「繰延税金資産はいくらまで計上していいの?」「評価性引当額って何?」。簿記1級では、回収可能性や税率の変更まで問われます。
今回は、繰延税金資産の回収可能性(企業の分類1〜5)、スケジューリングと評価性引当額、見直し・税率変更の仕訳を数値例で解説します。2級との違いや実務もまとめましたので、ぜひ最後までください。
この記事は「繰延税金資産をいくら計上できるか」に絞って深掘りしますね。
- 繰延税金資産の中身と、回収可能性の3つの源泉
- 企業の分類1〜5と、分類ごとの計上範囲
- スケジューリングと評価性引当額の計算・注記
- 回収可能性の見直し・税率変更の仕訳と表示の相殺
- 簿記2級と1級の違い、解き方とよくあるミス
- 決算手順・税効果シート・監査対応の実務
繰延税金資産とは?将来の税金を減らす資産の中身


繰延税金資産は、将来減算一時差異と税務上の繰越欠損金に税率を掛けた額です。将来の税金を減らす効果があるので資産になりますが、将来の課税所得がなければ計上できません。
一時差異の基本と仕訳は、税効果会計の記事にまとめています。


| 項目 | 税務上の損金になる時期 | スケジューリング |
|---|---|---|
| 賞与引当金 | 翌期の支給時 | 可能(翌期に解消) |
| 減価償却超過額(機械など) | 耐用年数経過後の償却・売却時 | 可能 |
| 退職給付引当金・建物の減価償却超過額 | 退職・償却で長期にわたり解消 | 可能だが長期 |
| 土地の減損損失・投資有価証券評価損 | 売却時(予定がなければ不明) | 売却予定がなければ不能 |
| 税務上の繰越欠損金 | 10年以内の課税所得から控除 | 期間内で可能(大法人は50%限度) |
繰越欠損金は国税庁タックスアンサーNo.5762によります。賞与引当金の税務は次の記事で解説しています。


項目ごとに「いつ損金になるか」を確認するのが、回収可能性の出発点です。
繰延税金資産の回収可能性|3つの源泉と企業の分類1〜5


回収可能性を判断する3つの源泉
企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」第6項では、次の3つで回収可能性を判断します。
| 源泉 | 判断すること |
|---|---|
| 収益力に基づく課税所得 | 解消年度や繰越期間に、一時差異等加減算前課税所得が生じるか |
| タックス・プランニング | 含み益のある土地・有価証券の売却などで課税所得を生むか |
| 将来加算一時差異 | 同じ時期に解消する将来加算一時差異(圧縮積立金など)と相殺できるか |
一時差異等加減算前課税所得は、一時差異の解消額を除いた「素の所得」の見積額です。
企業の分類1〜5と計上できる範囲
収益力による判断では、過去(3年)と当期の課税所得・欠損金で企業を5つに分類します(同第15項〜第31項)。
| 分類 | 主な要件 | 計上できる範囲 |
|---|---|---|
| 分類1 | 過去3年と当期すべてで一時差異を十分に上回る課税所得 | 原則として全額 |
| 分類2 | 課税所得が一時差異を下回るが安定的。重要な欠損金なし | スケジューリング可能な分 |
| 分類3 | 課税所得が大きく増減。重要な欠損金なし | おおむね5年以内の見積りでスケジューリングした分 |
| 分類4 | 過去3年または当期に重要な欠損金など。翌期は課税所得の見込み | 翌期の見積りでスケジューリングした分 |
| 分類5 | 過去3年と当期すべてで重要な欠損金、翌期も欠損の見込み | 原則としてゼロ |
分類3は合理的な根拠があれば5年超も計上でき、分類4は根拠を説明できれば分類2・3として扱えます(同第24項・第28項・第29項)。
スケジューリング不能・長期解消の一時差異の扱い
表の「あり」「なし」は回収可能性の有無です。
| 分類 | スケジューリング不能な差異 | 長期で解消する差異 | タックス・プランニング |
|---|---|---|---|
| 分類1 | あり | あり | 織り込む必要なし |
| 分類2 | 原則なし(合理的な説明で可) | あり | 要件を満たせば可 |
| 分類3 | なし | 最終解消年度までの分は可 | 見積可能期間で可 |
| 分類4 | なし | 翌期に解消する分のみ | 翌期分のみ(確実な実行が条件) |
| 分類5 | なし | 原則なし | 原則不可 |
長期で解消する差異は、退職給付引当金や建物の減価償却超過額などです(同第35項)。
分類は「過去3年+当期」の実績で決まる
分類は事業計画の明るさではなく、過去の課税所得と欠損金の実績で判定します。どの要件にも合わなければ、乖離が最も小さい分類にします(同第16項)。
分類が1つ下がるだけで、繰延税金資産の計上額は大きく減ります。
数値例で計算|スケジューリングと評価性引当額


前提条件(分類3の会社)
A社(大法人)はX1期末に分類3で、5年(X2〜X6)でスケジューリングします。税率30%、数値は仮の数値です。
- 賞与引当金 2,000,000円(X2に解消)
- 機械の減価償却超過額 3,000,000円(X2〜X6に毎年600,000円ずつ解消)
- 投資有価証券評価損 1,000,000円(売却予定なし=スケジューリング不能)
- 税務上の繰越欠損金 4,000,000円(控除限度は所得の50%)
合計10,000,000円×30%=繰延税金資産の総額3,000,000円です。
スケジューリング表で回収可能額を出す
| 年度 | 加減算前課税所得 | 一時差異の解消 | 欠損金控除前の所得 | 欠損金の控除(50%) |
|---|---|---|---|---|
| X2 | 3,000,000 | △2,600,000 | 400,000 | 200,000 |
| X3 | 1,600,000 | △600,000 | 1,000,000 | 500,000 |
| X4 | 1,600,000 | △600,000 | 1,000,000 | 500,000 |
| X5 | 1,400,000 | △600,000 | 800,000 | 400,000 |
| X6 | 1,400,000 | △600,000 | 800,000 | 400,000 |
| 合計 | 9,000,000 | △5,000,000 | 4,000,000 | 2,000,000 |
一時差異5,000,000円は全額、繰越欠損金は2,000,000円だけ回収できます。回収可能額は(5,000,000円+2,000,000円)×30%=2,100,000円で、総額との差900,000円が評価性引当額です。
期首の繰延税金資産が1,500,000円なら、仕訳は「繰延税金資産 600,000/法人税等調整額 600,000」です。
繰越欠損金の控除限度を忘れない
50%の限度を忘れると繰越欠損金を全額控除でき、繰延税金資産が600,000円過大になります。大法人かどうかも確認しましょう。
評価性引当額の注記
企業会計基準第28号「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正」(2018年)で、評価性引当額の内訳などの注記が加わりました。
| 繰延税金資産 | 金額 |
|---|---|
| 賞与引当金 | 600,000 |
| 減価償却超過額 | 900,000 |
| 投資有価証券評価損 | 300,000 |
| 税務上の繰越欠損金 | 1,200,000 |
| 繰延税金資産小計 | 3,000,000 |
| 税務上の繰越欠損金に係る評価性引当額 | △600,000 |
| 将来減算一時差異等の合計に係る評価性引当額 | △300,000 |
| 評価性引当額小計 | △900,000 |
| 繰延税金資産合計 | 2,100,000 |
繰越欠損金が重要なときは評価性引当額を2つに分け、繰越期限別の金額や回収可能と判断した主な理由も注記します(同基準第4項・第5項)。
評価性引当額は「計上をあきらめた繰延税金資産」。総額から引く流れで覚えましょう。
回収可能性の見直しと税率変更の仕訳|表示と相殺


回収可能性を見直して取り崩す
繰延税金資産から控除する額は毎期見直します(適用指針第26号第8項)。例:A社はX2に業績が悪化して欠損となり、X2期末に分類4へ変わりました。期末の一時差異等は賞与引当金2,200,000円、減価償却超過額2,400,000円、評価損1,000,000円、繰越欠損金5,000,000円です。
総額は10,600,000円×30%=3,180,000円です。分類4は翌期(X3)だけを見て、加減算前課税所得は3,400,000円と見込みます。解消額2,800,000円を引いた600,000円の50%、300,000円が欠損金の控除額です。回収可能額は(2,800,000円+300,000円)×30%=930,000円、評価性引当額は2,250,000円です。
税率が変わったときの再計算
繰延税金資産は回収が見込まれる期の税率で計算し、税率が変われば残高を計算し直します。税率は決算日までに国会で成立した税法によります(適用指針第28号第45項〜第47項)。例:B社で翌期以後の税率が30%から32%に上がり、将来減算一時差異5,000,000円とその他有価証券の評価差益2,000,000円があるとします。
| 場面 | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|
| 見直しで取崩し(2,100,000→930,000) | 法人税等調整額 1,170,000 | 繰延税金資産 1,170,000 |
| 税率変更(損益の一時差異) | 繰延税金資産 100,000 | 法人税等調整額 100,000 |
| 税率変更(その他有価証券) | その他有価証券評価差額金 40,000 | 繰延税金負債 40,000 |
その他有価証券分は評価差額金が相手勘定です(同第51項)。繰延税金資産は1,600,000円、繰延税金負債は640,000円になります。
相手勘定は「差異がどこで生じたか」で決まる
損益の差異は法人税等調整額、純資産直入の評価差額は評価差額金です(適用指針第26号第10項、第28号第51項)。
表示:投資その他の資産と相殺
2018年の企業会計基準第28号により、繰延税金資産は投資その他の資産、繰延税金負債は固定負債に表示します。同一納税主体の資産と負債は相殺し、異なる納税主体のものは相殺しません。B社では1,600,000円-640,000円=960,000円を繰延税金資産として表示します。
グループ通算制度の法人税・地方法人税は、個別で通算グループ全体と各社の分類を判定し、連結では通算グループ全体で判断・相殺します(実務対応報告第42号第13項・第14項・第27項)。連結の税効果は次の記事で解説しています。


相殺は同じ納税主体の中だけ。連結で親会社と子会社の残高は相殺しません。
簿記1級の解き方とよくあるミス|2級との違いも整理


簿記2級と1級の違い|繰延税金資産で増える論点
日商簿記の出題区分表(2027年4月1日施行の確定版)では、税効果会計は2級の※印の項目で、引当金・減価償却・その他有価証券に係る一時差異に限り、繰延税金資産の回収可能性の検討を除外と書かれています。
| 論点 | 簿記2級 | 簿記1級 |
|---|---|---|
| 税効果会計 | 範囲内(簡易な内容) | 範囲内 |
| 対象となる一時差異 | 引当金・減価償却・その他有価証券に限る | 限定なし |
| 繰延税金資産の回収可能性 | 検討を除外 | 範囲内 |
| 連結会計上の税効果会計 | 範囲外 | 範囲内 |
| 繰越欠損金・評価性引当額 | 区分表に記載なし | 回収可能性とあわせて学ぶ |
2級は差異×税率を全額計上しますが、1級では計上できるかどうかまで考えます。2027年度版の区分表でも、税効果会計の記載は2022年度版と同じです。
解き方のコツ
一時差異ごとに「金額・解消年度・回収可能性」を書き出し、総額→回収可能額→期首との差額の順で計算します。
繰延税金資産のよくあるミス
- 繰延税金資産が減ったのに、法人税等調整額を貸方に書く
- 改正後の税率でなく当期の税率で計算する
- 評価性引当額を勘定科目として仕訳してしまう
- その他有価証券の税率変更分を法人税等調整額にする
- 同一納税主体の資産と負債を相殺せずに表示する
法人税等調整額は「繰延税金資産が増えたら貸方、減ったら借方」。増減をメモしてから仕訳しましょう。
繰延税金資産の実務|判断資料・税効果シート・監査対応


決算での手順は次の5ステップです。
申告書の別表五(一)や税務申告ソフトから残高を集めます。
成立した税法と条例で税率を確認し、改正があれば解消年度ごとに分けます。
過去3年と当期の課税所得・欠損金の推移から分類を判定します。
承認済みの事業計画で課税所得を見積もり、回収可能額を出します。
期首との差額を仕訳し、評価性引当額や税率差異の注記を作ります。
法定実効税率は一般に次の算式で計算します(事業税の損金算入を分母で調整)。
法定実効税率={法人税率×(1+地方法人税率+住民税率)+事業税率}÷(1+事業税率)
| 税効果シートの列 | 確認すること |
|---|---|
| 一時差異の期首・増減・期末残高 | 別表五(一)と一致しているか |
| 解消予定年度・スケジューリング可否 | 支給日・償却計算・売却計画の根拠 |
| 税率・繰延税金資産の総額 | 解消年度ごとの税率か |
| 回収可能額・評価性引当額 | 分類と事業計画にもとづくか |
監査では分類の判定根拠、事業計画の達成状況、課税所得の見積りがよく確認されます。私の経験では、計画と実績の差を説明できる資料があると話が早いです。
中間決算でも回収可能性を見直します(中間財務諸表等における税効果会計に関する適用指針)。税務申告ソフトの一時差異データをCSVで税効果シートに取り込むと、転記ミスを防げます。
繰延税金資産の決算チェックリスト
- 税効果シートと申告書の別表が一致しているか
- 分類の判定根拠と前期からの変化を記録したか
- 事業計画が承認済みの数値と整合しているか
- 税率の改正と相手勘定を確認したか
- 評価性引当額の内訳と繰越欠損金の注記を作成したか
判断の根拠を毎期同じ形で残すことが、内部統制の近道です。
まとめ
- 繰延税金資産は将来の税金を減らせる範囲だけ計上する
- 回収可能性は収益力・タックス・プランニング・将来加算一時差異で判断
- 分類3はおおむね5年、分類4は翌期までのスケジューリング
- 計上しない部分が評価性引当額で、内訳を注記する
- 見直し・税率変更の差額は法人税等調整額、その他有価証券分は評価差額金
- 投資その他の資産に表示し、同一納税主体の繰延税金負債と相殺
繰延税金資産は1級で差がつく論点です。スケジューリング表を自分で書いて練習してみてください。
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