「試算表は毎月出しているけれど、どこを見ればいいのか分からない」。月次決算を担当し始めた頃の私の悩みでした。
今回は、合計残高試算表と推移表の見方・作り方・月次決算での使い方を、仮の数値の合計残高試算表とPL推移表を使って実務向けに解説します。
試算表は「今月の健康診断書」、推移表は「診断書を並べたカルテ」です。セットで見ると異常に気づけます。
- 合計試算表・残高試算表・合計残高試算表の違い
- 合計残高試算表の列の読み方と残高の向き(逆残)
- 貸借が一致しても見つからない誤りと、システム特有の誤り
- 推移表の種類と、計上漏れ・二重計上を見つける見方
- 月次決算で試算表・推移表を確認する5つの手順とチェックリスト
合計残高試算表とは?合計試算表・残高試算表との違い


試算表(T/B:Trial Balance)とは、総勘定元帳の勘定科目ごとに借方・貸方の合計や残高を一覧にした表です。BS・PLを作る前に、帳簿の数字を一覧で確かめるためのものです。種類は次の3つです。
| 種類 | 載せる金額 | わかること | 弱み |
|---|---|---|---|
| 合計試算表 | 科目ごとの借方合計・貸方合計 | 取引の総額(どれだけ動いたか) | 今いくら残っているかは計算が必要 |
| 残高試算表 | 科目ごとの残高(借方か貸方の一方) | 現在の残高。BS・PLに近い形 | 取引の総額は見えない |
| 合計残高試算表 | 合計と残高の両方 | 取引の総額と残高を同時に確認できる | 列が多く、表が横に長い |
どの試算表も、すべての仕訳は借方と貸方に同じ金額を記入するため、借方の総額と貸方の総額が必ず一致します。これを貸借平均の原理といいます。
会計システムでは、試算表は仕訳を入力した時点で自動集計されます。実務でよく使う出力パターンは次のとおりです。
- 月次(当月のみ)・期首からの累計・任意の期間指定
- 部門別・事業別・プロジェクト別の試算表
- 補助科目別(取引先別・口座別など)の残高一覧
- 前月比・前年同月比を並べた比較試算表
実務では「合計残高試算表」を見るのが基本
会計システムの標準出力は、前月繰越・当月借方・当月貸方・当月残高を並べた形が多く、実質的に合計残高試算表です。動きと残高を1枚で見られます。
簿記3級では試算表を手で作りますが、実務では「出てきた試算表をどう読むか」が大事です。
合計残高試算表の見方|列の読み方と残高の向き・逆残


4月(期首月)の仮の数値で、合計残高試算表の例を示します。合計の列には期首の残高(前期繰越)と当月の取引の両方が入っています。仕入高は月次の棚卸の調整前の金額です。
| 借方残高 | 借方合計 | 勘定科目 | 貸方合計 | 貸方残高 |
|---|---|---|---|---|
| 3,000,000 | 6,500,000 | 現金預金 | 3,500,000 | - |
| 2,500,000 | 6,000,000 | 売掛金 | 3,500,000 | - |
| 500,000 | 500,000 | 商品 | - | - |
| 1,180,000 | 1,200,000 | 備品 | 20,000 | - |
| - | 2,000,000 | 買掛金 | 3,900,000 | 1,900,000 |
| - | 300,000 | 未払金 | 400,000 | 100,000 |
| - | - | 資本金 | 3,000,000 | 3,000,000 |
| - | - | 繰越利益剰余金 | 1,900,000 | 1,900,000 |
| - | - | 売上高 | 4,000,000 | 4,000,000 |
| 2,400,000 | 2,400,000 | 仕入高 | - | - |
| 900,000 | 900,000 | 給料手当 | - | - |
| 300,000 | 300,000 | 地代家賃 | - | - |
| 100,000 | 100,000 | 消耗品費 | - | - |
| 20,000 | 20,000 | 減価償却費 | - | - |
| 10,900,000 | 20,220,000 | 合計 | 20,220,000 | 10,900,000 |
合計の列は20,220,000円、残高の列は10,900,000円で、貸借がそれぞれ一致しています。収益4,000,000円から費用3,720,000円を引いた当月の利益は280,000円です。資産7,180,000円=負債2,000,000円+期首の純資産4,900,000円+利益280,000円となり、BSとPLがつながっていることも確かめられます。
会計システムの形式では、売掛金なら前月繰越2,000,000円・当月借方4,000,000円・当月貸方3,500,000円・当月残高2,500,000円のように表示されます。当月残高=前月繰越+当月借方-当月貸方(貸方の科目は符号が逆)です。
残高は、資産と費用が借方、負債・純資産・収益が貸方に残るのが通常です。反対側に残高がある状態を逆残(マイナス残高)といい、多くは誤りのサインです。
| 区分 | 通常の残高 | 逆残の例 | 主な原因 |
|---|---|---|---|
| 資産 | 借方 | 普通預金がマイナス | 入金の計上漏れ、支払の二重計上 |
| 負債 | 貸方 | 買掛金が借方残 | 請求書の計上漏れ、二重支払・前払 |
| 純資産 | 貸方 | 繰越利益剰余金が借方残 | 累積赤字(欠損)なら正常 |
| 収益 | 貸方 | 売上高が借方残 | 返品・値引の過大計上、取消の二重処理 |
| 費用 | 借方 | 費用が貸方残 | 見越計上の振戻し後に本計上がない |
逆残が必ずしも誤りとは限らない
当座借越の契約がある当座預金のマイナスや、累積赤字の繰越利益剰余金は正常な逆残です。減価償却累計額や貸倒引当金は、資産の控除項目なので貸方残が正常です。逆残は「誤りか、理由のある残高か」を確かめましょう。
BS・PLの基本的な構造は、次の記事で解説しています。


私は試算表を受け取ったら、まず残高の列で逆残がないかを見ます。
試算表でわかる誤り・わからない誤り


試算表の貸借が一致しても、帳簿が正しいとは限りません。貸借に同じ金額でずれる誤りは、試算表では見つからないからです。
| 誤りの種類 | 例 | 試算表で見つかるか |
|---|---|---|
| 片側だけの記入・転記 | 借方だけ入力した | 見つかる(貸借が不一致) |
| 借方と貸方で違う金額 | 借方52,000・貸方25,000 | 見つかる(貸借が不一致) |
| 勘定科目の誤り | 消耗品費を雑費で計上 | 見つからない |
| 二重計上 | 同じ請求書を2回計上 | 見つからない |
| 計上漏れ | 仕訳そのものがない | 見つからない |
| 貸借同額の金額誤り | 借方・貸方とも52,000を25,000で入力 | 見つからない |
| 貸借の逆 | 借方と貸方を反対に入力 | 見つからない |
手書きの時代は転記ミスによる貸借不一致が多くありましたが、会計システムは貸借が一致しない仕訳を原則として登録できません。実務の論点は、次のような誤りに移っています。
- 自動仕訳の設定誤り:販売・購買・経費精算システムからの連携で、科目や税区分の割当てが違う
- 締め後の修正:月次の締め後に過去月の仕訳が修正・追加され、報告済みの数字と変わる
- 補助残高との不一致:売掛金の取引先別残高の合計と総勘定元帳の残高が合わない
- 連携データの二重取込み:同じファイルを2回取り込んで、売上や経費が倍になる
「貸借一致=正しい」と思い込まない
システムの試算表は、いつ出しても貸借が一致します。確認すべきは残高が実態と合っているか、不自然な動きがないかで、そのために推移表と残高照合を組み合わせます。
残高を外部資料と突き合わせる方法は、次の記事で詳しく解説しています。


連携データの二重取込みは私も見たことがあります。売上が倍でも、試算表の貸借はきれいに一致していました。
推移表とは?種類と見方のコツを数値例で解説


推移表とは、勘定科目の金額を月ごとに横に並べた表です。1か月分の試算表では気づけない「いつもと違う動き」を見つけられます。
| 種類 | 内容 | 主な使い道 |
|---|---|---|
| BS推移表 | 各月末の資産・負債・純資産の残高 | 売掛金・在庫・未払金の増え方の確認 |
| PL推移表 | 各月の収益・費用の発生額 | 毎月の費用や粗利率の変化の確認 |
| 前年同月比較 | 当年の各月と前年の同じ月を並べる | 季節性を除いた増減の確認 |
| 累計推移表 | 期首からの累計額を月ごとに並べる | 通期の予算・前年に対する進み具合 |
| 部門別推移表 | 部門ごとのPL推移 | 部門の採算や費用配賦の確認 |
次は仮の数値のPL推移表(単位:千円)です。
| 科目 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 累計 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 10,000 | 10,500 | 11,000 | 9,500 | 10,200 | 12,000 | 63,200 |
| 売上原価 | 6,000 | 6,300 | 6,600 | 5,700 | 6,120 | 8,400 | 39,120 |
| 売上総利益 | 4,000 | 4,200 | 4,400 | 3,800 | 4,080 | 3,600 | 24,080 |
| 粗利率 | 40.0% | 40.0% | 40.0% | 40.0% | 40.0% | 30.0% | 38.1% |
| 給料手当 | 2,000 | 2,000 | 2,000 | 2,000 | 2,000 | 2,000 | 12,000 |
| 地代家賃 | 300 | 300 | 300 | 600 | 300 | 300 | 2,100 |
| 減価償却費 | 200 | 200 | 200 | 200 | 0 | 400 | 1,200 |
| 営業利益 | 1,500 | 1,700 | 1,900 | 1,000 | 1,780 | 900 | 8,780 |
この推移表からは、次の3つの異常が読み取れます。
- 7月の地代家賃が600千円:毎月300千円の家賃が二重計上された可能性。正しければ7月の営業利益は1,300千円
- 8月の減価償却費が0、9月が400千円:8月の計上漏れを9月にまとめて計上した形。月次の利益がゆがむ
- 9月の粗利率が30.0%:売上原価の期ずれや仕入の二重計上を疑う。40%なら原価は7,200千円で、差は1,200千円
コツは、毎月ほぼ一定の科目(家賃・リース料・減価償却費・給料)の跳ねやゼロをまず探し、次に粗利率の変化を見ることです。賞与月・決算月の調整や季節性は、前年同月と比べて判断します。
推移表は「横に見る」のがコツ
試算表は縦(科目の一覧)に、推移表は1つの科目を横(月の流れ)に見ます。数字を読むより先に、形の崩れを探すつもりで眺めましょう。
増減分析シートやペア科目を使った異常値の見つけ方は、次の記事で詳しく解説しています。


単月だけ崩れる数字は、月末の計上タイミングのずれが原因のことが多いです。
推移表の作り方と活用法|Excel加工と月次報告への落とし込み


推移表は、会計システムの推移表出力を使うのが手軽です。標準の出力で足りないときは、仕訳データをCSVで出力してExcelで集計します。
仕訳データから作る場合は、計上月・科目・部門・金額の列をそろえ、ピボットテーブルの行に科目、列に月を置きます。貸方の科目は符号を反転させておくと、収益と費用を同じ向きで比較できます。
| Excelでの加工 | やり方 | 見えること |
|---|---|---|
| 前月差・前年差 | 当月から比較月を引く列を追加 | 増減の大きい科目 |
| 前年同月比 | 当月÷前年同月の比率を出す | 季節性を除いた伸び |
| 構成比 | 各費用÷売上高 | 売上の規模に対して重い費用 |
| 条件付き書式 | 前月差が一定以上のセルに色を付ける | 確認すべきセルが一目でわかる |
| ピボットテーブル | 仕訳データを科目×月で集計 | 部門別・取引先別への掘り下げ |
推移表は、そのまま月次報告(経営会議の資料)のベースになります。経営層向けには科目を売上高・売上原価・販管費・営業利益程度にまとめ、増減の理由を添えます。予算がある会社は、推移表の隣に月次予算を並べて予算差と累計の達成率を出すのが、予算実績比較の第一歩です。
なお、推移表のフォーマットは毎月固定しましょう。科目の並び順や集計範囲を変えると比較ができなくなります。データを貼り付けるだけで更新できるテンプレートにしておくと、作業時間も確認漏れも減らせます。
私はCSVを貼るシートと推移表のシートを分けています。貼り替えるだけなので、締め後の修正にもすぐ対応できます。
月次決算での試算表・推移表の使い方|手順とチェックリスト


試算表と推移表は、月次決算の締めから報告までの間に確認します。流れは次の5ステップです。
請求書・経費精算・連携データの取込みを終え、未払などの月次の調整仕訳を計上します。以後の修正は承認制にします。
残高の列で逆残やマイナス残高がないか、仮払金・仮受金・未決済の科目に残高が残っていないかを確認します。
PL推移表・BS推移表で、毎月一定の科目の跳ねやゼロ、粗利率の変化、前年同月との差を確認します。
原因を元帳・証憑で調べ、誤りなら修正仕訳を計上します。理由のある増減はコメントに残します。
修正後の試算表と推移表から資料を作り、増減の理由を添えて報告します。
| よくあるミス | 防ぎ方 |
|---|---|
| 締め後の修正で報告済みの数字と合わない | 締め後の修正は承認制にし、修正仕訳の一覧を残す |
| 推移表の出力条件(期間・部門)を誤る | 出力条件をテンプレートに書き、毎月同じ条件で出す |
| 仮勘定・諸口に残高が残ったまま報告 | 仮払金・仮受金・諸口の残高ゼロを毎月確認する |
| 補助科目の合計と元帳の残高が合わない | 補助残高一覧と試算表の残高を突き合わせる |
| 決算月だけの調整で前年比較がゆがむ | 決算整理の仕訳を区別し、調整前後で比較する |
試算表・推移表の月次チェックリスト
- 合計の列と残高の列で、貸借が一致しているか
- 逆残(マイナス残高)の科目がないか。あれば理由を確認したか
- 仮払金・仮受金・諸口などの仮勘定に残高が残っていないか
- 補助科目別の残高合計が、総勘定元帳の残高と一致しているか
- 家賃・リース料・減価償却費など毎月一定の科目に、跳ねやゼロがないか
- 売上と売上原価の推移で、粗利率に急な変化がないか
- 前年同月と比べて大きく増減した科目の理由を説明できるか
- 締め後の修正仕訳がないか。あれば報告資料に反映したか
異常がなかった月も記録を残すのがポイントです。監査で毎月の確認を示せます。
まとめ
- 合計残高試算表は、科目ごとの合計と残高を1枚で確認でき、実務の月次確認の基本になる
- 残高の向きは資産・費用が借方、負債・純資産・収益が貸方。逆残は誤りのサインだが、理由のある逆残もある
- 貸借が一致しても、科目の誤り・二重計上・計上漏れ・連携の二重取込みは見つからない
- 推移表は科目を横に見て、毎月一定の科目の跳ねやゼロ、粗利率の変化から異常を見つける
- 月次決算では、締め→試算表→推移表→原因調査と修正→報告の順で確認する
まずは今月の試算表の残高の列で逆残がないかを確認し、PL推移表で家賃と減価償却費の行を横に見てみてください。
毎月見るほど「いつもの形」が頭に入り、異常にすぐ気づけるようになります。






