価(評価単価)になっているか
- 振替出庫の合計と他勘定振替高の残高が一致しているか
- 贈答・福利厚生・固定資産の振替先科目は正しいか
- 振替仕訳の税区分が対象外になっているか(役員への贈与は別管理)
- 固定資産に振り替えたものを固定資産台帳に登録し、償却開始月を入れたか
- 振替先の区分ごとの累計額を、脚注用に集計したか
私は他勘定振替高の前年同月比も毎月見ています。急な増減は振替漏れや二重計上のサインです。
まとめ
- 他勘定振替高は、商品・製品を販売以外で払い出した原価を売上原価から控除する項目
- 見本品・販促・備品・贈答・従業員支給・災害は、原価で振替先の科目と他勘定振替高に仕訳する
- 損益計算書では仕入高の後、期末棚卸高の前に控除し、内訳は振替先の区分ごとに脚注で示すのが一般的
- 製造原価報告書では、固定資産や研究開発費に使った分を当期製品製造原価から除く
- 振替仕訳の税区分は対象外とし、役員への贈与のみなし譲渡と振替漏れを月次で確認する
まずは在庫システムの出庫区分を確認し、振替出庫が販売出庫と分けて記録されているかを見てみてください。
他勘定振替高は見落とされがちですが、粗利率の分析の精度を左右します。出庫の段階で目的を残す仕組みを作りましょう。







