「たくさん作って、たくさん売ると原価が安くなる」という話はよく聞きますよね。100円ショップのように驚くほど安い商品が成り立つのも、この仕組みが関係しています。でも、なぜ安くなるのかを数字で説明できる方は意外と少ないのではないでしょうか。
この記事では、原価の基礎をふまえながら、生産量が増えると1個あたりの原価が下がる理由を数値例でわかりやすく解説します。さらに、「たくさん作れば必ず得」とは限らない落とし穴にも触れます。原価に初めて触れる方や、コストダウンを求められているビジネスパーソンの方はぜひ参考にしてください。
カギは「固定費」です。固定費と変動費の違いがわかると、ニュースで見る値下げや値上げの理由まで読み解けるようになりますよ。
- 原価とは何か、分けられない原価をどう扱うか
- 固定費と変動費の違い
- 大量生産で1個あたりの原価が下がる仕組み(数値例つき)
- 作りすぎが招く落とし穴と、実務でのコストダウンの考え方
原価とは?価格が決まる仕組み


販売価格=原価+利益
原価とは、モノやサービスを作って売るまでにかかった費用のことです。売り手は利益を確保するために、原価に利益を上乗せして販売価格を決めます。つまり、原価を下げられれば、同じ価格でも利益が増え、同じ利益なら価格を下げられるということです。
製造業の原価は、材料費・労務費・経費からなる製造原価と、販売や管理にかかる販売費及び一般管理費に分かれます。この2つを合わせたものを総原価といいます。
値上げのニュースを見たときに「原価のどこが上がったのか」を考えるクセをつけると、原価の感覚が自然と身につきます。
分けられない原価は「配賦」する
原価の中には、どの商品にいくらかかったか分けられないものがあります。たとえばお弁当屋さんのガス代は、ご飯を炊くのにも惣菜を作るのにも使うため、請求書だけでは分けられません。このような原価を間接費といい、一定の基準で振り分けます(配賦)。
| 項目 | ご飯 | 惣菜 | 合計 |
|---|---|---|---|
| ガスの使用時間 | 20時間 | 40時間 | 60時間 |
| ガス代の配賦額 | 10,000円 | 20,000円 | 30,000円 |
使用時間の比率1:2でガス代30,000円を分けると、上の表のようになります。何を基準にするかで各商品の原価が変わるため、実態に合った基準を選ぶことが大切です。
配賦基準を選ぶときのコツ
使用時間・作業人数・床面積など、費用の発生と関係の深い基準を選ぶのが基本です。一度決めた基準は毎期同じものを使い、途中で変える場合は理由を記録しておきましょう。
簿記検定の試験範囲や最新の情報は、日本商工会議所「商工会議所の検定試験」の公式サイトで確認できます。
原価は固定費と変動費に分けられる


固定費と変動費の違い
| 区分 | 意味 | 例 |
|---|---|---|
| 変動費 | 生産量・販売量に比例して増減する費用 | 材料費、買入部品費、外注加工賃、販売手数料 |
| 固定費 | 生産量・販売量にかかわらず一定額発生する費用 | 工場の家賃、設備の減価償却費、正社員の給料、保険料 |
変動費は「1個作るごとに○円」、固定費は「作っても作らなくても毎月○円」とイメージするとわかりやすいです。実際には電力料のように、基本料金(固定費)と従量料金(変動費)が混ざった費用もあります。
迷ったときは「今月の生産がゼロだったら、この費用は発生するか」と考えると、固定費か変動費かを判断しやすいですよ。
1個あたりで見ると性質が逆になる
関連記事:損益分岐点とは?安全余裕率との関係と経営の意思決定での使い方


なぜたくさん作ると1個あたりの原価が下がるのか


固定費が多くの製品に分散される
固定費が月1,000,000円、変動費が1個50円の工場で、生産量ごとの1個あたり原価を計算してみます。
| 生産量 | 1個あたり固定費 | 1個あたり変動費 | 1個あたり原価 |
|---|---|---|---|
| 10,000個 | 100円 | 50円 | 150円 |
| 20,000個 | 50円 | 50円 | 100円 |
| 50,000個 | 20円 | 50円 | 70円 |
| 100,000個 | 10円 | 50円 | 60円 |
生産量を10倍にすると、1個あたりの原価は150円から60円まで下がりました。固定費1,000,000円が多くの製品に分散され、1個あたりの原価は変動費の50円に近づいていきます。これが「たくさん作ると安くなる」の正体です。
固定費の分散で得られる効果
- 1個あたりの原価が下がり、価格競争に強くなる
- 同じ販売価格でも1個あたりの利益が増える
- 設備や人員を遊ばせずに活用できる
仕入単価の低下と作業の習熟
- 仕入単価が下がる:材料をまとめて大量に買うと、ボリュームディスカウントで変動費そのものが下がる
- 作業に慣れる:同じ作業を繰り返すことで作業時間が短くなり、不良品も減る(経験曲線効果)
- 段取り替えが減る:同じ製品を続けて作れば、設備の切り替えにかかる時間やロスが減る
固定費の分散に加えて、こうした効果が重なることで、生産規模の大きい会社ほどコスト面で有利になります。一般に「規模の経済」と呼ばれる考え方です。
100円ショップの商品が安い理由
100円ショップのように大量に発注する売り手からの注文を受けると、メーカーは工場の固定費を膨大な数の製品に分散できます。さらに材料も大量に仕入れられるため、1個あたりの原価を大きく下げられます。こうした仕組みがあるからこそ、低価格でも利益を確保できるのです。
安さの裏には、売り手と作り手の双方が「大量に売れる」見込みを共有している前提があります。
「たくさん作れば得」とは限らない理由


売れ残れば在庫リスクになる
原価が下がるのは「作った分が売れる」ことが前提です。売れ残った製品は倉庫代や管理の手間がかかり、流行遅れや劣化で値下げや廃棄が必要になることもあります。1個あたりの原価だけを見て生産量を増やすのは危険です。
作りすぎると利益が大きく見える落とし穴
先ほどの工場で、販売価格200円、販売量10,000個は変えずに、生産量だけを10,000個と20,000個で比べてみます(販売費などは省略)。
| 項目 | 生産10,000個 | 生産20,000個 |
|---|---|---|
| 売上高(10,000個×200円) | 2,000,000円 | 2,000,000円 |
| 1個あたり原価 | 150円 | 100円 |
| 売上原価(10,000個分) | 1,500,000円 | 1,000,000円 |
| 利益(全部原価計算) | 500,000円 | 1,000,000円 |
| 期末在庫 | 0円 | 1,000,000円 |
| 利益(直接原価計算) | 500,000円 | 500,000円 |
売れた数は同じなのに、生産を増やしただけで利益が2倍に見えます。これは固定費1,000,000円のうち半分の500,000円が期末在庫に含まれて翌期に繰り越されるためです。固定費を全額その期の費用にする直接原価計算で見ると、利益はどちらも500,000円(売上2,000,000円-変動費500,000円-固定費1,000,000円)で変わりません。
実務担当者が注意したいポイント
製品在庫が急に増えているのに利益も増えている場合は、作りすぎで固定費が在庫に回っていないか確認しましょう。社内の管理資料では、直接原価計算で変動費と固定費を分けて見ると、本当の稼ぐ力がわかります。
生産能力を超えると固定費が一気に増える
固定費は「一定」といっても、どこまでも変わらないわけではありません。今の設備や人員で作れる量には上限があり、それを超えて作ろうとすると、新しい設備の購入や工場の増設、人員の採用が必要になります。
このように、ある生産量を境に階段状に増える費用を準固定費と呼ぶことがあります。設備を増やした直後は稼働率が低いため、固定費が分散されず、1個あたりの原価がかえって上がることもあります。
増産を判断するときの注意点
増産の検討では、今の設備で対応できる範囲か、追加の設備投資が必要かを必ず確認しましょう。追加投資が必要な場合は、その費用を回収できるだけの販売量が見込めるかをあわせて試算することが大切です。
「あと少し作れば安くなる」と思っても、設備の上限を超えると話が変わります。稼働率の資料は製造部門と共有しておきたいですね。
実務でのコストダウンの考え方
コストダウンを考えるときは、固定費と変動費のどちらに手を打つかを分けて考えるのが基本です。変動費は材料の仕入先の見直しや歩留まりの改善、固定費は設備の稼働率向上や外注との使い分けが主な打ち手になります。会計システムの勘定科目や部門の設定で費用を固定費・変動費に区分しておくと、損益分岐点の分析もすぐにできて便利です。
まとめ
今回は、たくさん生産して販売すると原価が安くなる理由を、原価の基礎から解説しました。
- 販売価格は原価に利益を上乗せして決まる
- 原価は生産量に比例する変動費と、一定額発生する固定費に分けられる
- 生産量が増えると固定費が分散され、1個あたりの原価が下がる
- 売れる量以上に作ると在庫リスクがあり、利益も実態より大きく見えることがある
固定費と変動費の考え方は、価格設定やコストダウン、損益分岐点の分析など、あらゆる場面で使える基本です。身の回りの商品の価格を見るときにも、ぜひ原価の仕組みを思い出してみてください。


「安く作れる」と「儲かる」は別物です。売れる量とセットで原価を考えるクセをつけると、数字の見え方が変わりますよ。









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