「のれんはいつから何年で償却する?」「負ののれんはどう処理する?」。のれんは簿記1級の連結会計や企業結合で頻出で、時価評価や税効果と組み合わさると難しくなります。
今回は、のれんの計算・償却・負ののれんの仕訳を数値例つきで解説します。償却期間の決め方や税務の資産調整勘定、IFRSとの違いなどの実務もまとめました。
のれんは「払った金額と、受け入れた純資産の時価との差」です。この1行を軸にすると、合併も連結も同じ考え方で解けますよ。
- のれんの意味と個別・連結での発生場面
- 取得原価の配分(PPA)と償却期間のルール
- 吸収合併・連結・段階取得の仕訳
- 負ののれんの処理と簿記2級との違い
- のれんの減損の考え方
- 償却期間の根拠・税務・IFRSとの違いなどの実務
のれんとは?取得原価と時価純資産の差額


のれんとは、企業や事業を取得したときに支払った取得原価が、受け入れた識別可能な資産・負債の時価の純額を上回る部分です。ブランドや顧客基盤など、個別に資産計上できない超過収益力の対価と考えられています。
計算式はのれん=取得原価-(識別可能資産の時価-負債の時価)です。差額がマイナスになる場合は負ののれんになります。
| 個別財務諸表 | 連結財務諸表 | |
|---|---|---|
| 主な取引 | 吸収合併、事業譲受 | 株式取得による子会社化 |
| 計算の比較対象 | 交付した対価と受け入れた資産・負債の時価純額 | 子会社株式(投資)と子会社の資本の親会社持分 |
| 計上のタイミング | 合併・事業譲受の仕訳で計上 | 投資と資本の相殺消去で計上 |
株式取得の場合、親会社の個別貸借対照表には子会社株式が載るだけで、のれんは連結財務諸表だけに現れます。
日本基準ののれんは「親会社の持分だけ」
連結では、子会社の資本の親会社持分に対応する部分だけでのれんを計算します(購入のれん)。非支配株主の持分に対応するのれんは計上しません。IFRSでは、のれん全体を計上する方法(全部のれん)も選べます。
個別ののれんは「合併・事業譲受」、連結ののれんは「株式取得」。まず問題文がどちらかを確認しましょう。
のれんの計上と償却|取得原価の配分(PPA)と償却期間


のれんの会計処理は、次の5ステップで進みます。
対価の企業結合日の時価で計算し、取得関連費用は含めません。
資産・負債を時価で評価し、無形資産も識別します。
取得原価と時価純資産の差額を計算します。
20年以内で期間を決め、規則的に償却します。
事業計画の未達などの兆候を毎期確認します。
取得原価と取得関連費用
取得原価は、原則として対価となる財の企業結合日の時価で算定します。アドバイザー報酬などの取得関連費用は取得原価に含めず、発生した事業年度の費用として処理します(企業結合会計基準第23項・第26項)。
取得原価の配分(PPA)と識別可能な無形資産
取得原価を識別可能な資産・負債に時価で配分する手続をPPA(Purchase Price Allocation)といい、相手の貸借対照表にない無形資産も識別可能なら計上します。
| 無形資産の例 | 内容 | 評価方法の例 |
|---|---|---|
| 顧客関連資産 | 既存顧客との継続的な取引関係 | 超過収益法 |
| 技術関連資産 | 特許、ノウハウ、ソフトウェア | ロイヤルティ免除法、コスト・アプローチ |
| 商標・ブランド | 商品名やロゴの使用による収益力 | ロイヤルティ免除法 |
配分は企業結合日以後1年以内に行います。間に合わなければ暫定的な会計処理を行い、確定時は企業結合年度に確定していたものとして、のれんも見直します(同基準第28項・注6)。
のれんの償却期間と表示
のれんは資産に計上し、20年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法その他の合理的な方法により規則的に償却します。金額に重要性が乏しい場合は、生じた事業年度の費用にできます(同基準第32項)。
貸借対照表では無形固定資産に「のれん」、損益計算書では販売費及び一般管理費に「のれん償却額」として表示します。償却は企業結合日(支配獲得日)から始め、期中取得なら月割で計算します。
償却期間は問題文で指示されます。開始日から決算日までの月数を数える習慣をつけましょう。
のれんの仕訳を数値例で解説|吸収合併・連結・段階取得


吸収合併でのれんが生じる仕訳
例(仮の数値):A社(3月決算)はX1年10月1日にB社を吸収合併し、A社株式1,000株(時価@1,500円)を交付しました。B社の諸資産は帳簿価額2,000,000円・時価2,250,000円、諸負債1,200,000円、PPAで顧客関連資産100,000円を識別しました。増加資本は資本金1,000,000円、残りは資本準備金です。
取得原価は1,000株×1,500円=1,500,000円、時価純資産は2,250,000+100,000-1,200,000=1,150,000円で、のれんは350,000円です。
| 取引 | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|
| 合併時 | 諸資産 2,250,000、顧客関連資産 100,000、のれん 350,000 | 諸負債 1,200,000、資本金 1,000,000、資本準備金 500,000 |
| 取得関連費用(現金払い) | 支払手数料 50,000 | 現金 50,000 |
| X2年3月期の償却(10年・6か月分) | のれん償却 17,500 | のれん 17,500 |
350,000円÷10年×6/12=17,500円を償却し、期末ののれんは332,500円です。
連結(支配獲得時)でのれんが生じる仕訳
P社はX1年3月31日にS社株式の70%を840,000円で取得しました。S社は資本金600,000円・利益剰余金300,000円、土地(帳簿価額400,000円)の時価は500,000円、実効税率30%です。
時価との差100,000円から繰延税金負債30,000円を引いた70,000円が評価差額です。S社の資本970,000円のうちP社持分は679,000円、非支配株主持分は291,000円、のれんは840,000-679,000=161,000円です。
| 処理 | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|
| 子会社の資産・負債の時価評価 | 土地 100,000 | 繰延税金負債 30,000、評価差額 70,000 |
| 投資と資本の相殺消去 | 資本金 600,000、利益剰余金 300,000、評価差額 70,000、のれん 161,000 | S社株式 840,000、非支配株主持分 291,000 |
| X2年3月期の償却(10年) | のれん償却 16,100 | のれん 16,100 |
取得関連費用は連結で費用に戻す
個別上、子会社株式の取得原価に取得関連費用20,000円を含めて860,000円としている場合は、連結で「支払手数料 20,000/S社株式 20,000」と修正してから相殺します。
段階取得の場合
P社がS社株式10%(取得原価80,000円)を持っており、60%を660,000円で追加取得した場合です。支配獲得日の旧持分の時価は110,000円です。
| 処理 | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|
| 旧持分の時価評価 | S社株式 30,000 | 段階取得に係る差益 30,000 |
| 投資と資本の相殺消去 | 資本金 600,000、利益剰余金 300,000、評価差額 70,000、のれん 91,000 | S社株式 770,000、非支配株主持分 291,000 |
支配獲得日の時価で投資を測り直し、差額は段階取得に係る差益(差損)です。のれんは770,000-679,000=91,000円です。
開始仕訳や利益の按分は、連結会計の記事で解説しています。


連結ののれんは「税効果後の評価差額→資本合計→親会社持分→のれん」の順で計算すると迷いません。
負ののれんとは?再確認と特別利益の仕訳


取得原価が時価純資産を下回るときの差額が負ののれんです。割安な買収のほか、評価の誤りも考えられます。
まず識別可能資産・負債の把握漏れや配分の誤りがないかを見直します。それでも生じる負ののれんは、生じた事業年度の利益として処理します(企業結合会計基準第33項)。表示は原則として特別利益で、勘定科目は「負ののれん発生益」です。
先の吸収合併で、交付株式の時価が1,100,000円(全額資本金)の場合です。
| 借方 | 貸方 |
|---|---|
| 諸資産 2,250,000、顧客関連資産 100,000 | 諸負債 1,200,000、資本金 1,100,000、負ののれん発生益 50,000 |
時価純資産1,150,000円-取得原価1,100,000円=50,000円が負ののれん発生益です。連結でも同じです。
負ののれんは償却しない
以前の基準では負ののれんも償却していましたが、現在は再確認のうえ一括で利益にします。
負ののれんが出たら、まず評価差額や持分比率の計算ミスを疑いましょう。
簿記1級ののれんの解き方|2級との違いとよくあるミス


簿記2級と簿記1級の違い
日商簿記の出題区分表(2027年4月1日施行の確定版)では、のれん、会社の合併、資本連結・非支配株主持分は2級の範囲です。1級では子会社の時価評価や段階取得、連結の税効果、減損が加わります。
| 論点 | 簿記2級 | 簿記1級 |
|---|---|---|
| のれんの計上と償却 | 範囲内 | 範囲内(程度が高い) |
| 会社の合併 | 範囲内(簡易な内容) | 範囲内 |
| 資本連結・非支配株主持分 | 範囲内 | 範囲内 |
| 子会社の資産・負債の時価評価 | 範囲外 | 範囲内 |
| 段階取得・追加取得・一部売却 | 範囲外 | 範囲内 |
| 連結の税効果、固定資産の減損 | 範囲外 | 範囲内 |
のれんの問題でよくあるミス
のれんのよくあるミス
- 評価差額の税効果を忘れる(先の例ではのれんが140,000円になり、21,000円ずれる)
- 取得関連費用を取得原価に含めてしまう(連結では費用処理)
- 期中取得なのに償却を12か月分で計算する
- 段階取得で旧持分を時価に評価し直さない
- 非支配株主持分の分までのれんを計上する
- 負ののれんを償却する、または営業外収益にする
のれんの減損の考え方
のれんの減損は原則として、関連する複数の資産グループにのれんを加えた、より大きな単位で判定します。
のれんを含まない資産グループで判定した後、のれんを含む単位で判定し、増えた減損損失は原則としてのれんに配分します。各資産グループに配分してから判定する方法もあります。計算は次の記事で解説しています。


のれんの減損は「のれん抜きで判定→のれん込みで判定→増えた分はのれんへ」の順番で覚えましょう。
のれんの実務|PPA・償却期間・税務・IFRSとの違い


M&Aが決まると、経理はPPAから関わります。無形資産の評価は評価専門家に依頼することが多く、経理は事業計画などの前提資料を集めて監査法人と協議します。
償却期間は投資回収期間や事業計画の期間を根拠にすることが多く、算定資料を残します。個別ののれんは固定資産台帳、連結ののれんは連結パッケージで子会社ごとに残高を管理します。
減損の兆候は取得時の事業計画と実績の比較で見ます。私の経験では、計画未達は監査で必ず論点になるため、四半期ごとに差異の理由を記録しています。
税務上ののれん(資産調整勘定)
税務では、非適格合併等(非適格合併や、主要な資産・負債のおおむね全部が移る事業譲受など)で生じた差額を資産調整勘定とし、当初計上額を60か月で均等に減額して損金算入します(法人税法第62条の8)。マイナスなら差額負債調整勘定として60か月で益金算入します。
| 項目 | 会計上ののれん | 税務上の資産調整勘定 |
|---|---|---|
| 根拠 | 企業結合会計基準 | 法人税法第62条の8 |
| 期間 | 20年以内のその効果の及ぶ期間 | 60か月(5年)で均等 |
| 例1の初年度(6か月) | 17,500(10年償却) | 35,000(350,000×6/60と仮定) |
| 生じない場合 | - | 適格合併(帳簿価額を引継ぎ)、株式取得による子会社化 |
会計と税務のずれは税効果会計の論点になります。取扱いが細かいため、監査法人や税理士と確認しましょう。


IFRSとの違いと日本基準の議論の状況
| 項目 | 日本基準 | IFRS会計基準 |
|---|---|---|
| 償却 | 20年以内で規則的に償却 | 償却しない |
| 減損テスト | 兆候がある場合に判定 | 毎年(兆候があればその都度)実施 |
| 非支配持分ののれん | 計上しない(購入のれん) | 全部のれんも選択可 |
| 負ののれん | 再確認のうえ利益 | 再確認のうえ利益 |
日本でも非償却の導入が企業会計基準諮問会議で議論されましたが、監査法人の解説によると、2026年7月27日の第57回会議で非償却や選択制をASBJに提言しないことが決まりました。一方で、償却期間・方法の見直しや「のれん償却前営業利益」の検討は提言されるため、今後の公表資料を確認してください。
開示では、企業結合の注記でのれんの金額、発生原因、償却方法・償却期間を示し、セグメント情報でも償却額と未償却残高を開示します。
のれんの実務チェックリスト
- 取得原価に取得関連費用が混ざっていないか
- PPAの前提(事業計画・評価手法)と評価報告書を保管したか
- 償却期間の根拠資料と承認記録を残したか
- 固定資産台帳・連結パッケージの残高と償却額が一致しているか
- 事業計画と実績を比較し、減損の兆候を記録したか
- 税務上の資産調整勘定と会計上ののれんの差異を把握したか
のれんは何年も残る科目です。「なぜその年数か」を後任にも説明できる資料を残しましょう。
まとめ
- のれんは取得原価と識別可能資産・負債の時価純額との差額で、超過収益力を表す
- 取得関連費用は費用処理し、PPAは企業結合日以後1年以内に完了させる
- のれんは20年以内のその効果の及ぶ期間で規則的に償却し、販管費に表示する
- 連結では評価差額の税効果を調整し、親会社持分だけでのれんを計算する
- 負ののれんは再確認のうえ、生じた年度の利益(原則として特別利益)にする
- 実務では償却期間の根拠、減損の兆候、資産調整勘定との差異の管理が重要
まずは本記事の数値例で、合併と連結の仕訳を自分で書いてみてください。
のれんは合併・連結・減損・税効果をつなぐ論点です。差額の考え方を押さえて、1級の得点源にしてください。
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