「外壁の工事代、修繕費で落としていいの?」「耐用年数が延びる工事は、どこまで資産にするの?」。固定資産の修理や改良の支出は、簿記1級でも実務でも判断に迷いやすい論点です。
今回は、簿記1級で問われる資本的支出と収益的支出の区別と仕訳、耐用年数の延長・改良の計算、税務の判定基準と実務の流れを解説します。「価値が上がるか・使える期間が延びるか」で考えると、迷いが少なくなります。
実務では、請求書の科目名が「修繕」でも中身が改良なら資産計上です。名目ではなく、工事の内容で判断します。
- 資本的支出と収益的支出(修繕費)の違いと具体例
- 簿記1級と2級での出題のされ方の違い
- 耐用年数が延びる支出の按分計算と、以後の減価償却費
- 法人税の形式基準(20万円・3年・60万円・7:3基準)の順番
- 見積書の確認から固定資産台帳への登録までの実務の流れ
資本的支出と収益的支出とは?違いと具体例


資本的支出とは、固定資産の修理や改良のための支出のうち、資産の価値を高める、または使える期間(耐用年数)を延ばす部分のことです。資産の取得原価に加え、減価償却で少しずつ費用にします。
収益的支出とは、通常の維持管理や、壊れた部分を元の状態に戻す(原状回復)ための支出です。支出した期の修繕費として、全額を費用にします。
| 項目 | 資本的支出 | 収益的支出 |
|---|---|---|
| 内容 | 価値の増加・耐用年数の延長 | 維持管理・原状回復 |
| 処理 | 資産に計上(建物・機械装置など) | 修繕費として費用に計上 |
| 費用になる時期 | 減価償却で耐用年数にわたって | 支出した期に全額 |
| 当期の利益への影響 | 小さい(償却費の分だけ) | 大きい(支出額の全額) |
法人税法施行令132条も、名義にかかわらず「使用可能期間を延長させる部分」と「価額を増加させる部分」を資本的支出としています。主な例は次のとおりです。
| 支出の例 | 区分 | 理由 |
|---|---|---|
| 避難階段やエレベーターの取り付け | 資本的支出 | 物理的に新しい部分が付け加わる |
| 倉庫を事務所にする改装 | 資本的支出 | 用途変更のための改造 |
| 部品を性能の高いものに交換 | 超える部分は資本的支出 | 通常の交換費用を超えて性能が上がる |
| はがれた壁の塗り替え | 修繕費 | 元の状態に戻す原状回復 |
| 消耗した部品の同等品への交換 | 修繕費 | 通常の維持管理 |
| ソフトウエアの不具合の修正 | 修繕費 | 現状の効用の維持 |
判断は「名目」ではなく「実質」
国税庁のタックスアンサー(No.5402)でも、修繕費になるかどうかは修繕費・改良費などの名目ではなく、その実質で判定するとしています。見積書の「修繕工事」という表記だけで判断しないようにしましょう。
実務では、同じ工事の中に修繕と改良が混ざっていることがよくあります。工事項目ごとに分けて考えるのがコツです。
簿記1級での出題|2級との違い


日本商工会議所の出題区分表(2027年度適用の確定版、2026年7月31日最終制定)には、「資本的支出」「収益的支出」という項目名そのものはありません。有形固定資産の取得や減価償却の範囲の中で、改良・修繕として学ぶのが一般的です。
2級では「改良は資産、修繕は費用」という基本の仕訳が中心です。1級ではこれに加えて、耐用年数を延長する支出の按分や、支出後の減価償却費の計算まで問われることがあります。
| 論点 | 2級 | 1級 |
|---|---|---|
| 区別の考え方 | 改良は資産、修繕は費用 | 混在した支出の按分まで |
| 耐用年数の延長 | 出題は少ない | 延長年数で資本的支出を計算 |
| 支出後の減価償却 | 支出額を取得原価に加える | 帳簿価額+資本的支出を残存年数で償却 |
| 修繕引当金 | 出題区分表に記載あり | その他の引当金(特別修繕引当金など) |
1級では「按分」と「支出後の償却」がセット
資本的支出の金額を出して終わりではなく、その後の減価償却費まで続けて問われるのが1級の特徴です。按分の結果が間違うと、償却費も連鎖して間違うので、按分の式を確実に覚えましょう。
耐用年数の変更は、1級の範囲である「会計上の変更および誤謬の訂正」とも関わります。見積りの変更として、過去の償却費は直さず、当期以後の償却費で調整するのが基本です。
1級の問題文では「耐用年数が◯年延長する」「残存耐用年数を◯年に変更する」と書かれていることが多いです。延長年数と延長後の年数を最初にメモしましょう。
耐用年数が延びる支出の計算例|仕訳と以後の減価償却費


仮の数値(単位:万円)で計算します。
- 建物の取得原価3,000万円、耐用年数30年、残存価額ゼロ、定額法、間接法
- 20年経過後の当期首に改修工事を行い、600万円を当座預金で支払った
- この工事で耐用年数が5年延長し、残存耐用年数は10年から15年になる
試験でよく使われる考え方は、資本的支出=支出額×延長年数÷延長後の残存耐用年数です。600万円×5年÷15年=200万円が資本的支出、残りの400万円が修繕費になります。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 建物 | 200 | 当座預金 | 600 |
| 修繕費 | 400 |
支出前の帳簿価額は、3,000万円−減価償却累計額2,000万円(100万円×20年)=1,000万円です。支出後は(帳簿価額1,000万円+資本的支出200万円)÷延長後の残存耐用年数15年=毎年80万円を償却します。
| ケース | 計算 | 毎年の減価償却費 |
|---|---|---|
| 工事をしない場合 | 3,000万円÷30年 | 100万円 |
| 資本的支出後(定額法) | (1,000万円+200万円)÷15年 | 80万円 |
| 定率法の例(償却率0.250) | (400万円+100万円)×0.250 | 125万円 |
定率法の例は、期首帳簿価額400万円の機械に100万円の資本的支出をした場合です。期首帳簿価額に資本的支出を加えて償却率を掛けます。償却率は問題文で与えられた値を使います。
もし600万円を全額修繕費にすると、当期の費用は600万円+100万円=700万円です。正しく按分した場合の400万円+80万円=480万円より220万円多くなります。
式の意味をつかむと忘れにくい
支出の効果は延長後の15年間に及ぶと考え、そのうち延びた5年分を「価値の増加」とみるのがこの式です。支出が期中なら、問題文の指示に従って月割で償却します。
実務では、耐用年数がどれだけ延びるかを経理だけで決めるのは難しいです。工事業者や設備担当に、工事の目的と効果を文書でもらっておきます。
税務の判定基準|20万円・3年・60万円・7:3基準


法人税では、法人税基本通達7-8-1〜7-8-6に資本的支出と修繕費の区分の取扱いがあります。実質で判断するのが原則ですが、判断が難しい場合のために金額や周期による形式基準が設けられています。
| 順番 | 判定 | 該当すれば |
|---|---|---|
| ① | 一の修理・改良等の費用が20万円未満 | 修繕費にできる(7-8-3) |
| ② | おおむね3年以内の周期で行う修理・改良等 | 修繕費にできる(7-8-3) |
| ③ | 明らかに価値増加・耐用年数延長の部分 | 資本的支出(7-8-1) |
| ④ | 区分不明な金額が60万円未満、または前期末取得価額のおおむね10%以下 | 修繕費にできる(7-8-4) |
| ⑤ | 上記に当たらない区分不明な金額 | 7:3基準を継続適用できる(7-8-5) |
7:3基準は、区分不明な金額の30%と、前期末取得価額の10%の、いずれか少ない金額を修繕費とし、残りを資本的支出とする方法です。
| 項目 | ケースA | ケースB |
|---|---|---|
| 区分不明な支出額 | 800万円 | 800万円 |
| 前期末取得価額 | 4,000万円 | 2,000万円 |
| 30%と10%の比較 | 240万円と400万円 | 240万円と200万円 |
| 修繕費/資本的支出 | 240万円/560万円 | 200万円/600万円 |
前期末取得価額には、過去の資本的支出の額も含まれます。災害で被害を受けた資産には、原状回復は修繕費とするなどの別の取扱い(7-8-6)があります。
実務では、①から順番に当てはめます。いきなり7:3基準から考えると、20万円未満や60万円未満で済むものまで資産にしてしまいます。
形式基準を使うメリット・デメリット
| メリット |
|---|
| 判断が早く、担当者ごとのばらつきが減る |
| 税務調査で説明しやすい |
| 社内の判定ルールとして文書にしやすい |
| デメリット |
|---|
| 通達の扱いで、会計上の実質判断とずれることがある |
| 7:3基準は継続適用が前提で、都合よく使い分けられない |
| 明らかな改良部分には使えない |
通達の基準は「できる」規定
7-8-3や7-8-4は「修繕費として損金経理をすることができる」という取扱いです。最新の内容は国税庁の法令解釈通達とタックスアンサーで確認し、判断に迷う工事は税理士に相談しましょう。
会計と税務の違い|償却方法と修繕引当金


会計では、支出の実質で資本的支出かどうかを判断します。税務の形式基準は、会計上も重要性の考え方に合う範囲で社内ルールに取り入れる会社もあります。
支出後の償却も違いがあります。税務では、資本的支出は本体と種類・耐用年数を同じくする資産を新たに取得したものとして償却するのが原則です(法人税法施行令55条1項)。会計で耐用年数の延長を見積りの変更として扱うと、償却費にずれが出ることがあります。
税務調査で修繕費が資本的支出とされた場合、修繕費として経理した金額のうち損金にならなかった額は、「償却費として損金経理をした金額」に含まれるとされています(法人税基本通達7-5-1(3))。償却限度額の範囲で損金になります。
将来の大規模な修繕に備える修繕引当金や、船舶の定期検査などに備える特別修繕引当金は、会計上、条件を満たせば計上します。ただし法人税では繰入額を損金にできません。申告で加算し、税効果会計の対象になります。
改修で帳簿価額が増えた資産は、収益性が下がれば減損の対象にもなります。減損損失の判定と計算は、次の記事で解説しています。


建物の撤去や原状回復の義務がある場合は、資本的支出とは別に資産除去債務の論点になります。


実務では、会計と税務で償却費をそろえるケースがよくあります。ずれる場合は、固定資産台帳で会計と税務の帳簿価額を別々に管理します。
実務の流れと解き方|よくあるミスとチェックリスト


試験でも実務でも、次の5ステップで考えると判断がぶれません。
見積書・請求書の内訳と工事の目的を確認します。一式の請求なら、内訳を業者に出してもらいます。
付け加えた部分、用途変更、性能向上があるか、使える期間が延びるかを確認します。
延長年数による按分や、税務の形式基準を使って資本的支出と修繕費に分けます。
資本的支出は本体の資産に加えるか、追加の資産として台帳に登録します。
帳簿価額+資本的支出を、延長後の残存耐用年数などで償却します。
よくあるミス
- 工事一式を全額修繕費にして、改良部分を見落とす
- 按分の分母を、延長前の残存耐用年数にしてしまう
- 支出後の償却で、取得原価ベースのまま計算する
- 60万円基準を「20万円基準」と混同する
- 工事が2期にまたがるのに、期ごとの金額で判定していない
決算では、一定額以上の修繕費の明細を抜き出し、工事内容を見直すと漏れを防げます。税務調査では、大きな修繕費の中に改良部分が含まれていないかが確認されやすいです。
実務チェックリスト
- 見積書・請求書の内訳と工事の目的を保存している
- 工事ごとの台帳で、修繕費と資本的支出の判定理由を残している
- 形式基準を使う場合、社内規程と稟議で基準を決めている
- 資本的支出を固定資産台帳に登録し、償却を始めている
- 決算前に、大きな修繕費の明細を見直している
実務では、稟議の段階で「修繕か改良か」の欄を設けると、経理での判定がぐっと楽になります。
少額の資産を一度に費用にする方法は、次の記事で解説しています。


まとめ
- 資本的支出は価値の増加や耐用年数の延長にあたる部分で、資産に計上して減価償却する
- 収益的支出は維持管理・原状回復のための支出で、修繕費として全額を費用にする
- 試験では「支出額×延長年数÷延長後の残存耐用年数」で資本的支出を計算することが多い
- 支出後は帳簿価額+資本的支出を残存耐用年数で償却する
- 法人税では20万円・3年・60万円・7:3基準の順に形式基準を確認する
内容は2026年10月時点の商工会議所簿記検定試験出題区分表、法人税法施行令、法人税基本通達、国税庁タックスアンサーなどをもとにしています。数値例はすべて仮の数値です。
「価値が上がるか・期間が延びるか」の2点で考えれば、試験も実務も同じ考え方で判断できます。
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