企業のデジタル化が進み、経理業務でもDX(デジタルトランスフォーメーション)が求められるようになりました。なかでもペーパーレス化は、業務効率化の要となるテーマです。
電子帳簿保存法(電帳法)の改正でスキャナ保存や電子取引の要件は大きく緩和されましたが、ルールを正しく理解して対応しないと、税務調査のときに問題になるおそれがあります。一方で、スキャナ保存の手間を減らすツールとしてAI-OCR(AIを活用した光学文字認識)が注目されています。
この記事では、「スキャナ保存とAI-OCRで経理業務をDX化する方法」について、2026年9月時点の制度をもとに解説します。
「スキャナ保存の要件がよくわからない」「読み取った書類の入力が大変」という悩みは、多くの経理担当者に共通しています。制度とツールをセットで理解すると、ぐっと進めやすくなりますよ。
- 電子帳簿保存法の改正ポイントと2026年9月時点の動向
- スキャナ保存の要件とスマホ撮影のルール
- AI-OCRの仕組みとスキャナ保存での使い方
- AI-OCRツールの選び方と導入時の注意点
電子帳簿保存法改正後の経理対応


電子帳簿保存法の改正前と改正後の違い
電子帳簿保存法は1998年に施行されましたが、2022年1月施行の改正より前は要件が厳しく、税務署長の事前承認も必要だったため、大企業以外は対応が難しい制度でした。2022年1月の改正で、主に次の点が変わりました。
- 税務署長の事前承認が不要になり、任意のタイミングで電子化を始められるようになった
- スキャナ保存の要件が緩和された
- 電子取引データを紙に印刷して保存する方法が廃止され、電子のまま保存することが必要になった
中小企業を含むすべての事業者が、電子化へ移行しやすくなりました。
電子取引は電子データのまま保存が必要
電子取引データの保存は、宥恕措置が2023年12月31日で終わり、2024年1月からは電子データのまま保存することが必要になっています。
- メールで受け取った請求書(PDF)
- クラウド上で発行された領収書や契約書
- インターネットバンキングの取引明細
こうしたデータは、紙に印刷して保管するだけでは不十分です。なお、基準期間の売上高が5,000万円以下の会社などは、税務調査の際のダウンロードの求めに応じられれば、検索要件は不要とされています。
猶予措置があってもデータは消せない
システムの準備が間に合わないなど相当の理由がある場合は、税務調査のときにデータのダウンロードと印刷した書面の提示に応じられることを条件に、検索要件などを満たさずに保存できる猶予措置があります。ただし、この場合も電子データそのものは保存しておく必要があり、印刷して元のデータを消すことはできません。
2026年9月時点の新しい動き
令和7年度税制改正では、請求書等の電子取引データを自動で保存し帳簿に自動連携する「デジタルシームレス保存」の制度が新設されました。一定の要件を満たすシステムで保存すると、令和9年1月1日以後に法定申告期限が到来する国税について、重加算税の10%加重の適用除外となります(出典:国税庁「電子帳簿等保存制度を活用して、デジタル化をさらに進めてみませんか?」)。紙を読み取るAI-OCRと、そもそも紙を発生させないデータ連携は、今後セットで考える時代になっています。
紙を減らすいちばんの近道は、そもそも紙で受け取らないことです。取引先に請求書のデータ送付をお願いできないか、あわせて検討してみましょう。
紙の請求書や領収書のスキャナ保存の方法


スキャナ保存の対象と要件
スキャナ保存とは、紙の書類をスキャナやスマホで読み取り、電子データとして保存することです。対象は決算関係書類を除く国税関係書類で、次のようなものがあります。
- 請求書・領収書
- 契約書・納品書
- 注文書・見積書
主なルールは次のとおりです。要件を満たしていないと、紙の原本の代わりとして認められない可能性があるので注意が必要です。
| ルール | 内容 |
|---|---|
| 入力期間 | 受領後おおむね7営業日以内、または業務処理サイクル(最長2か月)経過後おおむね7営業日以内 |
| 読み取り | 200dpi相当以上、原則カラー(24ビット)。一般書類はグレースケールも可 |
| 改ざん防止 | タイムスタンプの付与、または訂正削除の履歴が残るシステムの利用 |
| 検索 | 日付・金額・取引先で検索できること |
| 相互関連性 | 重要書類(請求書・領収書など)は帳簿との関連を確認できること |
スキャナ保存はスマホやデジカメでの撮影も可能
読み取りには、スキャナや複合機だけでなく、スマホやデジタルカメラも使えます。撮影でも、解像度やカラーなど上記のルールは同じです。2024年1月以降は、読み取ったときの解像度・階調・大きさの情報を保存する要件はなくなりましたが、200dpi以上・カラーで読み取るルールそのものは残っています。
スマホ撮影を使えば、出張先や営業先で受け取った領収書をその場で電子化でき、経理への書類の受け渡しもなくなります。
AI-OCRを利用してスキャナ保存


スキャナ保存は便利ですが、大量の書類を読み取り、日付・金額・取引先を入力するのは時間と手間がかかります。AI-OCRを使えば、書類の文字をテキストデータにする作業を自動化できます。
AI-OCRとは?
AI-OCRとは、従来のOCR(光学的文字認識)にAIを組み合わせ、より高度な文字認識を可能にした技術です。従来のOCRが苦手だった手書き文字や、取引先ごとにレイアウトが違う請求書からも、必要な項目を抜き出せるようになっています。
AI-OCRでできること
- 読み取りミスの修正を学習し、精度を上げていく
- 手書き文字や専門用語を識別する
- 請求書の日付・金額・取引先・登録番号などの項目を自動で抜き出す
日本語は漢字・ひらがな・カタカナと文字の種類が多く、従来のOCRでは認識が難しいケースがありましたが、AI-OCRなら高い精度で読み取れる場面が増えています。
AI-OCRとスキャナ保存の要件の関係
注意したいのは、AI-OCRそのものがスキャナ保存の要件を満たすわけではないという点です。要件を満たすのは、タイムスタンプや訂正削除の履歴、検索機能などを備えた保存の仕組みです。AI-OCRは、検索に必要な日付・金額・取引先の入力を自動化する役割と考えると整理しやすくなります。
ツールと保存の仕組みの役割分担
- AI-OCR:日付・金額・取引先などの読み取りと入力
- 保存システム:タイムスタンプや訂正削除の履歴、検索機能
- 担当者:読み取り結果の確認と、原本との照合
AI-OCRツール導入のメリット


- 高精度な文字認識:手書き文字や特殊なフォーマットの書類も読み取れる
- 手入力の削減:データ入力を自動化し、転記ミスを減らせる
- 処理スピードの向上:月末月初の繁忙期の作業時間を短縮できる
- 会計システム連携:読み取ったデータを会計ソフトやERPに取り込める
さらに、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)と組み合わせると、AI-OCRが読み取ったデータをもとに、会計システムへの登録や支払データの作成まで自動化できます。
請求書や領収書から、日付・金額・取引先などの項目をデータにします。
読み取り結果を画面で確認し、誤りがあれば修正します。
確認済みのデータを会計システムに登録し、仕訳や支払データを作成します。
小さな範囲から始めると効果が見えやすい
最初からすべての書類を対象にせず、件数の多い請求書や経費の領収書から始めると、削減できた作業時間を測りやすくなります。効果を数字で示せると、対象を広げるときに社内の合意も得やすくなります。
最近は家計簿アプリにもAI-OCRが使われていて、レシートを撮影するだけで支出を分類できるものもあります。仕組みは経理向けのツールも同じです。
AI-OCRツールの選び方と導入の注意点


ここでは、IT系の営業出身の視点から、ツール選びで見落としがちなポイントを紹介します。カタログの「認識率○%」だけで選ぶと、導入後に「思ったより直す作業が多い」となりがちです。
自社の書類で試してから決める
認識率は、どんな書類で測ったかによって大きく変わります。無料トライアルなどを使い、自社に実際に届く請求書や領収書を数十枚読み取って、日付・金額・取引先の項目ごとに正しく読めたかを確認しましょう。
トライアルでは、手書きの領収書やレイアウトが特殊な請求書など、読み取りにくい書類もあえて混ぜておくと、本番に近い精度がわかります。
電子帳簿保存法への対応を確認する
AI-OCRを保存の仕組みとして使う場合は、スキャナ保存の要件を満たしているかを確認します。JIIMA(公益社団法人日本文書情報マネジメント協会)の認証を受けたソフトであれば、機能面の要件を確認しやすくなります。
会計システムとの連携方法を確認する
読み取ったデータをCSVで出力して手で取り込むのか、API連携で自動で仕訳まで作れるのかで、効率化の効果は大きく変わります。今使っている会計システムとの連携実績を必ず確認しましょう。
導入時によくあるミス
- 読み取り結果を確認する工程をなくしてしまい、金額の誤りに気づかない
- スキャンした後の紙の原本を、要件を満たす前に廃棄してしまう
- 取引先ごとの書類の違いを想定せず、一部の書類しか自動化できない




まとめ
今回は、スキャナ保存とAI-OCRで経理業務をDX化する方法について解説しました。
- 電子取引データは電子のまま保存し、検索できる状態にしておく
- スキャナ保存は入力期間・解像度・改ざん防止・検索のルールを守る
- AI-OCRは検索項目の入力を自動化するツールで、保存要件は保存の仕組みで満たす
- ツールは自社の書類で試し、会計システムとの連携方法まで確認して選ぶ
こうした取り組みを進めることで、経理業務のペーパーレス化が進み、入力作業の負担を大きく減らせます。制度の動きもデータ連携の方向へ進んでいるので、スキャナ保存とAI-OCRを入り口に、経理DXを一歩ずつ進めていきましょう。
経理DXを進めるうえで、電子帳簿保存法への対応は避けて通れません。まずは紙で届く書類の量を把握するところから始めてみてください。



