組織再編をするには、どんな手続きが必要か知っていますか。株主総会の特別決議、債権者異議手続、登記など、会社法で決められた手続きがいくつもあり、順番や期限を間違えると再編そのもののスケジュールが崩れてしまいます。
この記事では、吸収合併と会社分割(新設分割・吸収分割)の手続きを、会社法の条文に沿ってステップごとに解説します。株主総会を省略できる「簡易組織再編」「略式組織再編」や、労働契約承継法による従業員の保護手続き、経理・総務担当者が漏らしやすい実務の手続きもまとめました。
会社法を勉強している方はもちろん、これから組織再編の実務を担当する方もぜひ最後までご覧ください。
組織再編の手続きは「株主」「債権者」「従業員」の3者を守るためのものと考えると、一気に覚えやすくなりますよ。
- 組織再編の手続きの全体像と、守られる3者
- 吸収合併の手続きの流れと期限
- 新設分割・吸収分割の債権者異議手続と労働者保護手続
- 株主総会を省略できる簡易・略式組織再編の要件
組織再編の手続きは「3者の保護」で整理する


合併や会社分割では、会社の権利義務がまとめて別の会社に移ります。影響を受ける人が多いため、会社法は当事者の契約だけでなく、利害関係者を守るための手続きを細かく定めています。
誰を守るための手続きか
| 守られる人 | 主な手続き | 会社法などの根拠 |
|---|---|---|
| 株主 | 事前開示、株主総会の特別決議、反対株主の株式買取請求、事後開示 | 会社法782条・783条・785条・795条・801条など |
| 債権者 | 官報公告と知れている債権者への各別催告(異議期間1か月以上) | 会社法789条・799条・810条 |
| 従業員 | 労働者との協議、書面による通知、異議申出(会社分割の場合) | 労働契約承継法 |
手続きの名前を覚える前に、「この手続きは誰のためのものか」を表で確認するクセをつけると、全体像がぶれません。
スケジュールは余裕を持って組む
債権者が異議を述べられる期間は1か月を下ることができないと定められています。これに官報の掲載申込みや催告書の発送準備の期間が加わるため、実務では効力発生日から逆算して、余裕を持ったスケジュールを組むのが一般的です。
吸収合併の手続きの流れ


まずは組織再編の中で最も多い吸収合併の手続きを、7つのステップで見ていきましょう。存続会社と消滅会社の両方で、それぞれ手続きが必要です。
取締役会などで合併を決定し、存続会社と消滅会社の間で合併契約を締結します。効力発生日や合併の対価などを契約で定めます。
合併契約の内容などを記載した書面(または電磁的記録)を本店に備え置きます。備置期間は、存続会社は効力発生日後6か月を経過する日まで、消滅会社は効力発生日までです。
効力発生日の前日までに、株主総会の特別決議(議決権の過半数を持つ株主が出席し、出席株主の議決権の3分の2以上の賛成)で合併契約の承認を受けます。反対株主には株式買取請求権があるため、効力発生日の20日前までに株主へ通知(または公告)します。
官報に公告し、かつ知れている債権者に各別に催告します。異議を述べられる期間は1か月以上です。異議が出た場合は、弁済・担保提供などの対応が必要です。
消滅会社が株券発行会社の場合は、効力発生日の1か月前までに株券を提出すべき旨を公告し、株主などに通知します。
効力発生日に存続会社が消滅会社の権利義務を引き継ぎます。効力発生日から2週間以内に、消滅会社は解散の登記、存続会社は変更の登記をします。
存続会社は効力発生日後遅滞なく、承継した権利義務などを記載した書面を作成し、効力発生日から6か月間本店に備え置きます。
7つのステップのうち期限が決まっているものに印をつけ、カレンダーに落とし込んでおくと、抜け漏れを見つけやすくなります。
債権者への各別催告は省略できる場合がある
知れている債権者全員に催告するのは手間がかかります。そこで、官報に加えて定款で定めた日刊新聞紙または電子公告でも公告する「二重公告」をすれば、各別の催告を省略できます。一部の大口債権者にだけ催告して済ませる、という運用は認められていないので注意しましょう。
消滅会社の解散は登記するまで第三者に対抗できない
合併の効力は効力発生日に生じますが、消滅会社の解散は、合併の登記をした後でなければ第三者に対抗できません。登記を後回しにせず、2週間以内の期限を必ず守りましょう。
会社分割(新設分割・吸収分割)の手続き


会社分割の手続きは合併と似ていますが、「どの債権者が異議を述べられるか」と「従業員の保護手続」に会社分割ならではのルールがあります。
新設分割の基本的な流れ
- 新設分割計画の作成(取締役会設置会社では取締役会で決定)
- 事前開示(計画の内容などを本店に備え置く)
- 株主総会の特別決議による新設分割計画の承認
- 債権者異議手続・労働者保護手続
- 設立会社の設立登記(登記により会社が成立し、その日に権利義務を承継)
- 事後開示(設立会社の成立の日から6か月間備え置く)
新設分割は設立登記の日に会社が成立し、権利義務が移ります。効力発生日を契約で定める吸収分割との違いとして押さえておきましょう。
債権者異議手続の対象になる債権者
会社分割では、分割会社の債権者のすべてが異議を述べられるわけではありません。分割後に分割会社へ債務の履行を請求できなくなる債権者が対象です。吸収分割では、これに加えて承継会社の債権者も異議を述べられます。
| 区分 | 異議を述べられる債権者 |
|---|---|
| 分割会社の債権者 | 分割後に分割会社へ債務の履行を請求できなくなる債権者(分割対価の株式を株主に配当する場合などは全債権者) |
| 承継会社の債権者(吸収分割) | 承継会社のすべての債権者 |
| 新設分割の設立会社 | 新しく設立する会社のため、既存の債権者はいない |
なお、二重公告で各別の催告を省略する場合でも、分割会社の不法行為によって生じた債務の債権者への催告は省略できません。
労働者保護手続(労働契約承継法)
会社分割では、労働契約承継法に沿って従業員を保護する手続きが必要です。承継される事業に主として従事する労働者などに対し、労働契約が承継されるかどうかなどを書面で通知します。株主総会で承認する場合の通知期限は、株主総会の日の2週間前の日の前日です。
- 労働者の理解と協力を得るための措置(7条措置)
- 承継される労働者との個別の協議(5条協議)
- 通知期限日までの書面による通知(2条通知)
- 承継の有無に不服がある労働者による異議申出
労働契約は労働条件を維持したまま承継されるのが原則です。分割を理由に労働条件を一方的に引き下げることはできません。
労働者保護手続は順番が大切
- 7条措置:労働者全体の理解と協力を得る
- 5条協議:承継される労働者と個別に協議する
- 2条通知:通知期限日までに書面で通知する
株主総会を省略できる簡易組織再編・略式組織再編


一定の要件を満たすと、株主総会の決議を省略できます。グループ内の再編ではこの制度を使うケースが多いため、要件を押さえておきましょう。
簡易組織再編:影響が小さい再編
会社にとって影響が小さい再編は、株主総会を省略できます。存続会社側では、消滅会社の株主に交付する対価の額が存続会社の純資産額の5分の1以下の場合です。分割会社側では、承継させる資産の帳簿価額が分割会社の総資産額の5分の1以下の場合です(定款でより低い割合を定めることもできます)。
略式組織再編:90%以上を持つ親子会社間の再編
相手の会社の総株主の議決権の10分の9以上を持っている会社を「特別支配会社」といいます。特別支配会社との間で再編をするときは、支配されている側の会社の株主総会を省略できます。
| 区分 | 主な要件 | 省略できる総会 |
|---|---|---|
| 簡易合併(存続会社側) | 交付する対価が存続会社の純資産額の5分の1以下 | 存続会社の株主総会 |
| 簡易分割(分割会社側) | 承継させる資産の帳簿価額が総資産額の5分の1以下 | 分割会社の株主総会 |
| 略式組織再編 | 一方が他方の議決権の10分の9以上を保有 | 支配されている側の株主総会 |
総会を省略しても債権者異議手続と登記は必要
簡易・略式で省略できるのは株主総会の決議です。債権者異議手続や登記は省略できません。また、簡易合併でも、一定数の株主が反対を通知した場合や、合併差損が生じる場合などは株主総会が必要になります。
グループ内の再編では、簡易や略式の要件を満たすかどうかで全体のスケジュールが大きく変わります。最初に確認したいポイントです。
実務担当者が漏らしやすい手続きとチェックポイント


会社法の手続きは司法書士や弁護士が主導することが多い一方、経理・総務の担当者には、社内外への届出や事務の切り替えが回ってきます。見落としやすいポイントを整理しておきましょう。
効力発生日から逆算してタスクを洗い出す
実務では、効力発生日を起点に「株主総会の日」「官報公告の掲載日」「通知の発送日」を逆算して決めていきます。期限は法定のものが多いため、1つずれると効力発生日の延期につながります。
経理・総務で必要になる主な対応
- 合併による法人の消滅届出など、税務署への届出(国税庁:合併による法人の消滅届出手続)
- インボイス登録の確認(消滅会社の登録は存続会社に引き継がれない)
- 取引先への通知と、請求書の宛先・振込先口座の切り替え
- 会計システムの勘定科目・取引先マスタ、固定資産台帳の統合
インボイス登録と振込先の切り替えは早めに
関連記事:適格請求書発行事業者の登録申請方法|今から登録する手順と特例


官報は2025年4月から電子版が正本
官報は、2025年4月1日から内閣府の官報発行サイト(kanpo.go.jp)に掲載される電子データが正本になりました。債権者異議手続の公告を確認するときは、このサイトを見るのが確実です。
公告が掲載されたら官報発行サイトで内容を確認し、社内の記録として保存しておくと、後から確認を求められたときに安心です。


まとめ
今回は組織再編の手続きについて解説しました。ポイントを振り返りましょう。
- 手続きは「株主」「債権者」「従業員」の3者を守るためのものと考えると整理しやすい
- 吸収合併は、効力発生日の前日までに株主総会の特別決議、異議期間1か月以上の債権者異議手続、2週間以内の登記が必要
- 会社分割では、異議を述べられる債権者の範囲と労働契約承継法の手続きがポイント
- 簡易・略式組織再編なら株主総会を省略できるが、債権者異議手続と登記は省略できない
組織再編の手続きは期限が多く複雑ですが、誰を守るための手続きなのかを意識すると全体像がつかみやすくなります。実際に再編を進めるときは、司法書士や弁護士などの専門家と連携しながら、効力発生日から逆算したスケジュールで進めていきましょう。
組織再編の種類から復習したい方は、種類を解説した記事もあわせて読んでみてくださいね。









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