簿記1級の減損損失の問題で、割引前と割引後のどちらを使うのかで手が止まりませんか。実務でも、決算のたびに「この店舗は減損の兆候がある?」と議論になるテーマです。
この記事では、上場企業の経理として会計システムにも関わってきた私の目線で、固定資産の減損会計の考え方と計算を整理します。特に、認識の判定と測定の計算、仕訳、決算での手続きの流れが中心です。
減損は「認識は割引前、測定は割引後」の一言を覚えるだけで、計算問題の正答率がぐっと上がりますよ。
- 減損会計の考え方と評価損との違い
- グルーピング・兆候・認識・測定の4ステップ
- 簿記1級の数値例(使用価値の計算と仕訳)
- 資産グループ・共用資産・のれんの扱いと解き方のコツ
- 表示・注記・税務と決算での実務の流れ
減損損失(固定資産の減損)とは?評価損との違い


回収できない投資額を帳簿から減らす処理
減損とは、資産の収益性が下がり、投資額の回収が見込めなくなった状態をいいます。減損処理では、一定の条件を満たした場合に帳簿価額を回収可能価額まで減額し、減らした金額を減損損失として当期の損失にします。
根拠になるのは、企業会計審議会の「固定資産の減損に係る会計基準」と同注解、企業会計基準委員会(ASBJ)の企業会計基準適用指針第6号「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」です。金融資産や繰延税金資産など、ほかの基準に定めがある資産は対象外です。
時価評価ではなく、取得原価基準の中での臨時的な減額
減損処理は時価評価ではなく、取得原価基準の下で行う帳簿価額の臨時的な減額です。時価の下落だけでなく、投資額を回収できるかで判断します。
| 項目 | 棚卸資産の評価損(低価法) | 固定資産の減損 |
|---|---|---|
| 判断の基準 | 期末の正味売却価額が帳簿価額を下回るか | 兆候→割引前将来CFで認識→回収可能価額で測定 |
| 比べる金額 | 正味売却価額 | 正味売却価額と使用価値の高い方 |
| 戻入れ | 洗替え法なら戻入れあり | 戻入れは行わない |
| P/Lの区分 | 原則として売上原価 | 原則として特別損失 |
同じ「減損」でも、商業簿記と工業簿記で意味が違います。問題文がどちらの話かを最初に確認しましょう。
減損会計の4ステップ|グルーピング・兆候・認識・測定


減損会計は、①資産のグルーピング→②減損の兆候→③認識の判定→④減損損失の測定の順に進めます。兆候がなければ③以降には進みません。
①資産のグルーピング
グルーピングは、他の資産のキャッシュ・フローから概ね独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位で行います。実務では管理会計上の区分や意思決定の単位を考えて決め、小売業なら店舗ごとが典型です。
②減損の兆候
適用指針第6号では、兆候として次のような例が示されています。
| 兆候 | 主な例・目安 |
|---|---|
| 営業損益(またはCF)が継続してマイナス | おおむね過去2期がマイナス。当期の見込みが明らかにプラスなら該当しない |
| 使用範囲・方法の著しい変化 | 事業の廃止・再編成、早期の処分、用途の転用、遊休化、稼働率の著しい低下 |
| 経営環境の著しい悪化 | 材料価格の高騰や販売量の著しい減少、技術革新による陳腐化、重要な法改正 |
| 市場価格の著しい下落 | 少なくとも帳簿価額から50%程度以上下落した場合 |
③認識の判定と④測定
兆候がある場合、割引前将来キャッシュ・フローの総額が帳簿価額を下回るかを判定します。見積期間は、資産(資産グループでは主要な資産)の経済的残存使用年数と20年のいずれか短い方です。20年を超える場合は、20年経過時点の回収可能価額を20年目までの割引前キャッシュ・フローに加えます。
減損損失を認識したら、帳簿価額と回収可能価額の差額を減損損失として測定します。回収可能価額は、正味売却価額(時価−処分費用見込額)と使用価値(将来キャッシュ・フローの割引現在価値)のいずれか高い方です。使用価値の割引率は、貨幣の時間価値を反映した税引前の利率を使います。
認識は割引前、測定は割引後
認識の判定は割引しない金額で行い、測定では割引後の使用価値と正味売却価額の高い方を使います。この順番を覚えておけば、問題文の数字をどこに入れるかで迷いません。
試験では「兆候あり」と書かれていることが多いですが、実務では兆候の把握そのものが一番の山場です。
簿記1級の数値例|単一資産の認識・測定と仕訳


前提条件
当期末に、機械装置(取得原価50,000千円、減価償却累計額30,000千円、帳簿価額20,000千円)に減損の兆候がありました。残存耐用年数は3年、毎年の将来キャッシュ・フローは5,000千円、3年後の正味売却価額(残存価額と同じ)は2,000千円です。現在の時価は12,000千円、処分費用は500千円、割引率は5%とします。計算結果は千円未満を四捨五入します。
| 計算項目 | 計算式 | 金額(千円) |
|---|---|---|
| 割引前将来CF | 5,000×3年+2,000 | 17,000 |
| 認識の判定 | 17,000<帳簿価額20,000 | 認識する |
| 正味売却価額 | 12,000−500 | 11,500 |
| 使用価値 | 5,000×2.7232+2,000×0.8638 | 15,344 |
| 回収可能価額 | 11,500と15,344の高い方 | 15,344 |
| 減損損失 | 20,000−15,344 | 4,656 |
使用価値の計算では、毎年同じ額のキャッシュ・フローには年金現価係数(5%・3年:2.7232)、3年後の処分収入には現価係数(5%・3年:0.8638)を掛けます。5,000×2.7232=13,616、2,000×0.8638=1,727.6なので、合計15,343.6を四捨五入して15,344千円です。
仕訳は直接控除と減損損失累計額の2通り
| 方法 | 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|---|
| 直接控除 | 減損損失 | 4,656 | 機械装置 | 4,656 |
| 減損損失累計額を使う | 減損損失 | 4,656 | 減損損失累計額 | 4,656 |
| 翌期の減価償却 | 減価償却費 | 4,448 | 減価償却累計額 | 4,448 |
問題文に指示がなければ、資産の勘定から直接減らす方法で解くのが基本です。
減損後の減価償却と戻入れ
減損処理をした資産は、減損損失を控除した帳簿価額を基礎に減価償却をします。この例では、(15,344−残存価額2,000)÷残り3年=4,448千円が翌期以降の償却額です。あとで収益性が回復しても、戻入れは行いません。
割引前の17,000で測定してしまうと、減損損失は3,000になって不正解です。認識と測定の数字を分けて書き出しましょう。


資産グループ・共用資産・のれんの減損と解き方のコツ


資産グループの減損損失は帳簿価額の比で配分する
資産グループの減損損失は、帳簿価額に基づく比例配分などで各構成資産に配分します。帳簿価額60,000千円、割引前将来CF48,000千円、回収可能価額42,000千円の例です。
| 構成資産 | 帳簿価額 | 配分割合 | 減損損失 | 減損後の帳簿価額 |
|---|---|---|---|---|
| 建物 | 30,000 | 50% | 9,000 | 21,000 |
| 機械装置 | 18,000 | 30% | 5,400 | 12,600 |
| 土地 | 12,000 | 20% | 3,600 | 8,400 |
| 合計 | 60,000 | 100% | 18,000 | 42,000 |
48,000<60,000なので認識し、60,000−42,000=18,000を配分します。仕訳は減損損失18,000/建物9,000・機械装置5,400・土地3,600です。土地は償却しない資産ですが、減損の対象にはなります。
共用資産・のれんは「より大きな単位」が原則
本社建物のような共用資産は、原則として、関係する複数の資産グループに共用資産を加えたより大きな単位で判定します。共用資産を加えたことで増えた減損損失は、原則として共用資産に配分します。
| 区分 | 帳簿価額 | 判定 | 減損損失 |
|---|---|---|---|
| 資産グループA | 20,000 | 割引前CF22,000で認識しない | 0 |
| 資産グループB | 30,000 | 割引前CF26,000で認識 | 4,000 |
| 共用資産を含む大きな単位 | 60,000 | 割引前CF52,000で認識・回収可能価額50,000 | 10,000 |
| 増加額(共用資産へ) | − | 10,000−4,000 | 6,000 |
この例では共用資産の帳簿価額10,000、正味売却価額3,000で、6,000は差額7,000の範囲内です。超える場合は超過額を各資産グループに配分します。共用資産の帳簿価額を各資産グループに配分してから判定する方法もあります。
のれんも考え方は同じで、原則はより大きな単位で判定し、増加した減損損失はのれんに優先して配分します。のれんに配分する損失がのれんの帳簿価額を超えた場合、超過額は各資産グループに配分します。
簿記1級でミスしやすい点
- 認識の判定に割引後の金額を使ってしまう(認識は割引前)
- 正味売却価額で処分費用見込額を差し引き忘れる
- 最終年度の処分収入(残存価額)を将来CFに含め忘れる
- 年金現価係数と現価係数を取り違える
- 端数処理の指示(千円未満四捨五入など)を読み落とす
共用資産の問題は、各グループで判定してから大きな単位で判定する2段構えです。
減損損失の表示・注記と税務(損金不算入と税効果)


損益計算書は特別損失、貸借対照表は直接控除が原則
減損損失は、原則として特別損失に表示します。貸借対照表は、次の3つの形式が認められています。
| 表示形式 | 内容 |
|---|---|
| 直接控除形式(原則) | 減損前の取得原価から減損損失を直接控除し、控除後の金額をその後の取得原価とする |
| 独立間接控除形式 | 減価償却を行う有形固定資産について、減損損失累計額を取得原価から間接控除する |
| 合算間接控除形式 | 減損損失累計額を減価償却累計額に合算して表示する |
重要な減損損失を認識した場合は、資産の用途・種類・場所などの概要、認識に至った経緯、金額と主な資産の種類ごとの内訳、グルーピングの方法、回収可能価額の算定方法を注記します。使用価値を使った場合は割引率も記載します。
税務は原則として損金不算入、償却超過額として調整
法人税法では、資産の評価損は原則として損金に算入されません。固定資産で認められるのは、災害による著しい損傷や1年以上の遊休など、法令で定める事実がある場合に限られます。
ただし、法人税基本通達7−5−1では、減価償却資産に計上した評価損のうち損金不算入となった金額は「償却費として損金経理をした金額」に含まれ、評価損には減損損失も含まれるとされています。そのため、償却資産の減損損失は償却超過額として扱い、翌期以降に償却限度額の範囲で認容されていく形になります。
| 時点 | 会計 | 税務調整 | 税効果(実効税率30%と仮定) |
|---|---|---|---|
| 減損した期 | 減損損失4,656 | 償却超過額4,656を加算・留保 | 繰延税金資産1,397/法人税等調整額1,397 |
| 翌期以降 | 償却費4,448 | 償却超過額のうち1,552を毎期減算・認容 | 一時差異の解消に応じて取り崩す |
この表は、税務上の償却限度額が毎期6,000千円で変わらないと仮定した単純化した例です。減損損失は将来減算一時差異になるため、繰延税金資産の回収可能性の判断も必要です。土地など償却しない資産の扱いは、顧問税理士と確認してください。
税務は「減損=評価損」の扱いを押さえる
別表四での加算と、固定資産台帳での税務簿価の管理をセットで行うと、翌期以降の認容漏れを防げます。
減損の税効果は金額が大きくなりがちです。回収可能性まで含めて、監査法人と早めにすり合わせましょう。


決算での減損手続きの流れと実務のチェックリスト


決算での減損手続き5ステップ
新店舗や組織変更、事業の廃止があれば、グルーピングの単位が管理会計の区分と合っているかを確認します。
事業別・店舗別の損益を集計し、2期連続の営業赤字や遊休資産、時価の大幅な下落などを洗い出します。
兆候がある資産グループについて、事業計画と整合する将来キャッシュ・フローを見積り、認識を判定します。
鑑定評価や割引率の根拠をそろえて算定し、監査法人に説明できる資料にまとめます。
減損損失を計上し、固定資産台帳の帳簿価額、翌期以降の償却額、税務簿価、注記を更新します。
実務で気をつけたいポイント
実務でよく問題になるのは、減損判定の将来キャッシュ・フローと、予算や中期経営計画の数字が食い違っていることです。計画の作成部署と早めに数字をそろえておきましょう。
システム面では、減損後の帳簿価額で償却計算が自動で切り替わるかを必ず確認しましょう。テスト環境で、翌期の償却額が4,448のように正しく出るかを見ておくと安心です。
| 項目 | 日本基準 | IFRS(IAS第36号) |
|---|---|---|
| 認識の判定 | 2段階(割引前CFで判定してから測定) | 1段階(帳簿価額が回収可能価額を上回れば認識) |
| 回収可能価額 | 正味売却価額と使用価値の高い方 | 処分コスト控除後の公正価値と使用価値の高い方 |
| 戻入れ | 行わない | のれんを除き、一定の場合に戻入れる |
| のれん | 償却したうえで、兆候がある場合に判定 | 償却せず、毎期の減損テストが必要 |
決算前のチェックリスト
- グルーピングの単位が管理会計の区分と合っているか
- 事業別・店舗別の損益で兆候をもれなく確認したか
- 将来キャッシュ・フローが事業計画と整合しているか
- 割引率や時価の根拠資料をそろえたか
- 減損後の帳簿価額で翌期の償却が計算されるか
- 税務の償却超過額と繰延税金資産を反映したか
新リース基準で計上する使用権資産も減損の対象です。店舗の判定にも影響するので、リースとセットで確認しましょう。


まとめ
- 減損は、収益性の低下で回収できない投資額を帳簿から減らす処理で、戻入れはしない
- 流れはグルーピング→兆候→認識(割引前CF)→測定(回収可能価額)の4ステップ
- 回収可能価額は正味売却価額と使用価値(割引現在価値)の高い方
- 資産グループの損失は帳簿価額の比で配分し、共用資産・のれんはより大きな単位が原則
- 減損損失は特別損失。税務は原則損金不算入で、償却超過額と税効果の調整が必要
まずは単一資産の数値例を、自分の手で解いてみてください。
減損は、試験と実務がそのままつながる論点です。計算の型を身につけて、決算でも自信を持って説明できるようにしましょう。








