「使用権資産の取得原価に何を含めるのか」「減価償却は何年でするのか」。新リース会計基準の準備で、こうした疑問を持つ経理担当者は多いはずです。
今回は、使用権資産の当初測定から事後測定、表示・開示、税務までを実務向けに解説します。取得原価の構成要素、償却期間の決め方、仕訳と償却表の数値例、IFRS第16号との違いを、仮の数値を使って整理しました。
使用権資産は「リース負債の裏側」ではなく、付随費用や原状回復費用も含めて管理する資産です。
- 使用権資産とは何か、従来のリース資産との違い
- 使用権資産の取得原価の構成要素とリース期間・割引率の決め方
- 減価償却の期間、リースの条件変更による修正、減損の考え方
- 仕訳と償却表の数値例、PL・CF・EBITDAへの影響
- IFRS第16号との違い、表示・注記・税務と管理実務の5ステップ
使用権資産とは?リース負債とセットで計上する資産


使用権資産とは、借手がリース期間にわたって原資産(借りている物件や設備)を使う権利を表す資産です。企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」(2024年9月公表)では、借手はリース開始日にリース負債と使用権資産を計上します。
従来はオペレーティング・リースを賃貸借処理(オフバランス)としていましたが、新基準はこの区分をなくし、IFRS第16号と同じ単一の会計処理モデルを採用しています。
| 項目 | 従来(企業会計基準第13号) | 新基準(企業会計基準第34号) |
|---|---|---|
| 計上する資産 | ファイナンス・リースのみリース資産 | 原則すべてのリースで使用権資産 |
| 対象になる契約 | リース契約が中心 | 不動産賃貸借やサービス契約に含まれるリースも対象 |
| 取得原価 | リース料総額の現在価値など | リース負債に付随費用・除去費用などを加減 |
| 費用 | オペレーティング・リースは賃借料 | 減価償却費と支払利息 |
新基準は2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用され、2025年4月1日以後開始する年度の期首からの早期適用も認められています(第58項)。3月決算なら2028年3月期が最初の適用年度です。
本社や営業所の家賃が、固定資産台帳に載ってくるイメージです。
使用権資産の取得原価|当初測定の構成要素


使用権資産の計上額は、リース負債の計上額に、リース開始日までに支払ったリース料、付随費用、資産除去債務に対応する除去費用を加算し、受け取ったリース・インセンティブを控除した額です(第33項)。
| 構成要素 | 内容 | 加減 |
|---|---|---|
| リース負債の当初測定額 | 未払のリース料の現在価値 | + |
| 開始日までに支払ったリース料 | 前払いした賃料など | + |
| 付随費用 | 仲介手数料など、契約のために直接かかった費用 | + |
| 資産除去債務に対応する除去費用 | 原状回復義務の見積額の現在価値 | + |
| 受け取ったリース・インセンティブ | 貸手が負担した内装工事費や補助金など | - |
IFRS第16号でも構成は同じで、付随費用に当たるものは「当初直接コスト」と呼ばれます。
リース期間・割引率・リース料の決め方
借手のリース期間は、解約不能期間に、行使が合理的に確実な延長オプションの期間と、行使しないことが合理的に確実な解約オプションの期間を加えて決めます(第31項)。大規模な内装工事をした店舗などは、契約書より長くなることがあります。
割引率は、貸手の計算利子率を知り得る場合はその利率、知り得ない場合は借手の追加借入に適用されると合理的に見積られる利率です(適用指針第37項)。不動産賃貸借では追加借入利子率を使うことが多いです。
リース料には固定リース料のほか、消費者物価指数などの指数又はレートに応じて決まる変動リース料を含めます。売上高や使用量に連動する賃料は含めず、発生時に費用処理します。
原状回復費用は、資産除去債務の計上額と同額を使用権資産に加えます(適用指針第28項)。計算や利息費用は次の記事で解説しています。


敷金は使用権資産に含めない
将来返還される差入敷金は、使用権資産に含めず取得原価で計上します(適用指針第33項)。敷金は別管理にしておきましょう。
内装補助は、経理に伝わっていないことがあります。契約書の特約欄まで確認しましょう。
使用権資産の事後測定|減価償却・再測定・減損


開始日後は、使用権資産を減価償却し、リース負債に利息法で利息を配分します。償却期間は所有権が移転するかどうかで変わります。
| 区分 | 償却方法 | 耐用年数 | 残存価額 |
|---|---|---|---|
| 所有権が移転すると認められるリース | 自己所有の場合と同じ方法 | 経済的使用可能予測期間 | 合理的な見積額 |
| 上記以外のリース | 定額法などから実態に応じて選択 | 原則、借手のリース期間 | ゼロ |
所有権移転条項がある、購入オプションの行使が合理的に確実、特別仕様で借手しか使えない、のいずれかが「移転すると認められるリース」です(適用指針第43項)。多くの不動産賃貸借は「上記以外」です。
条件変更とリース期間の見直しで使用権資産を修正する
賃料改定や期間延長があれば、リース負債を見直し、修正額に相当する金額を使用権資産に加減します(適用指針第45項・第46項)。面積の縮小など範囲が縮小する場合は、使用権資産を減額し、修正額との差額を損益に計上します。
契約の変更がなくても、借手の統制下にある重要な事象があれば、延長オプションの行使可能性を見直します(第41項)。
使用権資産も減損会計の対象になる
使用権資産には「固定資産の減損に係る会計基準」が適用され、不採算店舗では内装設備と使用権資産を同じ資産グループで判定します。


重要性が乏しい場合の簡便的な取扱い
未経過のリース料の期末残高が、それと有形・無形固定資産の期末残高の合計の10%未満なら、利息相当額を控除しない方法や、利息を定額法で配分する方法を選べます(適用指針第40項・第41項)。
延長を見込むと償却年数も伸びます。リース期間の判断は、毎月の償却額に直結しますよ。
数値例で見る使用権資産の仕訳と償却表


事務所を5年間借りる契約の例です(仮の数値)。貸手の計算利子率はわからず、追加借入利子率2%で割り引きます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| リース料 | 年2,400,000円×5年(毎年末払い) |
| リース負債 | 2,400,000円を2%で割り引いた現在価値=11,312,303円 |
| 付随費用 | 仲介手数料など200,000円(開始日に支払い) |
| 除去費用 | 原状回復費用1,000,000円を2%で割り引いた905,731円 |
| リース・インセンティブ | 貸手からの内装補助300,000円(開始日に受け取り) |
| 使用権資産 | 11,312,303+200,000+905,731-300,000=12,118,034円 |
リース開始日と1年目末の仕訳
| 時点 | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|
| 開始日 | 使用権資産 12,418,034 | リース負債 11,312,303・資産除去債務 905,731・現金預金 200,000 |
| 開始日 | 現金預金 300,000 | 使用権資産 300,000 |
| 1年目末の支払 | リース負債 2,173,754・支払利息 226,246 | 現金預金 2,400,000 |
| 1年目末の決算 | 減価償却費 2,423,607 | 使用権資産 2,423,607 |
| 1年目末の決算 | 利息費用 18,115 | 資産除去債務 18,115 |
2行目は内装補助の受取で、使用権資産は差し引き12,118,034円です。
リース負債の償却表(利息法)
| 年 | 期首残高 | 支払利息 | 元本返済 | 期末残高 |
|---|---|---|---|---|
| 1年目 | 11,312,303 | 226,246 | 2,173,754 | 9,138,549 |
| 2年目 | 9,138,549 | 182,771 | 2,217,229 | 6,921,320 |
| 3年目 | 6,921,320 | 138,426 | 2,261,574 | 4,659,746 |
| 4年目 | 4,659,746 | 93,195 | 2,306,805 | 2,352,941 |
| 5年目 | 2,352,941 | 47,059 | 2,352,941 | 0 |
| 合計 | - | 687,697 | 11,312,303 | - |
使用権資産は5年・残存価額ゼロの定額法で、毎年2,423,607円(最終年は2,423,606円)を償却します。1年目末の帳簿価額は9,694,427円です。
1年目の財務諸表への影響
| 項目 | 従来(賃貸借処理) | 新基準 |
|---|---|---|
| 1年目の費用 | 賃借料 2,400,000 | 減価償却費・支払利息・利息費用 2,667,968 |
| EBITDA | 2,400,000減少 | 減少しない |
| 営業CF | △2,400,000 | △226,246(利息を営業区分にした場合) |
| 財務CF | - | △2,173,754 |
新基準の1年目の費用は、原状回復費用や付随費用の償却分も含むため、賃借料2,400,000円より267,968円多くなります。利息は残高とともに減るため費用は前倒しになり、リース負債の元本返済は財務活動に区分されます。
端数処理と月次計上のルールを先に決める
月次計上で年額を12等分するか、月ごとに利息法で計算するかで数値が変わります。台帳の計算ロジックを先に決めましょう。
営業CFは良く見えますが、支払額は変わっていません。社内への説明を準備しておきましょう。
IFRS第16号と新リース会計基準の違い|表示・開示・税務


新基準はIFRS第16号と整合させていますが、日本独自の取扱いもあります。
| 項目 | IFRS第16号 | 新リース会計基準 |
|---|---|---|
| 短期リース | 12か月以内で購入オプションなしは免除可 | 同じ(適用指針第4項・第20項) |
| 少額リース | 新品時の価値が少額(開発時は5千米ドル程度を想定) | 新品時の価値が少額か、1件当たりの金額に重要性が乏しい(従来の300万円以下の判定を踏襲)かを選択 |
| 使用権資産の償却期間 | 耐用年数とリース期間のいずれか短い期間 | 原則、借手のリース期間 |
| 重要性が乏しい場合 | 特段の簡便法はない | 利息相当額を控除しない方法などを選べる |
| 変動リース料 | 開始日の指数又はレートで測定 | 将来の変動を見積る方法も選べる |
| 再リース | 独自の定めはない | 独立したリースとして処理できる |
償却期間は、耐用年数がリース期間より短い場合に差が出ます。差が出る項目は台帳で識別しておくと安心です。
貸借対照表と損益計算書の表示
使用権資産は、原資産を自ら所有していた場合の科目(建物、機械装置など)に含める方法か、有形固定資産などの区分の中で「使用権資産」として区分する方法のいずれかで表示します(第49項)。科目に含めた場合は、表示科目ごとの使用権資産の帳簿価額を注記します(適用指針第99項)。
リース負債は区分表示するか、含まれる科目と金額を注記し、1年以内に支払期限が来る分は流動負債とします(第50項)。リース負債の利息費用も、区分表示か注記が必要です(第51項)。
注記と税務上の取扱い
注記は、会計方針、リース特有の取引、当期及び翌期以降のリースの金額を理解するための情報を開示目的に照らして記載します(第55項)。キャッシュ・アウトフローの合計額や使用権資産の増加額などの集計が必要です。
税務では、令和7年度税制改正で、オペレーティング・リース取引の借手は引き続き賃貸借取引として、債務の確定した支払額を損金算入することとされました(法人税法第53条)。会計で計上した減価償却費と支払利息は、税務上は支払賃借料に置き換えて申告調整します。使用権資産とリース負債は一般に一時差異となり、税効果会計の対象になります。
税務上のリース取引とは区分が違う
税務上の所有権移転外リース取引は従来どおり売買として扱い、リース期間定額法で償却します。税務区分は台帳で1件ずつ管理しましょう。
会計は1つのモデルでも、税務は区分が残ります。台帳に「税務区分」があると申告調整が楽になりますよ。
使用権資産の管理実務|台帳・システム・監査対応


使用権資産は、契約の数だけ取得原価・償却・利息・条件変更を管理する必要があります。次の5ステップで運用を組み立てましょう。
不動産賃貸借、社用車、複合機、IT機器、サービス契約から、リースを含む契約を抽出します。
オプションの判断理由と割引率の根拠を契約ごとに残し、監査に備えます。
付随費用、除去費用、リース・インセンティブを集め、取得原価を確定します。
台帳に登録し、減価償却費と支払利息の仕訳を会計システムへ連携します。
賃料改定や解約を反映し、減損の兆候確認と注記の集計を決算に組み込みます。
契約の洗い出しや準備スケジュール、財務指標への影響の試算は、次の記事でまとめています。


システムは、リース負債の利息計算や条件変更の再測定まで対応できるかを確認します。総資産の増加は財務制限条項の指標にも影響するため、財務部門とも共有しましょう。
使用権資産の管理チェックリスト
- 付随費用・除去費用・リース・インセンティブを取得原価に反映したか
- リース期間と割引率の判断理由を契約ごとに残したか
- 敷金を使用権資産と別に管理しているか
- 条件変更の情報が営業・総務から経理に届く仕組みがあるか
- 表示方法を決め、注記に必要なデータを集計できるか
- 税務区分と申告調整の項目を台帳に持たせたか
台帳は作って終わりではありません。契約変更の情報が経理に届く流れが運用の肝です。
まとめ
- 使用権資産は、借手が原資産を使う権利を表す資産で、リース負債とセットで計上する
- 取得原価は、リース負債に前払リース料・付随費用・除去費用を加え、リース・インセンティブを控除する
- 所有権移転外のリースは、原則として借手のリース期間で残存価額ゼロまで償却する
- IFRS第16号とは少額リース、償却期間、簡便的な取扱いなどに違いがある
- 税務はオペレーティング・リース取引が賃借料のまま損金になるため、申告調整と税効果を管理する
まずは自社の主要な賃貸借契約を1件選び、取得原価の構成要素とリース期間を試算してみてください。
使用権資産は、契約・会計・税務・システムがつながる論点です。台帳設計を丁寧に行うのが近道ですよ。








